ギャラリー  ときの忘れもの

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「伊藤公象個展 ソラリスの海《回帰記憶》のなかで」9月18日〜12月26日

井野功一


回帰記憶 photo by Yuko Horie《回帰記憶》 photo by Yuko Horie(提供 ARTS ISOZAKI)

 伊藤公象(1932- )は陶造形と、それらを用いたインスタレーション作品で知られる。1972年に茨城の窯業地笠間にアトリエを構え、以来およそ50年間、国内外の美術館や芸術祭で発表を続けてきた。
 一昨年に開廊したARTS ISOZAKI(水戸)での個展は2回目となる。前回、同会場に並んだ《ブルーパールの襞》は初期から続く《多軟面体》のシリーズに連なる作品であったが、今回の個展では、これまでとはやや異なる外観の新作が並ぶ。なお屋上には《ブルーパールの襞》が、引き続き設置されている。

ブルーパールの襞《ブルーパールの襞》(提供 ARTS ISOZAKI)

回帰記憶(会場にて1)《回帰記憶》(会場にて1)

 《回帰記憶》と題された新作は、一見したところチョコレート菓子のような、滑らかで柔らかそうな立体である。材質はやはり陶だが、スイーツのような外見からパリパリあるいはサクサクとした食感のあと口内にゆっくり溶け広がるような硬さと柔らかさ、また色の違いにホワイトチョコ、ミルクチョコ、ビターチョコといった味の違いを想像してしまうのではないだろうか。
 だが、これらがどのように造形されたものかを知って軽い衝撃を受けた。シュレッダーで細断された紙片を泥漿に混ぜ込んだのち、焼成したものがこの《回帰記憶》なのだという。改めて作品をみると、細い紙片の名残のようなものが、そこかしこに覗いている。

回帰記憶(会場にて2)《回帰記憶》(会場にて2)

(クローズアップ)photo by Yuko Horie《回帰記憶》(クローズアップ)photo by Yuko Horie(提供 ARTS ISOZAKI)

 材料となった紙片は、作家のアトリエにあった半世紀分もの様々な紙資料を「処分」したものということらしい。膨大な紙資料がアトリエにはあったはずである。それらを単に処分するのではなく、作品の材料として、造形の要素として取り込んだ《回帰記憶》は、タイトルどおり「記録」を、混沌であり凝縮でもある「記憶」へと回帰させた作品、とも言えるかもしれない。目の前でその作品は、まるでスイーツのような第一印象から、記録が圧縮され凝固したような、ときの流れまでもを内包するような物体へと様相を転じた。
 それにしても、細断された紙片を作品にしてしまうとは、実に伊藤公象らしいユニークな発想である。これまでも伊藤は、ひとが見過ごしてしまうような様々なものに造形の妙を見出してきた。例えば、屋外に廃棄した粘土が凍結する様子に、また乾燥していく粘土の下に敷いた紙に生じる皺の様々な表情に、あるいは薄くスライスした粘土の板が自重で撓み歪んでいく曲面に。こういった事象に目をとめ、伊藤は作品化してきたのだが、それらは共通して人為を離れた造形であった。
 紙片と泥漿を混ぜて焼成した《回帰記憶》もやはり、人為のみでは生み出し難い造形であろう。そしてまた、様々な形状を持って提示されるこの紙片と泥漿の造形には、さらなる可能性を秘めたものとの印象も受ける。過去の紙資料を細断しながら制作される《回帰記憶》は、制作にひとつの締めくくりをつける作品と受け止めることもできるが、同時にまた次回作、次回展を期待させるような発表であるようにも感じられた。

回帰記憶(会場にて3)《回帰記憶》(会場にて3)

 ところで展覧会のタイトルには「ソラリスの海」とあり、小説あるいは映画のストーリーを知るものにとっては、そこに《回帰記憶》の制作方法を対照させた上で、絶妙なタイトルと感じられるだろう。
 スタニスワフ・レム『ソラリスの陽のもとに』は1961年の小説で、最初の翻訳は65年だという。2回の映画化があるが、多くの方は筆者同様、1972年にカンヌで受賞したタルコフスキーの『惑星ソラリス』に馴染みがあるのではないだろうか。蛇足ながらこのソ連の映画監督は伊藤と同じ1932年生まれであった。
(文・ARTS ISOZAKI提供以外の写真/いの こういち

■井野功一(INO Koichi)
1972年生まれ。成城大学大学院博士前期課程美学美術史専攻修了。茨城県近代美術館、県陶芸美術館を経て現在、県天心記念五浦美術館学芸員。

●展覧会のお知らせ
『ソラリスの海《回帰記憶》のなかで』

会期:2021年9月18日(土)から12月26日(日)まで 水曜〜日曜日および祝日 13:00-18:00※月・火曜は休廊。
会場:ARTS ISOZAKI(茨城県水戸市三の丸1-4-17)

伊藤公象展プレスリリース_pages-to-jpg-0001ARTS ISOZAKIでは当ギャラリーで2回目となります伊藤公象の個展「ソラリスの海《回帰記憶》のなかで」を開催いたします。
本展タイトルである「ソラリスの海」は、有名なSF小説のものを借用しました。
海全体が一つの生命体になっている惑星で、宇宙飛行士の記憶が海によって形象化されるという設定の物語です。
今回展示される新作は、シュレッダーによって「消された記憶」が泥漿と混ぜ合わされ、焼成されて、まるで沸き立つ海のような形象が出現します。
是非この機会に伊藤公象の「ソラリスの海《回帰記憶》のなかで」をご高覧いただけましたら幸いです。詳細はARTS ISOZAKIの公式HPをご覧下さい。

伊藤公象作品集クラウドファンディングの御礼
『日本を代表する現代アーティスト、伊藤公象集大成となる作品集制作へ
伊藤公象作品集制作プロジェクト 代表 ARTSISOZAI 磯崎寛也』
支援者113人、支援総額8,400,000円(目標金額 2,000,000円)に到達し、2021年4月30日を持って終了したクラウドファンディング。これから作品集の作成が始まります。
ときの忘れものブログでも支援を告知していました。
2021年03月31日『伊藤公象 集大成となる作品集制作へ クラウドファンディング』

*画廊亭主敬白
コロナウイルスの感染が鎮静したとはいえ、第六波襲来も懸念されており、なかなか遠出が難しい日々です。見なくてはいけない(見たい)展覧会をいくつもスルーしており不義理をお詫びするばかりです。
先日始まったブログ「伊藤公象の世界 第1回」でも書きましたが、1970年代に初めてその作品に触れて以来、まさか伊藤先生の作品集を手掛ける日が来るとは夢にも思いませんでした(来春、刊行予定)。
水戸のARTS ISOZAKI での新作個展「ソラリスの海《回帰記憶》のなかで」について、井野功一先生(天心記念五浦美術館学芸員)にレビューを執筆していただきましたが、その文章と写真から、伊藤先生の土を焼く造形作品がいかにユニークかおわかりになると思います。

●この秋はじまる新連載はじめ執筆者の皆さんを9月4日のブログでご紹介しました

●ときの忘れものは2017年に青山から〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。もともと住宅だった阿部勤設計の建物LAS CASASを使って、毎月展覧会Web展)を開催し、美術書の編集事務所としても活動しています。
WEBマガジン<コラージ2017年12月号18〜24頁>の特集も是非ご覧ください。
ときの忘れものはJR及び南北線の駒込駅南口から徒歩約8分です。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
E-mail:info@tokinowasuremono.com 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。*日・月・祝日は休廊。
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