ギャラリー  ときの忘れもの

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大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」第117回

哲ちゃんとわが娘・光、1980年_Yoko Suzuki(画像をクリックすると
 拡大します)

和風の庭園である。
丸く刈り込んだ植栽が四つ目垣や生け垣に囲まれて半円球のアタマを陽にさらしている。
遠くには花が咲いているらしい木々もみえている。
梅かもしれない。
となると季節は春先だろう。

通路の真ん中に背に陽を受けて立っているふたりの人がいる。
ひとりはおとなの男で、もうひとりは小さな女の子だ。

男はダスターコートを襟まできちんとボタンをとめて着込み、
少女はチェックのシャツにキュロットスカートという格好だ。
男の服装よりだいぶ薄着だが、子どもだから寒くないのかもしれない。

X形に交差している彼女の足先に目がいく。
ハイソックスと運動靴が逆光に照らされ、
なにかのマークのようにくっきりしたシルエットだ。
やや不安定な体勢だが、手を後ろで組んで体の芯をとおして支えている。

彼女の全身にはわずかな緊張と恥じらいが感じとれるが、
それはとなりに立っている男のせいだろう。

彼は家族ではないし、飛びついたりするほど親しい関係でもない。
あとになって打ち解けるかもしれないが、いまのところそうするには遠慮がある。
彼の横に立つようにカメラマンにいわれて仕方なくそうしたのだ。

男の口元は開き加減で、前歯は金歯かもしれない。
ちょっと不穏な気配がある。
手に持っているもののせいもあるだろう。
パッと見るとそれが鉄砲のように思えるのだ。
そんなはずはないのだが。

よく見れば長さのちがう細い棒が紐で束ねてあるようだ。
彼はそれを左の手に握っている。
右手に持たないのは、そちら側には少女が立っているからだろう。
彼は体を正面にむけずに、彼女のほうにやや傾けている。
右の足先が少女のほうに開かれているのでそうとわかる。

もしかしたら、彼がその体勢をとった瞬間、
少女は咄嗟に後ろ手を組んで足をXにしたのではないか?

カメラに光がはいったらしく、画面左横から中央にむかってハレーションの痕がある。
男の頭頂は白く飛び、コートの前側も光っている。
彼の不器用さと秘められた哀しみがその光跡に漂っている。

少女は男を畏れつつも、気になっているのだ。
惹かれているといってもよい。
ふたつの感情が入り交じり、身がよじれてくる。

ことばを介さずに出会う一瞬。
生涯わすれることのできないときの刻印。

大竹昭子(おおたけ あきこ)

●作品情報
鈴木清
「哲ちゃんとわが娘・光」
1980年
© Yoko Suzuki

【鈴木清(1943年−2000年)プロフィール】
1943年 11月30日福島県石城郡好間村(現・いわき市)に生まれる。
1965年 福島県立平第二高等学校(定時制)を卒業後、漫画家を目指し上京。
1969年 東京綜合写真専門学校卒業。『カメラ毎日』に「シリーズ・炭鉱の町」を発表(〜1970年、全6回)。以後、看板描きをしながら写真家活動を続ける。
1972年 『流れの歌 soul and soul』(自費出版)刊行。
1976年 『ブラーマンの光 THE LIGHT THAT HAS LIGHTED THE WORLD』(自費出版)刊行。
1982年 『天幕の街 MIND GAMES』(自費出版)刊行。
1983年 『天幕の街 MIND GAMES』写真集、個展に対して第33回日本写真協会賞新人賞受賞。
1985年 東京綜合写真専門学校講師に就任。
1988年 『夢の走り S STREET SHUFFLE』(自費出版)刊行。
1991年 『愚者の船 The Ship of Fools』(アイピーシー)刊行。
1992年 『天地戯場 SOUTHERN BREEZE』(自費出版)刊行。
      個展「母の溟」に対して第17回伊奈信男賞受賞。
1994年 『修羅の圏 Finish Dying』(自費出版)刊行。
1995年 第14回土門拳賞受賞。
1997年 手摺りリトグラフによるポートフォリオ『INDIA SONG』(制作︓WORKS・H)刊行。
1998年 『デュラスの領土 DURASIA』(自費出版)刊行。
2000年 3月23日、死去。享年56。

鈴木清オフィシャルサイト http://kiyoshi-suzuki.my.coocan.jp/

●展覧会のお知らせ
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鈴木清写真展「天幕の街 MIND GAMES」
会期:2023年1月4日(水)-3月29日(水)
 10:00–19:00(最終日は16:00まで、入館は終了10分前まで) 会期中無休
 ※ 写真展はやむを得ず、中止・変更させていただく場合がございます。ウェブサイト・電話でご確認ください。
会場:フジフイルム スクエア 写真歴史博物館
〒 107-0052 東京都港区赤坂9丁目7番3号(東京ミッドタウン・ウエスト)
https://fujifilmsquare.jp/exhibition/230104_05.html

大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」は隔月・偶数月1日の更新です。次回は来年2月1日掲載です。お楽しみに。

◆「第32回瑛九展アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ Art Basel Miami Beach 2022
会期:2022年11月29日(火)〜12月3日(土)
出品作品のうちフォトデッサンの概要はコチラをご覧ください。

2022年11月29日撮影(ときの忘れものスタッフM)
※クリックすると再生が始まります。再生後に画面右下の歯車マークの「設定」をクリックして「画質」を「1080p」にすると画質が鮮明になります。

AB18_Miami Beach_Pos_RGB_Color会場:
Miami Beach Convention Center
1901 Convention Center Drive, Miami Beach, FL 33139, USA
Google Map
公式サイト: https://www.artbasel.com/miami-beach
出展ギャラリーについてはコチラを参照。
魔方陣11280今年20周年を迎える「Art Basel Miami Beach 2022」は、世界の38の国と地域から283ギャラリーが参加する、過去最大規模のアートフェアです。日本からは3軒が出展、ときの忘れものは2019年に香港で開催された「Art Basel Hong Kong 2019」に続き、「第32回瑛九展」を開催します。
初日ヴェルニサージュの様子はユーチューブのコチラもご覧ください。

カタログを刊行しました。
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