<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第67回

澎湖印記-謝三泰攝,1991(c)Hsieh San-Tai
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若いふたりの門出を祝う結婚式があり、終わって記念撮影をしたところだ。海をバックに立っているのは、式場が海辺の景勝地にあったからか。どこで撮るか揉めた揚げ句に、長いドレスの裾をもちあげ、歩きにくい岩場を通って、七人でぞろぞろとここにやって来たのだ。

新婦は翼のようなフリルがたくさんついたウエディングドレスを着て、首元と胸元をネックレスとコサージュで飾っている。風でドレスの裾がめくれて足先がのぞいているが、履いているのはヒールのついていないペタンとした靴だ。

新郎のほうはスーツ姿だが、リーゼントの髪形にリキが入っている。大きな頭がなおさら膨らんで”頭でっかち尻つぼみ”の印象。襟元の蝶ネクタイが傾いているのが気になるが、よく見ると傾いているのはネクタイではなく、彼の体のほうである。新婦の腕をとったために、そちら側の肩があがって体が傾いだのだ。「腕をとる」と言ったが、実際は「とられている」ように見えるのは、彼女の身長のせいである。顔半分くらい彼より身長が高い。彼の眼がようやく彼女の唇に届くくらいだから、キスするにはつま先立ちする必要があるだろう(彼女の靴がペタンコな理由を了解)

新婦の反対側には彼女の親族がいる。横の女性は顔立ちも、前髪を膨らませて右に流した髪形も新婦に似ているから姉だろう。気丈で、しっかりもので、少し口うるさいところもある。その右にいるのは妹で、彼らは三姉妹なのだ。

新郎に目を移すと、左側にいるのは彼の兄である。目と口元がそっくりだ。眉間にしわを寄せ、照れたような困ったような表情で弟の行く末を気にしている。彼は重心が低くて安定感があり、甘えん坊でスイートな雰囲気の弟と好対照をなしている。

とここまで書いて、彼が胸にコサージュを飾っているのが気になりだした。新郎がつけるのはわかるとしても、どうして「兄」もなのだろう。新婦の「姉」を見てみると、彼女の胸元にもそれらしきものがついている。はっとしてこれまでの想像ががらがらと崩れ去った。「兄」と「姉」と思っていたが、そうではなくてふたりは夫婦なのではないか。彼らは若い友人の結婚に立って媒酌人を務め、その徴として胸にコサージュをつけているのではないか。

写真でふたりの関係を改めて確認することにした。新郎・新婦の姿を手で隠し、「兄」と「姉」の顔を交互に見比べる。するとにわかにふたりのあいだに夫婦らしい雰囲気が立ち上がってきたのに驚いた。長く連れ添った人生の先輩の風格と落ち着きが漂い、媒酌人にふさわしい人はこの夫婦を置いていないように思えてきたのである。

こうなると、これまでの想像を根本から問い直さなければならないと、ほかの人たちにも同じことを試してみた。まず新婦と彼女のとなりの「姉」を手で覆い、「新郎」と新婦の「妹」を見比べたところ、似ている。やや離れ気味の眼や、頬から口元にかけての表情などそっくりで、兄妹と言われたら信じるだろう。

新郎の後には控えめな様子でポロシャツの男が立っている。新郎の姿を隠してつぎにこの彼と新婦を見比べてみたら、あにはからんや、彼らもまた血縁と言ってもおかしくないほど似た空気を漂わせているではないか!

こうして写真のあちこちに手をかざし、比較するうちになにがなんだかわからなくなってきた。似ていると思えば、だれもが似ているように思えてしまう。目が類似点のほうに反応し、差はあってもグラデーションの範疇に収まり、大きなちがいはどこにも認められなくなったのだ。最後にたどりついたのは、「ここに写っている人たちは同じ一族である」ということだった。それがいちばん説得力ある、真実に近いことばのように思えた。

大竹昭子(おおたけあきこ)

●紹介作品データ:
謝三泰 (シェ・サンタイ) 
《澎湖の印象》

1991年 (C)Hsieh San-Tai

●展覧会のご紹介
清里フォトアートミュージアムで台湾写真交流展 島の記憶 1970〜90年代の台湾写真が開催中です。
チラシ表
チラシ裏
台湾写真交流展
島の記憶 1970〜90年代の台湾写真
会期 2018年7月7日〜12月2日
会場 清里フォトアートミュージアム
住所 山梨県北杜市高根町清里3545-1222
電話 0551-48-5599
開館時間 10:00〜18:00
休館日 火曜日 (11.20開)、7.7-9.3は無休
観覧料 一般800円、学生600円、中高生400円
アクセス JR清里駅よりタクシー10分

清里フォトアートミュージアムにおける世界の若手写真家を支援する公募&コレクション活動、「2018年度ヤング・ポートフォリオ展」展は、毎年冬期休館あけの3月より開催。
2018年度YPは、2019年3月中旬〜6月下旬に清里フォトアートミュージアムで開催予定。選考委員は 川田喜久治さん、上田義彦さん、細江英公さん。
現在、過去23年間のYPコレクションの一部を、国立台湾美術館に巡回中。


●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18〜24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
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