ギャラリー  ときの忘れもの

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Artists Recently 第15回/君島彩子

研究と制作と「観音」


 筆者は近・現代の仏像を研究対象とする研究者であり、水墨を用いた絵画を中心に制作するアーティストです。とはいえ2014年に大学院の博士後期課程に進学してからは研究が生活の中心となっており、あまり制作に時間を割くことができませんでした。この数年は研究者としてメディアに出ることばかりでしたので「元アーティスト」と言われることもありましたが、細々と制作も続けてまいりました。そして今年の9月29日から10月10日まで「第10回せんだい21アンデパンダン展」に出品し展示活動も再開いたしました。
 せんだい21アンデパンダン展へ出品した一番の動機は4月に仙台に引っ越したばかりで仙台のアートシーンを知りたかったからです。さらに研究者として美術業界を外から見つめる機会を得たことで、無審査の美術展の意義を感じたことも大きかったです。出品作品《Sendai 33 Kannon Pilgrimage No. 1》は、タイトル通り仙台三十三観音巡礼の一番札所をテーマとした作品です。新型コロナウィルス感染症が拡大する時期、住宅地を中心とする観音巡礼はどのようなものであるか考え制作いたしました。今後も他の札所をテーマとした作品の制作も続けていく予定です。

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 なぜ三十三観音巡礼に関心をもったかと言いますと、この数年間はひたすら観音像の研究をしていたからです。大学院の博士後期課程では戦争死者の慰霊と平和を願って制作された観音像を研究しました。その成果は2019年3月、学位論文『平和祈念信仰における観音像の研究』として総合研究大学院大学に提出し、博士号を取得することもできました。アーティスト出身だったので最初は文章を書くのも苦戦しましたが、他方でこれまで培ってきた視覚イメージの捉え方が役立ちました。
 10月27日には、博士論文の第1部と第3部を再構成した著書『観音像とは何か――平和モニュメントの近・現代』が青弓社から出版されます。

 観音は地蔵や不動とともにとても身近な仏であると同時に、近代以降の美術概念の影響が最も顕著な尊格でもあります。近代美術といえば狩野芳崖《悲母観音》や原田直次郎《騎龍観音》などを思い浮かべる方も多いでしょう。また高村光雲や竹内久一など近代の彫刻家も観音像を制作しています。こうして明治期の美術概念の影響を受け制作されるようになった観音像は、寺院や墓地のように従来から仏像が設置されてきた空間だけではなく、公園などの公共空間にもモニュメントとして建立されるようになりました。
 さらに戦時期には「興亜観音」など戦死者慰霊のめに観音像が建立され、大東亜共栄圏を象徴するモニュメントという時代性も背負うことになりました。戦後になると軍人、民間人を問わず戦争で亡くなった人々の慰霊、そして地域の復興などを目的に、観音像は平和を象徴するモニュメントとして定着しました。さらにランドマークとなる巨大な観音像、平和観音の寄贈活動、硫黄島やレイテ島に建立されたマリア観音など、ほかの尊格の仏像とは異なるユニークな活動もみられるようになりました。『観音像とは何か』では、戦争や社会状況、人々の信仰や思いを背景に時代ごとに性格を変えながらも、平和の象徴として共通認識されることでモニュメントとして独自の発展を遂げた観音像の近・現代史を描き出しています。
 美術史を中心とした仏像の研究には素晴らしい蓄積があります。しかし近代以降の仏像についてはほとんど研究がなされていませんでした。これまでの仏像研究書とは異なり、私は宗教学の立場から、観音像の生み出される歴史的、社会的背景と信仰について考察をおこなっています。新しい仏像や近代彫刻に興味のある方は手にとっていただければ幸いです。
きみしま あやこ

君島 彩子(キミシマ アヤコ)
1980年、東京都生まれ。総合研究大学院大学文化科学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員。学位論文「平和祈念信仰における観音像の研究」が第15回国際宗教研究所賞・奨励賞受賞。論文に、「現代のマリア観音と戦争死者慰霊」(中外日報社、第15回涙骨賞)、単著『観音像とは何か――平和モニュメントの近・現代』(青弓社)。個展:2012年ときの忘れもの、2009年タチカワ銀座スペース Åtte、2008年羽田空港 ANAラウンジ、グループ展:2007年8th SICF 招待作家、2006年 第9回岡本太郎記念現代芸術大賞展。

作家個人サイト
https://kimishima.info/
 
●この秋はじまる新連載はじめ執筆者の皆さんを9月4日のブログでご紹介しました

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18〜24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。*日・月・祝日は休廊。
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