ギャラリー  ときの忘れもの

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王聖美のエッセイ「気の向くままに展覧会逍遥第31回」

「MOTコレクション 歩く、赴く、移動する 1923→2020」を訪れて

 東京都現代美術館で2023年12月2日から2024年3月10日まで開催されているMOTコレクション「歩く、赴く、移動する 1923年-2020年」を訪れた。

 あらためて言葉にすることでもないが、私はコレクション展、特に所蔵作品による特集展示が好きだ。そして、日常生活の限りでは、住居や職場から近くて通い慣れたパブリックの美術館があれば十分で、十分どころか何度行っても得ることばかりで、これまで自身が転々と暮らしてきたいくつかの街の館を大切に思っている。ちなみに、住む街の選定は公立図書館によるところが大きく、図書館で定期的に入れ替わる特集本架も立派なコレクション展と言え、社会の変化に素早く、中立的にリアクションする図書館の姿勢は民主的だと思う。

 東京都現代美術館(設計:柳澤孝彦)は、東京都美術館(設計:前川國男)の所蔵作品と美術図書資料を引き継ぐかたちで1995年3月に開館した。1990年代は美術館建設ラッシュであり、同年11月には千葉市美術館(設計:大谷幸夫)、豊田市美術館(設計:谷口吉生)が開館している。

 『東京都現代美術館活動記録1995→2016』によると、開館当初の東京都現代美術館のコレクション展は、所蔵作品から選んだ代表作によって、戦後から同時代までの約50年におよぶ国内外の現代美術の歴史を時代順に紹介し、1階と3階の2フロア計3100屬量明僂鮖箸辰董年4回程度の展示入れ替えが行われていた。開館展は「現代美術の流れ」と題され、1階1〜5室と3階6〜9室で128点が展示された。戦後現代美術を時代順にたどる展示は、開館から1997年まで続けられた。紐解くと1995年度は展示入替が中1日から中5日(!)で行われている。その後、1998年から2004年までは、戦後1945年から1975年までの現代美術を時代順にたどる展示と、1980年代以降の美術動向についてのテーマ展示の2部構成となった。更に、2005年以降は「MOTコレクション」と題され、コレクションをさまざまなテーマで多角的に紹介するテーマ展示に移行した。

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 「歩く、赴く、移動する 1923年-2020年」展は、「東京を歩く」、「現場に赴く」、「清澄白河を歩く」、「世界を歩き、移動する」、「移動としての作品」、「想像/創造の歩みと飛翔」の6章で構成され、前半は、関東大震災後から現代の東京、後半は、1960年代から現代の移動を伴って活躍する国内外作家の作品が展示された。最終章は、戦中に海外で移動を制限され、外の世界を想像して過ごしたであろう末松正樹(1908-1997)のデッサンと、福田尚代(1967-)による読み物である本が別の場所と繋がることを連想させるインスタレーションで締め括られている。
今回のエッセイでは、近年、以前に増して意識されるようになってきた関連資料の展示と、触る作品の観点から、1章と3章の一部について述べたい。

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1室展示風景

 1室「東京を歩く」は、関東大震災から第二次世界大戦までの東京の風景が主題になっている。鹿子木孟郎(1874-1941)の《震災スケッチ》シリーズから始まるこの部屋では、画家たちが歩いて採集したデッサンが中心に選ばれ、それぞれの作家の観察する目、記録する手、興味に向かう足どり、立ち止まる動機などがひしひし感じられる、充実の一室であった。
藤牧義夫(1911-1935)は、関東大震災から約10年後、《隅田川両岸画巻》を完成させた。展覧会では、木版4点と、各々約16mある絵巻の中から《隅田川両岸画巻 No.2》の一部、《隅田川両岸画巻 No.3》の一部が展示された。白描の絵巻は、透視図が繰り返し連なったもので、風景を選び、切り取り、描き、繋ぎ・・・を繰り返した作家の足跡を追体験しているような、ドキュメンタリー映画のような奇妙な感じが面白かった。

 松本竣介(1912-1948)は、展覧会で素描を目にする機会の多い作家のひとりだと思うが、白い紙に描かれたデッサンのほかに、茶色いハトロン紙に描かれたデッサン《ニコライ堂A》と《ニコライ堂B》(いずれも1941年)があった。物資不足で画材の制約があったのかとも考えたが、習作などに使われたものなのかもしれない。
 桂ゆき(1913-1991)の[桂ゆき関連資料一括]4点、朝倉摂(1922-2014)の[朝倉摂関連資料:スケッチブック]2冊は、戦後のスケッチであった。二次資料として所蔵された資料なのだろうか。必ずしもマスターピースではなく、日の目を見ることの少なかった貴重な関連資料が展示されることによって、美術家たちが都市を歩き映した様子が章の主題とともに浮かび上がっている。

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1室展示風景

 作品リストには掲載がなかったが、柳瀬正夢(1900-1945)のスケッチブックが展示されていた。東京都現代美術館美術図書室は、柳瀬正夢の蔵書をもとにした貴重書コレクション「柳瀬文庫」をもっている。その「柳瀬文庫」には、柳瀬自筆の創作ノート、日記、スケッチブックといった柳瀬正夢関連資料が含まれている。1923年10月に描かれたスケッチブックは3冊所蔵されており、展示室内では、残ったレンガの建物の脇で風呂敷に座って店を広げている通り、廃墟の前を大八車を引いて走り抜ける人を見ている路傍の人などの鉛筆で描かれたスケッチが確認できた。ちなみに、1月28日まで神奈川県立近代美術館葉山館で開催された「100年前の未来:移動するモダニズム 1920−1930」には、柳瀬正夢関連資料から1923年頃の「スケッチブック[29]」が展示されていた。

 3室「清澄白河を歩く」は、深川、木場、清澄白河周辺に関連した作品が選ばれていた。中でも東京都現代美術館が休館していた間に街中のヴォイドを活用して行われた「MOTサテライト」で発表された作品でもある光島貴之(1954-)の《手ざわりの冒険》(2019)と、《ハンゾウモン線・清澄白河から美術館へ》(2019)は、「触る絵画」であり、作家が歩き、採取した情報が表現に変換され、鑑賞者は視覚だけではなく手触りで追体験する。壁一枚隔てた1室の藤牧義夫の《隅田川両岸画巻》と呼応しているような感覚があった。私はパブリックな場所での「べからず」を基本的に好かない。展示室は(周りの鑑賞者に思いやりをもった範囲で)会話をしていいし、絵を描いてもいいし、触れられる作品や参考資料があることで、鑑賞が一層能動的にできるといいと思う。

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光島貴之《ハンゾウモン線・清澄白河から美術館へ》(写真右)、《手ざわりの冒険》(写真左)

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光島貴之《手ざわりの冒険》部分

 ところで、東京都現代美術館の「MOTコレクション」のキャプションと作品リストには、作品番号が記載されている。あまり見かけないことだと思う。国立公文書館や都立公文書館の展示において、キャプションやリストに資料番号(請求番号)が記載されているのは閲覧等の利用を促すためであるが、美術館の場合は、特別利用を不特定多数の市民に促すというよりも、デジタルアーカイブで公開されている電磁的記録と原資料を結びつけるためだろうか?今後の動向にも注目していきたい。

(おう せいび)

●王 聖美のエッセイ「気の向くままに展覧会逍遥」。次回は2024年4月18日更新の予定です。

王 聖美 Seibi OH
1981年神戸市生まれ、京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科卒業。WHAT MUSEUM 学芸員を経て、国立近現代建築資料館 研究補佐員。
主な企画展に「あまねくひらかれる時代の非パブリック」(2019)、「Nomadic Rhapsody-"超移動社会がもたらす新たな変容"-」(2018)、「UNBUILT:Lost or Suspended」(2018)など。

●本日のお勧め作品は、松本竣介です。
matsumoto_10《作品》
1946年2月
紙にペン、水彩、コラージュ
Image size: 23.5x30.0cm
Sheet size: 24.2x32.7cm
サインあり
※『松本竣介素描』(1977年 株式会社綜合工房)口絵
作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

●ときの忘れものの建築は阿部勤先生の設計です。
建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18〜24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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