ギャラリー  ときの忘れもの

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柳正彦のエッセイ「アートと本、アートの本、アートな本、の話し」第13回

ミニマルなアーティスト・ブック?
アーティストが係わった案内状


 「行きつくところは、紙モノだ・・・」古書収集の世界でよく言われるのは、フレーズです。それが指すモノにはっきりとした決まりはありませんが、きっちりとした本の形に製本されていない印刷物を意味することが多いです。つまり、チラシ/フライヤーや絵葉書、古写真など、シート状のものとなりますが、数ページ程度の冊子、月報や出版案内も紙モノとして扱われることが多いようです。

アート・ブックの世界でも、紙モノは魅力的なものです。

 美術館での展覧会に際して作られる出版(印刷)物も、展覧会カタログだけではありません。展覧会をメディアに告知するプレス・リリース、案内状、会場で無料配布されるリーフレットなどもあります。後者に属するのが紙モノというわけですが、展覧会カタログ以上に希少になることもあるのは、印刷部数の少なさに加えて、紙モノゆえに、多くが書棚に保管されることなく、処分されてしまうからでしょう。

 さて、ここからが本題です。今回と次回は、アートに関係した紙モノのなかでも、特別な魅力を見せてくれる案内状を紹介させていただきます。
 展覧会の期日、場所を知らせる案内状。アーティスト自身がデザインに関与することは、今も、昔も少なくないようです。その中でも、特に印刷物が重要な作品となりうる、ミニマルアートやコンセプチュアルアートの作家による案内状は、一つの印刷作品となっている場合が少なくありません。
 連載の数回前に紹介した、ブルテンも展覧会案内の役割も負っていましたが、ブルテンにかかわった作家の多くは、他にも魅力的な案内状を手掛けています。代表格は、リチャード・ロングでしょう。ランド・アートの第一人者である、ロングが展覧会に展示するのは、木片や石を床に並べた作品、様々な川の泥を壁面に手で塗る作品、それに、写真とテクストを組み合わせた作品、さらにテクストだけの「詩」のような作品ですが、特に後者の2種類は、案内状のサイズになっても本作に近いメッセージを伝えることが可能なものです。

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 言い換えれば、縮小して印刷しても、作品として成立しているように、少なくとも私の眼に映ります・・・。幸いにも、そう考えるのは私だけではないようで、ロングの案内状を集めた展覧会「Richard Long, Postcards, 1968-1982」が、1984年にフランス、ボルドーの現代美術館で開かれ、立派なカタログも出版されています。

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 ミニマル彫刻の雄、カール・アンドレも、アート・アンド・プロジェクトのブルテンに係わった作家ですが、この作家の案内状も本人のデザインによるものが少なくありません。といっても、展覧会に展示されるのは彫刻作品ですので、ロングのように展示作品のはがきバージョンというわけにはいきません。しかし、一般的な案内状のように、展示作品の画像をみせる代わりに、配置の図面やアーティストを啓発したイメージなどが使われています。また活字の代わりにこの作家の手書き文字を使ったものも少なからず存在します。

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 案内状ではありませんが、アンドレによる、とても珍しい「紙モノ」が手元にあります。1984年にニューヨーク州立大学での展覧会に際して出版された小冊子なのですが、略歴の中にある誤記を、アンドレ自身が手書きの線で消してあります。表紙には、アンドレの手書きで、「I have crossed out 4 typos.@」と記されています。ちなみに、「@」は、アンドレのイニシアル・サインですが、この本はアーティスト・ブックを超えオリジナル作品とも見なせるでしょう。このスペシャルな冊子は、実は80年代か90年代、ニューヨークのポーラ・クーパー画廊での展覧会の際に、「ご自由にお取りください」、とテーブルの上に置かれていたものです。何部作られたのかは不明ですが、無償で配布された小冊子ゆえに、現存するものはそれほど多くないでしょう・・・。

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 アーティストによる案内状、かなりの種類を持っているのですが、整理が悪く見つけ出すのにかなりの時間がかかっています。締め切りも近づいてきたので、今回は、二人の作家のモノの紹介だけで終わらせていただきます。是非とも紹介させていただきたい、ハンス・ハーケ、ソル・ルウィット、アルマン、小野洋子ほかの展覧会案内は、次回(と多分次々回)に回させていただきます。

 ・・・と書きつつ、最後に一言。実は、このようなアーティストによる案内状を中心とした、印刷物を紹介する大規模な展覧会、「Extra Art, A Survey of Artists’ Ephemera, 1966-1999」が、2001年にカリフォルニアで開かれています。カリフォルニアの美術書のディーラー、故スティーブン・レイバーによる企画で、立派で資料性の高いカタログも刊行されました。

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やなぎ まさひこ

柳正彦 Masahiko YANAGI
東京都出身。大学卒業後、1981年よりニューヨーク在住。ニュー・スクール・フォー・ソシアル・リサーチ大学院修士課程終了。在学中より、美術・デザイン関係誌への執筆、展覧会企画、コーディネートを行う。1980年代中頃から、クリストとジャンヌ=クロードのスタッフとして「アンブレラ」「包まれたライヒスターク」「ゲート」「オーバー・ザ・リバー」「マスタバ」の準備、実現に深くかかわっている。また二人の日本での展覧会、講演会のコーディネート、メディア対応の窓口も勤めている。
2016年秋、水戸芸術館で開催された「クリストとジャンヌ=クロード アンブレラ 日本=アメリカ合衆国 1984-91」も柳さんがスタッフとして尽力されました。

●柳正彦のエッセイ「アートと本、アートの本、アートな本、の話し」は毎月20日の更新です。

●本日のお勧め作品は細江英公です。
takiguchi細江英公 Eikoh HOSOE
《瀧口修造》
ゼラチンシルバープリント
20.3×30.4cm  Signed
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阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18〜24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
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営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。*日・月・祝日は休廊。

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