「スペイシャル・ポエム」と「フルックスアトラス」

塩見允枝子


「スペイシャル・ポエム」
special1塩見允枝子
「SPATIAL POEM スペイシャル・ポエム」(自家版)サイン入り

1976年刊 英文
21×27.5cm 70ページ
発行者:塩見允枝子
9,200円(税別)


special2special3


 フルクサスに参加するために、私は1964年にニューヨークへ行きましたが、当時書いていた作品は、自然や日常の中のさまざまな事象を対象としたイヴェントと呼ばれるものでした。しかしそれらは本質的には個人的体験として自足してしまう性質のもので、コミュニケーションという点では、行き止まりであることに気づいたのです。
 そこで、イヴェントの本質を保ちながらコミュニケーションを得るための方法として考え付いたのが、このスペイシャル・ポエムでした。つまり地球を一つのステージと考え、世界各地の人々が同じイヴェントをそれぞれの日常の中で行ない、それについてのレポートを送って頂いて、それらを私が世界地図の上に編集して送り返す、というやり方です。
これを思いつくと直ぐに、私はマチューナスのロフトへ相談にいきました。すると彼は、「それはいいアイディアだ。これらの人々に招待状を出しなさい」といって、フルクサスの住所録を手渡してくれたのです。当時は、航空郵便が唯一の通信手段という時代でした。

 最初は「ことばのイヴェント」です。白紙のカードを同封して、その上に何かのことばを書いて、どこかへ置くよう依頼しました。皆で地球にことばのコラージュをしようと思ったのです。次は「方向のイヴェント」。時差を計算した表を送り、同じ瞬間に皆がどんな方向を向いていたかを、ちょうど地球を俯瞰できる位置からスナップ写真に撮るように、浮き彫りにしてみたいと思いました。勿論、方向の解釈は自由ですし、その瞬間に向かう方向は意図的でもいいとしていましたので、いろいろな面白い報告がありました。

 以後10年間に、「落下のイヴェント」「影のイヴェント」「開くイヴェント」など、9つのイヴェントを行ない、1976年に全てのレポートを纏めて出版したのがこの本です。参加者は230人余りですが、回を重ねるにつれて顔ぶれは少しずつ変わっていきました。友人から聞いたので自分も参加させてほしいと、招待状を出さなかった人達からも報告が送られてくるようになったのです。延べ数百通の手紙からは、当時の人々がいかに新鮮な感覚でもって、日常を捉え直していたかがよく分かります。
 あらためて参加者リストを眺めてみると、フルクサスの主要メンバーは勿論、現代芸術の世界で大きな足跡を残していらっしゃる錚々たる人々が数多く含まれていることに驚きます。
日本でも、瀧口修造、大岡信、靉嘔宮脇愛子、秋山邦晴、高橋悠治、小杉武久、東野芳明、北園克衛氏ら、十数名が名を連ねていらっしゃいます。

 一方、最近になってヨーロッパのキュレーター達から、このスペイシャルの試みは、インターネットが発達した現代にこそ相応しい企画ではなかったか、再現してみる気はないか、などという問い合わせが来るようになりました。
ただ私としては、通信手段が未発達な時代だったからこそ、コミュニケーションへの欲求が生まれたのであって、今となっては再現する気持ちは全くありません。でも他の人たちが、それをもう一度やってみたいと言うのであれば、それを拒否する権利は自分にはないと思って、協力はしています。
日常を、今まで考えもしなかった角度から見直し体験してみたいと思うのは、いつの時代も変わらない人間の好奇心なのでしょうか。


「フルックスアトラス」
atlas塩見允枝子
「A FLUXATLAS」(地図)
サイン入り
1992年刊 英文
ケースサイズ:19×21.5cm
地図サイズ:36.2×84.5cm
限定:500部 サイン・番号入り
発行者:塩見允枝子
2,400円(税別)

 これは、「スペイシャル・ポエム」のNo.2「方向のイヴェント」の記録をマチューナスがデザインして出版してくれたものの複製です。
確か1970年代の初め頃だったと思いますが、84x36cmの地図を屏風状に四つ折りにしたものを何部か送ってきてくれました。しかしそれらは郵送には不便でしたし、残り部数も少なくなってきましたので、1992年にリプリントし、長い方の辺を二つ折りにして丈夫な表紙で包み、自分で出版し直したのです。
表紙のデザインは、彼が地図上で使っているイラストを私がアレンジしました。

 この地図は1965年10月15日、日本時間午前7時に、世界各地の皆さんが面していた、或は向かって動いていた方向を表したものです。
例えば、マチューナスは「エレベータの中へ回転椅子を持ち込み、その瞬間に上向ボタンを押してから、自分は椅子に腰かけて高速回転したので、360°全方向を向きながら上昇していた」とか、ジョン・ケージからは「気づかなかった」というあっけらかんとした自然体の報告。或いは、リチャード・ハミルトンに至っては、人体の各パーツの方向を別々に書き、かつ全体として時速75マイルの速度で南の方へ向かっていた、という状況の把握に苦労するような報告もありました。
その他、4杯目から5杯目のビールへ向かっていたとか、単純化の方へ向かっていたなど、61名が実にさまざまな方向を向いています。

 1978年にマチューナスが亡くなった後、沢山の未整理の印刷物が発見されました。それらをシルバーマン・コレクションのジョン・ヘンドリックス氏と写真家ピーター・ムーア氏の夫人であるバーバラ・ムーアさんが引き取って、再出版することになったのです。
その場合、マチューナスのオリジナルと区別するためにRefluxと明記することになりました。ですから、このフルックスアトラスも、バックカバーにはRefluxと印刷しています。
500部限定(サインとナンバー入り)で出しましたが、表紙に地図を固定し包む作業などは、全部自分の手で行なっています。
この地図からはマチューナスの卓越したデザイン・センスが見て取れます。彼のオリジナルは高額になり、もうほとんど手に入りませんが、普及版として廉価で再出版し、彼の仕事の一端を伝えられれば、というのがRefluxに携わる者の願いなのです。
しおみ みえこ


●塩見允枝子『パフォーマンス作品集 フルクサスをめぐる50余年』のご案内
『塩見允枝子パフォーマンス作品集 フルクサスをめぐる50余年』塩見允枝子
『パフォーマンス作品集 フルクサスをめぐる50余年』サイン本

2017年
塩見允枝子 発行
60ページ
21.4x18.2cm
税別1,600円、送料別途

いずれもときの忘れもので扱っています。

■塩見允枝子 Mieko SHIOMI
岡山市生まれ。1961年東京芸術大学音楽学部楽理科卒業。在学中より級友達と「グループ・音楽」を結成し、即興演奏やテープ音楽の制作を行なう。64年ニューヨークへ渡りフルクサスに参加。郵便によるグローバルなイヴェント「スペイシャル・ポエム」のシリーズを開始。帰国後も、海外のフルクサスの催し物に参加する他、国内でもパフォーマンス、音楽作品の作曲、視覚詩など、ジャンルを超えた活動を続けている。大阪府箕面市在住。

塩見允枝子 オーラル・ヒストリー

*画廊亭主敬白
昨2018年はフルクサスの創始者ジョージ・マチューナス(George Maciunas リトアニア語名: ユルギス・マチューナス Jurgis Mačiūnas 1931年11月8日 - 1978年5月9日)が亡くなってちょうど40年の記念の年でした。
ときの忘れものは今まで特に「フルクサス」の展覧会を特に組んだわけではありませんが、フルクサスのメンバーであるナム・ジュン・パイク靉嘔はじめ、ジョナス・メカスアンディ・ウォーホルジョン・ケージヨーゼフ・ボイス、エメット・ウィリアムズなど関連作家の作品を扱ってきました。
先日、塩見允枝子さんから貴重な文献をわけていただき、それについてエッセイを寄稿していただきました。

●今日のお勧め作品は草間彌生です。
021_hat草間彌生 Yayoi KUSAMA
「帽子」
Hat
1983年
シルクスクリーン
45.0×52.5cm
Ed.100
サインあり
※レゾネNo.21(阿部出版 2005年新版)
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


ただいま冬季休廊中
ときの忘れものは1月7日(月)までは冬季休廊中、新年の営業は1月8日(火)からです。

●ときの忘れもののブログは年中無休ですが、それは多くの執筆者のおかげです。
昨年ご寄稿いただいた方は全部で51人。年末12月30日のブログで全員をご紹介しました。
荒井由泰,飯沢耕太郎,石原輝雄,井上祐一,植田 実,王 聖美,大竹昭子,大谷省吾,大野 幸,小国貴司,小此木美代子,片多祐子,金子隆一,喜夛孝臣,北村淳子,君島彩子,熊倉浩靖,倉方俊輔,光嶋裕介,小林紀晴,小林美香,佐藤研吾,島 敦彦,嶋吉信,東海林 洋,杉山幸一郎,鈴木素直,住田常生,清家克久,関根伸夫,高北幸矢,蔦谷典子,土渕信彦,戸田 穣,中根秀夫,中野和加子,中村惠一,中村茉貴,西岡文彦,野口琢郎,橋本啓子,平野 到,弘中智子,frgm/羽田野麻吏,市田文子,平まどか,中村美奈子,堀 浩哉,水沢 勉,柳 正彦,夜野 悠,

●2019年のときの忘れもののラインナップはまだ流動的ですが、昨2018年に開催した企画展、協力展覧会、建築ツアー、ギャラリーコンサートなどは年末12月31日のブログで回顧しました。

ときの忘れものは「第27回瑛九展 」を開催します。
会期:2019年1月8日[火]―1月26日[土] 11:00-19:00※日・月・祝日休廊
307
ときの忘れものは3月末開催のアートバーゼル香港2019に「瑛九展」で初出展することになりました。
香港に作品を持って行く前に、ギャラリーで出品作品を公開いたします。
瑛九がさまざまな技法で試みた「光の絵画」への志向が最後に行き着いたのが点描で画面全体を埋め尽くす独自の抽象絵画でした。本展では輝くばかりの100号の油彩大作《海の原型》(1958年)など代表作ほか、カメラを使わず印画紙に直接光を当ててデッサンする「フォトデッサン(フォトグラム)」など1930年代最初期から最晩年までの作品をご覧いただきます。

●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18〜24頁>に特集されています。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
12