<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第66回

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風船と洗濯ばさみは友好関係を結ぶことができない。
飛び立とうとするものと、つなぎとめようとするもの。
膨らむ力と、それを留める力。
オプティミズムとシニシズム。

相反する力が働くふたつの物体を、身にまとって、立っている男。
風船の数は12個で、洗濯ばさみの数はわからないが、体の前面にもつけているから相当な数にのぼる。

男はどんな表情でそこに立っているのだろう。後ろ向きで見えないが、背を向けて、足をやや開きぎみに立っている様子は、直立不動というほど固くはないが、リラックスしているようにも見えない。
両腕と胴体のあいだには隙間があけてある。洗濯ばさみが付いていて密着できないのかもしれないが、腕を離して立っているこの姿勢が決闘シーンを連想させる。
腰にさげたケースから拳銃を抜いて、いままさに発砲しようと構えているガンマンのように。

そう思ってしまうもうひとつの理由は、上着の肩のあたりに並んでいる洗濯ばさみである。これがカウボーイの皮ジャケットについているビラビラしたフリンジに似てみえて仕方がない。男の正面にはホルモン焼き屋がある。そこに正面から突っ込んでいこうとしているような、何かを覚悟している人間の緊張感を嗅ぎとる。

店の入り口には提灯がさがっている。この写真を見たときにまっさきに目に入ったのは、風船とこの提灯だった。提灯の丸みと風船の膨らみに空気圧という共通項を見つけたのか。提灯にはホルモン焼きの名称が書かれていて、「コリコリ」「テッポウ」「キアラ」「チレ」などと知らない名前がつづく

鶴橋の文字が見える。大阪の焼き肉街として名高い場所である。男の立っている道はかなり幅が広いが、この道はホルモン屋にぶつかって行き止まりなのだろうか。
はじめに見たときはそう思った。コの字型に店が囲んでいる小さな広場のような空間が想像されたのだ。

ところが、ホルモン屋の看板に「この横の焼き肉本通を通って徒歩30秒」という文言を見つけて、考えがぐらついた。矢印もついている。店の前に細い横道があるのかもしれない。
とはいえ、文字情報がなければ行き止まりと思うのが自然で、そう思うわけは簡単だ。道の交差する場所が男のからだで塞がれ、見えないからである。

袋小路に立っているように見えることが、男の抱えている圧力を強めている。風船と洗濯ばさみの抗う力をみなぎらせて入ってきた男は、この場所でぴたりと足を止めたのだ。看板やネオンがかまびすしく客寄せをしているゴテゴテした路上で、エネルギーを体表に集めて静止し、見えない拳銃をいままさに抜かんとしている。

大竹昭子(おおたけあきこ)

●紹介作品データ:
森村泰昌
《高く、赤い、中心の、行為:「中」09》

2018年
ゼラチンシルバープリント
34.0x26.7cm
courtesy of MEM

森村泰昌 Yasumasa MORIMURA
1951年大阪市生まれ。京都市立芸術大学美術学部卒業。1985年ゴッホに自ら扮したセルフ・ポートレート写真を発表、有名絵画の登場人物に扮する「美術史シリーズ」で脚光を浴びる。1988年ヴェネチア・ビエンナーレでアペルト部門に選ばれて注目を集め、海外の展覧会への出品、個展などを行うようになる。「女優シリーズ」「サイコボーグシリーズ」のほか「フェルメール」「フリーダ・カーロ」などのシリーズなどもあり、最近ではヴィデオ作品もも手がける。他にも、映画や芝居などで役者として活躍をしている。

●展覧会のご紹介
ギャラリーMEMで森村泰昌展「高く、赤い、中心の、行為」が開催されています。
森村泰昌展「高く、赤い、中心の、行為」
会期:2018年6月9日(土)〜7月8日(日)
会場:ギャラリーMEM
時間:12:00〜20:00
休館:月曜日 (祝日または祝日の振替休日は開廊し、翌日休廊])

「高く、赤い、中心の、行為」と題された本展は、初期の「星男」含め過去の作品から新作まで、パフォーマンスを含め身体の行為を基礎にした森村作品の側面を考察する。
展覧会タイトルと同名の新作は、高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之により結成されたハイレッド・センターによって、1964年に東京の路上で行われた「第6次ミキサー計画」での、各作家による「行為」を参照しながら、作家の地元大阪の鶴橋で森村自身によって行われたパフォーマンスを基に写真とビデオ作品を制作したものである。加えて、同様にパフォーマンスのビデオと写真作品で構成される60年代暗黒舞踏の運動を率いた大野一雄の「ラ・アルヘンチーナ頌再考」(2010-2018)も展示される。(ギャラリーMEMHPより転載)

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*画廊亭主敬白
今回は凝縮された日本滞在でしたが、難しかった個展の開催等、思わぬほど多大に苦労をお掛けし、然し乍ら、首尾良く個展が出来、大変お世話になりました。
チョット前、自宅に帰って来まして、リラックスしているところであります。
想像以上に、多くの人が訪れてくださいまして、楽しく歓談することが出来ました。アメリカで孤立している為か、余計に多くの人と喋れたのが、私にとって貴重な経験でもありました。
先ずはお礼まで・・・
20180630 関根伸夫


銀座のギャラリーせいほうで開催していただいた「関根伸夫展」が6月29日に終了しました。上掲はロスに戻られた関根先生からのメールです。
70年代の立体、紙の作品から、近年の新作絵画「空相ー皮膚 Phase of nothingness-skin」シリーズまでを展示した本展は久しぶりに作家が帰国したこともあって多くの方にご来場いただきました。
お買い上げいただいたお客様には心より感謝申し上げます。
1979青森五拾壱番館ギャラリー 関根伸夫今から約40年前、左から亭主、関根先生、五拾壹番館ギャラリーの高木保さん、
1979年10月22日青森市・五拾壹番館ギャラリー「関根伸夫展」オープニング

20180618_sekine_opening_042
お互い70代を迎えてしまった左からギャラリーせいほうの田中譲さん、関根伸夫先生、亭主
2018年6月18日銀座・ギャラリーせいほう「関根伸夫展」オープニング

ありがとうございました

◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。