ギャラリー  ときの忘れもの

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王聖美のエッセイ「気の向くままに展覧会逍遥」第17回

「建築家・坂倉準三と高島屋の戦後復興」展を訪れて

 百貨店系のミュージアムは1970年代から登場し、その多くが1990年代バブル崩壊とともに閉館が相次いだ、というのは通説ですが、近年、都内では渋谷パルコ、渋谷ヒカリエ、GINZA SIX、表参道GYREなどの複合商業施設に構えるギャラリーが増え、貸し画廊や催事場ではない中長期的にコンセプトや特徴をもった継続的な活動としての展示施設が復権しています。その中で、高島屋史料館TOKYOは、1970年から続く高島屋史料館(大阪)の分館として、2019年3月に開館しました。今回訪れたのは、高島屋史料館TOKYOで2021年9月15日から2022年2月13日まで開催の「建築家・坂倉準三と高島屋の戦後復興」展です。

 坂倉準三と聞いて思い浮かべるものは何でしょうか。「神奈川県立近代美術館」(1951)や「東京日仏学院」(1951)といったマスターピースが連想されるかもしれませんが、坂倉準三は68年の生涯で、各種公共建築、鉄道会社の駅とその周辺の複合建築、民間企業の建築、個人住宅など300を超える実作を手がけました。その中から、主として駅に関連する仕事に焦点を当てたのが本展覧会です。全3章で編まれ、限られたスペースいっぱいに「パリ万国博覧会日本館」(1937)から「新宿西口広場・地下駐車場」(1966)までの7作品と2つの展覧会の資料が展示されています。監修した松隈洋先生は著書『坂倉準三とはだれか』の中で、人々の日常を支える匿名性のある公共空間を設計した坂倉準三の一面を強調し、インテリアからインフラの設計まで、スケールの大小に関係なく、ものとものの調和を重んじた、”調停役”としての建築家の姿を指摘しています。
 個人的には、戦後から高度経済成長の時代、高速道路の料金所ゲートや駅ビル/駅のランドスケイプといった坂倉準三の仕事の背景にある”移動生活”の変化にも関心がありますが、本稿では、駅周辺の人々の流れや滞留がデザインされた事例として2作品を挙げたいと思います。

1、戦後復興に歩み出した「高島屋和歌山支店」
 戦後の設計活動の起点の一つとなった「高島屋和歌山支店」(1948)は、空襲被害からの復興の過程で、南海電和歌山軌道線(路面電車)沿線に建てられた延べ1300平米ほどの百貨店です。

画像1_IMG-9723高島屋和歌山支店木模型(1/100)、制作:京都工芸繊維大学 松隈洋研究室

 坂倉準三は、「寺田邸」(1952)、「村川邸」(1956)、「藤山邸」(1957)、「高松邸」(1958)、「北野邸」 (1963)といった木造住宅でバタフライ屋根を実現していますが、本作品もバタフライ屋根ーここでは30/100勾配、25/100勾配のV字型の大屋根ーをもつ木造建築でした。この屋根は、天袋の中あるいは天井に沿って汚れて温まった空気が流れてゆく換気の仕組みを持っていること、内部は、4段のスキップフロアで、スロープと階段が人々を売り場に引き込むことが、図面と模型から読み取れます。路面電車の線路がある建物東側は、ブリーズ・ソレイユのついた全面ガラス張りで、低めの手すりのついたバルコニーがあり、立面透視図には上階と地上階の人の賑わいが表現されています。
 本作品に関連して、スロープの手すりの詳細図、掲載雑誌(彰国社「建築文化」1949年2月)、建設中・竣工写真、京都工芸繊維大学の学生による模型とウォークスルー動画があります。再現模型は、内部の空間構成やファサードがよく確認できる単一素材で表現された協働作品で、「高島屋和歌山支店」が建築資材統制下、空調やエレベーターがつくれないという条件を逆手にとって設計され、和歌山市駅駅前から建築内部につながる人の誘導がデザインされてたことがうかがえました。話が逸れますが、光の入り方や構成要素のバランス、人の動きを確認するのは模型が得意とする一方で、実際の目の高さや視野でのシークエンス、スロープの勾配や手すりの高さといった身体と近い部分はウォークスルーの方が伝わるものだとあらためて気付かされました。

画像2_IMG-9734高島屋和歌山支店木模型(1/100)、制作:京都工芸繊維大学 松隈洋研究室

画像3高島屋和歌山支店断面図(50分の1)、文化庁国立近現代建築資料館所蔵

続く「高島屋大阪難波新館改増築(ニューブロードフロア)」(1950)も、駅の通行人の波を売場に促すデザインですが、そこには、地下フロアにつながる大階段、戦時中に航空機用の風防ガラスとして使われていたアクリルライトという新素材、光天井(照明)や坂倉準三が得意とする色彩が取り入れられました。

2、60年代を映した「新宿西口広場・地下駐車場」
 「新宿西口広場・地下駐車場」(1966)は、小田急電鉄のターミナル駅として小田急百貨店本館と並行して設計されたものですが、戦後焼け野原同然だった新宿の戦災復興計画の一環でもありました。1956-64年に坂倉準三建築研究所に在籍した藤木忠善さんのインタビュー映像によると、基本設計に5-6年かかり、地下の換気のために地上に出てくる巨大な換気塔の代わりに、地面に穴を開ける案が消防署の賛同を得て実現に至ったそうです。(1964年当時の巨大換気塔案は、「LIXIL eye」2014年2月号(*1)に掲載。)西口広場の実施設計・設計監理は同時期に自邸「塔の家」を建てた東孝光が行いました。

*1:「LIXIL eye」2014年2月号、p.24-37

 当時の新宿が既に若者の街として新しい文化が芽吹くムードだったことは、デモや学生運動をテーマにした佐藤信さんの『60年代のリアル』で確認できますが、1969年には新宿西口広場でプロテストソングでベトナム平和を訴える反戦フォーク集会が行われるようになります。展覧会では、東野芳明が『中央公論(1969年10月)』で記した「群衆が思い思いに拡散してまた集まることができる」「レヴェルの多い多孔的な設計が期せずして、ゲリラ的な運動を助ける結果になった」という文が引用されており、坂倉準三の人々を流入させる手法の「成功」と読み換えることができます。

画像4新宿西口広場・地下駐車場(1966年)文化庁国立近現代建築資料館所蔵

 印象的だったのは、写真家・山田脩二さん(現在は瓦職人)が1969年6月に撮影した反戦フォーク集会の2点の写真です。いずれも渦のように運動(合唱)する群衆が描かれ、純黒調のモノクロでありながら熱が感じられます。その後、7月には名称が「広場」から「通路」に変えられ集会が禁じられ、同年9月に坂倉準三は他界します。現在、地下は人々が無表情で足速に通過し、ロータリーと螺旋状斜路は車しか通れない新宿西口広場ですが、当初は活気のある穏やかな風景も描かれていました。スライドショウの終盤に風船をもつ人の添景のある透視図があります。


 ところで、本展で取り上げられた、なんば駅、渋谷駅、新宿駅では巡り合わせか、なんばパークス(2003)に始まりなんばひろば改造計画が進行中、渋谷ヒカリエ(2012)に始まり2024年までの渋谷再開発事業、2022年に着工する新宿駅西口地区開発計画があります。
 思うに、建築士事務所名に「都市」を入れる入れないに関わらず、建築の設計者は都市的センスをもって公共空間の設計に携わってきました。そして上記の駅前の再開発のようなマスを対象とした公共の仕事の一方で、現在はローカルのコミュニティデザイン、参加・対話・プロセス、生態系、インクルーシヴが重視される仕事の職能も問われてきています。本展は、会期中に複数回訪れる人が鑑賞体験を更新できるよう、山田脩二さんと東利恵さんのインタビュー資料の追加、そして松隈洋先生のオンライン講演会の公開が予定されているとのこと(*2)。坂倉準三の目指した都市やその手法から現代の私たちは何を学び、何を更新できるのか省みる機会になることと思います。

*2:2021年10月下旬に山田脩二さんインタビュー資料、11月下旬に東利恵さんインタビュー資料、12月中旬に松隈洋先生の講演会が予定されている。
おう せいび

●王 聖美のエッセイ「気の向くままに展覧会逍遥」偶数月18日に掲載しています。

■王 聖美 Seibi OH
WHAT MUSEUM 学芸員(建築)。1981年神戸市生まれ、京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科卒業。主な企画展に「あまねくひらかれる時代の非パブリック」(2019)、「Nomadic Rhapsody -“超移動社会”がもたらす新たな変容-」(2018)、「UNBUILT : Lost or Suspended」(2018)など。

●展覧会のお知らせ
『建築家・坂倉準三と高島屋の戦後復興 ー「輝く都市」をめざしてー』
会期:2021年9月15日(水)〜2022年2月13日(日) 11時〜19時
休館日:月・火曜日・年末年始 <12月27日(月)〜2022年1月4日(火)>
会場:日本橋眦膕 S.C. 本館4階 眦膕飴卜全 TOKYO(東京都中央区日本橋2-4-1)
入館無料
監修者:松隈洋(建築史家・京都工芸繊維大学教授)
主催:高島屋史料館TOKYO

●この秋はじまる新連載はじめ執筆者の皆さんを9月4日のブログでご紹介しました

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18〜24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。*日・月・祝日は休廊。
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