ギャラリー  ときの忘れもの

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土渕信彦のエッセイ「瀧口修造の本」

18.『寸秒夢』〜後編

続いて『寸秒夢』後半の「夢三度」を見ていきます。全体は機銑靴了以咾らなり(図18〜20)、それぞれ粗筋は以下のとおりです。

気蓮△箸△詢剛堂阿肪だかよくわからない男に案内されたが、予想に反して相部屋なうえ、不吉な事件が起こりそうな気もして、建物の中を確かめようと部屋を出ると、内部の構造は曖昧で、戦前期に住んだことのある高円寺の借家か三田の下宿のような気もする。部屋に戻ってまどろんでいると夜が明けてきて、窓を開けると目の前に大きな黒い土蔵の家が出現していた。このままここで相客たちと運命を共にするのかと、閉塞感を感じているという、「曖昧宿」の夢。

図18図18

兇蓮∪鐐梓に住んでいた麻布龍土町の家の2階の部屋に、唐十郎、李礼仙、四谷シモンと居合わせている。唐は傘に特徴のある古風なランプを手に入れており、それを持ち上げようとすると割れてしまった。同じ部屋に大勢の人たちが集まってきて、皆、先程のランプの傘を手にしている。借りて持ってみると予想外に重く、色も異なっている。「唐さんたちを知りませんか?」と訊ねても、皆よそよそしい。自分だけが同じランプの傘を持っていないことに気が付き、不吉だと感じる。「それは違う!」叫ぼうとし、「いまこそはっきり否認しておかなければ、いま否認しておくのだ」と必死に考えている、という夢。

図19図19

靴蓮⇔剛討良屋(気汎韻犬蕕靴ぁ砲婆椶覚め、出発手続きのため表に出ると、役場の前の広場に女の立ちん坊の行列ができている。「懸賞犯人探し」のための「指紋証明」を貰うためだという。崖の上に朱塗りの古い寺が見え、頂上に向かって縄梯子をよじ登ると、旅館の玄関のようなところに出る。番頭が食堂に食事の用意があると言うが、そのまま廊下を進むと土間になり、埃まみれの教室のような部屋が見え、雨天体操場かホールに出る。多くの人がそしらぬ顔で通り過ぎていくなか、友人の建築家だけが自分に気付いて、建物の構造と進路を教えてくれたが、のみ込めずそのまま進むと、元の女の行列の場所に出てしまった。巡ってきた部屋は目茶苦茶に連続しているらしいが、この巨大な建物を外から眺めるにはどうしたらよいか、吸血鬼映画のラストシーンのように炎上すれば万事解決だと、うとうとしながら考えていた、という夢。

図20図20

以上ように「夢三度」は、夢の記述という点で『三夢三話』の系譜にある作品といってよいと思われます。内容も、水利権争いの惨劇という幼少時の記憶が下敷きとなっていたらしい『三夢三話』の気汎瑛諭不吉な予感に貫かれています。戦前期に瀧口が暮らしていた場所が舞台となっていることもあって、全体に暗い雰囲気が感じられます。治安維持法のもと、当時の瀧口が感じていたであろう孤立感、圧迫感や重苦しさが夢の中で甦り、追体験していたのかもしれません。

特に兇良饌罎箸覆辰討い詼禀枸凝敖の家は、もともとは義兄(次姉かをるの再婚相手)の野津陸軍大尉の住居で、旭川への転任に伴いその留守宅に1938年暮に入居した経緯にあります。野津大尉は綾子夫人との婚礼の媒酌人でもあり、極尾の「それは違う!」や、「いま否認しておくのだ」という激しい言葉は、乃木神社で神前結婚式をしろと主張する野津義兄との言い争いや、1941年3月に検挙された際の特高とのやり取りなどが、夢の中に再び現われたと解釈されるかもしれません。なお、特高に検挙された際には瀧口夫妻は、麻布龍土町の家から気暴个討る高円寺の借家に転居していました。

「夢三度」には『三夢三話』とは異なっている点もあります。それは機き供き靴遼尾に「一九七四、六月五日」「一九七四、七月十五日」「一九七四、七月二十九日」と、それぞれの夢を見た日付(あるいは記述した日付)が付記されている点です(図21〜23)。記録としての性格が『三夢三話』よりも強まっているのかもしれません。

図21図21

図22図22

図23図23

以上のとおり、本書は瀧口の夢の記述として魅力的なだけでなく、『手づくり諺』や『星と砂と 日録抄』などにも繋がる、独特の位置にある1冊です。夢とコトバとの関係だけでなく、諺のようなアフォリズムとの関連性を考える上でも、重要な位置を占めるものといえるでしょう。45年以上も前に刊行された本ですので、新刊書店で見かけることはありませんが、(特装版でなければ)古書店やネットなどで比較的よく出回っています。入手されて繙かれるようお勧めします。
つちぶち のぶひこ

土渕信彦 Nobuhiko TSUCHIBUCHI
1954年生まれ。高校時代に瀧口修造を知り、著作を読み始める。サラリーマン生活の傍ら、初出文献やデカルコマニーなどを収集。その後、早期退職し慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程修了(美学・美術史学)。瀧口修造研究会会報「橄欖」共同編集人。ときの忘れものの「瀧口修造展機銑検廚魎峠ぁまた自らのコレクションにより「瀧口修造の光跡」展を5回開催中。富山県立近代美術館、渋谷区立松濤美術館、世田谷美術館、市立小樽文学館・美術館などの瀧口展に協力、図録にも寄稿。主な論考に「彼岸のオブジェ―瀧口修造の絵画思考と対物質の精神の余白に」(「太陽」、1993年4月)、「『瀧口修造の詩的実験』の構造と解釈」(「洪水」、2010年7月〜2011年7月)、「瀧口修造―生涯と作品」(フランスのシュルレアリスム研究誌「メリュジーヌ」、2016年)など。

◆土渕信彦のエッセイ「瀧口修造の本」は毎月23日の更新です。

●本日のお勧め作品は葉栗剛です。
haguri_13葉栗剛 Takeshi HAGURI
《現代神将》
2013年
木彫 楠木、彩色
H107cm
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