ギャラリー  ときの忘れもの

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王聖美のエッセイ「気の向くままに展覧会逍遥」第32回

「スイス・ヴィジョン―新世代の表現手法」を訪れて

 2024年3月29日から4月14日までAXISギャラリー(東京六本木)で開催されていた「スイス・ヴィジョン―新世代の表現手法」を訪問した。日本とスイスの建築分野の交流を行うJSAA(一般社団法人 日瑞建築文化協会)が主催・企画した。

 近現代建築は、構想か完成したプロジェクトかに関わらず、プレゼンテーション(提案/発表)や展示に際し、図面、イメージ(透視図、概念図、写真など)と模型が用いられてきた。国内の公共の美術館やギャラリーで建築を主題にした展覧会が行われるようになって久しく、建築物と建築資料の性質からか、基本的な展示手段は、分離派建築会展(1920〜1928年)や帝都復興創案展(1924年)の時代からあまり変わっていないように思う。その延長線上に現代の建築分野の展示はあり、近年は従来の「説明」的な上記のメディウムに加え、原寸模型、映像、記録、時にAR/VR技術などによって「(追)体験」できる鑑賞補助コンテンツが模索、挑戦されている。
 建築の表現手法は、設計競技、作図の道具、印刷技術、写真技術、カメラの小型化・多機能化、建築模型に使われる素材の普及など、複数の専門分野の発展の歴史が関連している。今回訪問した展覧会は、後述する個々の作品の魅力と同時に、建築業界で汎用されている同時代の技術の進歩が背景にある。

 「スイス・ヴィジョン―新世代の表現手法」展は、建築家の思考や各プロジェクトに焦点をあてたものではなく、建築の表現手法が主題となっている。個性的な表現を試みるケースとして建築家4組が選ばれ、偶然にも1980年代前半生まれのユニットが集中した。見どころは、BY JUNG、Truwant+ Rodet+ 、WALDRAP、Weyell Zipseそれぞれが制作した約5分間の映像(合計約20分)である。筆者が好きな映画のひとつにオムニバス映画「10 Minutes Older」(2002)があり、2010年に衝撃を受けた作品に、Go Sugimoto(1979-)の「Walk in the Night」シリーズの映像作品(同タイトル、10分25秒)がある。上映された4作品は、そういった映画/映像作品のように楽しみ、味わうことができた。以下では上映順に作品を追う。

1.BY JUNG(バイ ユング)による映像
 2019年から2023年の間に手掛けられたプロジェクトの25カットのレンダリング(CGによる透視図)を連続させた映像。ひとつひとつの建築物の定点イメージの場面は、抽象的にまとめられた室内や半屋外空間の内観が多い。静止した建築物のパースに対して、添景として配置されたアート、気球、風車、ボール、ダーツ、人影、風船、暖炉の煙などの人工物が動き、視覚的なアクセントとなっている。聴覚的には、ボールやダーツなどの添景による動きに音があてられて演出されているほか、イメージの画面の外にある(であろう)小鳥のさえずり、車のエンジン音、牛の鳴き声、ピアノを叩く音、森の葉擦れといった環境音が表現されていた。
 ところで、「GTAV」(グランド・セフト・オート5)というアメリカのゲームを見たことがある。登場人物の住まいやオフィスのインテリアが作れ、ウォークインのCGの精度が驚くほど高い一方で、生活感を排除したキッチュな可笑しさがあった。建築やインテリアを仮想で造形する過程は、ゲームのCGクリエイション、ゲームのプレイヤーによる仮想世界のカスタマイズにも似てきている。BY JUNGのレンダリングの場合、現実の建築では起こらないことをイメージの中で描く、現実と空想を往き来する感性に遊び心を感じた。

2.Truwant + Rodet + (トゥルワン+ロデ+)による映像と展示
 ナレーション、動画と静止画がコラージュされたプレゼンテーション。ナレーションの展開に沿って、軽快なテンポで次々と静止画や動画が入れ替わる、映像の編集に力が注がれた動画であった。検討段階の思考、リサーチ、現場のイメージが含まれ、プロジェクトを記録し、編集し、伝えるラボの活動が表れているように感じた。
 表現手法に着目すると、映像と展示の手法が応答関係にあり、前述の切り貼りでコラージュされた映像に対し、展示台の方は、リノベーションのプロジェクトのフォトモンタージュ1点でまとめられ、二次元においても採取し、整理する態度が表れていた。

3.WALDRAP(ワルドラップ)による映像
 4件のプロジェクトについて、真上のアングルの定点の対象の5つの映像が連続する。場面は、海水浴場、貯水場プール(2種)、マリーナ、パーキングであり、アンドレアス・グルスキー(1955-)の写真が映像になったような、視界の隅々までフォーカスが行き渡り、敷地内で活動する人物、列車、車の動きが収められている。映像と同時に採取されたような環境音も静かに聞こえている。
 初めは、5つ全てが実在する完成した敷地を空撮したものだと思った。しかし、見ていると、同じ時空にいるはずの人物たちの動きの速度や影が不自然だったりする。おそらくは、CGによる映像、または、現実の写真(ドローンかグーグルアースによる)と創られた映像が合成されたものに環境音を加えたと考えられ、それぞれ、彼らの手掛けた「City Strand Enge」(2020/21, 設計競技案)、「Liquid Projection」(2019, ビデオインスタレーション)、「Marina Tiefenbrunnen」(2018, 設計競技案)、「Enter Technikwelt Solothurn」(2021-2023設計)である。映像のラストは、雪の日のミュージアムのパーキングの真上の俯瞰から地上のアングルに変わり、引きのアングルに移行して、雪雲の中に中にフェイドアウトする。このミュージアムは2023年に開館した現存する施設で、どこからどこまでがリアルな映像なのかわからないが、建築単体の枠におさまらないスケールの大きな作品だった。

4.Weyell Zipse(ヴァイエル・チプセ)による映像
 6つのプロジェクトの模型から生まれた映像。縮小された世界を細やかに表現するスタイルの模型とは対照的な、アグレッシブなBGMが用いられ、音楽の低音やリズムが模型を撮影した映像のカットとシンクロする骨太な印象の映像作品だった。
 トーマス・デマンド(1964-)の写真に通じる「あえての」アナログな紙の感触、「何かありそう」なセンスにルーツがあるのだろうか。映された模型は内観を示すものが多く、室内の家具、植栽、小物には、質感や色のある紙が用いられていた。更にライティングにより演出された夜の温かみのあるリビング、夜明けや日中留守中のような配光のひとけのない室内なども見られ、選曲も相まってハードボイルドなアウトプットだと感じた。

 スイスを拠点にする4組の建築家による映像を用いた表現を見てきた。背景には、ボーンデジタルのドローイングやイメージ、静止画・動画・音の合成、動画撮影や映像編集が身近なツールとなっていることがあり、建築をどのようにアウトプットし何を選んで伝えるか、建築の表現手法は昔も現代もテクノロジーの更新とともに歩んでいる。

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(おう せいび)

●王 聖美のエッセイ「気の向くままに展覧会逍遥」。次回は2024年6月18日更新の予定です。

王 聖美 Seibi OH
1981年神戸市生まれ、京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科卒業。WHAT MUSEUM 学芸員を経て、国立近現代建築資料館 研究補佐員。
主な企画展に「あまねくひらかれる時代の非パブリック」(2019)、「Nomadic Rhapsody-"超移動社会がもたらす新たな変容"-」(2018)、「UNBUILT:Lost or Suspended」(2018)など。

●本日のお勧め作品は舟越桂です。
舟越桂 不思議な話 1953 リトグラフ(75×93)舟越桂 Katsura FUNAKOSHI
A Strange Story 不思議な話
1993年
リトグラフ
イメージサイズ:87.0×60.0cm
シートサイズ:93.0×75.0cm
Ed.50
サインあり
作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください。

●ときの忘れものの建築空間についてはWEBマガジン<コラージ2017年12月号18〜24頁>に特集されています。
〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 E-mail:info@tokinowasuremono.com 
http://www.tokinowasuremono.com/
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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