ギャラリー  ときの忘れもの

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お盆のお墓参りに故郷群馬に行った折、旧知の画商さんに会う機会がありました。
地方都市で版画一筋に商ってきた方ですが、このご時勢でなかなか大変そうでした。
いま町田市立国際版画美術館で「畦地梅太郎 わたしの山男」展が開催されていますが、あれほど人気のあった畦地作品も今の若い人は関心を示してくれないと嘆いていました。1960〜70年代の版画の時代を知る亭主たち世代にとっては時代の激変を感じます。
久しぶりに版画のことを書いてみます。
畦地梅太郎先生が手がけたのは板目木版ですが、木版画の技法のひとつに木口木版(こぐちもくはん)というのがあります。
私たちが小学校のころ手がけた普通の木版は板目木版といいますが、対する木口木版は、柘植(つげ)、椿、梨、楓など硬い木を輪切りにして年輪が渦状に見える状態を版にして彫ります。
ビュランという鋭い刃をもった彫刻刀で彫るので、緻密な表現に適し、一見すると銅版画のようです。
柘植や椿など使われる木はそう太くありませんから、版木のサイズ通常5〜6cm、最大でも15cm程度です。緻密な彫りは当然集中力を要しますからそう大きなものはありません(もし大きい版面が必要な場合は寄せ木にします)。
18世紀後半にイギリスで制作されはじめ、19世紀中頃からは高い技術を持った彫り師たちの活躍により書籍の挿絵として盛んに使われましたが、やがて写真が発明されるや廃れてしまいます。

廃れていた木口木版画技法を独学で身につけ、独自の世界を切り拓いたのが日和崎尊夫先生でした。
b19-hiwasaki-0011941年高知市生まれ。武蔵野美術学校卒業。日本美術家連盟の版画工房で畦地梅太郎の講習と、加藤清美の腐食銅版画の講習を受講。64年帰郷し、廃れていた木口木版画技法を独学で身につけ、[海渕の薔薇][KALPA]など完成度の高い作品を発表。66年日本版画協会新人賞、67年日本版画協会賞を受賞。77年木口木版画家の会[鑿の会]結成に参加。91年山口源大賞を受賞するが、翌年食道癌のため永逝(50歳)。短い生涯でしたが、500点余りの版画を制作、その多くが精緻な技法に富んだ木口木版画でした。
版画掌誌5 日和崎尊夫「たがねの花」
日和崎尊夫「たがねの花」1978年 木口木版(摺り:五所菊雄)
雁皮鳥の子紙摺り+新鳥の子紙による裏打ち
Image size(版サイズ):7.2×11.2cm、Sheet size:24.2×30.2cm
Ed.175 Signed
*現代版画センター・エディション *レゾネNo.384
版画掌誌5 日和崎尊夫「殖」
日和崎尊夫「殖」1972年原版制作(1978年摺り) 木口木版・雁皮鳥の子紙(摺り:五所菊雄)
Image size(版サイズ): 7.8×8.5cm、Sheet size: 16.0×15.4cm
Ed.2,500部  摺り込みサイン
*現代版画センター・エディション ※レゾネNo.337
ご覧のようにはがきにも満たない小さな画面に細かく刻み込まれた独特の宇宙が広がっています。
限定部数に注目してください、「殖」は2,500部摺りました! でもまったく質は落ちない。いかに硬い版面かがわかるでしょう。手にとって楽しむ「極小の版画世界」は日和崎先生の独壇場でした。

人気が高まるにつれ、画廊や版元からの注文を増えてくる。お酒を飲むと武勇談の数々で知られる日和崎先生でしたが、素面のときは実におとなしく、それらに律儀に応えられていました。
1973年にブリヂストンが版元となって発表された「ピエロ」という”大作”があります。版元からの注文はシートサイズが50cmもありました。いつもは10cm単位の小さな画面を得意とする日和崎先生は苦慮されたに違いありません。
日和崎尊夫ピエロ
日和崎尊夫 Takao HIWASAKI「ピエロ
1973年  木口木版、板目木版(多色) 
イメージサイズ:27.0×33.5cm、シートサイズ:39.0×50.9cm  
Ed.200 Signed
※レゾネNo.352
この「ピエロ」を刊行(エディション)したブリヂストンについては、以前「忘れられた版元」というタイトルでこのブログに詳述しました。
大作”を依頼された日和崎先生は、過去の作品の版木6点を使っていわばコラージュ風に大きな画面に仕立てた。墨一色だと寂しいと思われたのか、板目木版を使って彩色までされました。
下に紹介するのは、「ピエロ」の左下に使われた「薔薇刑」です。
日和崎尊夫薔薇刑日和崎尊夫「薔薇刑」
1970年 
木口木版(自画自刻自摺) 
イメージサイズ:11.0×5.6cm、
シートサイズ:26.5×21.8cm
Ed.100 Signed
※レゾネNo.303


もう一点、日和崎先生の”大作”をご紹介しましょう。
ちょっと図版がピンボケですが、実物はもちろん鮮明です。
日和崎尊夫新世界

日和崎尊夫「新世界」 1989年 木口木版
イメージサイズ:51.7×46.1cm Ed.50 Signed
※レゾネNo.437
冒頭で掲載した小品「たがねの花」「殖」と比べてみてください。
大作への誘惑、注文に苦慮した日和崎先生の悪戦苦闘と言ってしまったら言い過ぎでしょうか。

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