<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第64回

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さっきからずっとこの写真を見つめては首を傾げている。いくら知恵を絞ってみても腑に落ちないのだ。
最初に視界に飛び込んでくるのはツバの広い夏帽子である。画面のなかでもっとも存在を主張しているのはこれで、引き下げられたツバが胸元から上を覆い隠している。被る部分が筒のように深くて”お化け帽子”と呼びたいような異様さを放っている。

次に目がいくのは水玉模様のエリアだが、これがどういうデザインの服なのかよくわからない。腰まで隠れるチュニック風のものなのか。半袖の下から伸びだした腕は肘のところで折られ、二本の指がツバの端をつまんで引っぱっている。もう一方の手はソファーの凹みに置かれ、と書きかかってどうもそれではどうも辻褄が合わないような気がした。掌が小さく、腕首のくびれや、指の曲がり具合や腕の感じが子どもの手のようで、ツバに添えられた手と対と見なすにはあまりに幼なすぎる感じがする。

合わないと言えば、シートの下に伸びた両脚もおかしい。甲の厚い足先に、しっかりと肉のついた太い脛と腿は、全体としてごつい印象があって大柄な女性を想像させる。ところが、その上の水玉エリアの印象はひどく華奢でちまちましていて、この上半身にこの両脚が生えているとはとても思えないのだ。

このアンバランスさが連想させたのは、膝の上に水玉模様のワンピースを着た少女をのせている、というものだった。少女の顔を自分のほうにむけて横抱きにし、寝入ってしまった彼女を帽子のツバでかばってやっている、そんなシーンをお思い浮かべた。
だが、よく見ればそれは理屈にあわない想像である。水玉模様のエリアに少女の体を感じさせる膨らみも立体感もないし、腕や足がどこにあるかもわからない。ただぽっと浮かんだだけの実体のないイメージにすぎなかった。それでも一度、生まれてしまったイメージは簡単には消えてくれず、水玉模様の下にやせっぽちのちいさな体が潜んでいるように思えてならない。

どこかで勘違いを起こしたのだ。そう考えて写真から身を引き、距離を置いて眺め直した。今度は帽子からではなく、足先からはじめてだんだんと視線を上げていき、腿にたどりついたとたとき、あれっと思った。それから先がないのである。まるでソファーの凹みに吸い込まれてしまったように腿から上が消えてしまっている。

そんな奇妙なことがあるはずがない。きっとなにかを見落としているのだ。水玉模様のエリアとつながる鍵がどこかにあるのに、気がつかずに「消えた」と結論づけているのだ。

これはひとりの女性像なのだからそう思って見なさい。自分にそのように暗示をかけ、イメージを捨てて頭を初期化し、全体をつかもうと試みた。ところが、うまくいきそうになったところで、帽子や腕や水玉模様などのパーツが目の端にひっかってくる。すると、まとまりかかっていた像はバラバラと壊れて元の木阿弥になってしまった。なんどやってもどうどう巡りで思う姿にたどりつけない。巧みな詐欺師のようである。

大竹昭子(おおたけあきこ)

■橋本とし子 Toshiko HASHIMOTO
1972年栃木県生まれ。高校生の時父親の二眼レフを譲り受けて写真を撮り始める。大学卒業後写真を学ぶ。プロラボ、新聞社に勤務後、フリー。以来、身辺の情景や旅をテーマに、雑誌・個展等で作品を発表している。2017年よりギャラリー・ニエプスに参加。現在、夫と10歳と2歳になる子ども、猫と暮らす。
個展:「愛すべきものたち」栃木 オランダ館(1998年)、「ニャーとシャー」根津 nomado/谷中 nido(2005年)「フシーチコナイ・フバヴォ」スライド上映会 結城 la famile/宇都宮 タフドア/谷中 nido(2007年)、「キチムは夜に飛ぶ」東京 四谷三丁目 ギャラリー・ニエプス(2017年)
グループ展:「18R Sound X Visual」拝島劇場(2008年)、「LOVE CAT」展 浅草 PIPPO(2009年)

●写真集のご紹介
上掲の写真作品は、5月15日(火)に発売される橋本とし子さんの写真集『キチムは夜に飛ぶ』に収録されています。

橋本とし子写真集
『キチムは夜に飛ぶ』

88頁 A4 並製本
著者:橋本とし子
企画・デザイン:長尾 敦子(BookPhotoPRESS)
印刷:渡辺美術印刷株式会社
発行:ふげん社
3,700円(税別)
※5月15日(火)発売

「キチム、キチム、キチムは よるに とぶ」 
夢と現実が交錯する2歳の長女が、あるとき口ずさんだ。
キ、チ、ム。
耳慣れない響き。まるで呪文のようだ。
「きちむ」は「吉夢」。
「縁起の良い夢」「幸先の良い夢」という意味があることを後に知った。
この言葉を当時の彼女が知る由も無く、突然口にしたこの言葉が、
未来のお告げのように、朧げだけれど確かな明かりに見えた。
吉夢のイメージは、
毎日繰り返される日常、時に味わう非日常の断片をすくい続ける。
これまでもこれからも。
私は何を見るのだろう。
ふげん社HPより転載)

●展覧会のご紹介
橋本とし子写真集刊行記念展「キチムは夜に飛ぶ」
2018年5月15日(火)〜5月26日(土)
火〜金:12:00〜19:00/土:12:00〜17:00
日・月休廊
会場:コミュニケーションギャラリーふげん社
   〒104-0045 東京都中央区築地1-8-4 築地ガーデンビル 2F
   TEL:03-6264-3665
このたび、橋本とし子写真集『キチムは夜に飛ぶ』を5月15日に刊行いたします。
夫と娘二人、猫と暮らす作家が、夢と現実が交錯する摩訶不思議でユーモラスな世界を、情感豊かに捉えました。
妻として、母として、写真家として葛藤を抱える日々で、「夢」は幸せの象徴でもありました。
思考の枠を解き放つ「吉夢」の豊穣な世界を、ご堪能ください。
発売にあわせ、刊行記念写真展を5/15(火)〜26日(土)に開催いたします。リニューアルを経たギャラリーの展覧会第一弾となります。
みなさまのご来場を心よりお待ちしております。
ふげん社HPより転載)

◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18〜24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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