埼玉県立近代美術館で開催中の「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展の会期も残り少なくなりました(3月25日まで)。
現代版画センターの創立の経緯は1月16日のブログに書きましたが、11年余の活動を俯瞰する今回の展覧会は残された作品(エディション及びコレクション)と、会員・支部向けに発信した書簡、機関誌、カタログ等の資料を克明に精査した学芸員たちによって組み立てられました。

企画者たちのご努力には心から敬意を表します。
しかしそのキューレーションに対し、?という反応もあります。
つい先日のfacebookでKさんという研究者の<「版画の景色」展は、久保貞次郎さんの息のかかった版画家たちが多く、なつかしい作品に出会えました。>という投稿に強い違和感を覚えました。
今回、埼玉の学芸員が版画センターのエディション作家約80名の中から選んだのは42作家(+コレクションの瑛九、北川民次、駒井哲郎を加えて45作家)です。

出品作家45名:靉嘔/安藤忠雄 /飯田善国/磯崎新/一原有徳/アンディ・ウォーホル/内間安瑆/瑛九/大沢昌助/岡本信治郎/小田襄/小野具定/オノサト・トシノブ/柏原えつとむ/加藤清之/加山又造/北川民次/木村光佑/木村茂/木村利三郎/草間彌生/駒井哲郎/島州一/菅井汲/澄川喜一/関根伸夫/高橋雅之/高柳裕/戸張孤雁/難波田龍起/野田哲也/林芳史/藤江民/舟越保武/堀浩哉 /堀内正和/本田眞吾/松本旻/宮脇愛子/ジョナス・メカス/元永定正/柳澤紀子/山口勝弘/吉田克朗/吉原英雄

この45作家のうち、久保先生が強力に支持していたのは靉嘔/瑛九/小田襄/オノサト・トシノブ/北川民次/木村茂/木村利三郎/吉原英雄の8人のみ。全体の18%、エディション作家(6人)だけならば14%に過ぎません。「版画家」といっていいのは木村茂/木村利三郎/吉原英雄の3人だけです。
おそらくKさんは久保貞次郎=版画の専門家=現代版画センターという先入観があったのでしょう。
亭主自身、初日の朝、初めて展示を見て、久保色のほとんどない展示に呆然としました。
埼玉の学芸員たちの意図は分りませんが、結果的にはKさんの言う「久保貞次郎さんの息のかかった版画家たち」は軒並みセレクションから外されています。それが編集でありキューレーションだと思いますが、大谷省吾先生や植田実先生、土渕信彦さんたちはそれを正確に捉えてこの展覧会を論じておられます。さすがです。
「息のかかった」などという言い方は久保先生が最も嫌ったものでした。そういう無邪気なコメントは久保先生の名誉を傷つけるばかりか、当時を知らない若い世代に誤った情報を伝えることになり、とても残念です。

久保先生はじめ証言者たるべき実際に関わった人たちの多くは既に鬼籍に入られており、今も健在な元スタッフ、作家、刷り師、会員、支部を担った人たちには美術館がアンケートを依頼し、12名の皆さんがカタログに寄稿しています。
アンケート執筆者:荒井由泰(福井県・旧会員、アートフル勝山の会代表)、石田了一(刷り師、石田版画工房)、貝田隆博(元スタッフ、筑後画廊)、木下哲夫(翻訳家、メカス日本日記の会代表)、栗原敦(東京・旧会員、実践女子大学名誉教授)、指田純子(元スタッフ、神崎宣武研究室)、関根伸夫(作家)、西岡文彦(元スタッフ、伝統版画家、多摩美術大学教授)、西田考作(奈良・旧会員、西田画廊)、堀浩哉(作家)、柳正彦(元スタッフ、ストアフロント)、柳澤紀子(作家)

毎日新聞2月7日夕刊の美術覧で記者の永田晶子さんがいみじくも指摘したように現代版画センターは「美術界と離れた素人集団」でした。
そんな素人の私たちを二人の生みの親が道を開き、導いてくださいました。

井上房一郎さんと久保貞次郎先生です。

綿貫不二夫が毎日新聞社の事業として版画の普及運動を企画立案したときに、まず最初に相談に行ったのは15歳(高校一年)のときから親炙した井上房一郎(1898年5月13日 - 1993年7月27日)さんでした。
1964年TMOと井上房一郎1964年
高崎高校マンドリン・オーケストラ(TMO)の送別会にて
中央が井上房一郎さん
右端の俯く美少年が亭主(18歳)です。

井上房一郎・人と功績群馬の実業家で文化のパトロンでした。戦前ナチスを逃れ来日したブルーノ・タウトを庇護し、戦後は地方初のオーケストラとして群馬交響楽団の創立に携わり、その本拠地としてアントニン・レーモンド設計による群馬音楽センター建設に尽力します。自らのコレクションを寄贈し、若き日の磯崎新先生を設計者に起用した群馬県立近代美術館も井上さんの力なくしては実現しなかったでしょう。
井上さんのことはこのブログでしばしば触れており「井上房一郎さんのこと」というカテゴリーでお読みいただけます。
同じ高崎高校の出身で井上さんの秘書を勤めた熊倉浩靖さんの著書『井上房一郎・人と功績』についても3回にわけて紹介しています。
その1(2011年8月27日ブログ)
その2(2011年8月29日ブログ)
その3(2011年9月2日ブログ)

井上さんが鎌倉の土方定一先生に引き合わせてくれ、土方先生から「版画のことならクボテーに聞け」という助言を受け久保貞次郎(1909年5月12日ー1996年10月31日)先生にめぐり会うことができました。
1973年秋のことでした。
そのときのことは久保先生の著作集月報に書いたことがあります。
久保
久保貞次郎を語る
同編集委員会編
文化書房博文社
1997年刊行

久保先生は自らがつくった創造美育協会(創美)のメンバーである尾崎正教(小学校教師)、岡部徳三(刷り師)、高森俊(小学校教師)の皆さんを紹介してくれました。いずれも久保先生とともに草創期の版画センター企画委員として参画されました。

創立当初の事務局は誰一人美術系の学校に学んだ者はおらず、文字通り「素人集団」でしたが、中核を担い組織としての骨格をつくってくれたのが橋本凌一さん(現在は六月社代表)でした。学生運動で鍛えた理論とモラル(志)の高さによって事務局を率い、美術の素人集団ではありましたが、何を目指すかという芯のところではぶれることなく前進することができました。

版画はもちろん、美術の素養もほとんどなかった亭主を心配したのでしょう、久保先生が「ボクの教え子に池田君という優秀な子がいます」と紹介してくれたのが社長でした。国際芸術見本市協会(JAF=Japan Art Festival Association, Inc.)事務局に勤め、金澤毅さんの下で日本の現代作家を海外に紹介する仕事をしていた池田さんは版画センターに入り、以後亭主と苦楽をともにします(本人は「楽」なんかなかったわよ、というに違いありませんが)。
1991年7月27日軽井沢_久保貞次郎と令子
1991年7月27日
旧軽井沢の久保貞次郎別荘にて
久保先生と教え子の綿貫令子(旧姓・池田)
美術評論家、日本有数の絵画のコレクターでしたが、社長にとってはよき教育者でした。

お二人とも既になく、群馬県高崎市の井上邸は高崎哲学堂として、栃木県真岡市の久保邸は久保記念観光文化交流館として共に保存、公開されています。

●久保記念観光文化交流館で久保家から寄贈された作品による第15回企画展 「デモクラート ―久保貞次郎が交流した芸術家たち―」が開催されていますので、ご紹介します。
20180308123512_0000120180308123512_00002
会期:2018年2月7日 (水)〜 3月26日 (月)
会場:久保記念観光文化交流館 美術品展示館
デモクラート美術家協会は瑛九が中心となり、1951年に結成された前衛芸術家グループです。かつて久保貞次郎と交流し、真岡の久保アトリエに集まったデモクラートの画家たちの作品を展示します。
〜〜〜
現代版画センターの創立に関わったのは井上さん、久保先生ばかりではありません。
綿貫の上司として尽力してくださった毎日新聞の西本董さん、山本栄蔵さん、三宅秀三さん。
全国に先駆けて支部結成に名乗りを上げ、最後の倒産にいたるまで物心両面にわたり支えてくださったMORIOKA第一画廊の上田浩司さん。
上田さんの紹介で会員となり友人の高校教師・佐藤功介さんとともに大曲支部・大曲画廊をつくってくださった秋田の町医者・船木仁先生。
ベ平連のメンバーとして生涯リベラルな姿勢を貫き版画センターのオークションのフリ師として活躍されたサントリー宣伝部の藤本義一さん。
それらの方たちのことはいずれきちんと書いておきたい。

◆埼玉県立近代美術館で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が開催されています。現代版画センターと「ときの忘れもの」についてはコチラをお読みください。
詳細な記録を収録した4分冊からなるカタログはお勧めです。ぜひご購入ください(2,200円)。
会期:2018年1月16日(火)〜3月25日(日)
埼玉チラシAY-O600現代版画センターは会員制による共同版元として1974年〜1985年までの11年間に約80作家、700点のエディションを発表し、全国各地で展覧会、頒布会、オークション、講演会等を開催しました。本展では45作家、約280点の作品と、機関誌等の資料、会場内に設置した三つのスライド画像によりその全軌跡を辿ります。

【トークイベント】ウォーホルの版画ができるまで―現代版画センターの軌跡
日時:3月18日 (日) 14:00〜16:30
第1部:西岡文彦 氏(伝統版画家 多摩美術大学教授)、聞き手:梅津元(当館学芸員)
第2部:石田了一 氏(刷師 石田了一工房主宰)、聞き手:西岡文彦 氏
場所:2階講堂
定員:100名 (当日先着順)/費用:無料
〜〜〜
○<埼玉近美の展覧会を観てきました。いろんな版画があって面白かったです。息子は靉嘔の鮮やかな作品が気に入った模様。僕はウォーホルの菊の絵がよかったです。
コレクション展では「対話型鑑賞」の企画展示がありました。作品を観て感じたことを言葉にしてみる、というのは作品に対する理解が深まるかもしれないけど、「言葉にできない感じ」を表現するのがアートなのでは?とも思いました。

(20180310/かっつんさんのtwitterより)>

○<「版画の景色」とても面白かった!
(20180311/いとう ゆみこさんのtwitterより)>

○<「現代版画センターの軌跡」を観てきましたが、一番驚いたのはアンディ・ウォーホルのこれですね。30年以上前の企画ですが、美術展そのものも勿論、搬入搬出の様子など、とても気になる。
巨大地下空間でのウォーホル展 : ギャラリーときの忘れもの ブログ

(20180311/なっとうさんのtwitterより)>

西岡文彦さんの連載エッセイ「現代版画センターという景色が始まりました(1月24日、2月14日、3月14日の全3回の予定です)。草創期の現代版画センターに参加された西岡さんが3月18日14時半〜トークイベント「ウォーホルの版画ができるまでー現代版画センターの軌跡」に講師として登壇されます。

光嶋裕介さんのエッセイ「身近な芸術としての版画について(1月28日ブログ)

荒井由泰さんのエッセイ「版画の景色―現代版画センターの軌跡展を見て(1月31日ブログ)

スタッフたちが見た「版画の景色」(2月4日ブログ)

毎日新聞2月7日夕刊の美術覧で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が紹介されました。執筆は永田晶子さん、見出しに<「志」追った運動体>とあります。

倉垣光孝さんと浪漫堂のポスター(2月8日ブログ)

嶋吉信さんのエッセイ〜「紙にインクがのっている」その先のこと(2月12日ブログ)

大谷省吾さんのエッセイ〜「版画の景色−現代版画センターの軌跡」はなぜ必見の展覧会なのか(2月16日ブログ)

植田実さんのエッセイ「美術展のおこぼれ 第47回(3月4日ブログ)

土渕信彦さんのエッセイ<埼玉県立近代美術館「版画の景色ー現代版画センターの軌跡」展を見て(3月8日ブログ)

塩野哲也さんの編集思考室シオング発行のWEBマガジン[ Colla:J(コラージ)]2018 2月号が展覧会を取材し、87〜95ページにかけて特集しています。

○3月4日のNHK日曜美術館のアートシーンで紹介されました。

○月刊誌『建築ジャーナル2018年3月号43ページに特集が組まれ、見出しには<運動体としての版画表現 時代を疾走した「現代版画センター」を検証する>とあります。

○埼玉県立近代美術館の広報誌 ソカロ87号1983年のウォーホル全国展が紹介されています。

○同じく、同館の広報誌ソカロ88号には栗原敦さん(実践女子大学名誉教授)の特別寄稿「現代版画センター運動の傍らでー運動のはるかな精神について」が掲載されています。

現代版画センターエディションNo.360 菅井汲「GUEST I」
現代版画センターのエディション作品を展覧会が終了する3月25日まで毎日ご紹介します。
20180313菅井汲
「GUEST I」
1980年
シルクスクリーン(刷り:石田了一)
Image size: 57.0×38.0cm
Sheet size: 64.8×49.8cm
Ed.150
*菅井汲版画集『GUEST 1980』収録
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

パンフレット_05
出品作家45名:靉嘔/安藤忠雄 /飯田善国/磯崎新/一原有徳/アンディ・ウォーホル/内間安瑆/瑛九/大沢昌助/岡本信治郎/小田襄/小野具定/オノサト・トシノブ/柏原えつとむ/加藤清之/加山又造/北川民次/木村光佑/木村茂/木村利三郎/草間彌生/駒井哲郎/島州一/菅井汲/澄川喜一/関根伸夫/高橋雅之/高柳裕/戸張孤雁/難波田龍起/野田哲也/林芳史/藤江民/舟越保武/堀浩哉 /堀内正和/本田眞吾/松本旻/宮脇愛子/ジョナス・メカス/元永定正/柳澤紀子/山口勝弘/吉田克朗/吉原英雄

ときの忘れもの・拾遺 ギャラリーコンサートのご案内
第7回 愛といのち

日時:2018年4月3日(火)18:00〜
会場:ときの忘れもの
出演:メゾ・ソプラノ/淡野弓子
   スクエアピアノ/武久源造   
プロデュース:大野幸
*要予約=料金:1,000円
予約:必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記の上、メールにてお申し込みください。

info@tokinowasuremono.com

◆ときの忘れものは「植田正治写真展ー光と陰の世界ーPart 供を開催しています。
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会期:2018年3月13日[火]―3月31日[土] 11:00-19:00
※日・月・祝日休廊(但し3月25日[日]は開廊
昨年5月に開催した「Part I」に続き、1970年代〜80年代に制作された大判のカラー作品や新発掘のポラロイド写真など約20点をご覧いただきます。

●書籍・カタログのご案内
表紙植田正治写真展―光と陰の世界―Part II』図録
2018年3月8日刊行
ときの忘れもの 発行
24ページ
B5判変形
図版18点
執筆:金子隆一(写真史家)
デザイン:岡本一宣デザイン事務所
価格:800円(税込)※送料別途250円

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植田正治写真展―光と陰の世界―Part I』図録
2017年
ときの忘れもの 発行
36ページ
B5判
図版33点
執筆:金子隆一(写真史家)
デザイン:北澤敏彦(DIX-HOUSE)
価格:800円(税込)※送料別途250円


●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
20170707_abe06新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18〜24頁にときの忘れものが特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。