ギャラリー  ときの忘れもの

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塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」

第1回 マチューナスとマルチプル

202011塩見允枝子_Water Musicマチューナスのコレクション_《Water Music》
マチューナスのコレクション
The Gilbert and Lila Silverman Fluxus Collection, Detroit
Photograph by Brad Iverson

1964年6月の或る日、ニューヨークから1通の速達が届きました。開けてみるとそれは、マチューナスとナム・ジュン・パイクと、それに当時現地を訪れていらした秋山邦晴さんからの寄せ書きでした。実は、パイクさんの紹介で63年の秋頃からマチューナスと私の間では、作品や手紙のやり取りが頻繁にあり、「ニューヨークへ来て一緒に活動しませんか?」というような誘いも受けてはいたのですが、彼がどんな人物かよく分からなかったので躊躇していたのです。けれどもその手紙の中の秋山さんの一言、「こちらの連中は貴女の作品に好意的だし、皆良い人達だから、来ても大丈夫だと思いますよ。もし来るなら6月27日のカーネギー・リサイタル・ホールでのコンサートに間に合うようにいらっしゃい」という助言に背中を押されて、やっと行く決心が着いたのです。東京で会った久保田成子さんも同じくニューヨークへ行くつもりだと言うので、一緒の方が心丈夫だからと同じ飛行機に乗りました。当時の現代芸術の中心地は何といってもニューヨークで、若い作家達の間にはこぞってその街を目指す風潮があったのです。ケネディ空港には早朝にもかかわらず、マチューナスと秋山さんが迎えに来て下さっていました。そしてすぐにマチューナスのロフトへ案内されたのです。

彼のロフトはカナル・ストリートに面した5階建てのビルの2階にあり、縦長のスペースは3つに区切られていて、道路に面した部屋はメンバー達が仕事場として自由に使っていたらしく、パイクさんの作りかけのロボットなどが置いてありました。真ん中の部屋はフルックス・ショップと呼ばれ、棚にはマチューナスが出版した作品や本などが整然と並べられていました。そして一番奥の部屋が彼の居室で、何と畳が敷き詰めてあったのです。ここは時として工房にもなり、私達もここで、カードを切ったりラベルを箱に貼ったりと、マルチプルを作る手伝いをしたこともあります。
カナル・ストリートは問屋街ですから、今の日本で言うと、ホームセンターで売っているような素材が安く大量に手に入ったのです。マチューナスの作るマルチプルはカナル・ストリートなしでは不可能だったことでしょう。というより、むしろカナル・ストリートから生まれたアートと言っても過言ではないでしょう。大抵は作家の提出するインストラクションをカードに印刷し、必要であれば小さな物体を買ってきて一緒にプラスチック・ケースに入れ、ラベルをデザインして蓋に貼るというシンプルなものでした。本のように閉じてしまえば後から内容を追加することはできませんが、カード形式にしておけば、作家が後から追加したいと言って来たときも、簡単にできますからね。このフレクシビリティは、彼が好んで口にしていた「エコノミカル」にも通じるように思います。

マチューナスは新聞もたくさん発行しました。内容はこうしたマルチプルの広告や企画中のコンサート、或いは既に行われたコンサートの記録などが主ですが、そのデザインの独特の魅力が、フルクサスを今日まで生き残らせた要因の一つにもなっているのではないかという気がします。一見クラシカルでありながら、いつまでも斬新だからです。新聞も普通のサイズだけでなく、非常に細長いものもあります。
こうした印刷物を発行するには、彼がアップタウンのデザイン事務所で働いて得た収入の90%を費やしていたのですよ。作家に対して出版費用を要求したことは一度もありません。食費を倹約し、何の贅沢をするでもなく、彼が信奉していた境界のないアート、ジャンルの壁もなく、専門家と素人の区別もなく、皆が日常の中で楽しめるアートを普及させたいという夢のために、生涯を捧げたのです。

ニューヨークへ発つ前、マチューナスにどんなお土産を持って行くべきか悩みました。日本贔屓だと訊いていたので、それらしい品物を見繕ったのですが、それだけでは芸がないので、イヴェントの最新作として、<Water Music>を持参しました。小さなガラス瓶をきれいに洗って水道の水を入れ、「1. Give water a still form. 2. Let the water lose its still form.」(1.水に静止した形を与える。2.水にその静止した形を失わせる。)というインストラクションと一緒に渡すと、彼は、「うん。これが一番いいお土産だ。きれいな水なんだろうね?」と訊くので、「日本を発つ前に水道から取った水だ」というと、「じゃあ僕は2. を演奏するよ」と言って、一気に飲んでしまいました。そして、「ほらね、水は僕の体の中を通って外に出て、いずれは大西洋へ流れて行くだろうよ」と得意げな顔をして言いました。そしてすぐにラベルをデザインして、いろんな空き瓶に貼り、彼自身のコレクションを作ったのです。そこで昨年、私もそのラベルを使ってエディションを作ってみました。
しおみ みえこ


塩見允枝子先生には今月から2021年4月までの6回にわたりエッセイをご執筆いただきます。塩見允枝子のエッセイ「フルクサスの回想」は毎月28日掲載です。

●塩見允枝子エッセイ連載記念特別頒布作品
009) 新聞 Fluxshop & Mail Order Warehouse – Perpetual Fluxfest – Fluxus Vacuum Trapezoid – Science 1965 作品価格:110,000円
新聞 Fluxshop & Mail Order Warehouse2面・3面 (2)新聞 Fluxshop & Mail Order Warehouse・1,2面
4面の内容は全て異なり、コンサートの告知や、作家たちの作品の広告、又、一面が一つのデザインによる頁などで構成されています。Trapezoid は台形の意味。各ページのサイズ: 43.2 x 56cm  拡げたサイズ:86.4 x 56cm 
茶色の紙に両面印刷
塩見允枝子先生サイン入りハガキ付き
価格:110,000円(税込み)


010) 新聞 Fluxus Vaudeville Tournament 1965 作品価格:110,000円
新聞 Fluxus Vaudeville Tournament  1965外新聞 Fluxus Vaudeville Tournament  1965内
1964年6月27日にカーネギー・リサイタル・ホールで行われたFluxus Symphony Orchestra Concertの演奏風景を撮影した多数の写真を始め、その他の場所でのパフォーマンスや日本のハイレッドセンターの「路上清掃イヴェント」の写真までが紙面一杯に並んでいます。トーナメントというタイトルは、様々なパフォーマンスの競演という意味でしょう。その隣の面には、それらの写真の中の一枚がドット状に拡大され、色の薄い部分にはコンサートのプログラムが書き込まれています。又、裏面にはNew Cinematheque で行なう予定のコンサート・スケジュールが大きな円形のデザインで描かれていますが、その日程で実際に行なわれたかどうかは不明です。 サイズ:86.4 x 56cm 薄いモスグリーンの紙に両面印刷
塩見允枝子先生サイン入りハガキ付き
価格:110,000円(税込み)


011) 新聞 FLUXFEST SALE 1967 作品価格:88,000円
新聞 FLUXFEST SALE  1967表新聞 FLUXFEST SALE  1967裏
16人の作家のモノグラムと作品のスコアーが印刷されています。その他、Expanded Arts Diagramというチャートも含まれ、これには過去から1966年までの芸術運動の様々な傾向や主義などが作家名と共に図表化されています。 サイズ:56 x 43.2cm 白い紙に両面印刷
塩見允枝子先生サイン入りハガキ付き
価格:88,000円(税込み)


AAA_0004※新聞は折りたたんで専用のパッケージに入れて発送いたします。


012) Fluxus Preview Review 1963 作品価格:77,000円
Fluxus Preview Review中身
マチューナスがフルクサスを組織し始めた初期の印刷物で、fluxという語の辞
典による解説や、20人の作家のスコアーや演奏写真、出版物の価格などが印刷されていています。 サイズ:166 x 10cm  両面印刷  ロール状
塩見允枝子先生サイン入りハガキ付き
価格:77,000円(税込み)


013) Ekstra Bladet (号外) 1963 作品価格:77,000円
Ekstra Bladet (号外)
デンマーク語のこのタイトルは、Extra Leaf 号外という意味で、1962年9月から11月に行なわれたフルクサスのコンサートの新聞記事を集めたものです。最初のヴィースバーデンでのコンサート評はドイツ語で、その後コペンハーゲンで行なったコンサート評は当然ながらデンマーク語で書かれています。見出しから見ても、フルクサスの音楽が、如何に当時のジャーナリズムに驚愕を与えたかが読み取れるでしょう。その中に、日本語で「ここまできた前衛音楽・石や木材を上から投げてピアノを破壊した前衛音楽の一こま」という行もコラージュされています。 サイズ:115 x 21cm  両面印刷  ロール状
塩見允枝子先生サイン入りハガキ付き
価格:77,000円(税込み)


20201204塩見允枝子先生サイン2※この度の特別頒布では上記009)〜013)の作品をお求めいただいた方限定で、塩見先生のサイン入りハガキを1枚プレゼントいたします。


014) 塩見允枝子 Water Music 青ラベル、白ラベル 1964/2019 作品価格:(各)13,200円
Water Music 青ラベル、白ラベル昨年、或る展覧会の際に自分で出したエディションです。 
両ラベル共に Ed.10 サインとナンバー入り 
瓶サイズ:4 x 4 x 10.5cm  紙箱サイズ:13.5 x 6.5 x 5cm
一つあたりの価格:13,200円(税込み)


●お申込み方法
お問合せ、お申込みはこちらから、またはメール(info@tokinowasuremono.com)にてお願いします。
※お問合せ、ご注文には、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください
実物を見たいというかたなどたくさんの方からお問い合わせをいただいています。次回企画は「オディロン・ルドン展ー『聖アントワーヌの誘惑』」ですが、特別に塩見作品の展示も併設しますので、ぜひ画廊でご覧ください。
現在、スタッフは在宅勤務を基本に画廊には交代で出勤しています。返信にお時間がかかりますことを予めご了承下さいませ。
梱包送料は1,000円〜2,000円、ただし複数の作品をご希望される場合は別途お見積りさせていただきます。


■塩見允枝子 SHIOMI Mieko
1938年岡山市生まれ。1961年東京芸術大学楽理科卒業。在学中より小杉武久氏らと「グループ・音楽」を結成し、即興演奏やテープ音楽の制作を行う。1963年ナム・ジュン・パイクによってフルクサスに紹介され、翌年マチューナスの招きでニューヨークへ渡る。1965年航空郵便による「スペイシャル・ポエム」のシリーズを開始し、10年間に9つのイヴェントを行う。一方、初期のイヴェント作品を発展させたパフォーマンス・アートを追求し、インターメディアへと至る。1970年大阪へ移住。以後、声と言葉を中心にした室内楽を多数作曲。
1990年ヴェニスのフルクサス・フェスティヴァルに招待されたことから欧米の作家達との交流が復活。1992年ケルンでの「FLUXUS VIRUS」、1994年ニューヨークでのジョナス・メカスとパイクの共催による「SeOUL NYmAX」などに参加すると同時に、国内でも「フルクサス・メディア・オペラ」「フルクサス裁判」などのパフォーマンスや、「フルクサス・バランス」などの共同制作の視覚詩を企画する。
1995年パリのドンギュイ画廊、98年ケルンのフンデルトマルク画廊で個展。その他、欧米での幾つかのグループ展への出品やエディションの制作にも応じてきた。
2012年東京都現代美術館でのトーク&パフォーマンス「インターメディア/トランスメディア」で、一つのコンセプトを次々に異なった媒体で作品化していく「トランスメディア」という概念を提唱。
音楽作品やパフォーマンスの他に、視覚詩、オブジェクト・ポエムなど作品は多岐にわたり、国内外の多くの美術館に所蔵されている。現在、京都市立芸術大学・芸術資源研究センター特別招聘研究員。

●塩見允枝子さんのオーラル・ヒストリーもぜひお読みください。

●ブログ2020年04月08日『後藤美波、塩見允枝子「女性の孤独な闘いを知る10分 SHADOW PIECE」ジェンダー差別「考えたことがない」―― 世界的”女性アーティスト”が背負ってきたもの』
映画監督の後藤美波さんによる短編ムービーをご紹介しましたのでぜひご覧ください。
https://creators.yahoo.co.jp/gotominami/0200058884

●ドキュメンタリー叢書創刊 #01『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』が刊行されました。
『ジョナス・メカス論集 映像詩人の全貌』小執筆:ジョナス・メカス、井戸沼紀美、吉増剛造、井上春生、飯村隆彦、飯村昭子、正津勉、綿貫不二夫、原將人、木下哲夫、睥羚筺金子遊、石原海、村山匡一郎、越後谷卓司、菊井崇史、佐々木友輔、吉田悠樹彦、齊藤路蘭、井上二郎、川野太郎、柴垣萌子、若林良
税込み 2,200円+送料250円
*ときの忘れもので扱っています。メール・fax等でお申し込みください。
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