ギャラリー  ときの忘れもの

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吉原英里のエッセイ「不在の部屋」第2回

《M氏の部屋》


2017年6月に、京都のギャラリーモーニングの「吉原英里の80年代」展で、1986年のインスタレーション作品《M氏の部屋》を展示しました。元は大阪の番画廊で一週間発表しただけの作品でした。 
それは、版画家としてデビューした私の2度目の個展で、版画というジャンルに留まらず、異素材を組み合わせて自由な世界を作り上げていきたいという思いで、ベニヤを切り取りペイントした机や椅子に、額装した版画や実物の帽子や傘を組み込んだ作品でした。
その結果、発表した1986年当時にも好意的な評価を得て、多くの新聞記事や美術雑誌等に取り上げられました。

202010吉原英里・1《M氏の部屋》個展 展示風景 番画廊 1986年

202010吉原英里・2《M氏の部屋》個展 展示風景 番画廊 1986年

それ以後、様々な技法で絵画表現を追求していくようになり、次第に私自身もこの86年のインスタレーション作品を思い出すことが少なくなりました。しばらく時間が経ってから、『月刊美術』1993年1月号で私の特集が組まれました。その特集記事の中の論文を横山勝彦氏(当時、練馬区立美術館学芸員)が執筆して下さり、同論文中に、1986年のこのインスタレーション作品《M氏の部屋》に触れ、「吉原英里のすべてがすでにそこに集約されている」といった趣旨の内容を書いて下さいました。さらに、「このインスタレーションを、いつか東京で発表するとか、もっと広く多くの人に見せた方がいい」とも言って下さいました。そのことで再び私の中でも、このインスタレーション《M氏の部屋》がとても重要な作品となっていきました。とはいえ、若干30才で、20代の作品で回顧展をするという発想はありませんから、そのことは頭の片隅にしまっておきました。

2016年のギャラリーモーニングでの個展の後、自分の記事などの資料を整理していて、この辺りで自分の作品の記録をきちんとまとめておいた方がいいかなあと思い始めた頃に、画廊主の寺久保さんと2人で様々なことを話している内に、私のエポック的な作品を、80年代、90年代、2000年代と3回に分けて振り返る展覧会をしようという事になりました。
その第1回目「吉原英里の80年代」展の案内状リーフレットに書いていただいた江上ゆか氏(兵庫県立美術館 学芸員)の文章の中に、「86年の「M氏の部屋」も室内がモチーフで、画廊の空間が誰かの部屋という設定だが、インスタレーションは現実の空間のようには広がらず、むしろ壁際に留まっている点が興味深い。ソファや椅子、テーブルの天板のかたちに板を切抜き着彩して、ぺたっとした家具が壁面に並ぶ。テーブルの上には、版画があるというべきか、帽子があるというべきか、帽子のイメージを刷った版画作品が重ね置かれている。かと思えば、その横の壁には、実物の帽子が掛かる。ものとイメージ、虚実の複雑な往来が、壁面から十数センチのはざまで、密に展開する。ここでは、作品の空間が、現実の空間にはみ出しているとも言えるし、現実の空間が、作品の空間にプレスされ封じ込められているとも言えるだろう。」と、私の最初期銅版画のラミネート技法で作られた「イタリアの風シリーズ」に近づけた表現で書いて下さっています。

202010吉原英里・3《M氏の部屋》「吉原英里の80年代」展 展示風景(正面) ギャラリーモーニング 2017年

202010吉原英里・4《M氏の部屋》「吉原英里の80年代」展 展示風景(左) ギャラリーモーニング 2017年

202010吉原英里・5《M氏の部屋》「吉原英里の80年代」展 展示風景(右) ギャラリーモーニング 2017年

2018年から2019年にかけて、国内のいくつかの美術館で80年代展が開催されました。その中で、大阪の国立国際美術館では2018年11月3日〜2019年1月20日に「ニュー・ウェイブ現代美術の80年代」が開催されました。その展覧会を企画された安来正博氏が、私のインスタレーションを、選んで下さいました。出品作家の多い企画展でしたので、《M氏の部屋》の一部分のみの展示となりましたが、画廊での発表とは異なり、より多くの方々に見ていただく機会となったことが、私にとってとても嬉しい出来事でした。

202010吉原英里・6「ニュー・ウェイブ 現代美術の80年代」展 国立国際美術館 カタログ

202010吉原英里・7《M氏の部屋》 「ニュー・ウェイブ 現代美術の80年代」展 展示風景 国立国際美館 2018年
よしはら えり

吉原英里 Eri YOSHIHARA
1959年大阪に生まれる。1983年嵯峨美術短期大学版画専攻科修了。
1983年から帽子やティーカップ、ワインの瓶など身近なものをモチーフに、独自の「ラミネート技法」で銅版画を制作。2003年文化庁平成14年度優秀作品買上。2018年「ニュー・ウェイブ現代美術の80年代」展 国立国際美術館、大阪。

・吉原英里のエッセイ「不在の部屋」毎月25日に更新します。

●展覧会のお知らせ
<展覧会のお知らせです。
この度私は、多摩美術大学芸術学科の3・4年生が企画した展覧会「TAMAVIVANT 2020」展に100号3枚組、100号2枚組などの大作5点を出品します。
「TAMAVIVANT」展は元々、芸術学科の学生のキュレーション能力を育てるために、東野芳明氏が1984年に始められた企画展です。現在は、海老塚耕一教授の指導の元に企画・構成・運営されていて「TAMAVIVANT 供彭犬箸覆蝓通算37回も続くユニークなアニュアル展です。
新しく建った高い天井と広い空間のアートテークギャラリーを舞台に、若い人のキュレーションで作品がどう見えるのか、楽しみです。
ご高覧いただけたら嬉しいです。>吉原英里縲卦AMAVIVANT竇。2020縲阪メ繝ゥ繧キ陦ィ縲卦AMAVIVANT竇。2020縲阪メ繝ゥ繧キ陬
「TAMAVIVANT 2020」展
会場:多摩美術大学 八王子キャンパス
アートテークギャラリー 101,102,103,104,105
〒192—0394 東京都八王子市鑓水2−1723
会期:2020年11月10日【火】~11月19日【木】開場10:00~17:00
(日曜休場、最終日は17:00閉場)

●本日のお勧め作品は吉原英里です。
yoshihara_02吉原英里 YOSHIHARA Eri
「午睡・ストール」
2016年
ミクストメディア
45.5×53.0cm(10号)
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

作品集のご案内
1577262046841『不在の部屋』吉原英里作品集 1983‐2016
1980年代から現在までのエッチング、インスタレーション、ドローイング作品120点を収録。日英2か国語。サインあり。
著者:吉原英里
執筆:横山勝彦、江上ゆか、植島啓司、平田剛志
翻訳:クリストファー・スティヴンズ
デザイン:西岡勉
発行:ギャラリーモーニング
印刷、製本:株式会社サンエムカラー
定価:3,800円(税込)
*ときの忘れもので扱っています。

●ときの忘れものは青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。
阿部勤設計の新しい空間はWEBマガジン<コラージ2017年12月号18〜24頁>に特集されています。JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。*日・月・祝日は休廊。
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