ephemeral/eternal 「はるかな時のすきまで」展にて

中根秀夫


連鎖しあうプロセスは、それぞれに言葉で満たされている。砂浜の引き波が砂を巻き込んで持ち去り、また返しに来るように、たっぷりした水面が持ち上がって波頭を立てたとき、海面の表膜は破れ、内部に保たれていた言葉が白くしぶきとなって放たれる。それを受けとめようとするとき、言葉は少し手を濡らしただけで再び海に戻っていきがちだ。それでも次の波が来るときにまた、別の言葉が採集できるはずなのだ。差し出した手はその都度、しぶきをくぐり、次の言葉を待つ。(光田ゆり「プロセスの海」より)


「はるかな時のすきまで A plus viewing 02 – ephemeral / eternal」展は、様々なメディアに取り組む若手・中堅作家と、川口の街に住んだ故中村隆氏との計8名で、旧田中家住宅の洋館・和館と、離れの茶室に作品を設置する展覧会である。

旧田中家住宅は、味噌醸造業・材木商として財を成した4代目田中兵衞(1875-1947)により建設された。兵衞は本業に加え、埼玉味噌醸造組合理事長、南平柳村村長、埼玉県会議員、貴族院多額納税者議員などの要職に就いた人物で、迎賓を目的としたこの建築は、大正12年(1923)に木造煉瓦造三階建の洋館が竣工、昭和9年(1934)には和館部分が増築され今に至る。意匠が尽くされた和洋折衷建築は、現在では川口市立文化財センターが国登録有形文化財として管理している。



おおかたの展覧会タイトルと同様に、「はるかな時のすきまで」というフレーズも日本語的な感覚が貫かれている。長い話なので経緯は省略するが、このタイトルに「ephemeral / eternal」という英語のサブタイトルを付したのは、企画者ではなく私なのだ。解釈には意外と困難が伴うが(グーグルのAI翻訳にかけてみるとわかる)、フレーズ全体で見れば、結局これは「すきま」についての話ではなく、「すきまで」起こる何かを問うているのであって、その何かについては読み手に委ねられる、というところまでが日本語構造の中に織り込まれている。以下、この言葉について短く記しておきたい。

**


こんなことを考えてみる。

私が今ここで朝食を取っている時、あなたは何をしているのだろうか。今日これから展覧会場に出かければ、あなたと会うかもしれないし、会わないかもしれない。いや、私のことなど知らないあなたは展覧会には行かないだろう。でも、もしかしたら偶然に新宿駅の改札ですれ違うかもしれないし、あるいはいつの日か別の場所で巡り合うかもしれない。あなたと私という関係以外にも、かようなプロセスは幾重にも交差し、あるいは交差せずに、それぞれの人がそれぞれの一生を終える。

プロセスは人と人との関係にのみ生じるのではなく、その対象は例えば、あなたが見上げた飛行機雲かもしれないし、お気に入りの絵本の1ページかもしれない。それは掌の上の小さな時計の秒針かもしれないし、ガラスに挟まれた一片の青い花びらかもしれない。その場に開かれた小さなプロセスに小さな言葉が放たれ、その言葉はあなたの指先に微かに触れる。

***


ephemeraとは蜉蝣(カゲロウ)のことであり、そこから極めて儚いものの存在を指示し、形容詞形ephemeralはその時間性を意味する言葉となる。

私の眼差しの先では、「はるかな時のすきまで」という展覧会タイトルは「(ephemeral)/ eternal」のような構造で解釈される。「すきまで」という言葉が指し示すのは「 / 」(スペース・スラッシュ・スペース)の部分となる。私たちは、あるいはこの「すきま」にこそ存在するのであって、そして言葉が微かに指先に触れる次のプロセスを待つ只中にある。

1
2階書斎:大正12年(1923)に竣工。田中兵衞の書斎。白い天板の花台(ケヤキ製)。足元にかけてアーチを描く。吊り下げ灯には円形にクリスタルの飾り。台上に《Ephemeral eternal》。奥に継続中のドローイング。

2《Ephemeral eternal》2018年/乾燥した花びら ガラスシャーレ/φ160 x h. 30 mm

3《Flowing down》2008年/ガラス(サンドブラスト)/420 x 298 x 5mm

4《Untitled (Blue Carnation)》腰板がやや高い位置まで張られている。左:《Untitled (Blue Carnation)》2012年/デジタルプリント/237 x 296 mm(プリント寸) 右:《Flowing down》2008年/ガラス(サンドブラスト)/420 x 298 x 5mm

5《白い鏡の中に- in a White Mirror》書斎のコーナーには三角の形(セゼッション様式を踏まえたと思合われる)をした飾り棚。ミズナラ製。棚の中に《白い鏡の中に- in a White Mirror》2015年/鏡(サンドブラスト)/420 x 298 x 5mm。この作品の片割れは「茶室」に。床は寄木張り。

6《鏡の中の (mimoza)》2階座敷:数寄屋書院風の和室。天井に屋久杉、床框に黒檀が使われている。床の間に《鏡の中の (mimoza)》2012年/色画用紙 アクリル/410 x 318 mm(各)。手前畳の上に平田星司さんの作品。

7《白い鏡の中に》
茶室(水屋):《白い鏡の中に》2015年/鏡(サンドブラスト)/420 x 298 x 5mm、 《Ephemeral eternal (Flowing down)》2018/2004年/乾燥した花びら ガラス(サンドブラスト)/178 x 298 x 5mm(2点)

8《Ephemeral eternal (Flowing down)》《Ephemeral eternal (Flowing down)》2018/2004年/乾燥した花びら ガラス(サンドブラスト)/178 x 298 x 5mm(2点)

9《Forget-me-not, 》
茶室:昭和48年に京都から職人を呼び寄せ使って作られたとのこと。《Forget-me-not, 20170225 09:41》2018年/デジタルプリント/110 x 158 mm(プリント寸)。下は小野美穂さんの作品。

10《Ephemeral eternal》《Ephemeral eternal》2018年/勿忘草 ガラス瓶/φ95 x h.160 mm
撮影は全て中根秀夫による。©Hideo Nakane

*制作にあたりいくつかのメモを拙ブログに残しましたので、こちらもご参照いただければ幸いです。
『はるかな時のすきまで』メモ

戦火のなかの

Untitled / 2012年


*引用した光田ゆり氏のテキストは記録集「海のプロセス−言葉をめぐる地図(アトラス)」に収録されています。

なかね・ひでお

中根秀夫 Hideo Nakane (1966-)
1966年 千葉県生まれ。神奈川県在住。ホームページ http://hideonakane.com
東京芸術大学美術学部絵画科日本画学科卒業後、ブリティッシュ・カウンシルの奨学金を取得。渡英。The Slade School of Fine Art 大学院絵画科修了。イギリス国内で展覧会に参加する。1996年帰国後、厚木市文化会館主催の個展、「VOCA展97」(上野の森美術館)、The London Groupのメンバーとしてロンドンでの展示の他、国内外で展覧会に参加。2004年からはGalerie SOLで継続的に個展を開催する。2016年 武田多恵子(詩)、かみむら泰一(Sax)と共作の映像作品「もういちど秋を」を発表(Galerie SOL)。2017年「海のプロセス−言葉をめぐる地図(アトラス)」(第6回都美セレクション グループ展 / 東京都美術館)を平田星司と共同で企画する。

「はるかな時のすきまで〜ephemeral/eternal〜」
s20180821114604_00001
s20180821114604_00002

展覧会概要
はるかな時のすきまで  A plus viewing 02 – ephemeral / eternal
《出展作家》小野美穂/戸張花/中根秀夫/中村隆/橋本直明/平田星司/松丸健治/熊谷美奈子

会期:2018年8月28日(火)〜9月24日(月・祝)
休館日:[ 9/3(月), 9/10(月), 9/18(火)]
開館時間:9:30〜16:30(入館16:00まで)
 *9/13(木)〜9/17(月・祝)の1階日本間、9/22(土)〜24(月・祝)の茶室の展示は、都合によりご覧いただけません。
入館料:一般200円/小・中学生50円(旧田中家住宅への入館料が必要になります)
会場:旧田中家住宅(川口市立文化財センター分館 国登録有形文化財)
ホームページ:https://www.city.kawaguchi.lg.jp/soshiki/04010/040/event/24435.html
〜〜〜
●今日のお勧め作品は、奈良原一高です。
narahara_13_wtw2奈良原一高 Ikko NARAHARA
写真集〈王国〉より《壁の中》(2)
1958年 (Printed 1984)
ゼラチンシルバープリント
イメージサイズ:33.5×49.2cm
シートサイズ:40.6×50.8cm
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18〜24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
ただし9月20日[木]―9月29日[土]開催の野口琢郎展は特別に会期中無休です
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
12