大竹昭子のエッセイ

大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」第71回

<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第71回

tほうたれ012(画像をクリックすると拡大します)


電話ボックスの前を左の方向に行くと、海に出るはずだ、と思いながら写真を見ている自分に気がついて、奇妙に感じた。海は写っていないのに、ここは海辺の町だと体のどこかが告げるのだ。光のせいだろうか。屋根に反射する陽光がまぶしいほど強く、それが海辺の町の記憶を連れてくるのだろうか。

奥のほうに山が見える。その山は左にむかって低くなっている。それが半島をイメージさせることも、関係しているのかもしれない。小さな入り江にできた集落で、時間は午後3時過ぎで、季節は春先、などと妄想がひろがっていく。

道のまんなかには円形の植え込みがあり、じっと見つめてしまう。いちばん背の高いのは花を咲かせる落葉樹で、たぶん梅とか桜だ。つぎに高いのはソテツで、それらのまわりを背の低い潅木(ツツジかもしれない)がとり囲んでいる。

なぜここにこのような植え込みがあるのか、不可解だ。剃り残しの髭のほうに、まわりとの関係性を断たれて孤立している。わざわざ作ったとは思えない。かつてどこかの敷地に属していたものが、なにかの事情で置き去りにされたのではないか。はじめの違和感があったけれど、しだいに目になじんで、いまではこれがなくなったら間が抜けていると住人は感じている。町の目印としても有効で、あの丸い植え込みの近く、などと場所を指すのに重宝し、車の追突事故の防止にも役立っている。

この円形の植え込みを中心に三本の道が交わっている、と最初に見たときは思ったのだが、だんだんとちがうような気がしてきた。手前側の場所が道にしては幅が広すぎる。ここだけ舗装されていなくて、車が駐車しているのも変だ。道ではなくて、どこかの敷地につづく導入部なのかもしれない。

その導入部を学校帰りの少年が歩いている。中学生か、いや、高校に上がっているかもしれない。詰め襟ではなくジャケットにネクタイという今ふうの制服を着て、リュックを背負い、しっかり前をむいて大股で歩いている。本日、彼の機嫌は悪くない。結構、いい一日だったのだ。

写真に写っている人物がもうひとりいて、そちらは女子生徒である。長い背負いベルトの付いただらんとしたタイプのリュックを腰の上で揺らしながら、うつむいて歩いている。彼女の瞳にはまわりの景色は映っていない。さっきから心のなかの小石を意味もなくほじくり返している。

ふたりは電話ボックスを左に行った先にある学校の生徒である。校門を出たのは男子生徒が先で、そのあとに女子生徒がつづいた。彼女は男子生徒の背中を見ながら進んできて、円形の植え込みのところで彼が右に行くのを見届けて、自分は左に曲がったのだ。毎日、同じ道を通っているから彼の姿は見慣れているし、どの家に住んでいるかも知っているが、口を聞いたことはない。目の端で姿を追いながら、またいた、と心のなかでつぶやく。

ここまで書いたところで、もう一度視線を引いて画面全体を眺めてみたところ、どうしたわけか海辺の町には見えなくなっていた。奥の山の左端にもうひとつ別の峰が写っている。それが気になって仕方がない。手前の山よりさらに奥にあり、どこまでつづいているかわからず、ひょっとしたらふたつの峰のあいだに海が見えてくるような気もするが、どこまでも山が重なり合って出られないようにも感じる。
大竹昭子(おおたけあきこ)

●掲載写真のクレジット
染谷學写真展「ほうたれ」より
(C) SOMEYA MANABU 2018

●作家紹介
染谷學 SOMEYA Manabu
1964年生まれ 日本大学芸術学部写真学科を卒業後、アシスタントを経てフリー。
紀行・歴史・文化等の写真を職業とするが、50歳を機にカメラマンを廃業し寺男になる。
個展 「Calcutta」コニカプラザ新宿、「海礁の柩」 ライトワークス、「温泉の町」 銀座ニコンサロン、 「ニライ」 銀座ニコンサロン/大阪ニコンサロン、 「道の記」 「道の記 II」ギャラリー蒼穹舎、 「艪」ギャラリー蒼穹舎、「ナハ」新宿ゴールデン街 酒場こどじ
写真集 『ニライ』冬青社、『道の記』蒼穹舎
写真展写真集『ニライ』にてさがみはら写真新人奨励賞2010
コレクション 沖縄県立博物館美術館、相模原市、日本大学芸術学部
ウェブサイト http://www.someyamanabu.com/

●展覧会のご紹介
新someya manabu a
新someya manabu b

染谷學写真展「ほうたれ」
会期:2018年12月3日(月)〜16日(日)
時間:13:00〜19:00 会期中無休/入場無料
会場:蒼穹舎ギャラリー(東京都新宿区 新宿1丁目3−5新進ビル3F 電話 03-3358-3974)
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●本日のお勧め作品は菅木志雄です。
菅木志雄 作品2
菅木志雄「作品2」
1981年 シルクスクリーン
作品サイズ:50x65cm
限定100部
裏に自筆のペンサイン

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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

ときの忘れものは「第306回企画◆佐藤研吾展―囲いこみとお節介 」を開催します。
会期:2018年12月13日[木]―12月22日[土] 11:00-19:00 ※会期中無休
306
インド、東京、福島という複数の拠点を往還しながら創作活動に取り組んでいる建築家・佐藤研吾の初個展を開催します。
本展では、自身でデザインし制作した家具としてのハコや、ピンホールカメラ(ハコ)とそれを使って撮影したハコの写真、またハコのドローイングなど、独自の世界観をご覧いただきます。
会期中、作家は毎日在廊予定です。
以下の日程で以下のゲストをお迎えし、ギャラリートークを開催します。
※要予約、参加費1,000円、複数回参加の方は二回目からは500円
12/13(木)13時〜 ゲスト:中島晴矢さん(現代美術家)
12/14(金)18時〜 ゲスト:岸井大輔さん(劇作家)
12/15(土)18時〜 佐藤研吾レクチャー
12/21(金)18時〜 ゲスト:小国貴司さん(Books青いカバ店主)
12/22(土)18時〜 佐藤研吾レクチャー
全5回のギャラリートーク、予約受付を開始しました。メールにてお申し込みください。 info@tokinowasuremono.com

●ときの忘れものは〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18〜24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は通常は休廊ですが、次回企画「佐藤研吾展―囲いこみとお節介」(12月13日[木]―12月22日[土])開催中は無休で開廊しています。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」第70回

<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第70回


写真集『LONESOME COWBOY』(ボイジャー刊)より写真集『LONESOME COWBOY』(ボイジャー刊)より
https://kataokayoshio.com/
(画像をクリックすると拡大します)

ターミナルは不思議なところだ。
どこかに向かうための場所でありながら、来たるべきものを待つ場所でもある。
一直線に歩いていく人がいる横で、諦観の境地でたたずむ人がいる。
両者は同じ空間にいながら、まったく別の価値世界にいる。
乗り遅れまいと”急ぐ人”には一分一秒がものすごく貴重で、”待つ人”はその時間が少しでも早く過ぎてほしいと願う。
人間の能動性と受動性が顕著にあらわれ、居合わせた人の心が真逆の方向をむいているところに、ターミナルの奇妙さがある。

写真に目をむけてみよう。
写っているのは”待つ人”のほうである。ぜんぶで5人。”急ぐ人”はひとりもいない。
荷物を股のあいだに挟んで座り込む太り気味の女は、右手をギターケースに添えている。
だれかに持っていかれたら困る、そう思って把手をつかんでいるのだろう。
すぐそばにいるのだから心配ない、と思うのは安全な日本にいる人の考えることで、日本の一歩外にでれば、持ち物からいっときも目を放さないのは常識である。

彼女から一メートルほど離れたところには黒人の男女がいる。
女はスーツケースの上にコートを置いて腰をおろし、男のほうは床に片膝を立てて座っている。
女の手に傘が握られているのに注目。
床に置いてもよさそうなのに、そうしないのは、やはり持っていかれるのが心配なのだろう。
しかも傘を逆さまに持って、柄の部分で手提げ鞄を上から押さえているのがさすがである。

彼らから少し離れたところには白人の男が腕組みをして立っている。
彼には持ち物がない。5人のなかでいちばんリラックスして見えるのは、そのためだろうか。
荷物に気を配る必要がないから、疲れのないうららかな表情をしている。

彼の後ろにはもうひとり別の男がロッカーによりかかっている。
荷物はなさそうだが、フレームアウトされて写っていないのかもしれない。
片足を前に出してうつむいているしぐさは、気がかりなことに心を奪われているとも、ただ退屈しているともとれる。

荷物の多い人たちは行き先が遠いと考えていいだろう。
もしかしたらここが初乗りではなく、どこから乗ってきて、ここで別のバスに乗り換えるのかもしれない。
このようなトランジットの客は、”待つ人”が抱く所在のなさをもっとも強く味わう立場にある。
後もどりはできないが、行く手はまだ見えてこず、ふたつの狭間に宙吊りになり、先の運命が知れない漠とした不安にとらわれる。

背後にずらりと並ぶ、無機質で等価な、機能のみを考えて造られた鉄の函は、”待つ人”のそうした感情を無視しており、その冷淡さに彼らの理不尽さはよりいっそう際立っている。
壁のサインから、ここがグレーハンドのバスターミナルだと知れる。

大竹昭子(おおたけあきこ)


●作家紹介データ
佐藤秀明
1943年6月27日新潟生まれ 日本写真家協会会員
日本大学芸術学部写真学科を卒業の後、フリーのカメラマンになる。1967年より3年間ニューヨークに在住。1970年代前半から波を追いかけサーフィン雑誌を中心に活躍し、その後北極、アラスカ、チベット、ポリネシアなど辺境を中心に撮影活動を続け、数多くの作品を発表。最近は日本の雨の風景などにも取り組んでいる。

●展覧会のご紹介
DM新宿写真展『ロンサムカウボーイ』
会期 :2018年11月14日(水)〜26日(月)
会場 :リコーイメージングスクエア新宿
時間 :10:30〜18:30(最終日のみ16:00終了)
休館日:火曜日定休
1967年から撮り続けてきた作品を眺めてみると、時代が変わっても変わる事のないアメリカの風景が見えてくる。そんなアメリカの風景を独自のカメラアイで捉えた作品カラー、モノクロ合計約40点で構成。

●写真集のご紹介
表紙表1_背『LONESOME COWBOY』
出版社:ボイジャー
発売日:2018年10月26日(金)
価 格:4,800円(税抜き)
過去40年間のアメリカの旅から。タイトルは「ロンサムカウボーイ」

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●本日のお勧め作品は篠田守男です。
DSC_0958篠田守男
TC7013
2001年 金属彫刻
サイズ:32.7×38.8×1.8
Ed.10
サインあり・木箱入り

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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

ときの忘れもの・拾遺 第9回ギャラリーコンサート
武久源造コンサート」のご案内

日時:2018年11月24日(土)15:00〜
会場:ときの忘れもの
出演:武久源造
プロデュース:大野幸
今回は午後3時開演。ちょうど近くの六義園の紅葉のライトアップの時期です。
*要予約=料金:1,000円(定員に達し次第締切ります)
予約:必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記の上、メールにてお申し込みください。
info@tokinowasuremono.com

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18〜24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊です。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」第69回

<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第69回


Masahisa Fukase_img01Seikan Ferry Boat, from the series Ravens, 1976 © Masahisa Fukase Archives(画像をクリックすると拡大します)

髪の毛って生えているときはきれいなのに、抜けるとどうしてこんなに汚いのかしら……。
スポーツジムの更衣室で水着に着替えていると、洗面台のほうからこんな声が聞えてきた。
思わず床に目をやる。
落ちている幾筋もの髪の毛。長かったり、短かったり、黒かったり、染められていたり。
つまみあげる指先におぞましさが走る。長いものほどそう感じさせる。
生えていればこんな気持ちにはならないのに。

髪の毛は不思議だ、とこの写真を見ても思う。
女子学生の後ろ姿が写っている。彼女は船の甲板に立っている。
甲板が写っていないのにそう思うのは、目の前が大海原だからか。
それもある。でも、それだけではない。
大きく傾むいた水平線が、不安定な場所にいるのを伝えるからだ。

そして、髪の毛である。
真ん中の女生徒の髪が四方八方に舞いひろがり、宙に飛び散っている。
更衣室の床の髪の毛とちがって、生えているから、汚くはない。
でも、きれいでもない。むしろ不気味。
彼女の意志を無視して狂喜乱舞しているところがきみわるい。

そのようにそそのかしたのはだれか。
海原を渡ってきた潮風だ。
振付師さながらに、彼女の長い髪のなかに手を入れて、右に、左に、上に、下に、前方に、背中に、と毛先を引っ張る。
毛根という大地から離陸させようと、サディステックな欲望を全開にしてあばれまわる。

もし望むならば、彼女はそれに抵抗し、振付師の動きを止めさせることだってできるはずだ。
むずかしいことはなにもない。
首のうしろに両手をまわして、髪を束ねてしまえばいいだけだ。
髪は再び彼女の配下に入り、おとなしく背中にたれるだろう。

でも、彼女はそうしない。
振付師が髪を引っ張りいたぶるのをただじっと受け止めている。
耐えているのではない。楽しんでいるのともちがう。
自分の人生がまだはじまっていないことを、でも、まもなくはじまろうとすることを、遠いどこかでだれかが告げているような気がしてならないのだ。
顔に当たる陽の光を細めた瞳のあいだから見つめつつ、その声を全身を透明にして聞いている。

大竹昭子(おおたけあきこ)

●作家紹介データ

深瀬昌久
1934年、北海道中川郡美深町に生まれる。日本大学芸術学部写真学科卒業。日本デザインセンターや河出書房新社などの勤務を経て、1968年に独立。代表作 「鴉」は世界的に高い評価を得ている。
1974年、アメリカ・MoMAで開催された歴史的な日本写真の展覧会「New Japanese Photography」への出展を皮切りに、これまで世界各国の展覧会に出展多数。1992年、不慮の事故で脳障害を負い、20年間の闘病の末、 2012年に亡くなる。享年78。2017年、フランスはアルル国際写真祭にて没後初の回顧展「l'incurable egoiste」を開催。2018年4月、京都のKYOTOGRAPHIE にて国内初の回顧展「遊戯」を開催。2018年9月からは、オランダはアムステルダムのFoam Museumにて、美術館では没後初となる回顧展「Private Scenes」を開催予定。深瀬が40年間の作家人生において制作した作品群の全貌を網羅した写真集「Masahisa Fukase」(Editions Xavier Barral より英語版及び仏語版、赤々舎より日本語版)が刊行される。

●今日のお勧め作品は、細江英公です。
44細江英公 Eikoh HOSOE
「鎌鼬#44, 1967」
1967年
ピグメント・アーカイバル・プリント
60.9×50.8cm
サインあり
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●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
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JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」第68回

<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第68回


tosei097Copyright (c) Osamu Funao All Rights Reserved
(画像をクリックすると拡大します)

乾燥した大地に井戸がある。まずそのことに驚く。水脈に届くのにどれほど掘らなければならなかっただろう。地球の芯にむかって気が遠くなるほどまっすぐ掘り進んだのではないか。

井戸のデザインにも驚く。垂直に埋め込まれたシリンダーと、ピストンを上下させるレバーと、水がでてくる蛇口という必要最低限の要素が合体されたそれは、日本の古井戸とはまるで別人だ。まっすぐで、律義で、口数少なく、物静かである。日本の井戸も律義ではあるが、よくしゃべるし、人好きである。この井戸はひとりでいることが多く、”孤高の人”のような雰囲気を漂わせている。

ひとりの男がその井戸にやってくる。黒い肌、まっすぐ伸びた背筋、長い足、長い腕、格好のいい頭、腕輪や耳飾り、布を巻き付けた衣装など、彼もまた日本にいる人間とはまるで姿形がちがう。彼は井戸の本体にからだの軸を合わせるように向き合うと、直立の格好でレバーを持ち上げ、ゆっくりと下ろす。ちょろちょろと水音が響く。量は少なく勢いもないが、まぎれもない水である。乾いた地表にあがってきた大地の体液である。

彼の右手はレバーを握っているが、左の手のほうはなにをしているのか。もしかしたらレバーの反対側に同じように真横に突起があって、そこに添えられているのではないか。足の後ろからのぞいている棒は、おそらく腕とからだのあいだに挟まれていて、手先は両方とも自由なのだ。

見ていると、無駄な贅肉が少しもついていない、すっきりと伸びやかなからだが、井戸のかたちに重なってく。一方は人間で、もう一方は道具なのに、どこか通じるものがある。真横に並んで立っているから余計そう感じるのかもしれない。井戸が分身のように感じられる。

彼の目は井戸に注がれているが、蛇口の下に水瓶は置かれていない。水を受けるつもりはないようだ。ただ水が流れ出るさまを見れば満足なのか。コンクリートで囲われた浅い流しが蛇口の下につくられている。そのデザインは井戸のそれとは対照的に曲線をなし、やわらかな印象だ。レバーの側には同じくコンクリートで人の立つ場所が固められているが、そこも先端がすぼんだ有機的なデザインで、両方を上空から俯瞰したら人間の瞳のように見えるだろう。

井戸はたぶん鉄製で、その堅い材質ゆえに直線にならざるを得なかった。周囲も井戸にあわせて長方形にしてもよかったが、そうしなかった気持ちはわかるような気がする。地面と地つづきの場所は曲線がいい。直線ではうまく馴染まない。

井戸のまわりは果てしなくつづく荒れ地である。わずかな水で生きられる乾いた草だけが生えている。目に入るのはごくわずかなものだけという茫漠とした大地に刻まれた瞳形の井戸端に、まっすぐに立っている影がふたつ。抽象画のような光景。そのまま地面を離れてどこかに飛んでいけそうである。
大竹昭子(おおたけあきこ)

●作家紹介データ
船尾修
1960年神戸生まれ。筑波大学卒。出版社勤務の後、フリーに。
現在は大分県の中山間地にて無農薬で米作りをしながら家族4人で暮らしている。
主な著書、写真集に、「アフリカ 混沌と豊饒の大陸(全2巻)」(山と渓谷社)、「UJAMAA」(同)、「循環と共存の森から〜狩猟採集民ピグミーの知恵」(新評論)、「世界の子どもたち 南アフリカ」(偕成社)など。「カミサマホトケサマ」(冬青社)が第9回さがみはら写真新人奨励賞を受賞。「フィリピン残留日本人」(冬青社)が第25回林忠彦賞と第16回さがみはら写真賞をW受賞。最新刊は「カミサマホトケサマ国東半島」(冬青社)。

●展覧会のご紹介
船尾修写真展「Beyond The Border」
会期 :2018年9月7日(金)〜9月29日(土)
会場 :ギャラリー冬青(〒164-0011 東京都中野区中央5-18-20)
時間 :11:00〜19:00
休館日:日、月曜・祝日
船尾修さんの若き日の自由気ままな旅の中で撮影されたモノクロ写真27点が展示される。会期初日にはクロージング・パーティーも開催。

●今日のお勧め作品は、殿敷侃です。
08_block殿敷侃 Tadashi TONOSHIKI
《ドームのレンガ》(1)
1977
銅版、雁皮刷り
イメージサイズ:23.2×32.3cm
シートサイズ :32.8×44.0cm
Ed.50
サインあり

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JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」第67回

<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第67回

澎湖印記-謝三泰攝,1991(c)Hsieh San-Tai
(画像をクリックすると拡大します)

若いふたりの門出を祝う結婚式があり、終わって記念撮影をしたところだ。海をバックに立っているのは、式場が海辺の景勝地にあったからか。どこで撮るか揉めた揚げ句に、長いドレスの裾をもちあげ、歩きにくい岩場を通って、七人でぞろぞろとここにやって来たのだ。

新婦は翼のようなフリルがたくさんついたウエディングドレスを着て、首元と胸元をネックレスとコサージュで飾っている。風でドレスの裾がめくれて足先がのぞいているが、履いているのはヒールのついていないペタンとした靴だ。

新郎のほうはスーツ姿だが、リーゼントの髪形にリキが入っている。大きな頭がなおさら膨らんで”頭でっかち尻つぼみ”の印象。襟元の蝶ネクタイが傾いているのが気になるが、よく見ると傾いているのはネクタイではなく、彼の体のほうである。新婦の腕をとったために、そちら側の肩があがって体が傾いだのだ。「腕をとる」と言ったが、実際は「とられている」ように見えるのは、彼女の身長のせいである。顔半分くらい彼より身長が高い。彼の眼がようやく彼女の唇に届くくらいだから、キスするにはつま先立ちする必要があるだろう(彼女の靴がペタンコな理由を了解)

新婦の反対側には彼女の親族がいる。横の女性は顔立ちも、前髪を膨らませて右に流した髪形も新婦に似ているから姉だろう。気丈で、しっかりもので、少し口うるさいところもある。その右にいるのは妹で、彼らは三姉妹なのだ。

新郎に目を移すと、左側にいるのは彼の兄である。目と口元がそっくりだ。眉間にしわを寄せ、照れたような困ったような表情で弟の行く末を気にしている。彼は重心が低くて安定感があり、甘えん坊でスイートな雰囲気の弟と好対照をなしている。

とここまで書いて、彼が胸にコサージュを飾っているのが気になりだした。新郎がつけるのはわかるとしても、どうして「兄」もなのだろう。新婦の「姉」を見てみると、彼女の胸元にもそれらしきものがついている。はっとしてこれまでの想像ががらがらと崩れ去った。「兄」と「姉」と思っていたが、そうではなくてふたりは夫婦なのではないか。彼らは若い友人の結婚に立って媒酌人を務め、その徴として胸にコサージュをつけているのではないか。

写真でふたりの関係を改めて確認することにした。新郎・新婦の姿を手で隠し、「兄」と「姉」の顔を交互に見比べる。するとにわかにふたりのあいだに夫婦らしい雰囲気が立ち上がってきたのに驚いた。長く連れ添った人生の先輩の風格と落ち着きが漂い、媒酌人にふさわしい人はこの夫婦を置いていないように思えてきたのである。

こうなると、これまでの想像を根本から問い直さなければならないと、ほかの人たちにも同じことを試してみた。まず新婦と彼女のとなりの「姉」を手で覆い、「新郎」と新婦の「妹」を見比べたところ、似ている。やや離れ気味の眼や、頬から口元にかけての表情などそっくりで、兄妹と言われたら信じるだろう。

新郎の後には控えめな様子でポロシャツの男が立っている。新郎の姿を隠してつぎにこの彼と新婦を見比べてみたら、あにはからんや、彼らもまた血縁と言ってもおかしくないほど似た空気を漂わせているではないか!

こうして写真のあちこちに手をかざし、比較するうちになにがなんだかわからなくなってきた。似ていると思えば、だれもが似ているように思えてしまう。目が類似点のほうに反応し、差はあってもグラデーションの範疇に収まり、大きなちがいはどこにも認められなくなったのだ。最後にたどりついたのは、「ここに写っている人たちは同じ一族である」ということだった。それがいちばん説得力ある、真実に近いことばのように思えた。

大竹昭子(おおたけあきこ)

●紹介作品データ:
謝三泰 (シェ・サンタイ) 
《澎湖の印象》

1991年 (C)Hsieh San-Tai

●展覧会のご紹介
清里フォトアートミュージアムで台湾写真交流展 島の記憶 1970〜90年代の台湾写真が開催中です。
チラシ表
チラシ裏
台湾写真交流展
島の記憶 1970〜90年代の台湾写真
会期 2018年7月7日〜12月2日
会場 清里フォトアートミュージアム
住所 山梨県北杜市高根町清里3545-1222
電話 0551-48-5599
開館時間 10:00〜18:00
休館日 火曜日 (11.20開)、7.7-9.3は無休
観覧料 一般800円、学生600円、中高生400円
アクセス JR清里駅よりタクシー10分

清里フォトアートミュージアムにおける世界の若手写真家を支援する公募&コレクション活動、「2018年度ヤング・ポートフォリオ展」展は、毎年冬期休館あけの3月より開催。
2018年度YPは、2019年3月中旬〜6月下旬に清里フォトアートミュージアムで開催予定。選考委員は 川田喜久治さん、上田義彦さん、細江英公さん。
現在、過去23年間のYPコレクションの一部を、国立台湾美術館に巡回中。


●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
阿部勤設計の新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18〜24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」第66回

<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第66回

01
(画像をクリックすると拡大します)

風船と洗濯ばさみは友好関係を結ぶことができない。
飛び立とうとするものと、つなぎとめようとするもの。
膨らむ力と、それを留める力。
オプティミズムとシニシズム。

相反する力が働くふたつの物体を、身にまとって、立っている男。
風船の数は12個で、洗濯ばさみの数はわからないが、体の前面にもつけているから相当な数にのぼる。

男はどんな表情でそこに立っているのだろう。後ろ向きで見えないが、背を向けて、足をやや開きぎみに立っている様子は、直立不動というほど固くはないが、リラックスしているようにも見えない。
両腕と胴体のあいだには隙間があけてある。洗濯ばさみが付いていて密着できないのかもしれないが、腕を離して立っているこの姿勢が決闘シーンを連想させる。
腰にさげたケースから拳銃を抜いて、いままさに発砲しようと構えているガンマンのように。

そう思ってしまうもうひとつの理由は、上着の肩のあたりに並んでいる洗濯ばさみである。これがカウボーイの皮ジャケットについているビラビラしたフリンジに似てみえて仕方がない。男の正面にはホルモン焼き屋がある。そこに正面から突っ込んでいこうとしているような、何かを覚悟している人間の緊張感を嗅ぎとる。

店の入り口には提灯がさがっている。この写真を見たときにまっさきに目に入ったのは、風船とこの提灯だった。提灯の丸みと風船の膨らみに空気圧という共通項を見つけたのか。提灯にはホルモン焼きの名称が書かれていて、「コリコリ」「テッポウ」「キアラ」「チレ」などと知らない名前がつづく

鶴橋の文字が見える。大阪の焼き肉街として名高い場所である。男の立っている道はかなり幅が広いが、この道はホルモン屋にぶつかって行き止まりなのだろうか。
はじめに見たときはそう思った。コの字型に店が囲んでいる小さな広場のような空間が想像されたのだ。

ところが、ホルモン屋の看板に「この横の焼き肉本通を通って徒歩30秒」という文言を見つけて、考えがぐらついた。矢印もついている。店の前に細い横道があるのかもしれない。
とはいえ、文字情報がなければ行き止まりと思うのが自然で、そう思うわけは簡単だ。道の交差する場所が男のからだで塞がれ、見えないからである。

袋小路に立っているように見えることが、男の抱えている圧力を強めている。風船と洗濯ばさみの抗う力をみなぎらせて入ってきた男は、この場所でぴたりと足を止めたのだ。看板やネオンがかまびすしく客寄せをしているゴテゴテした路上で、エネルギーを体表に集めて静止し、見えない拳銃をいままさに抜かんとしている。

大竹昭子(おおたけあきこ)

●紹介作品データ:
森村泰昌
《高く、赤い、中心の、行為:「中」09》

2018年
ゼラチンシルバープリント
34.0x26.7cm
courtesy of MEM

森村泰昌 Yasumasa MORIMURA
1951年大阪市生まれ。京都市立芸術大学美術学部卒業。1985年ゴッホに自ら扮したセルフ・ポートレート写真を発表、有名絵画の登場人物に扮する「美術史シリーズ」で脚光を浴びる。1988年ヴェネチア・ビエンナーレでアペルト部門に選ばれて注目を集め、海外の展覧会への出品、個展などを行うようになる。「女優シリーズ」「サイコボーグシリーズ」のほか「フェルメール」「フリーダ・カーロ」などのシリーズなどもあり、最近ではヴィデオ作品もも手がける。他にも、映画や芝居などで役者として活躍をしている。

●展覧会のご紹介
ギャラリーMEMで森村泰昌展「高く、赤い、中心の、行為」が開催されています。
森村泰昌展「高く、赤い、中心の、行為」
会期:2018年6月9日(土)〜7月8日(日)
会場:ギャラリーMEM
時間:12:00〜20:00
休館:月曜日 (祝日または祝日の振替休日は開廊し、翌日休廊])

「高く、赤い、中心の、行為」と題された本展は、初期の「星男」含め過去の作品から新作まで、パフォーマンスを含め身体の行為を基礎にした森村作品の側面を考察する。
展覧会タイトルと同名の新作は、高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之により結成されたハイレッド・センターによって、1964年に東京の路上で行われた「第6次ミキサー計画」での、各作家による「行為」を参照しながら、作家の地元大阪の鶴橋で森村自身によって行われたパフォーマンスを基に写真とビデオ作品を制作したものである。加えて、同様にパフォーマンスのビデオと写真作品で構成される60年代暗黒舞踏の運動を率いた大野一雄の「ラ・アルヘンチーナ頌再考」(2010-2018)も展示される。(ギャラリーMEMHPより転載)

〜〜〜〜〜

*画廊亭主敬白
今回は凝縮された日本滞在でしたが、難しかった個展の開催等、思わぬほど多大に苦労をお掛けし、然し乍ら、首尾良く個展が出来、大変お世話になりました。
チョット前、自宅に帰って来まして、リラックスしているところであります。
想像以上に、多くの人が訪れてくださいまして、楽しく歓談することが出来ました。アメリカで孤立している為か、余計に多くの人と喋れたのが、私にとって貴重な経験でもありました。
先ずはお礼まで・・・
20180630 関根伸夫


銀座のギャラリーせいほうで開催していただいた「関根伸夫展」が6月29日に終了しました。上掲はロスに戻られた関根先生からのメールです。
70年代の立体、紙の作品から、近年の新作絵画「空相ー皮膚 Phase of nothingness-skin」シリーズまでを展示した本展は久しぶりに作家が帰国したこともあって多くの方にご来場いただきました。
お買い上げいただいたお客様には心より感謝申し上げます。
1979青森五拾壱番館ギャラリー 関根伸夫今から約40年前、左から亭主、関根先生、五拾壹番館ギャラリーの高木保さん、
1979年10月22日青森市・五拾壹番館ギャラリー「関根伸夫展」オープニング

20180618_sekine_opening_042
お互い70代を迎えてしまった左からギャラリーせいほうの田中譲さん、関根伸夫先生、亭主
2018年6月18日銀座・ギャラリーせいほう「関根伸夫展」オープニング

ありがとうございました

◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。

大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」第65回

<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第65回

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(画像をクリックすると拡大します)

三人の女性が道を歩いている。年格好はおなじくらい。うちふたりは荷物をもっている。鞄でなくて風呂敷包みだ。三番目の人はショルダーバックかとも思ったが、風呂敷に包んだものを肩に斜め掛けしているようだ。胸のあたりに結び目らしきものが見える。先頭の人も写ってないだけで風呂敷包みを持っているかもしれない。

三人は連れ立って村の婦人会にでもいくような雰囲気で歩いている。みな顔をほころばせていて、二番目の人など笑いで破顔し、その勢いで髪が後ろになびいている。写真家がなにかおもしろいことを言ったのだろうか。そうではないだろう。カメラを向けたらいきなり笑ったのだ。写真に撮られることの滑稽さと晴れがましさ。そこに恥ずかしさが入り交じってこんな表情になってしまった。

前の二人は歯を見せて笑っている。とくに先頭の女性の歯が二番目の人以上に目を引くのは出っ歯だからだろう。上下の前歯がすべて歯茎も含めてあからさまだ。馬みたいで、まわりからもよく、あんたは馬みたいに笑う、とからかわれる。恥ずかしいとは思うけれど、笑うと忘れてしまって、開いてから気づくのだ。

口を開けて笑えるのは無邪気な証拠である。子供はみんなそうだ。でも大人になって恥じらいを意識すると手で口を覆うようになる。ティーンエイジャーのしぐさを思いだせばわかるだろう。もしやこのような場面で彼女たちにシャッターを切ったら、口元に手をやって隠すにちがいないのだ。

いや、それは現代社会が広めたしぐさであり、モノを運ぶのに風呂敷を使っていたこの頃はどの世代も大口を開けていた可能性がある。人前で口を隠すという価値観はまだ浸透してなくて、笑うときは老いも若きもためらいなく口を開けっぴろげだったのだ。

その証拠に、むかしの写真を見ると人は大口を開いて笑っている。奥歯も金歯も喉ちんこも見えるほど全開にするのに少しもためらいがない。笑うことは身を開くことであり、喉が広がって空気が入り、気持ちがほころび寛容になる。それが笑いの意義なのだ。現代ではそうなるには少しお酒が必要かもしれない。酔えば口をふさぐなんて面倒なことはだれもしなくなる。カバのように口を開けて笑える。

彼女たちのまわりの景色には奇妙な重さが漂う。黒い雲、藁葺き屋根のライン、上からつんつんと伸びている茅、草の密集する庭などが、密度の濃い重い空気をつれてくる。三人の表情が屈託なく天衣無縫なためにその感じがより強まっているようだ。見ているうちに、自分の先祖を遡っていくとこのうちのだれかに行き当たるような寂しい懐かしさが足下からわきあがってきた。藁葺き屋根の軒下には「1948」という数字がさがっている。何を意味しているのだろう。写真のなかの唯一の抽象記号であるその文字が気がかりで惹かれる。

大竹昭子(おおたけあきこ)

■内藤正敏 Masatoshi NAITO
1938年東京都生まれ。大学時代、化学を専攻後、フリーの写真家になり、初期は宇宙・生命をテーマとした「SF写真」に取り組んだ。25歳で即身仏に出会ったことをきっかけに、羽黒山伏の入峰修行に入る。写真集『婆 東北の民間信仰』(79年)、『出羽三山と修験』(82年)、『遠野物語』(83年)、『東京 都市の闇を幻視する』(85年)などを発表。多数の研究書・論文を発表する民俗学者でもある。元・東北芸術工科大学大学院教授、東北文化研究センター研究員。

●展覧会のご紹介
東京都写真美術館で「内藤正敏 異界出現」が開催されています。

「内藤正敏 異界出現」
会期:2018年5月12日[土]〜7月16日[月・祝]
会場:東京都写真美術館
時間:10:00〜18:00(木・金曜は20:00まで)※入館は閉館時間の30分前まで
休館:月曜(ただし、7月16日は開館)

このたび東京都写真美術館は、「内藤正敏 異界出現」展を開催します。本展は異色の写真家・内藤正敏の50年を超える軌跡をたどりご紹介します。作家は60年代の初期作品において、化学反応で生まれる現象を接写して生命の起源や宇宙の生成の姿を捉えました。その後、山形県・湯殿山麓での即身仏との出会いをきっかけに、60年代後半から80年代にかけて、主に東北地方で民間信仰の現場に取材した〈婆バクハツ!〉〈遠野物語〉など刺激的な写真シリーズを次々と発表しました。また作家は自らの写真に触発された民俗学研究も手がけ、東北と江戸・東京、科学と宗教といった異質なテーマを交差させ、日本文化の隠された思想体系を発見する研究論文をこれまでに多数発表してきました。90年代以降は、そうした研究と自身の想像力を融合させ、修験道の霊山における空間思想を解読するシリーズ〈神々の異界〉を手がけています。
「モノの本質を幻視できる呪具」である写真と、見えない世界を視るための「もう一つのカメラ」である民俗学を手段として、現世の向こう側に幻のように浮かび上がる「異界」を発見する人、内藤正敏。そのヴィジョンは、今日の私たちに大きな戦慄と深い洞察を与えてくれるはずです。本展は主な写真シリーズを通して、その50年を超える足跡をたどるとともに、その表現に通底する独自の世界観、生命観をとらえていきます。(東京都写真美術館HPより転載)

●写真集のご紹介
上掲の写真作品は、内藤正敏さんの写真集『遠野物語』に収録されています。
『遠野物語』
1983年
春秋社 発行
151ページ
29.3x22.0cm
ブックデザイン:後藤一之
構成:長谷川明
目次:
・写真
 生者の章
 死者の章
 神々の章
・文
 <遠野物語>別考 吉本隆明
 遠野物語ノート 内藤正敏
 闇のアジールの住人たち
 死者の肖像画
 異形の神々と隠し念仏
・あとがき

◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
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2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
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大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」第64回

<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第64回

踊り子72dpi
(画像をクリックすると拡大します)

さっきからずっとこの写真を見つめては首を傾げている。いくら知恵を絞ってみても腑に落ちないのだ。
最初に視界に飛び込んでくるのはツバの広い夏帽子である。画面のなかでもっとも存在を主張しているのはこれで、引き下げられたツバが胸元から上を覆い隠している。被る部分が筒のように深くて”お化け帽子”と呼びたいような異様さを放っている。

次に目がいくのは水玉模様のエリアだが、これがどういうデザインの服なのかよくわからない。腰まで隠れるチュニック風のものなのか。半袖の下から伸びだした腕は肘のところで折られ、二本の指がツバの端をつまんで引っぱっている。もう一方の手はソファーの凹みに置かれ、と書きかかってどうもそれではどうも辻褄が合わないような気がした。掌が小さく、腕首のくびれや、指の曲がり具合や腕の感じが子どもの手のようで、ツバに添えられた手と対と見なすにはあまりに幼なすぎる感じがする。

合わないと言えば、シートの下に伸びた両脚もおかしい。甲の厚い足先に、しっかりと肉のついた太い脛と腿は、全体としてごつい印象があって大柄な女性を想像させる。ところが、その上の水玉エリアの印象はひどく華奢でちまちましていて、この上半身にこの両脚が生えているとはとても思えないのだ。

このアンバランスさが連想させたのは、膝の上に水玉模様のワンピースを着た少女をのせている、というものだった。少女の顔を自分のほうにむけて横抱きにし、寝入ってしまった彼女を帽子のツバでかばってやっている、そんなシーンをお思い浮かべた。
だが、よく見ればそれは理屈にあわない想像である。水玉模様のエリアに少女の体を感じさせる膨らみも立体感もないし、腕や足がどこにあるかもわからない。ただぽっと浮かんだだけの実体のないイメージにすぎなかった。それでも一度、生まれてしまったイメージは簡単には消えてくれず、水玉模様の下にやせっぽちのちいさな体が潜んでいるように思えてならない。

どこかで勘違いを起こしたのだ。そう考えて写真から身を引き、距離を置いて眺め直した。今度は帽子からではなく、足先からはじめてだんだんと視線を上げていき、腿にたどりついたとたとき、あれっと思った。それから先がないのである。まるでソファーの凹みに吸い込まれてしまったように腿から上が消えてしまっている。

そんな奇妙なことがあるはずがない。きっとなにかを見落としているのだ。水玉模様のエリアとつながる鍵がどこかにあるのに、気がつかずに「消えた」と結論づけているのだ。

これはひとりの女性像なのだからそう思って見なさい。自分にそのように暗示をかけ、イメージを捨てて頭を初期化し、全体をつかもうと試みた。ところが、うまくいきそうになったところで、帽子や腕や水玉模様などのパーツが目の端にひっかってくる。すると、まとまりかかっていた像はバラバラと壊れて元の木阿弥になってしまった。なんどやってもどうどう巡りで思う姿にたどりつけない。巧みな詐欺師のようである。

大竹昭子(おおたけあきこ)

■橋本とし子 Toshiko HASHIMOTO
1972年栃木県生まれ。高校生の時父親の二眼レフを譲り受けて写真を撮り始める。大学卒業後写真を学ぶ。プロラボ、新聞社に勤務後、フリー。以来、身辺の情景や旅をテーマに、雑誌・個展等で作品を発表している。2017年よりギャラリー・ニエプスに参加。現在、夫と10歳と2歳になる子ども、猫と暮らす。
個展:「愛すべきものたち」栃木 オランダ館(1998年)、「ニャーとシャー」根津 nomado/谷中 nido(2005年)「フシーチコナイ・フバヴォ」スライド上映会 結城 la famile/宇都宮 タフドア/谷中 nido(2007年)、「キチムは夜に飛ぶ」東京 四谷三丁目 ギャラリー・ニエプス(2017年)
グループ展:「18R Sound X Visual」拝島劇場(2008年)、「LOVE CAT」展 浅草 PIPPO(2009年)

●写真集のご紹介
上掲の写真作品は、5月15日(火)に発売される橋本とし子さんの写真集『キチムは夜に飛ぶ』に収録されています。

橋本とし子写真集
『キチムは夜に飛ぶ』

88頁 A4 並製本
著者:橋本とし子
企画・デザイン:長尾 敦子(BookPhotoPRESS)
印刷:渡辺美術印刷株式会社
発行:ふげん社
3,700円(税別)
※5月15日(火)発売

「キチム、キチム、キチムは よるに とぶ」 
夢と現実が交錯する2歳の長女が、あるとき口ずさんだ。
キ、チ、ム。
耳慣れない響き。まるで呪文のようだ。
「きちむ」は「吉夢」。
「縁起の良い夢」「幸先の良い夢」という意味があることを後に知った。
この言葉を当時の彼女が知る由も無く、突然口にしたこの言葉が、
未来のお告げのように、朧げだけれど確かな明かりに見えた。
吉夢のイメージは、
毎日繰り返される日常、時に味わう非日常の断片をすくい続ける。
これまでもこれからも。
私は何を見るのだろう。
ふげん社HPより転載)

●展覧会のご紹介
橋本とし子写真集刊行記念展「キチムは夜に飛ぶ」
2018年5月15日(火)〜5月26日(土)
火〜金:12:00〜19:00/土:12:00〜17:00
日・月休廊
会場:コミュニケーションギャラリーふげん社
   〒104-0045 東京都中央区築地1-8-4 築地ガーデンビル 2F
   TEL:03-6264-3665
このたび、橋本とし子写真集『キチムは夜に飛ぶ』を5月15日に刊行いたします。
夫と娘二人、猫と暮らす作家が、夢と現実が交錯する摩訶不思議でユーモラスな世界を、情感豊かに捉えました。
妻として、母として、写真家として葛藤を抱える日々で、「夢」は幸せの象徴でもありました。
思考の枠を解き放つ「吉夢」の豊穣な世界を、ご堪能ください。
発売にあわせ、刊行記念写真展を5/15(火)〜26日(土)に開催いたします。リニューアルを経たギャラリーの展覧会第一弾となります。
みなさまのご来場を心よりお待ちしております。
ふげん社HPより転載)

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大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」第63回

<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第63回

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(画像をクリックすると拡大します)

みんな前のめりになって、身を右に傾けている。彼らから見ると左側になるが、なにか心奪われることがその方角で起きているのだ。いちばん左の男性は、シャッターが切られる直前に画面に踏み込んできたかのようだ。左足を踏ん張って身を低くし、どれどれ、という感じでみなの視界を覗き込んでいる。直立していては見えない位置で、それが起きているのだ。真ん中の男性が片足を下におろしているのも、視線を下げたいからだろう。

双眼鏡で見ている人が複数いることから、事態の起きている場所が肉眼ではディテールがわからないほどここから遠く離れていることが察せられる。身を低くして傾けたら見えるくらいの、かすかな気配なのだ。
それは獲物の姿であるのまちがいない。中央の男性がもっている鉄砲からそう思う。

でも、もし鉄砲が写っていなければ、まったく別の想像をすることも可能である。
木立のなかで素っ裸で踊っている女がいて、男がそれを撮影している、とそんな情報がはいってきて、村の男たちがその木立がみえる場所に結集し、どうしたものかねえ、と言いながら好奇心をかられて見つめている。男たちの表情が、モデル撮影会の雰囲気を連想させたせいかもしれない。

左側の男性は肩ベルトのついた長い包みを背負っている。この中身は何だろう。咄嗟に浮かんだのは組み立て式のイーゼルだが、雪山で絵を描く人がいるはずがないし、かといって鉄砲とも思えない。もしそうならば、隣の男のように出して手に持ってもよさそうではないか。

いちばん右の男も肩に何かさげている。これは別の形をした道具である。飛び出ている部分から想像するに、ノコギリではないかと思われる。柄だけが出ていて、刃の部分は布袋のなかにしまわれているのだ。

彼はほかの人たちのように身を屈めてはいない。そのことが彼に特別な雰囲気を与えている。視線が高く、外界を見下ろすような平然とした様子で佇むさまが、まるで彼だけがこの事態を別の角度から眺めているかのようだ。

彼の腰の後ろに尻当て皮のようなものが写っているのも気になる点だ。他の人も付けているのか知らないが、彼の佇まいと尻皮は実にお似合いだ。事態を引いて眺めるリーダーの風格が感じられる。
また、ほかの人たちは帽子をかぶっているのに、彼だけがねじり鉢巻きをしていることもそのイメージを強めており、彼の役割や人柄について想像をはせずにはいられない気分になる。

全員の体が片側に傾いてしまうと、冷静な判断ができなくなる。彼はぴんとのびた背筋でみんなの熱を支え、受け止め、視線を高く保って状況を観察している。手を当てた口元から、みんなを深くうなずかせる一言がまもなく飛び出すだろう。

大竹昭子(おおたけあきこ)

■亀山亮 Ryo KAMEYAMA
1976年千葉県生まれ、写真家。『AFRIKA WAR JOURNAL』で第32回土門拳賞受賞。八丈島在住。凪の日は基本的に魚突きが生業。

●写真集のご紹介
上掲の写真作品は、亀山亮さんの写真集『山熊田』に収録されています。
yamakutama_h1+obi亀山亮写真集『山熊田』
2018年
夕書房 刊行
128ページ
B5変形
巻末テキスト:亀山亮、山川徹(ルポライター)、大滝ジュンコ(アーティスト)
装幀:鈴木聖


アフリカやパレスチナなど「戦場」の写真で知られる写真家・亀山亮の4年ぶりとなる新作写真集です。 舞台は新潟県村上市山熊田。人口50人足らず。新潟と山形の県境に位置するこの小さな集落にあるのは、山と熊と田だけ。 亀山はそこに暮らす人々が今も静かに続けている、生きるという行為、「生と死」をめぐる原初の生業を写し出していきます。 山焼きと熊狩り、そしてシナ織。これは山とともに生きる人々の暮らしの、現代の記録です。
夕書房HPより転載)

*画廊亭主敬白
画廊は本日(1日)と明日(2日)は休廊です。
植田正治2018DM植田正治写真展−光と陰の世界−Part II 」は駒込移転後では最も多い来場者があり、大盛況のうちに昨日に終了いたしました。
日本経済新聞に出品作品が大きく掲載されたのをご覧になった方も多く、新発掘のポラロイド写真という話題性もあり、植田人気の高さをあらためて感じました。来場者の皆さん、お買い上げいただいたお客様には心より御礼を申し上げます。

○<本駒込のときの忘れもので植田正治写真展「光と陰の世界 PartII」を鑑賞。話題の新発掘のポラロイド写真は既に売れてしまったのもあり、一組しかなくて残念。
実は最終日の今日まで南青山から移転した事を知らず、遅れて閉廊時間ギリギリの来訪になりましたが、それでも暖かく対応して頂き、大変感謝。

(20180331/乙城蒼无@4/1おもしろ同人誌バザールさんのtwitterより)>

○<本駒込・ときの忘れものにて植田正治展。初めて見つかったポラロイド写真を中心とした展示。インスタントな写真で時間をゆったりと切り取る。3/31まで https://ift.tt/2J6DIsj
(20180330/ムチコさんのtwitterより)>

○<ときの忘れもの「植田正治写真展−光と陰の世界−Part II」にて。
こういう鮮やかな作品、幻影シリーズにもあったけれどなんか珍しいと思って撮らせてもらった。
画廊での鑑賞ってあまりやったことないから勝手がよく分からず、部屋の中に飾ってあったポラロイドの作品は見られなかった。

(20180327/猫珠 深鈴さんのtwitterより)>

○<ギャラリーときの忘れもので開催中の植田正治「光と陰の世界 Part II」ですが、去年の5月には移転前の南青山でPart Iをやってたのですのね。これはPart Iで展示していたシリーズ「光の筐」の1枚。これが綺麗だったんです
(20180319/michiroさんのtwitterより)>

○<本日は駒込の【ときの忘れもの】という小さな会場で、植田正治写真展を観てきた。
帰りに最寄りの一駅前で降り、買い物袋とティッシュペーパーを手にして桜吹雪の中を歩く。桜は満開よりも散る時が好き。

(20180328/Eikoさんのtwitterより)>

○<ギャラリーときの忘れもの @Watanuki_Ltd の植田正治展、ポラロイドの他にもいろいろありますが代表作は今回少なめ、珍しいヤツ多めです。ヌード作品は他にもあるけど外国人モデルを撮ってるのは初めて見ました。飾り方もちょっと凝ってます。見た目ふつうの家みたいですが、この貼り紙が目印ですよ pic.twitter.com/tWIM11q0iL
(20180320/michiroさんのtwitterより)>

○<こだま和文さんのライブ前に美容院行ってのんたんに女っぷりをあげてもらい、映画観ようかなーって思ったけど、駒込へ。植田正治のポラロイド写真展@ときの忘れもの。すぐそこにみんないるような気がした。みんなといるような気がした。私のi Phoneもおなじだったらしく、顔認証してた。
(20180315/シブヤメグミさんのtwitterより)>

●本日のお勧め作品は浅田政志です。
toujin_600浅田政志
「浅田家『唐人踊り』」
2010
Cプリント
A.P.
27.4x35.1cm
サインあり

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


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新しい空間についてはWEBマガジン<コラージ12月号18〜24頁>に特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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大竹昭子のエッセイ「迷走写真館〜一枚の写真に目を凝らす」第62回

<迷走写真館>一枚の写真に目を凝らす 第62回

S
(画像をクリックすると拡大します)

この写真を見たとき、まず目が引き寄せられたのは、ベランダ側のカーテンである。
薄い布地をすかして白い光が入ってくる。室内の仄暗さに比べて、この光は圧倒的に強い。
目は画面のなかの強いものに反応しがちである。言葉で考えるより速い速度で目立つものに反応し、イメージを立ち上げる。

だが、その瞬時の反応が写真の核となるものを見逃すこともありがちだ。初見のイメージに引きづられて細部が見えなくなる。そういうときは、写真から何がわかるかを端からあげていくと、視線が初期化されて良い。

その意識をもって、再び写真に目を凝らしてみよう。布団が敷かれている。上には羽毛布団がかかっている。ミシン目で区切られた矩形のなかに羽毛が詰まっていて、縫い目に押さえられ、中の羽毛がドームのように盛り上がっている。

羽毛布団の上には女性が寝ている。下ではない。そこが肝心だ。
体を横にし、縫い目の谷間に肢体を添わせ、羽毛の詰まった膨らみを抱きしめるようにして寝ている。
掛け布団の上に寝ているのは、暑くなってはいだだめのか。それとも、はじめから上に寝ころがっていたのだろうか。

女性はパジャマ姿ではない。着ているのは短パンにベアトップ。肩と脚はむきだしで、全身に肉がむっちりとついている。その張りきった肉が羽毛布団の矩形ドームに連なり、擬態しているかのようだ。

部屋は広くはない。たぶん縦の長さが敷布団の丈くらいだろう。畳が平行して敷いてある。円形のレトロな卓袱台、座布団の横には座椅子の背が見える。右側の壁には和箪笥が立っていて、ぜんたいとして古風な室内だ。

座椅子のむこうには紙袋が落ちている。「1990」と、その下に「NIPPON……ES」の文字が読める。推測するに「NIPPON SERIES」ではないか ? ということは、1990年の日本シリーズの紙袋? 
部屋のなかにその時代の空気が漂いはじめ、いろいろなものが古色蒼然としてくる。

そうやって部屋のなかのものに視線を這わせてから、もう一度、窓の光にもどってみると、前とはどこか印象がちがって感じられてくる。朝の光だと思っていたが、もしかして夕暮れのどきの斜光なのではないか。そんな想像が働いてくる。 

もしそうならば、女がパジャマ姿でないことも、掛け布団の上に寝ているのも腑に落ちるような気がする。疲れて、ふと寝ころがったら、羽布団を抱きしめていたのだ。

大竹昭子(おおたけあきこ)

■Tokyo Rumando
1980年、東京生まれ。2005年より独学で写真を撮り始める。自身のポートレートを主に撮影している。前作「Orphée」は2016年にロンドンのテート・モダンにて開催されたグループ展 ”Performing for the Camera”に出品された。主な個展に、「Hotel Life」(2012年、Place M)、「REST 3000~ STAY 5000~」(2012年、Zen Foto Gallery)、「Orphée」(2014年、TokyoLightroom、Place M、Zen Foto Gallery)、「I’m only happy when I’m naked」(2016年、Taka Ishii Gallery Photography Paris、2018年、Ibasho Gallery) などがある。また、Zen Foto Galleryより写真集『REST 3000~ STAY 5000~』(2012年)、『Orphée』(2014年)、『selfpolaroids』(2017年)を出版している。

●展覧会のご紹介
禪フォトギャラリーにてTokyo Rumando写真展「S」が開催されます。上掲の作品も出品されます。
会期:2018年3月2日[金]-3月31日[土]
時間:12:00〜19:00  *日・月・祝日休廊
オープニングパーティ:3月2日 [金] 18:00〜20:00
本展覧会はTokyo Rumando の約4年ぶり、3回目の禪フォトギャラリーでの個展となります。一貫してセルフポートレートを自身のスタイルとし、作品を発表してきた Tokyo Rumando の最新作である本作は、劇場の要素を取り入れることによりこれまでの手法をさらに進化させ、「S」と題された物語を Tokyo Rumando が自作自演することで観る者をまさに Rumando 劇場とも言える新たな世界へ誘います。
S is Story
She=S
S=Sexualviolet
S is es
S is Sandglass
Sayonara S
―Tokyo Rumando
禪フォトギャラリーHPより転載)

又、本展の開催に際し写真集『S』が刊行されます(上掲の写真作品も収録)。
Tokyo Rumando_S_2018Tokyo Rumando写真集『S』
15.5x23.0cm  136ページ
禅フォトギャラリー刊(2018)
ソフトカバー、PUR、スリップケース付き 日本語、英語
5,000円 (税込)
*お問い合わせはinfo@zen-foto.jpまで

〜〜〜〜
3月4日(日)朝9時のNHK日曜美術館をぜひご覧になってください(特集:イレーヌ ルノワールの名画がたどった140年)。司会は井浦新さんと高橋美鈴さん。ゲストとして多摩美術大学教授・西岡文彦さん、ピアニスト・西村由紀江さん、カメラマン・渡辺達生さんが出演します。後半のアートシーンにもご注目ください

◆埼玉県立近代美術館で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が開催されています。
埼玉チラシメカス600会期:2018年1月16日(火)〜3月25日(日)
現代版画センターと「ときの忘れもの」については1月16日のブログをお読みください。
現代版画センターは会員制による共同版元として1974年〜1985年の11年間に約80作家、700点のエディションを発表し、全国各地で展覧会、頒布会、オークション、講演会等を開催しました。本展では45作家、約280点の作品と、機関誌等の資料、会場内に設置した三つのスライド画像によりその全軌跡を辿ります。
【特別イベント】ジョナス・メカス監督作品「ウォールデン」上映会
日時:3月2日 (金)、3日(土)、4日(日)各 13:00〜16:00
場所:2階講堂
定員:100名 (当日先着順)、無料
【担当学芸員によるギャラリー・トーク】
日時:3月10日 (土) 15:00〜15:30
場所:2階展示室
費用:企画展観覧料が必要です。
【トークイベント】ウォーホルの版画ができるまで―現代版画センターの軌跡
日時:3月18日 (日) 14:00〜16:30
第1部:西岡文彦 氏(伝統版画家 多摩美術大学教授)、聞き手:梅津元(当館学芸員)
第2部:石田了一 氏(刷師 石田了一工房主宰)、聞き手:西岡文彦 氏
場所:2階講堂
定員:100名 (当日先着順)/費用:無料
〜〜〜〜
saitama埼玉県立近代美術館1階のショップで、詳細な記録を収録した4分冊からなるカタログを販売しています(2,200円)。
また当時のオリジナル版画を挿入した特装版を5種類販売(オノサト・トシノブ、菅井汲、元永定正、大沢昌助、堀内正和、各8,000円)していますが、どうやら完売間近のようです。どうぞお早めに

○<ラスト、ウォーホールらのアングラ感がかっこよかった!「版画の景色 現代版画センターの軌跡」3 月 25 日(日)まで☆埼玉県立近代美術館
(20180215/タウン誌Acoreおおみやさんのtwitterより)>

○<埼玉県近代美術館『現代版画センターの軌跡』。
版画の平板さが息苦しいくらいだった。作品以前に自分にはちょっとつらい。

(20180225/KT/ジャカルタ/白いチョークさんのtwitterより)>

○<‏ 国立西洋美術館版画素描室。「マーグ画廊と20世紀の画家たち」
良かったです!!ロートレックや現代版画センター、ルドンも良かったので個人的には最近版画ブーム。
こちらはミロ。他にもボナール、マティス、カンディンスキーなどなど。ミロの色彩と浮遊感が好き。

(20180225/甘酒さんのtwitterより)>

○<初めまして。
■■■宛でご送付いただきましたご案内は、他界した私の父名義でございます。
私、3月に東京に出かけるかもしれませんので、その際に拝見する機会があるかと思いますので、私、息子でございますが、差し支えなければ招待状をご恵送頂きましたら有り難いと思います。

(20180223/福岡県旧会員Oさんのご子息よりのメール)>

○<版画の景色後期を観ました。磯崎新さんの無機質な作品、空白の中に無人の建築物がある作品が好きで、何時間でも眺めていられそうでした。
磯崎新さんはそもそも建築家なのですね。あの立体化された作品も建築家ならではなのでしょうか。島州一さんの作品も目を奪われました。版画の技法もほぼ解らない無知なド素人ですし、とてもじゃないけど鑑賞力があるとは言い難い私ですが、それでもやっぱり良い作品だと思います。
菅井汲さんの作品は数学好きな方は面積求めたくなるんじゃないかな、と思いました。
菅井汲さんの作品は不思議な奥行きがあり、自分が浮遊した状態で眺めているような気になりました。

(20180223/樺太柳葉魚‏さんのtwitterより) >

○<“ 版画の景色 ”現代版画センターの軌跡
2018.1.16 - 3.25 埼玉県立近代美術館
活気のあった” 版画の時代 ”の存在を感じ、圧倒されました

(20180222/淀井彩子さんのfacebookより)>

○<埼玉県立近代美術館にて、現代版画センターの軌跡。見応えたっぷり❗️常設展もゆっくり堪能して3時間。人も少なくてひとつひとつをじーっくり観られました✨
(20180223/つばめ こよみさんのtwitterより)>

西岡文彦さんの連載エッセイ「現代版画センターという景色が始まりました(1月24日、2月14日、3月14日の全3回の予定です)。草創期の現代版画センターに参加された西岡さんが3月18日14時半〜トークイベント「ウォーホルの版画ができるまでー現代版画センターの軌跡」に講師として登壇されます。

光嶋裕介さんのエッセイ「身近な芸術としての版画について(1月28日ブログ)

荒井由泰さんのエッセイ「版画の景色―現代版画センターの軌跡展を見て(1月31日ブログ)

スタッフたちが見た「版画の景色」(2月4日ブログ)

毎日新聞2月7日夕刊の美術覧で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が紹介されました。執筆は永田晶子さん、見出しに<「志」追った運動体>とあります。

倉垣光孝さんと浪漫堂のポスター(2月8日ブログ)

嶋吉信さんのエッセイ〜「紙にインクがのっている」その先のこと(2月12日ブログ)

大谷省吾さんのエッセイ〜「版画の景色−現代版画センターの軌跡」はなぜ必見の展覧会なのか(2月16日ブログ)

塩野哲也さんの編集思考室シオング発行のWEBマガジン[ Colla:J(コラージ)]2018 2月号が展覧会を取材し、87〜95ページにかけて特集しています。

○月刊誌『建築ジャーナル2018年3月号43ページに特集が組まれ、見出しには<運動体としての版画表現 時代を疾走した「現代版画センター」を検証する>とあります。

○埼玉県立近代美術館の広報誌 ソカロ87号1983年のウォーホル全国展が紹介されています。

○同じく、同館の広報誌ソカロ88号には栗原敦さん(実践女子大学名誉教授)の特別寄稿「現代版画センター運動の傍らでー運動のはるかな精神について」が掲載されています。

現代版画センターエディションNo.197 野田哲也「Diary; Jan.15th '77」
現代版画センターのエディション作品を展覧会が終了する3月25日まで毎日ご紹介します。
15th '77》野田哲也
<現代と声>より《Diary; Jan.15th '77》
1977年
木版、シルクスクリーン(刷り:作家自刷り)
Image size: 35.7×50.8cm
Sheet size: 49.4×62.7cm
Ed.100
サインあり

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※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください
パンフレット_05
出品作家45名:靉嘔/安藤忠雄 /飯田善国/磯崎新/一原有徳/アンディ・ウォーホル/内間安瑆/瑛九/大沢昌助/岡本信治郎/小田襄/小野具定/オノサト・トシノブ/柏原えつとむ/加藤清之/加山又造/北川民次/木村光佑/木村茂/木村利三郎/草間彌生/駒井哲郎/島州一/菅井汲/澄川喜一/関根伸夫/高橋雅之/高柳裕/戸張孤雁/難波田龍起/野田哲也/林芳史/藤江民/舟越保武/堀浩哉 /堀内正和/本田眞吾/松本旻/宮脇愛子/ジョナス・メカス/元永定正/柳澤紀子/山口勝弘/吉田克朗/吉原英雄

ときの忘れもの・拾遺 ギャラリーコンサートのご案内
第7回 愛といのち

日時:2018年4月3日(火)18:00〜
会場:ときの忘れもの
出演:メゾ・ソプラノ/淡野弓子
   スクエアピアノ/武久源造   
プロデュース:大野幸
*要予約=料金:1,000円
予約:必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記の上、メールにてお申し込みください。

info@tokinowasuremono.com

◆大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
20170707_abe06新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18〜24頁にときの忘れものが特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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ギャラリー&編集事務所「ときの忘れもの」は建築家をはじめ近現代の作家の写真、版画、油彩、ドローイング等を扱っています。またオリジナル版画のエディション、美術書・画集・図録等の編集も行なっています。
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