<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第68回


tosei097Copyright (c) Osamu Funao All Rights Reserved
(画像をクリックすると拡大します)

乾燥した大地に井戸がある。まずそのことに驚く。水脈に届くのにどれほど掘らなければならなかっただろう。地球の芯にむかって気が遠くなるほどまっすぐ掘り進んだのではないか。

井戸のデザインにも驚く。垂直に埋め込まれたシリンダーと、ピストンを上下させるレバーと、水がでてくる蛇口という必要最低限の要素が合体されたそれは、日本の古井戸とはまるで別人だ。まっすぐで、律義で、口数少なく、物静かである。日本の井戸も律義ではあるが、よくしゃべるし、人好きである。この井戸はひとりでいることが多く、”孤高の人”のような雰囲気を漂わせている。

ひとりの男がその井戸にやってくる。黒い肌、まっすぐ伸びた背筋、長い足、長い腕、格好のいい頭、腕輪や耳飾り、布を巻き付けた衣装など、彼もまた日本にいる人間とはまるで姿形がちがう。彼は井戸の本体にからだの軸を合わせるように向き合うと、直立の格好でレバーを持ち上げ、ゆっくりと下ろす。ちょろちょろと水音が響く。量は少なく勢いもないが、まぎれもない水である。乾いた地表にあがってきた大地の体液である。

彼の右手はレバーを握っているが、左の手のほうはなにをしているのか。もしかしたらレバーの反対側に同じように真横に突起があって、そこに添えられているのではないか。足の後ろからのぞいている棒は、おそらく腕とからだのあいだに挟まれていて、手先は両方とも自由なのだ。

見ていると、無駄な贅肉が少しもついていない、すっきりと伸びやかなからだが、井戸のかたちに重なってく。一方は人間で、もう一方は道具なのに、どこか通じるものがある。真横に並んで立っているから余計そう感じるのかもしれない。井戸が分身のように感じられる。

彼の目は井戸に注がれているが、蛇口の下に水瓶は置かれていない。水を受けるつもりはないようだ。ただ水が流れ出るさまを見れば満足なのか。コンクリートで囲われた浅い流しが蛇口の下につくられている。そのデザインは井戸のそれとは対照的に曲線をなし、やわらかな印象だ。レバーの側には同じくコンクリートで人の立つ場所が固められているが、そこも先端がすぼんだ有機的なデザインで、両方を上空から俯瞰したら人間の瞳のように見えるだろう。

井戸はたぶん鉄製で、その堅い材質ゆえに直線にならざるを得なかった。周囲も井戸にあわせて長方形にしてもよかったが、そうしなかった気持ちはわかるような気がする。地面と地つづきの場所は曲線がいい。直線ではうまく馴染まない。

井戸のまわりは果てしなくつづく荒れ地である。わずかな水で生きられる乾いた草だけが生えている。目に入るのはごくわずかなものだけという茫漠とした大地に刻まれた瞳形の井戸端に、まっすぐに立っている影がふたつ。抽象画のような光景。そのまま地面を離れてどこかに飛んでいけそうである。
大竹昭子(おおたけあきこ)

●作家紹介データ
船尾修
1960年神戸生まれ。筑波大学卒。出版社勤務の後、フリーに。
現在は大分県の中山間地にて無農薬で米作りをしながら家族4人で暮らしている。
主な著書、写真集に、「アフリカ 混沌と豊饒の大陸(全2巻)」(山と渓谷社)、「UJAMAA」(同)、「循環と共存の森から〜狩猟採集民ピグミーの知恵」(新評論)、「世界の子どもたち 南アフリカ」(偕成社)など。「カミサマホトケサマ」(冬青社)が第9回さがみはら写真新人奨励賞を受賞。「フィリピン残留日本人」(冬青社)が第25回林忠彦賞と第16回さがみはら写真賞をW受賞。最新刊は「カミサマホトケサマ国東半島」(冬青社)。

●展覧会のご紹介
船尾修写真展「Beyond The Border」
会期 :2018年9月7日(金)〜9月29日(土)
会場 :ギャラリー冬青(〒164-0011 東京都中野区中央5-18-20)
時間 :11:00〜19:00
休館日:日、月曜・祝日
船尾修さんの若き日の自由気ままな旅の中で撮影されたモノクロ写真27点が展示される。会期初日にはクロージング・パーティーも開催。

●今日のお勧め作品は、殿敷侃です。
08_block殿敷侃 Tadashi TONOSHIKI
《ドームのレンガ》(1)
1977
銅版、雁皮刷り
イメージサイズ:23.2×32.3cm
シートサイズ :32.8×44.0cm
Ed.50
サインあり

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18〜24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
12