建築を訪ねて

杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第21回

杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」

第21回 ライン川に架かる橋


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今回は11月4日に開通したJürg Conzett(ユルク コンツェット)によるクールとハルデンシュタインをつなぐ橋を紹介しようと思います。

自宅のあるクール(Chur)から仕事場のあるハルデンシュタイン(Haldenstein)まで、自転車で通って行くには大きく分けて2つのルートがありました。1つは線路の東側を走るバス通り(Masanserstrasse)を通っていく道。もう1つは線路の西側のトウモロコシ畑を横切って行く道。前者はもちろん車が行き交う忙しい大通りで、後者は犬の散歩やジョギングをする人をよく見かける畦道のようなところです。
そこに最近、第三のルートができました。

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橋の開通を体験したのは、実は僕の人生で初めてのことだったように思います。僕の覚えている限り身の周りに必要な橋は既に十分なほど架けられていたし、河川がある場所よりも歩道橋が架かるとか、地下道を通すとかの方がリアリティを感じるところに住んでいたからかもしれません。ともあれ昔話によくあるような“川の向こう岸に渡りたいからどうにかして橋を架けて渡ろう”という最もシンプルな問いかけのある場所に出会いました。

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橋が架かったのはクールの駅からライン川に垂直な線を引いた辺りにある場所(地図上で小さな方の赤い丸で囲った辺り)です。クールから向かってライン川の反対側にはカランダ(Calanda)という地元ビールの名前にもなっている大きな山があり、その辺りはほとんど開発されていません。このライン川がクールの街が広がってゆく末の境界になっていた。一方で川沿いはハルデンシュタインからクール(約2.5km)を通り越してとなり村のフェルスベルグ(Felsberg)へ向かう(さらに約5km)散歩道になっています。
この橋の工事は今年4月に始まりました。クール市のウェブサイトによると橋工事の目的と概要は次のようになっています。

“〜この橋ができることよってクール、ハルデンシュタインとカランダ地域を安全かつ魅力的に、そして緩やかにつなぐことができます。また、この全長91m歩行幅3mの吊り橋は支柱がないためにライン川の流れを侵害することがありません”


構造家のユルク コンツェットはズントー事務所の元所員で、サンべネディクト(St.Benedict)教会の計画を担当していた人でもありました。(もともと構造デザイン担当として勤務していたのか、建築設計士として働いていたのかどうか、もとよりそういった職種の違いは当時の小規模事務所で重要ではなかったのかもしれません)
事務所を卒業してからはクールで構造事務所を開き、建築プロジェクトの構造を担当する傍ら多くの橋を手がけています。例えばクールから少し西へ向かった先にヴィアマーラ(Viamala)という渓谷があり、そこでは大自然の中に大小いくつかの橋をデザインしています。彼の事務所を訪れると大きなドラフターで描かれたとても精緻で美しい手描き図面があり、その線と文字を見ると繊細かつ大胆なデザイン感覚が目の前に想像できてしまいました。

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この吊り橋は鉄筋コンクリート造の主塔が地面の上のみに建ち、その間に張られたケーブルにて橋の桁と床が吊られています。そのため支柱が川面に存在せずスッキリとした印象がある一方で、ケーブルが地上へ降りてくる先(アンカーレッジ)付近は少し混雑してきます。それでも主塔は川沿いの歩道を邪魔することないくらいに十分な高さがあります。

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橋自体の鋼構造で床はアスファルト、手すりは木になっています。あまりにも大胆かつ太い手すり部分でデザインが大味すぎると感じましたが、この橋のダイナミックさに比べたらこれくらいでなければとも思い返しました。正直に言えば、まだ自分の中でこの橋を理解する上で必要なこのプロジェクトの”強さ”みたいなものがうまく捉えきれていません。

この辺りはノルディック、ジョギングにもってこいのとても気持ちの良い場所。この橋の開通によってこのライン川沿いにさらに人が集まって、その結果カフェなどが必要とされて現れるかもしれない。橋自体の構造的、意匠的な意味はもちろん、この橋が僕たちの暮らしに何を運んでくれるのかは、橋の開通を初めて目の当たりにした僕にとって今、とても興味のある話題になってきました。
すぎやま こういちろう

■杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にETH Zurichに留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同事務所勤務。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

●今日のお勧め作品は、ソニア・ドローネです。
20171210_sakuhin2ソニア・ドローネ
「作品」
リトグラフ
65.0x53.0cm
Ed. 75
サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


◆マイアミ速報
<ART MIAMIは4日目が終了、始め2日間で葉栗剛さんの木彫や秋葉シスイさんの作品が2点完売したのもあり、3日目から展示替えし、予備だった赤い方の作品を出し、正面壁面を僕の作品2点並べて頂きました、なんとも有り難くて嬉しい光景です。
体もこっちのリズムに慣れてきたようで、京都個展在廊最終的に急に喉が痛くなって心配しましたが、その後元気になりました。
昨晩は夜にホテルからすぐのビーチに行ってみたら月が出ていて、1時間以上ボーっとして、なんかここまでの制作疲れや色々なものがスーッと抜けたようで、仕事とはいえマイアミに来られて良かったと思いました。
フェアは残り2日間、刺激を受けつつがんばります。
あと、ホテルの廊下に製氷機を発見して、完全なハイボールを飲めるようになりました 笑
ではおやすみなさい☆(野口琢郎さんのfacebookより)>
Art Miami_2017_LOGO_dates_600
ときの忘れものは「ART MIAMI 2017」に出展しています。
会期:2017年12月5日[火]〜10日[日]
ブースナンバー:A428


◆埼玉県立近代美術館の広報紙 ZOCALO の12月-1月号が発行され、次回の企画展「版画の景色 現代版画センターの軌跡」が特集されています。館内で無料配布しているほか、HPからもご覧いただけます。

◆ときの忘れものは「WARHOL―underground america」を開催します。
会期=2017年12月12日[火]―12月28日[木] ※日・月・祝日休廊
201712_WARHOL

1960年代を風靡したアングラという言葉は、「アンダーグラウンドシネマ」という映画の動向を指す言葉として使われ始めました。ハリウッドの商業映画とはまったく異なる映像美を目指したジョナス・メカスアンディ・ウォーホルの映画をいちはやく日本に紹介したのが映画評論家の金坂健二でした。金坂は自身映像作家でもあり、また多くの写真作品も残しました。没後、忘れられつつある金坂ですが、彼の撮影したウォーホルのポートレートを展示するともに、著書や写真集で金坂の疾走した60〜70年代を回顧します。
会期中毎日15時よりメカス映画「this side of paradise」を上映します
1960年代末から70年代始め、暗殺された大統領の未亡人ジャッキー・ケネディがモントークのウォーホルの別荘を借り、メカスに子供たちの家庭教師に頼む。週末にはウォーホルやピーター・ビアードが加わり、皆で過ごした夏の日々、ある時間、ある断片が作品には切り取られています。60〜70年代のアメリカを象徴する映像作品です。(予約不要、料金500円はメカスさんのNYフィルム・アーカイブスに送金します)。

●書籍のご案内
版画掌誌5号表紙600
版画掌誌第5号
オリジナル版画入り美術誌
ときの忘れもの 発行
特集1/ジョナス・メカス
特集2/日和崎尊夫
B4判変形(32.0×26.0cm) シルクスクリーン刷り
A版ーA : 限定15部 価格:120,000円(税別) 
A版ーB : 限定20部 価格:120,000円(税別)
B版 : 限定35部 価格:70,000円(税別)


TAKIGUCHI_3-4『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』図録
2017年10月
ときの忘れもの 発行
92ページ
21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
価格:2,500円(税別) *送料250円
*『瀧口修造展 I』及び『瀧口修造展 II』図録も好評発売中です。


安藤忠雄の奇跡安藤忠雄の奇跡 50の建築×50の証言
2017年11月
日経アーキテクチュア(編)
B5判、352ページ
価格:2,700円(税別) *送料:250円
亭主もインタビューを受け、1984年の版画制作始末を語りました。
安藤先生のサイン本をときの忘れもので扱っています。

国立新美術館で開催中の「安藤忠雄展―挑戦―」は20万人を突破、会期も残り僅かです(12月18日[月]まで)。
展覧会については「植田実のエッセイ」と「光嶋裕介のエッセイ」を、「番頭おだちのオープニング・レポート」と合わせ読みください。
ときの忘れものでは1984年以来の安藤忠雄の版画、ドローイング作品をいつでもご覧になれます。


●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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◆ときの忘れもののブログは下記の皆さんのエッセイを連載しています。
 ・大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
 ・frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
 ・小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。
 ・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
 ・杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。
 ・関根伸夫のエッセイ「〈発想〉について[再録]」は毎月12日の更新です。
 ・野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」は毎月15日の更新です。
 ・倉方俊輔のエッセイ「『悪』のコルビュジエ」は毎月17日の更新です。
 ・小林紀晴のエッセイ「山の記憶」は毎月19日の更新です。
 ・清家克久のエッセイ「瀧口修造を求めて」は毎月20日の更新です。
 ・九曜明のエッセイ「植田実と本」[再録]は毎月23日の更新です。
 ・小林美香のエッセイ「写真集と絵本のブックレビュー」は毎月25日の更新です。
 ・スタッフSの「海外ネットサーフィン」は毎月26日の更新です。
 ・森本悟郎のエッセイ「その後」は毎月28日の更新です。
 ・笹沼俊樹のエッセイ「現代美術コレクターの独り言」はしばらく休載します。
 ・大野幸のエッセイ<ときの忘れもの・拾遺 ギャラリーコンサート>は随時更新します。
 ・植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」は、更新は随時行います。
  同じく植田実のエッセイ「生きているTATEMONO 松本竣介を読む」と合わせお読みください。
  「本との関係」などのエッセイのバックナンバーはコチラです。
 ・中村茉貴のエッセイ「美術館に瑛九を観に行く」は随時更新します。
 ・飯沢耕太郎のエッセイ「日本の写真家たち」英文版とともに随時更新します。
 ・深野一朗のエッセイは随時更新します。
 ・「久保エディション」(現代版画のパトロン久保貞次郎)は随時更新します。
 ・藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は終了しました。
 ・森下隆のエッセイ「鎌鼬美術館——秋田県羽後町田代に開館」は終了しました。
 ・芳賀言太郎のエッセイ「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」は終了しました。
 ・夜野悠のエッセイ「書斎の漂流物」は終了しました。
 ・普後均のエッセイ「写真という海」は終了しました。
 ・八束はじめ・彦坂裕のエッセイ「建築家のドローイング」(再録)は終了しました。
 ・光嶋裕介のエッセイ「和紙に挑む」は終了しました。
 ・石原輝雄のエッセイ「マン・レイへの写真日記」は終了しました(時々番外編あり)。
 ・荒井由泰のエッセイ「いとしの国ブータン紀行」は終了しました。
 ・森下泰輔のエッセイ「戦後・現代美術事件簿」は終了しました。
 ・「殿敷侃の遺したもの」はゆかりの方々のエッセイや資料を随時紹介します。
 ・「オノサト・トシノブの世界」は円を描き続けた作家の生涯と作品を関係資料や評論によって紹介します。
 ・「瀧口修造の世界」は造形作家としての瀧口の軌跡と作品をテキストや資料によって紹介します。
土渕信彦のエッセイ「瀧口修造とマルセル・デュシャン」、「瀧口修造の箱舟」と合わせてお読みください。
 ・「関根伸夫ともの派」はロスアンゼルスで制作を続ける関根伸夫と「もの派」について作品や資料によって紹介します。
 ・「現代版画センターの記録」は随時更新します。
今までのバックナンバーの一部はホームページに転載しています。

佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第11回

佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」

第11回 タゴールと宮沢賢治から建築を考えたい

今月12月8日からインド・コルカタへ向かうことになった。以前より度々、ことあるごとに紹介しているシャンティニケタンでの家作りのプロジェクトのためである。正確には、9日にコルカタに到着し、電車でシャンティニケタンへ向かい、日本からそれなりの道具と土産と他荷物を先方に渡して、家建設の進行状況を確認し、12日に再びコルカタに戻り、そこからネパールのカトマンズへ飛ぶ。カトマンズでは、石山修武さんとボダナート(Bouddhanath)寺院の基壇の上で待ち合わせており、20日頃までネパールに滞在する予定。石山さんは金属造形作家の木本一之さんとすでに先月頃からインドからネパール入りしているそう(詳しくは世田谷村日記を精密に参照いただきたい)。その後、カトマンズから再びインド・コルカタへ戻り、シャンティニケタンへ戻っていよいよ家作りの仕上げにとりかかり、来年1月末まで滞在するつもりである。いま想定している限りでの肝は、内部の吹き抜け部の木造架構の材をいかにして調達するか、あるいは調達が困難な場合には当然複数の材を継ぐことになるがそれをどのような納まりにするか、ということだ。(下の模型写真参照、またはこちらのURL http://korogaro.net/archives/733参照)

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また、先日このプロジェクトの施主であるNilanjan Bandyopadhyay氏が日本にやってきた。彼はどうやら、九段下にある在日インド大使館で開催された故・我妻和男氏の著作集出版記念会に出席するためであったらしい。Visva-Bharati大学の出版本部長なる肩書きを持っていた。我妻氏は第三文明社から出ているタゴール著作集の訳者の一人でもあり、Visva-Bharati大学の日本語学科で教鞭をとっていた人物である。私もおよそ2年前頃かに、とりあえずシャンティニケタンに行く前にこの全12巻(11巻+別巻)からなるタゴール著作集を買い揃え、いくつかをつまみ読みしていた。いまだ到底読破するには至っていないが、つまみ読みする度にそのタゴールの情熱に満ちたそして清々しい新たな言葉に出会う。詩を普段ほとんど読まない自分にとっては、インドの風景と動物とそれにまみれた人間の生活が、詩の中の言葉から絶え間なく湧き上がってくる、一つの映像として読むことができる。

2Nilanjan Bandyopadhyay氏 @BUoY北千住アートセンター


インドについて知る前(前といっても4-5年前ほどだが)は、なんとなく宮沢賢治の童話をつまみ読みしていたことがあった。東北に行き始めたことだったこともあり、そしてまたあんな童話の世界のような建築を一体どうやったら作ることができるか、なんてことを考えていた。(もちろんいまも考えている)タゴールが訪日した時、宮沢賢治は20歳であった。宮沢賢治はタゴールの詩集を愛読していたとも言われており、やはりタゴールの戯曲や特に彼の絵(第2回目佐藤投稿)と宮沢賢治の物語との間には何か共通する、汎生物的なそして汎宗教的な世界のあり方が感じられるのである。
そしてタゴールが取り組んだシャンティニケタン・シュリニケタンでの学校創設と農村復興の活動と、宮沢賢治の岩手の地元・花巻で生まれた農民芸術論、あるいは羅須地人協会の試みは、まるで両者息を合わせたかのように同じ理想と実践を掲げていたように思える。日本の岡倉天心とタゴールのような直接的な交友は、宮沢賢治とタゴールの間にはなかったが、彼らの理想に向かおうとするそれぞれの創造的実践は現代の私たちはより複合的に捉えてみる必要があるだろう。彼らの実践からおよそ1世紀が経ったいまでも、大地の上には人間が生き、植物が、そして動物が生活を営んでいることは何も変わりはないからである。また一方で、インド・シャンティニケタンと、日本の東北の間で何が違うのか、つまりそれぞれでいかにして同じ志、動機を持って異なるものを作ることができるか、取り組んでみたいと思っている。
さとう けんご

■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。
URL: http://korogaro.net/

●今日のお勧め作品は、マイケル・グレイブスです。
20171207_graves_sakuhin7_84_1マイケル・グレイブス
「作品 7・84/1」
1984年
木版
30.3×24.0cm
Ed.150 サインあり
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


◆マイアミ速報
少し前にホテルに戻りました。午前1時過ぎです。22時にフェアが終わった後みんなで食事に行き、タクシーを呼んでもらったんですが待てど暮らせど来ない!何度も電話してもらって、後5分後5分と、、、結局50分くらい待ち、こんな時刻になりました。タクシー問題どうにかせねばです。
ともあれ、初日にこんなに気持ち良く売れて、気分がいいです!
追伸
クレジットカード端末で色々と問題があり、クレジットカード処理ができる方法を提案してもらっていて、新澤さんが四苦八苦しています。新澤さんもヘトヘトなので、この件に関しては私が帰国したらきちんと報告しますので、少しお待ちください。その他、新澤さんがやらなければならないことが色々とあるのですが、それも少しお待ちください。

(12月6日15:28着マイアミより 番頭オダチのメール)>
Art Miami_2017_LOGO_dates_600
会期:2017年12月5日[火]〜10日[日]
ブースナンバー:A428
ART MIAMI 2017が始まり吉報がはいりました。若いスタッフたちが初挑戦でがんばっているようです。


◆埼玉県立近代美術館の広報紙 ZOCALO の12月-1月号が発行され、次回の企画展「版画の景色 現代版画センターの軌跡」が特集されています。館内で無料配布しているほか、HPからもご覧いただけます。

◆ときの忘れものは「WARHOL―underground america」を開催します。
会期=2017年12月12日[火]―12月28日[木] ※日・月・祝日休廊
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1960年代を風靡したアングラという言葉は、「アンダーグラウンドシネマ」という映画の動向を指す言葉として使われ始めました。ハリウッドの商業映画とはまったく異なる映像美を目指したジョナス・メカスアンディ・ウォーホルの映画をいちはやく日本に紹介したのが映画評論家の金坂健二でした。金坂は自身映像作家でもあり、また多くの写真作品も残しました。没後、忘れられつつある金坂ですが、彼の撮影したウォーホルのポートレートを展示するともに、著書や写真集で金坂の疾走した60〜70年代を回顧します。
会期中毎日15時よりメカス映画「this side of paradise」を上映します
1960年代末から70年代始め、暗殺された大統領の未亡人ジャッキー・ケネディがモントークのウォーホルの別荘を借り、メカスに子供たちの家庭教師に頼む。週末にはウォーホルやピーター・ビアードが加わり、皆で過ごした夏の日々、ある時間、ある断片が作品には切り取られています。60〜70年代のアメリカを象徴する映像作品です。(予約不要、料金500円はメカスさんのNYフィルム・アーカイブスに送金します)。

●書籍のご案内
版画掌誌5号表紙600
版画掌誌第5号
オリジナル版画入り美術誌
ときの忘れもの 発行
特集1/ジョナス・メカス
特集2/日和崎尊夫
B4判変形(32.0×26.0cm) シルクスクリーン刷り
A版ーA : 限定15部 価格:120,000円(税別) 
A版ーB : 限定20部 価格:120,000円(税別)
B版 : 限定35部 価格:70,000円(税別)


TAKIGUCHI_3-4『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』図録
2017年10月
ときの忘れもの 発行
92ページ
21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
価格:2,500円(税別) *送料250円
*『瀧口修造展 I』及び『瀧口修造展 II』図録も好評発売中です。


安藤忠雄の奇跡安藤忠雄の奇跡 50の建築×50の証言
2017年11月
日経アーキテクチュア(編)
B5判、352ページ
価格:2,700円(税別) *送料:250円
亭主もインタビューを受け、1984年の版画制作始末を語りました。
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国立新美術館で開催中の「安藤忠雄展―挑戦―」は20万人を突破、会期も残り僅かです(12月18日[月]まで)。
展覧会については「植田実のエッセイ」と「光嶋裕介のエッセイ」を、「番頭おだちのオープニング・レポート」と合わせ読みください。
ときの忘れものでは1984年以来の安藤忠雄の版画、ドローイング作品をいつでもご覧になれます。


●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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 ・植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」は、更新は随時行います。
  同じく植田実のエッセイ「生きているTATEMONO 松本竣介を読む」と合わせお読みください。
  「本との関係」などのエッセイのバックナンバーはコチラです。
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 ・飯沢耕太郎のエッセイ「日本の写真家たち」英文版とともに随時更新します。
 ・深野一朗のエッセイは随時更新します。
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 ・藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は終了しました。
 ・森下隆のエッセイ「鎌鼬美術館——秋田県羽後町田代に開館」は終了しました。
 ・芳賀言太郎のエッセイ「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」は終了しました。
 ・夜野悠のエッセイ「書斎の漂流物」は終了しました。
 ・普後均のエッセイ「写真という海」は終了しました。
 ・八束はじめ・彦坂裕のエッセイ「建築家のドローイング」(再録)は終了しました。
 ・光嶋裕介のエッセイ「和紙に挑む」は終了しました。
 ・石原輝雄のエッセイ「マン・レイへの写真日記」は終了しました(時々番外編あり)。
 ・荒井由泰のエッセイ「いとしの国ブータン紀行」は終了しました。
 ・森下泰輔のエッセイ「戦後・現代美術事件簿」は終了しました。
 ・「殿敷侃の遺したもの」はゆかりの方々のエッセイや資料を随時紹介します。
 ・「オノサト・トシノブの世界」は円を描き続けた作家の生涯と作品を関係資料や評論によって紹介します。
 ・「瀧口修造の世界」は造形作家としての瀧口の軌跡と作品をテキストや資料によって紹介します。
土渕信彦のエッセイ「瀧口修造とマルセル・デュシャン」、「瀧口修造の箱舟」と合わせてお読みください。
 ・「関根伸夫ともの派」はロスアンゼルスで制作を続ける関根伸夫と「もの派」について作品や資料によって紹介します。
 ・「現代版画センターの記録」は随時更新します。
今までのバックナンバーの一部はホームページに転載しています。

倉方俊輔のエッセイ「『悪』のコルビュジエ」 第10回

倉方俊輔のエッセイ「『悪』のコルビュジエ」

第10回 歳月の手触り ラ・トゥーレットの修道院


倉方俊輔(建築史家/大阪市立大学准教授)


画:光嶋裕介(建築家)
原画

 裏方であったはずのコンクリートが、いつしか表に現れるようになった。ラ・トゥーレットの修道院は、そんなル・コルビュジエの作品の傾向を代表している。カトリックのドミニコ会の修道院として、フランスの南東部のローヌ県に1956年に着工し、1960年に完成した。
 コンクリートが主役であることは、第一印象から鮮明である。近づいて初めに視界に入るのは、一面の打ち放しコンクリートの壁だ。窓はまわりこむと下部に少し見えるだけでディテールも何もないから、建築の一部というよりも土木構築物のようだ。西に下る斜面をものともせずに続く眺めもダムを思わせる。地面まで充填されたコンクリートは荒々しく、型枠の跡を露呈している。構築物をつくって、工事は完了。
 同じことは手前に突き出た形についても言える。こちらは曲面だが、完全にフリーハンドの形状ではなく、直線を空中で移動させてつくられた形であって、上部に突出した3本の筒と同じく幾何学な操作だ。まっすぐな壁とは独立した原理が感じ取れる。これら最初に目にする光景だけでも、これから体験する造形が容易には統一して把握できないことを予告しており、共通するのはコンクリートそのものが表現になっている点である。
 入り口に進むと、造形と仕上げの変奏の幅がさらに広がる。まず出迎えるのは、打ち放しコンクリートでできたシンプルな正方形の門。同じ素材がその先で水平面となって、傾斜地にかけたブリッジの役割を果たしている。渡った先に曲面の壁が立つ。門番控室と応接室の機能をもつこれら小室の平面は、自由な房状であり、ロンシャン礼拝堂の壁と同様の吹き付け塗装で仕上げられている。ザラザラとした表面は、どんな形にも造形できるコンクリートの本性を示し、隣に置かれた凝固したコンクリートのオブジェが粘土のような性質を強調している。まわりを取り囲む型枠で構築された直線とは対照的だが、どちらもコンクリートという素材が可能にする手触りである。
 前方にコの字型の全貌がうかがえる。右手には先ほど反対側を目にした打ち放しコンクリートの箱。前方と左手の吹き付け塗装の翼と一緒になって、中庭を閉じている。中庭を囲む回廊を重視する伝統的な
修道院の構成に範をとっているのは明らかだが、それだけに逆転劇は一層、鮮やかである。
 中庭は人間によって使われていない。伝統的な修道院とは異なる。そこは傾斜地のままに残され、板状の壁で持ち上げられたピロティが、囲われているようであり、周辺と連続してもいる外部空間を形成している。西洋の中庭や庭園が多くの場合そうであるような人工の外部とは違って、ほったらかしにされた地面だ。板柱はというと、人工大地を持ち上げるマルセイユのユニテのような力強い身振りではなく、ただ地面とは無縁のレベルに床を設定しているだけで、下部が重厚で上部が軽快という古くからの建築の規範とは、これも逆である。
 これらの原理に収まらないのが、近づいたときに見た箱だ。ただ一つ、中庭の空間を堰き止めている。上下や軽快・重厚の区別もない。この部分が教会堂である。コルビュジエは飾りたてに抗し、建築であるのかどうかを疑わせる寡黙なデザインを、精神的な支柱である教会堂の証としている。

*****

 コンクリートは建築の全体だけでなく、細部のキャラクターも決定しているから、主役と呼ばざるを得ないのだ。入り口は建物の3階にあたる。目の前の2階レベルに左手の翼と右手の教会堂を結ぶ通路が走っている。通常の建物のようなディテールがないので、スケールは判断しづらい。建築と人間との関係性が鮮明になるのは、人の動きが入ったときだ。間隔が変動している方立越しの人影は、ガラスで筒抜けの状態から、いくぶん隠されたようになり、また明快にとリズミカルに変化する。方立には厚みがある。
だから、今度はこちらがガラスに斜めに向き合うように移動すると、抑揚の波を保ちながら壁へと近づいてゆく。
 このオンデュラトワールと呼ばれる窓割は、コルビュジエが考案した寸法体系であるモデュロールをもとに、当時コルビュジエの事務所に勤務していたヤニス・クセナキスによってアレンジされた。現代音楽家としても知られる人物による時間の中の芸術。ここでコンクリートはガラスに直接に接合され、互角に渡り合っている。ほっそりとした線材に姿を変えながらも、動かしがたい存在感はそのままに、人の動きで奏でられる強靭な弦であり続けている。弱い木材や金属では果たせない役割だ。
 ラ・トゥーレットの修道院において、コンクリートは内外の関係を繊細に規定し、個々の場所を性格づける役目を担っている。
 中庭から見た3階レベルは矩形を組み合わせた造形。先ほどのオンデュラトワールと同様に、縦長の形に準備された回転窓で換気が可能だ。壁面の印象は最上部が最も重たい。この4・5階の細い横長窓の向こう側に廊下が通り、修道士の個室群にアクセスできる。同じデザインが3階の外周にも見られる。こちらの内側も廊下だ。館内見学の際、入り口から最初に通過する特徴的な空間である。どちらの廊下の幅も建物の規模の割には狭い。上下に短い窓は視界を限定し、光の帯をつくる。外光のみが入る窓が角に設けられ、前方に伸びる空間の性格を強めている。外部からの光景が種明かしだ。窓の造形を見ると、前方を隠しながら上部から光を取り入れる仕組みがよくわかる。
 コンクリートの造形は場所ごとに内部と外部との関係を特徴づける名脇役であり、人懐っこいキャラクターとなっている。紹介を続けると、4・5階の外周に突き出た庇はブリーズ・ソレイユ(日除け)として内外の環境を調整すると同時に、重々しい造形と小石を混ぜた仕上げを通じて、個々が独立して内面に向き合う場所としての個室という性格を物語っている。最初に見た円筒形の筒は、教会堂から続いた空間である礼拝堂に光を届けるのだが、向きがまちまちなので太陽の動きに伴う日差しの変化は一層強調されて、それぞれの内側でコンクリートの荒い地肌に塗られた色彩を変容させる。反対の中庭側では鋭角的な筒型が一列に空に向けられている。キャノン・リュミエール(光の大砲)という物騒な命名。それもおかしくない形の強さで、下部の聖具室などに光を導入している。そして、メインの教会堂では単純な長方体のヴォイドに対して、コンクリートの造形が最小で最大の効果を挙げている。穿たられた亀裂から割り込む外光は変わりゆくことで、コンクリートの素材感を変化させ、寸法では規定できない空間の体験を生む。ここで証明された線の多さや素材の多様性に頼らなくても内部空間の変化と劇性と精神性が獲得できるという事実は、やがて東洋の安藤忠雄という建築家によって展開されることになる。

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ラ・トゥーレットの修道院
竣工年│1960年
所在地│Route de la Tourette_69210 Eveux_,France
(撮影:倉方俊輔)
日曜の午後にガイドツアーが実施されている。
宿泊は8月とクリスマス休暇以外の時期に可能であるが、門限に注意

*****

 以前のコルビュジエは、このようにはコンクリートを使っていなかった。1920年代の作品は時に壁面に色彩を施し、抽象的な面の構成として扱っていた。本作でも設計当初は鉄骨による建設も検討されていたから、コンクリートの可能性だけに邁進していたわけではない。予算が限られていたのは事実で、仕上げを削減したきっかけはそこにあるだろう。また、竣工当初のコンクリートはもっと白く、シャープだったから、現在訪問して抱く感慨はオリジナルではなく、歳月による付加物に過ぎないと判断することもできる。
 しかし、すでに見てきたように、本作のコンクリートは決して仕上げの欠落ではなく、素材のもつ味わいの十分な発露となっている。コルビュジエは素材を抽象化し、幾何学化するのではないやり方を1930年代以降、試みていった。それらを総合し、豊かさを獲得する手法として説得力をもって提出したのがラ・トゥーレットの修道院と言える。
 即物性による豊かさは、コンクリート以外の素材にも通底している。植物の扱いもその一つだ。本作の屋根は薄い土の層で覆われ、勝手に草が生えている。コンクリートの湿度と温度を一定に保ち、熱による膨張と収縮から守るために屋上を庭園にするという主張は1920年代と同じだが、かつてのようなつくり込まれた屋上庭園からは変化している。各部に見られる電球をむき出しにした照明や鉄を曲げただけの手すりにも、乏しさゆえの味わいがある。少ない決定を研ぎ澄ませ、偶然に委ねるほどに、コンクリートの肌理や植物の表情のように対象の手触りが浮上する事実にコルビュジエは一層、覚醒したようだ。光という素材に対しても同じだ。概念では一つとして処理されてしまうものに含まれる手触りを愛で、単純さの中
にある豊かさを引き出し、過ぎゆく時間を慈しむように、刹那を知覚しようとしている。
 コルビュジエは老いたのだろうか?
 老いたのだろう。工業化・資本化が進行する第二次世界大戦後の世界で、清貧な修道院という過去のロマンに想いを託した建築。時代と隔たり、個人的な変化を反映させているのだから、彼に規範を求めていた人々は戸惑うばかりだ。
くらかた しゅんすけ

■倉方俊輔 Shunsuke KURAKATA
建築史家。大阪市立大学大学院工学研究科准教授。1971年東京都生まれ。著書に『東京レトロ建築さんぽ』『ドコノモン』『吉阪隆正とル・コルビュジエ』、編著に『吉祥寺ハモニカ横丁のつくり方』ほか。
生きた建築ミュージアム大阪実行委員会委員

表紙
『建築ジャーナル』
今年の『建築ジャーナル』誌の1月〜12月号の表紙を光嶋裕介さんが担当することになりました。
テーマはル・コルビュジエ。
一年間にわたり、倉方俊輔さんのエッセイ「『悪』のコルビュジエ」と光嶋裕介さんのドローイング「コルビュジエのある幻想都市風景」が同誌に掲載されます。ときの忘れものが企画のお手伝いをしています。
月遅れになりますが、気鋭のお二人のエッセイとドローイングをこのブログにも再録掲載します。毎月17日が掲載日です。どうぞご愛読ください。

●今日のお勧め作品は、光嶋裕介です。
20171017_05
光嶋裕介 《ベルリン》
2016年 和紙にインク
45.0×90.0cm   Signed
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜〜土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。

◆ときの忘れものは「細江英公写真展」を開催しています。
会期=2017年10月31日[火]―11月25日[土]
293

細江先生は秋の叙勲で旭日重光章を受章されました。
●会期中、細江英公サイン入り写真集を特別頒布しています。

◆ときの忘れものは「メキシコ地震被災地支援・チャリティー頒布会」を開催します。
201711mexico
会期:2017年11月28日(火)〜12月2日(土)
出品100点のリストは11月11日ブログに掲載し、予約受付を開始しました。
全作品、一律8,000円で頒布し、売上金全額を被災地メキシコに送金します。


●書籍のご案内
TAKIGUCHI_3-4『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』図録
2017年10月
ときの忘れもの 発行
92ページ
21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
価格:2,500円(税別)*送料別途250円
*『瀧口修造展 I』及び『瀧口修造展 II』図録も好評発売中です。


安藤忠雄の奇跡安藤忠雄の奇跡 50の建築×50の証言
2017年11月
日経アーキテクチュア(編)
B5判、352ページ
(NA建築家シリーズ 特別編 日経アーキテクチュア)
価格:2,700円+税 *送料:250円
亭主もインタビューを受け、1984年の版画制作始末を語りました。
安藤先生のサイン本をときの忘れもので扱っています。

六本木の国立新美術館では「安藤忠雄展―挑戦―」が開催されています。
会期:2017年9月27日[水]〜12月18日[月]
番頭おだちのオープニング・レポートはコチラを、光嶋裕介さんのエッセイ「安藤忠雄展を見て」と合わせてお読みください。
ときの忘れものでは1984年以来の安藤忠雄の版画、ドローイング作品をいつでもご覧になれます。

●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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◆ときの忘れもののブログは下記の皆さんのエッセイを連載しています。
 ・大竹昭子のエッセイ「迷走写真館 一枚の写真に目を凝らす」は毎月1日の更新です。
 ・frgmメンバーによるエッセイ「ルリユール 書物への偏愛」は毎月3日の更新です。
 ・小国貴司のエッセイ「かけだし本屋・駒込日記」は毎月5日の更新です。
 ・佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。
 ・杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。
 ・関根伸夫のエッセイ「〈発想〉について[再録]」は毎月12日の更新です。
 ・野口琢郎のエッセイ「京都西陣から」は毎月15日の更新です。
 ・倉方俊輔のエッセイ「『悪』のコルビュジエ」は毎月17日の更新です。
 ・小林紀晴のエッセイ「山の記憶」は毎月19日の更新です。
 ・清家克久のエッセイ「瀧口修造を求めて」は毎月20日の更新です。
 ・小林美香のエッセイ「写真集と絵本のブックレビュー」は毎月25日の更新です。
 ・スタッフSの「海外ネットサーフィン」は毎月26日の更新です。
 ・森本悟郎のエッセイ「その後」は毎月28日の更新です。
 ・笹沼俊樹のエッセイ「現代美術コレクターの独り言」はしばらく休載します。
 ・大野幸のエッセイ<ときの忘れもの・拾遺 ギャラリーコンサート>は随時更新します。
 ・植田実のエッセイ「美術展のおこぼれ」は、更新は随時行います。
  同じく植田実のエッセイ「生きているTATEMONO 松本竣介を読む」と合わせお読みください。
  「本との関係」などのエッセイのバックナンバーはコチラです。
 ・中村茉貴のエッセイ「美術館に瑛九を観に行く」は随時更新します。
 ・飯沢耕太郎のエッセイ「日本の写真家たち」英文版とともに随時更新します。
 ・深野一朗のエッセイは随時更新します。
 ・「久保エディション」(現代版画のパトロン久保貞次郎)は随時更新します。
 ・藤本貴子のエッセイ「建築圏外通信」は終了しました。
 ・森下隆のエッセイ「鎌鼬美術館——秋田県羽後町田代に開館」は終了しました。
 ・芳賀言太郎のエッセイ「El Camino(エル・カミーノ) 僕が歩いた1600km」は終了しました。
 ・夜野悠のエッセイ「書斎の漂流物」は終了しました。
 ・普後均のエッセイ「写真という海」は終了しました。
 ・八束はじめ・彦坂裕のエッセイ「建築家のドローイング」(再録)は終了しました。
 ・光嶋裕介のエッセイ「和紙に挑む」は終了しました。
 ・石原輝雄のエッセイ「マン・レイへの写真日記」は終了しました(時々番外編あり)。
 ・荒井由泰のエッセイ「いとしの国ブータン紀行」は終了しました。
 ・森下泰輔のエッセイ「戦後・現代美術事件簿」は終了しました。
 ・「殿敷侃の遺したもの」はゆかりの方々のエッセイや資料を随時紹介します。
 ・「オノサト・トシノブの世界」は円を描き続けた作家の生涯と作品を関係資料や評論によって紹介します。
 ・「瀧口修造の世界」は造形作家としての瀧口の軌跡と作品をテキストや資料によって紹介します。
土渕信彦のエッセイ「瀧口修造とマルセル・デュシャン」、「瀧口修造の箱舟」と合わせてお読みください。
 ・「関根伸夫ともの派」はロスアンゼルスで制作を続ける関根伸夫と「もの派」について作品や資料によって紹介します。
 ・「現代版画センターの記録」は随時更新します。
今までのバックナンバーの一部はホームページに転載しています。

杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第20回

杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」

第20回 軽やかなコンクリート


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今回はクールを拠点に活躍する女性建築家Angela Deuber(アンジェラ ドイバー)による学校建築を紹介しようと思います。

この学校建築は2013年に竣工。できて間もない頃に僕は一度訪れたことがあったのですが、夏休みの時期であったため中を見学することができませんでした。
実はこの間、Beton Suiss主催のコンクリート建築を対象にしたコンクール“Beton17”があり、1977年から四年ごとに開催されているその名誉あるコンクールで受賞したこともあって、再び気になってきてしまいました笑。ということで、今回は内部も見学できるようにきっちりとアポイントを取ってからの再訪です。


建築空間での体験は、その日の天気(とりわけ外光の状態)によって、季節や時間帯によって、また自身の体調や気分、時には一緒に訪れてまわる人が誰かによっても感じ方が大きく変わります。
雑誌やインターネットで見る建築写真やイメージは(図面でさえも)一見ニュートラルに建築を紹介しているようで、その投稿者である設計者、記者の意図によって上手く切り取られて固められた表現です。そうしてデザインの意図を正確に第三者に伝えることは作り手としてとても大切である一方で、良くも悪くも強い印象や先入観を与えてしまうこともあります。
それと比べて建築を見に行って出会うのは、“建築とそれにまつわる事柄が安定していない状態” です。そしてそこでの体験とは、建築とその周りの環境に次々と起こる、時に人間も含めた振る舞いのやり取りを見るようなものです。建築が開口部を通してどうやって移りゆく太陽の光を上手く取り入れ、室内に美しい光と影を現してくれるのか?同じ時間帯の同じ方向からの光でも異なる開口部を介することでドラマチックな強い光になったり、柔らかい優しい光になったりと建築は光を自在に変化させます。また建築は外の騒音をシャットアウトして室内に静寂をもたらしながらも、例えば書斎にあるグラモフォンから聞こえる演奏を心地良く響かせることができます。雨や雪の日に暖かい部屋で木材やコンクリートの少し湿った匂いを嗅いだ時、建築は確かに外の環境から自分を護ってくれているんだと感じることができます。

建築を生き生きと健康的に生き永らえさせるには建築と人と環境との間に良いコミュニケーションができているかどうかがとても大切なことだと僕は思います。実際に建築を訪れて、時には驚きがっかりしながらもその交流を見届け、また新たな発見をしていくことが多くの時間をかけてデザインし、大変なお金とまた労力をもって作られた建築に対する敬意と責任ではないでしょうか。



話を戻して学校を見ていきます。

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クール(Chur)から電車でオーストリア方面へ。国境手前の駅で一度乗り換えてザンクトガレン(St.Gallen)へ向かう途中の駅シュタート(Staad)で降ります。ここはボーデン湖に面していてお隣はオーストリア、反対側はドイツです。駅から緩い坂を登って少し降りてちょっとした谷間まで、10分くらいで目的の場所に着きました。

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外観の印象は三角形がなんだかいたるところにある。。です。その男らしい思い切りの良いデザインから女性建築家が設計したと初めに聞いた時は正直驚きました。構成はコンクリートでできた逆三角形のトラス壁が各階のスラブ(床)を支えて。。と思いきや(笑)その逆三角形の頂点が地面に着地していない!遠くから見ると逆さにした王冠が浮いているかのように見えます。

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実はこれがこの建築のミソです。逆三角形の頂点を支えている、上階から壁を通して頂点へ流れてくる力を下階スラブに流している“短い柱“は壁と比べて少しだけ室内側に引っ込んでいて、またガラスの反射も相まって外からはよく認識できません。木の窓枠全体は外からはしっかりと見え、短い柱を隠すために必要だった逆三角形頂点下部の垂直窓枠のところを特別扱いしていません。

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一方で室内からその柱を見ると外側から引っ込んでいる分よりも少しだけ遠慮がちに出っ張って、この柱は図形として逆三角形を邪魔していないよ。別の要素だよと話しかけるように振る舞っています。

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窓枠は室内から全体を視認できず、そのためY字のコンクリート構造壁が引き立ちます。
この小さなディテールが重たいコンクリートを三層積んでできている建物全体を外からは軽やかな浮遊感あるものに変え、中からは美しい構造の形を表す役目をしている。これは面白い建築だと僕は思いました。

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プランを見るととても単純です。建物正面から入って階段ホールがあり、四隅にクラスルームが配置されその間にサービススペースがあります。エレベーターや構造壁が他の非構造壁である白いレンガの壁よりもわかりやすく出っ張っているので、逆三角形壁と柱の時のように建築要素の主従関係をきっちり表している。設計者の意図がわかりやすく建築に現れています。

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各階にはバルコニーが一筆書きに回っていてクラスルームから出て駆け回って遊ぶこともできます。もちろんこれは避難経路として、2つある非常外部階段へつながります。

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建物はコンクリートの床壁天井、ドアや開口部には木材(おそらくカラマツ材)。室内の仕切り壁はレンガに漆喰仕上げです。床のテラッツォ仕上げはコンクリート床スラブの上に薄いコンクリート層をトッピングして作られたのではなく、構造スラブ自体をサンディングしてできています。バルコニー部分は叩き仕上げとしてスリップ防止としています。天井には音響のために木毛セメント板でできたアコースティックパネルがあり、筒型の照明と同じ形の吸排気口がありました。

全体を俯瞰してみるとコンクリート躯体がそのまま床壁天井となって仕上がっている、シンプルで原始的です。ところが案内してもらった校長先生に話を聞くと、竣工して一番初めに入った子供たちの建物に対する印象は“冷たい“だったようです。コンクリート打放しの見えとはいえ、断熱材を挟んだ二重コンクリ壁なので物理的にそう冷たいわけではなく、それは主にグレー色からくる印象です。
確かに規模が似ているヴァレリオ オルジアティの学校(Paspels)のクラスルームは木の仕上げであるし、ラファエル ズーバーの学校(Grono)は暖かみのある色のコンクリートでした。そう言えば、グレーコンクリートに異なる仕上げを施して、床も天井もライニング(Lining)がない学校建築は初めて見たかもしれません。

IMG07

竣工から四年、ようやく建物を使い倒していろんなモノも色も増えてきた。今は使っていてほとんど不自由はなく、あるとすれば何かをピン(画鋲)で刺すことのできる壁が少ないとのことでした。(コンクリートの壁は上手に教材や子供の絵画が貼られていたもののテープ貼りで、確かに取るのも貼るのも少し大変で放っておくと跡が付いてしまいます)

全体としてざっくりとしつつ細部も凝っている建築でとても勉強になりました。シンプルかつ意志の強い構成である分、建築家が戦った軌跡が見て取れます。
彼女の次の建築はどんなモノになるのか、とても気になってきました、楽しみです。


図面(3階平面図)はarchithese 2.2014より
その他写真は筆者より

すぎやま こういちろう

■杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にETH Zurichに留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同事務所勤務。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

●今日のお勧め作品は、菅木志雄です。
菅木志雄菅木志雄
「作品2」
1981年
シルクスクリーン
50.5x65.0cm
Ed.100
裏面にサインと限定番号あり

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください
■菅木志雄 Kishio SUGA(1944-)
岩手県生まれ。多摩美術大学油画科で学ぶ。在学中に斎藤義重と高松次郎に影響を受け、「もの派」グループの中心メンバーとなる。視角を操作する絵や立体作品の制作と同時に素材を使った《積層空間(1968)》のような作品制作を始める。1967年第11回シェル美術賞展1等賞受賞。1968年椿近代画廊で初個展。1970年第5回ジャパン・アート・フェスティバル大賞を受賞。ギャラリーのみならず、東京都現代美術館など各地の美術館で個展を開催する。海外での発表(1973年パリビエンナーレ、1986年ポンピドゥー美術館、1994年グッゲ ンハイム美術館等)も多い。夫人は詩人・小説家の富岡多恵子。

◆ときの忘れものは「細江英公写真展」を開催しています。
会期=2017年10月31日[火]―11月25日[土]
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細江先生は秋の叙勲で旭日重光章を受章されました。
●会期中、細江英公サイン入り写真集を特別頒布しています。

◆ときの忘れものは「メキシコ地震被災地支援・チャリティー頒布会」を開催します。
201711mexico
会期:2017年11月28日(火)〜12月2日(土)
出品100点のリスト:11月11日ブログに掲載
全作品、一律8,000円で頒布し、売上金全額を被災地メキシコに送金します。


●書籍のご案内
TAKIGUCHI_3-4『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』図録
2017年10月
ときの忘れもの 発行
92ページ
21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
価格:2,500円(税別)*送料別途250円

*『瀧口修造展 I』及び『瀧口修造展 II』図録も好評発売中です。


●六本木の国立新美術館で「安藤忠雄展―挑戦―」が開催されています。
会期:2017年9月27日[水]〜12月18日[月]
番頭おだちのオープニング・レポートはコチラを、光嶋裕介さんのエッセイ「安藤忠雄展を見て」と合わせてお読みください。
ときの忘れものでは1984年以来の安藤忠雄の版画、ドローイング作品をいつでもご覧になれます。

●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
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TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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◆杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。

佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」第10回

佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」

第10回 インドの先住民Santal-Kheladangaの人々の家づくりについて-その3



今年の3月にインド・シャンティニケタン郊外のケラダンガ村で開校したIn-Field Studioの動画を最近になってようやく公開した。なぜ半年も出し渋っていたのかと自分自身をいぶかしむが、結果この半年にも様々な思考の展開もあったのではとも思うのでそう悪いものでもないかもしれない。今回はこのあたりをもう一度ぐるぐると振り返ってみたい。


秋に差し掛かったころから、ほとんど毎日北千住のアートセンターBUoYという現場の改修工事を大工の青島雄大さんと一緒にやっており、そこではいくらか木工についての知見というか工夫の知恵を得ることができた。彼とは来月の12月末ころからインド・シャンティニケタンの家の建設も一緒にやってもらうことをお願いしているので、短期間ではあるがある連続した共同創作の径をたどることになる。日本からは鑿や鉋などの手道具だけを持って行き、インドの家の中である軸組の架構を組み立てる予定。先方には使用する材木の手配をすでにお願いしているが、実際にどんな材料がくるかは正直分からない。万が一、ヤシの木などのような恐ろしく硬い材が取り揃えられでもすれば、もちろん想定していた納まりの変更が必要となるだろうし、デザイン自体も変えざるをえない。けれども、現場でデザインを変えられる、洗練させられるということはとても重要なことだとも感じる。その作業は決して即興ではない。現場に身を置いて、四六時中一つのディテールデザインに注力するわけであるから、一般の事務所内設計の作業よりはよほど考えている。そして何よりも、隣の職人さん作業を見て、彼の墨付けや材料取りや刻みの入れ方などが自分の頭に叩き込まれるので、おのずと描いた図面の横にはその作り手の姿が想像され、デザインもごくごく自然に生まれてくる。そして部分の詳細は、昼メシや休憩などの合間にサッと相談して決めていく。
昨今の建築設計と施工とが乖離した状況はなかなかに厄介な問題だなと思う。設計、実施設計、そして監理業務を別の人間が行い、申請の手間などからもあらかじめ作成された図面通りに工事を進めざるをえない状況に変わっていっている。設計と工事との距離が離れてしまえばしまうほどに、互いの作業を想像する力が欠乏し、その無関心さ自体が実物となって表れ出てしまう。
それは明らかに建築の質に関わる問題だ。


インドでは、そんな機械的分業が未徹底な状況がまだ在る。というよりもそれぞれの職分が流動的で、現場でも職人らは皆多能工として基礎工事から仕上げまで一貫して関わり続ける。特殊な専門技術を要さない作り方で建築が作られ、プリミティブの原則が貫徹されているとも言える。行政への申請もA4の用紙数枚程度で、詳細の多くは現場が始まってから決定され、外壁工事が終わった今でも、まだ未決定の部分は多そうなので、来月ようやく現場入りができる我々からすればとてもありがたい。そんな環境があるインドがとても羨ましい。そんな魅力も感じてインドに積極的に入り込もうとしている。

1シャンティニケタンで建設している家の内部、未だ仕上げ工事はしていないが、この荒さをどう残すかが一番の肝かとも思っている。


2庭からの外観。窓廻りの金物の納まりというか、埋め込みの潔さと、使用する材料の少なさは、内部での木造架構でも応用したい。


そんなプリミティブの探求を、3月のIn-Field Studioで試みようとしていた。期間中に行った村内での建設作業は、地元のSantal族の村出身で大工を生業としているケレンという名の青年に、資材の調達や材料取りを教えてもらいながら行った。彼はガタリと現地で呼ばれる曲がった短刀のような刃物とを使ってなんでも切っていたし、持ち手を反対にしてトンカチとしても使いこなしていた。ちなみにガタリはほとんど同じ形のものが床に固定されて、キッチンでの包丁にもなっている。

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4竹の調達と材料取りを行う大工ケレン。


5ガタリという刃物。


先に紹介した動画の中では、参加者も含めて、材料と道具の単純さから生まれ出る様々な工夫が随所に記録されている。それらをどのように組み立てていくのか(論理的にも、ものづくりにおいても)が今後の課題である。
さとう けんご

■佐藤研吾(さとう けんご)
1989年神奈川県横浜生まれ。2011年東京大学工学部建築学科卒業。2013年早稲田大学大学院建築学専攻修士課程(石山修武研究室)修了。同専攻嘱託研究員を経て、2014年よりスタジオGAYA。2015年よりインドのVadodara Design AcademyのAssistant Professor、および東京大学工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。福島・大玉村で藍染の活動をする「歓藍社」所属。インドでデザインワークショップ「In-Field Studio」を主宰。
URL: http://korogaro.net/

●今日のお勧め作品は、安藤忠雄です。
20171107_andou_17_TateModern安藤忠雄
「テート・モダン」
2002年
シルクスクリーン
イメージサイズ:33.0x86.0cm
シートサイズ:75.0x106.0cm
Ed.15
サインあり


こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください

●書籍のご案内
TAKIGUCHI_3-4『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』図録
2017年10月
ときの忘れもの 発行
92ページ
21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
価格:2,500円(税別)*送料別途250円



●六本木の国立新美術館で「安藤忠雄展―挑戦―」が開催されています。
会期:2017年9月27日[水]〜12月18日[月]
オープニングのレポートはコチラをご覧ください。

●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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◆佐藤研吾のエッセイ「大地について―インドから建築を考える―」は毎月7日の更新です。

スタッフSの海外ネットサーフィン No.56「Japanorama. A new vision on art since 1970」

スタッフSの海外ネットサーフィン
No.56「Japanorama. A new vision on art since 1970」


 読者の皆様こんにちわ。多少涼しくなったかと思えば執拗にぶり返してきた熱気もようやくなりを潜め、秋とはなんぞやと言わんばかりに急に冬めいて行く今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。周りがジャケットやコートを着ていても、自分だけは袖捲りのシャツ一枚で相も変わらず季節感がないこと甚だしいスタッフSこと新澤です。

 今回の記事では現在フランスのポンピドゥ・センター・メスで開催されている「Japan-ness. Architecture and urbanism in Japan since 1945(ジャパンネス、日本近現代建築展にみられる建築家によるドローイングの変遷)」をネタにさせていただこうと考えていたのですが、既に二週間前に同展覧会のカタログにも寄稿され、オープニングにも出席された建築家の今村創平さんが事細かに記事を書いてくださっているため、先週末から開催しているもう一つの日本関連の展覧会を、ポンピドゥ・メスと合わせてご紹介させていただきます。

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 ポンピドゥ・センター・メスは2010年にルクセンブルグとドイツにほど近い、ロレーヌ地方のメスにオープンした美術館です。その笠のようなユニークな外見や、雨水を貯めて庭で再利用するなどエコロジーを意識したデザインは、建築家・坂茂とジャン・ド・ガスティーヌの日仏共同設計によるもの。
 名前の通りポンピドゥ・センターの分館であるこの美術館は、パリの本館より優先的に作品を都合してもらえる特権を有しており、併設の劇場やホールではショーや講演会、映画上映、コンサートなども定期的に行われ、現代美術の拠点として地方都市へ文化や経済を分散させるプロジェクトの成功例として評価されています。

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 このポンピドゥ・センター・メスで今月20日(金)から来年の年3月5日(月)まで開催中なのが「Japanorama. A new vision on art since 1970(ジャパノラマ 1970年以降の新しい日本のアート)」。同時開催中の「Japan-ness. Architecture and urbanism in Japan since 1945」と同じく、国際交流基金(ジャパンファウンデーション)との共催で、東京都現代美術館参事・長谷川祐子氏をキュレーターに、約100人・組の作家による350点あまりの作品を展示する大展覧会です。
 展覧会は1970年の大阪万博以降、戦後の欧米影響から自由となった日本の芸術、視覚美術を概観的に俯瞰することをテーマとしており、1995年の阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件、2011年の東日本大震災等、各時代の出来事に合わせて変遷してきた日本美術の流れを各時代の作品を通してみる事が出来ます。
 ときの忘れものの取り扱い作家である赤瀬川源平草間彌生田中敦子横尾忠則の作品も出品されており、もの派や日本概念派等のムーブメントを個別に見るのではなく、70年代以降の日本美術史におけるそれぞれの立ち位置を俯瞰できる貴重な企画です。

(しんざわ ゆう)

ポンピドゥ・センター・メス展覧会公式サイト(英文)

国際交流基金展覧会紹介ページ

*画廊亭主敬白
駒込に移るときには極力皆さんに移転通知を出し、メールでもお知らせしたのですが、昨日もある女性の方から「青山に久しぶりに行ったのに無くて・・・ おたく移られたのね」と電話をいただきました。お知らせが行き届かなくてすいません。
海外の方もAOYAMA=Toki-no-Wasuremonoというイメージが強いようで、なかなか駒込が浸透しません。華やかなファッションの街から地味な住宅街に移転し、来る人もないのではと案じておりますが、昨日は秋田や金沢からのお客様も(嬉しいです)。二階図書室にある本はすべて売り物ですが、金沢からいらした本好きなUさんは、ベルグランのピカソのカタログや京都の銀紙書房のレア本まで本棚から発掘し、大枚6万円もお買い上げいただきました。感謝!

●図録を刊行しました
TAKIGUCHI_3-4『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』図録
2017年10月
ときの忘れもの 発行
92ページ
21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
価格:2,500円(税別)*送料250円


中村美奈子さんが瀧口修造にオマージュした文鎮を制作しました。
中村美奈子 文鎮こげ茶、赤、緑、オレンジの4色あります。
一個:大5,500円 小5,000円(税別)
二個組:10,000円(税別)
三個組:14,000円(税別)
紙ケース付、送料は一律500円(何個でも)。
瀧口ファンならずとも手元に置きたくなるような色彩豊かな佳品です。特別頒布中ですのでどうぞご注文ください。


●六本木の国立新美術館で「安藤忠雄展―挑戦―」が開催されています。
会期:2017年9月27日[水]〜12月18日[月]
オープニングのレポートはコチラをご覧ください。

●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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磯崎新+アニッシュ・カプーア「アーク・ノヴァ」が東京ミッドタウンに登場

先日植田実先生と綿貫さんと令子さんと私の4人で、東京ミッドタウン芝生広場に現れた移動式コンサートホール「アーク・ノヴァ」に行き、「ルツェルン・フェスティバル」を鑑賞してきました。

アーク・ノヴァは、磯崎新先生とアニッシュ・カプーアさん制作によるもの。
ドーナツ状に膨らんだ紫色のそれは高さ18m、幅30m、奥行36mの大きさで、滑り台として遊べそうな大きな遊具にも見えます。これがコンサートホールだなんて、想像もつきません。一体この構造はどうなっているのだろう???と興味をそそります。

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「アーク・ノヴァは、塩化ビニールでコーティングされたポリエステル製の膜が1時間ほどの送風でドーム状に膨らみ、折り畳んで トラックで輸送できるように設計されている空気膜構造の建築です。
空気膜構造の外皮は輸送に適した軽量性を持った素材であり、同時に自由な形状をとることができます。ステージや客席などのホールの構成要素は輸送・再設営に配慮した規格で構成され、494名収容できるこのホールでは、2013年から2015年にかけて、松島、仙台、福島の3か所で展示され、コンサートやワークショップなどが行われました。」(TOKYO MIDTOWN HPより引用)

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内部空間はピンク色で、まるで胎内にいるような感覚。照明の数はそんなにありませんが、中は結構明るいです。

空気はどこから入っているのかと一周してみると、会場の裏に送風機がありました。
それにしても風だけでこの大きさのものを膨らまし、約2週間維持するのは簡単なことではないはずです。
風で少しは撓んだりするのかな?と思っていましたが、かなりパンパンに張っているように見えました。

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この日はピアノ、フルート、トランペット、トロンボーンの4名の奏者で行なわれたコンサートでした。音響はどうなのかな?と気になっていましたが、それぞれの音がドーナツ状の内部空間に充満し、心地よく響いていました。

会場内は暑いという噂もありましたが、私たちが訪ねた日は曇り空で少し肌寒い日だったため、快適に1時間ほどを過ごしました。

この不思議な空間を体験でき、記憶に残るひと時を過ごせました。

おだち れいこ

磯崎新+アニッシュ・カプーア「アーク・ノヴァ
「ルツェルン・フェスティバル アーク・ノヴァ 2017 in 東京ミッドタウン」
開催期間:9月19日(火)〜10月4日(水)
場所:ミッドタウン・ガーデン 芝生広場
主催:東京ミッドタウン
特別協力:ルツェルン・フェスティバル
ラテン語で「新しい方舟」を意味する「アーク・ノヴァ」は、スイスの音楽祭「ルツェルン・フェスティバル」が東日本大震災の復興支援のために企画し、 建築家の磯崎新と英国人彫刻家のアニッシュ・カプーアによって制作された移動式のコンサートホール。高さが18m、幅30m、奥行36mと巨大であり、494名を収容することができる。塩化ビニールでコーティングされたポリエステル製の膜は送風によってドーム状に膨らみ、 折り畳んでトラックで輸送できるように設計されている点が特徴だ。
「アーク・ノヴァ」は、2013年から2015年にかけて、松島、仙台、福島の3か所で計3回展示されており、コンサートやワークショップで延べ1万9千人を動員してきた実績がある。

●本日のお勧め作品は磯崎新です。
磯崎新「闇1」小磯崎新 Arata ISOZAKI
「闇 1」
1999年 シルクスクリーン
イメージサイズ:58.3×77.0cm
シートサイズ:70.0×90.0cm
Ed.35  サインあり

礒崎新「闇2」小磯崎新 Arata ISOZAKI
「闇 2」
1999年 シルクスクリーン
イメージサイズ:58.3×77.0cm
シートサイズ:70.0×90.0cm
Ed.35  サインあり

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


■『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』を刊行しました。
瀧口修造展 I』、『瀧口修造展 II』よりページ数も増えました。
2017年10月末までにお申し込みいただいた方には特別価格:2,500円(税、送料サービス)でおわけします。メールにてお申し込みください。請求書を同封して代金後払いで発送します。
E-mail. info@tokinowasuremono.com

TAKIGUCHI_3-4『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』
2017年
ときの忘れもの 発行
92ページ  21.5x15.2cm
テキスト:瀧口修造(再録)、土渕信彦、工藤香澄
ハードカバー  英文併記
デザイン:北澤敏彦
掲載図版:65点
通常価格:2,500円(税別)、送料250円

目次(抄):
・Personally Speaking 瀧口修造(再録)
・マルセル・デュシャン語録について 瀧口修造(再録)
・檢眼圖 だれの証拠品、だれが目撃者? 瀧口修造(再録)
・私製草子のための口上 瀧口修造(再録)
・「オブジェの店」を開く構想に関するノート 土渕信彦
・マルセル・デュシャンとマルチプル 工藤香澄

◆ときの忘れものは「安藤忠雄展 ドローイングと版画」を開催しています。
会期:2017年9月26日[火]〜10月21日[土] 11:00〜18:00 ※日・月・祝日休廊
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●六本木の国立新美術館で「安藤忠雄展―挑戦―」が開催されています。
会期:2017年9月27日[水]〜12月18日[月]
オープニングのレポートはコチラをご覧ください。

●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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倉方俊輔のエッセイ「『悪』のコルビュジエ」 第9回

倉方俊輔のエッセイ「『悪』のコルビュジエ」

第9回 孤立するモダン ロンシャン礼拝堂


倉方俊輔(建築史家/大阪市立大学准教授)


画:光嶋裕介(建築家)
原画

 ロンシャン礼拝堂は、1955年に献堂された時から突出していた。一見して、既存のルールから外れていた。キリスト教の礼拝堂には見えなかった上に、それまでのル・コルビュジエの作品にも、一般化できる要素とできない要素とが混じり合っていたが、これほどまでに、来たるべき世界の普通を作品から抽出しようという思いを裏切るものはない。では、これは何であるのか。未来でないとしたら、彼はどの過去に戻ったのか。表現主義? 古典主義? あるいは実はモダニズムを内包しているのだろうか? ロンシャン礼拝堂が、それまでコルビュジエに共感していた同時代の建築家や批評家たちを戸惑いの渦に巻き込んだとはよく言われる形容だが、今見ても、やはりそうだっただろうと思う。
 完成から60年以上経った今でも突出し、孤立した存在であることには変わりない。結局、このような作品が世界の現代建築の潮流となることは ―形態などほんの一部の類似を除いては― なかった。では、逆に過去の建築の潮流に帰属させられたかというと、それも無理だった。
 もちろん、パルテノン神殿から地中海沿岸のヴァナキュラー建築、中世の修道院や船舶まで、さまざまなモチーフが意識と無意識の狭間を横切って流れ込んでいることは、研究者たちの努力によって明らかにされている。アーカイブに保管されている図面の描線1本が、仔細な寸法が、樋やドアノブといった細部が、標本を解剖するかのように検討された結果だ。研究がどんなに生真面目で部分的に見えても、根本には「これは何であるのか」という衝撃が存在しているだろう。この一つの建築は人を突き動かし、豊穣に生産してきた。
 そして、何であるかを一言で言い表すことは、ますます困難になった。多種多様な要素がここで一つに集まっているという特異点としての性格はいっそう強まった。あくまでもピン留めされることを拒否し、コルビュジエの作品の系譜の中でも孤立している。彼自身も賢明なことに、同様のものを繰り返さなかったのだ。
 これがキリスト教の礼拝堂だという事実は、孤立の理由の一つではあるだろう。研究者のウィリアム・J.R. カーティスは、最初に設計の話が来た時、コルビュジエがすでに教会は「死滅した制度」だと主張して辞退したことに触れ、「このばかげた返答は、マグダラのマリアが晩年を過ごしたといわれるエックス・アン・プロヴァンス近郊のサント・ボームに建つ神殿の計画案が拒否されたという不快な経験とおそらく無関係ではないだろう」と推測している(※1)。ロンシャン礼拝堂の以前に考えたキリスト教の建築は、この実現しなかった計画のみだった。死滅したもの、と考えたら、何でも可能だ。コルビュジエは、ここから新たに始めることにした。

*****

 屋根の形がまず目を引く。これを上手に例えられれば、これが何であるのかを言い当てられそうだが、屋根はあらゆる方向で姿を変える。結局、既存の特定のものに当てはめることを諦めなくてはならない。
 重いようで軽いような屋根だ。その厚みと打ち放しコンクリートの表面は、物体としての存在感を感じさせる。似たものは土木構造物のような実物しか思い付かない。圧倒的でありながら、浮いているから不思議なのだ。壁は、実際には純白を使うことはまれだった1920年代の「白の時代」の壁よりも真っ白く、小石を混ぜた吹き付け塗装を施すことで、何でつくられているかを体感させる。抽象的な平面ではないのだ。
 そんなわけで、ともに構築的な表情でありながら、別々の要素であることが強調された屋根と壁とは、鋭いコントラストをなすでも、合一するわけでもなく、戯れる。屋根と壁の間にスリットが開いているのが、外観からも分かるだろう。庇のように屋根が壁に優まさって重く立ち込めたかと思えば、裏手では屋根は見えなくなる。塔は両者の間にある。ある方向からは壁に連続し、別の方向からは屋根の曲面と共鳴する。重力と無重力の間を、形は行き来しているのだ。
 結びつけられることと離れることとが一つになっている。それは周辺環境との関係も同じだ。ロンシャン礼拝堂は、彫塑的である。先にも触れたように、既存のルールから離れて超然としているというだけでなく、先のようにぐるりと一周して観察できるほどに周囲から見られる建ち方だ。軽やかに、彫塑的に、周囲から浮き上がっているとひとまず言える。
 同時に周囲に、重く結びついている。もちろん「させられている」のではなく、自ら選択「している」のだ。重力や素材との関係と同様に、第二次世界大戦後のコルビュジエは、離れることの一辺倒ではなく、あえて結びつくことへと自由の領域を拡張した。
 張り出した屋根の下は外部礼拝のための場所である。それだけではなく、歩き回れば、それぞれの壁が周囲の地形とともにあることに気づく。建物はいわば外部を囲い込み、領域をつくり出しているのだ。これは彫塑的であることと矛盾しない。光の変化を際立たせる造形は、時間や季節に応じて周囲それぞれが持つ個別の性格を強調している。建設されることによって、この敷地はよりこの敷地らしくなっている。どこにでも移動可能な彫塑ではなく、周囲に緊結された1回限りの建築なのだとわかる。
 内部に進もう。外部とは異なる空間がある。しかし、明確なコントラストで、建物という領域に閉じたドラマを生み出すことはない。屋根も壁も、基本的には外部の正直な反転である。歩き回るにつれて、バラバラな体験が一つに結ばれることも外部での経験を思い起こさせる。厚い壁に穿(うが)たれた窓は、光を増幅する装置である。 窓ガラスに文字が手書きされている。いくつか読んでみよう。「Je vous salue marie」(マリアに敬意を)、「mere Dieu」(母、神)、「Lamer」(海)。言葉は礼拝堂のマリア信仰と共鳴しながら、ある者を信仰へ、ある者を形態のさらなる読み解きへと誘う。連想の効果が導入されている。
 壁の一部には、第二次世界大戦で破壊された以前の礼拝堂の石積みが使われている。コルビュジエはここが古くからの巡礼の地であり、かつて古代の神殿があったことに注意を喚起している。
 ロンシャン礼拝堂は、環境の中の装置としてある。自然を反映して周囲のランドスケープを強調し、これまで築かれてきた文化・言語の連想を利用し、場所の歴史を引き受けている。根本にあるのは造形であって、それが言葉以上に人々を善導することを設計者は信じている。礼拝堂は都市の中にあるのではないが、孤独なモニュメントではない。内部・外部を通じた人の集まりが想定されている。共同体への信仰は、ここでも健在なのだ。

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ロンシャン礼拝堂
竣工年│1955年
所在地│Colline de Bourlemont 70250 Ronchamp, France
(撮影:倉方俊輔)
季節によって公開時間が異なるが、一般に公開されている。
カトリックで聖母マリア生誕の日とされている9月8日と被昇天の8月15日に多くの信徒が集まる

*****

 ロンシャン礼拝堂は、この場所のさまざまなものと結びついて、個として建っている。モダンなのである。「モダン(modern)」は、ラテン語の「ちょうど今」が由来。まさに今、何をしたら良いかを先入観抜きに考える態度だ。過去からも考えないし、未来のルールをつくるためにあるのでもない。
 コルビュジエは礼拝堂という対象に、空(から)の姿勢で向きあった。この場所にある環境、歴史、用いられる資材。そして、連想できるさまざまなものを結び合わせたのである。現実主義と理想主義は手を携えるものであり、それに反するのはルールに縛られたものである。ここにあるのは設計者の誠実さがもたらした孤立だ。建設以来、多くの要素が読み解かれ、傑作として認識されている。
 しかし、ルールがないのだとしたら、それが良いものであることが、どうやって建設以前に算定できるのだろう。建築家への全権委任状ではないか。コルビュジエは恐ろしいことにモダンがルール化ではなくて、逆だということを示してしまった。傑作によって、世界中の建築家に勇気を与え、一定の者をその方向性に走らせ、そして建築家の「悪」がやがて反省させられることの根源かもしれない。

※1…ウィリアム・J.R. カーティス著、中村研一訳『ル・コルビュジエ̶理念と形態』(鹿島出版会、1992)p.203

くらかた しゅんすけ

■倉方俊輔 Shunsuke KURAKATA
建築史家。大阪市立大学大学院工学研究科准教授。1971年東京都生まれ。著書に『東京レトロ建築さんぽ』『ドコノモン』『吉阪隆正とル・コルビュジエ』、編著に『吉祥寺ハモニカ横丁のつくり方』ほか。
生きた建築ミュージアム大阪実行委員会委員

◆倉方俊輔のエッセイ「『悪』のコルビュジエ」は毎月17日の更新です。

表紙
『建築ジャーナル』
今年の『建築ジャーナル』誌の1月〜12月号の表紙を光嶋裕介さんが担当することになりました。
テーマはル・コルビュジエ。
一年間にわたり、倉方俊輔さんのエッセイ「『悪』のコルビュジエ」と光嶋裕介さんのドローイング「コルビュジエのある幻想都市風景」が同誌に掲載されます。ときの忘れものが企画のお手伝いをしています。
月遅れになりますが、気鋭のお二人のエッセイとドローイングをこのブログにも再録掲載します。毎月17日が掲載日です。どうぞご愛読ください。

●10月6日はル・コルビュジエの誕生日でした(Le Corbusier、1887年10月6日 - 1965年8月27日)。
生誕130年を祝う、今日のお勧め作品はル・コルビュジエです。
20171017_corbusier_31ル・コルビュジエ
《二人の女》
1938年
リトグラフ
イメージサイズ:17.6×26.7cm
シートサイズ:38.5×50.2cm
Ed.100
サインあり

こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください
ときの忘れものの通常業務は平日の火曜〜土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。

◆ときの忘れものは「安藤忠雄展 ドローイングと版画」を開催しています。
会期:2017年9月26日[火]〜10月21日[土] 11:00〜18:00 ※日・月・祝日休廊
201709_ando

●六本木の国立新美術館で「安藤忠雄展―挑戦―」が開催されています。
会期:2017年9月27日[水]〜12月18日[月]
オープニングのレポートはコチラをご覧ください。

●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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西では横尾忠則展が休止、東では安藤忠雄の悪戦苦闘

先日、某美術館の学芸員から電話がありました。
学芸員氏「お聞きかと思いますが、先日の大雨で・・・いや作品は大丈夫です。」
亭主「(何のことだかわからず)?」
学芸員氏「ワタヌキさんからお借りした横尾作品、いま神戸に巡回中なのですが、美術館に雨漏りがして、急遽作品を引き下げて展示を休止しています。」
えっ 雨漏り?!
テレビがないもんで、そんな被害が出ているとは知りませんでした。
急いで横尾忠則現代美術館のホームページを開くと、

先日(9月16日、17日)の台風18号等に伴う風雨により、
展示室の一部などに雨漏りが発生しました(作品に被害はありません)。
雨水排水管の劣化等が原因であり、改修工事が必要となったことから、
下記のとおり臨時休館いたします。
ご理解、ご協力のほどよろしくお願いいたします。
○展覧会「横尾忠則 HANGA JUNGLE」(9/9〜12/24)の休止  
2017年9月28日(木)〜改修工事終了まで(10月下旬の見込み)
>とありました。

心よりお見舞い申し上げます。

そんなわけで、ご案内するのをすっかり忘れておりました。
神戸で横尾忠則展が開催されています(ただし現在休館中)。
この美術館は、兵庫県立美術館王子分館(旧兵庫県立近代美術館、村野藤吾設計)の西館をリニューアルしたもので、2012年11月に開館しました。
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「横尾忠則 HANGA JUNGLE展」
会期:2017年9月9日[土]〜12月24日[日](ただいま臨時休館中
会場:横尾忠則現代美術館
   〒657-0837 神戸市灘区原田通3-8-30
〜〜〜〜〜

一方こちら東京六本木・国立新美術館の「安藤忠雄展―挑戦―」、ある程度は予想していましたが、建築家の個展がこれほどの大反響を呼び、多くの人をひきつけるのはなぜでしょうか。
新国立競技場問題や難渋極まりない渋谷駅では四面楚歌、ネット上で袋叩きに遭っているにもかかわらず、今回の展覧会についてはほぼ絶賛の嵐です。
連動して、隣の東京ミッドタウンにある21_21 DESIGN SIGHTで「安藤忠雄 21_21の現場 悪戦苦闘」が始まりました。
おかげさまで駒込のときの忘れものにも連日たくさんのお客様にいらしていただいています。
国立新美術館(黒川紀章設計)から、歩いて21_21 DESIGN SIGHT(安藤忠雄設計)へ回り、地下鉄を乗り継いで駒込のときのわすれもの(阿部勤設計)にいらっしゃることをお勧めします。
20171013安藤忠雄_裏
「安藤忠雄 21_21の現場 悪戦苦闘」
会期:2017年10月7日[土]〜10月28日[土]
会場:21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3
   東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン
時間:10:00〜19:00
休館:火曜
21_21 DESIGN SIGHTは2007年、安藤忠雄が設計した建物で開館しました。21_21 DESIGN SIGHTの創立者である三宅一生と、かねてから日本のデザインの未来について語りあってきた安藤は、三宅の服づくりの根底にある「一枚の布」の考え方をふまえ、「一枚の鉄板」を折り曲げたような屋根が特色の建物を設計。建築の隅々には、日本の優れた技術力や職人の緻密な技が活かされています。
本プログラムでは、その様子に焦点をあてた2007年の21_21 DESIGN SIGHT特別企画「安藤忠雄 2006年の現場 悪戦苦闘」で紹介した建築の初期アイデアやスケッチ、建設現場の写真や映像の一部を再びご覧いただけます。また、本建築に関連するオリジナルグッズをはじめ、安藤忠雄に関する書籍などを揃えた期間限定のショップも登場します。
「発見と出会いの感動が生まれる場」に向けて安藤忠雄が試みた建築の魅力を、今年3月に誕生したギャラリー3の空間とともに堪能いただける機会です。(21_21 DESIGN SIGHT HPより転載)
〜〜〜〜〜

この秋、ときの忘れものはイベントが目白押しです。ぜひご参加ください。

10月27日(金)18時〜中尾拓哉ギャラリートーク<マルセル・デュシャン、語録とチェス>
*要予約:参加費1,000円
『瀧口修造展 III・IV 瀧口修造とマルセル・デュシャン』刊行記念
同図録10月末までにお申し込みいただいた場合は特別価格:2,500円(税、送料サービス)でおわけします。メールにてお申し込みください。請求書を同封して代金後払いで発送します。

10月31日(火)16時〜「細江英公写真展」オープニング
細江先生を囲んでのレセプションはどなたでも参加できます。

11月8日(水)18時飯沢耕太郎ギャラリートーク<細江英公の世界(仮)
*要予約:参加費1,000円

11月16日(木)18時より 植田実・今村創平トーク<ジャパンネスのこと、都市住宅のこと>
現在フランスで開催中の<ポンピドーセンター・メス「ジャパン・ネス 1945年以降の日本における建築と都市」の報告をするとともに、建築展覧会のあり方、建築の表現についてお話をします。また、同展にてフォーカスされた建築雑誌『都市住宅』について、同展での展示の狙いなど、同誌の元編集長植田実さんとお話しします。(今村創平)
*要予約:参加費1,000円

ギャラリートークへの参加希望は、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記の上、メールにてお申し込みください。twitterやfacebookのメッセージでは受け付けておりません。当方からの「予約受付」の返信を以ってご予約完了となりますので、返信が無い場合は恐れ入りますがご連絡ください。
E-mail: info@tokinowasuremono.com

●今日のお勧め作品は、横尾忠則の初期名作と、安藤忠雄の版画処女作です。
20171114_yokoo2横尾忠則
作品集〈今日の問題点〉より
《写性》
1969年
シルクスクリーン
イメージサイズ:19.0×13.6cm
シートサイズ :19.8×19.8cm
Ed.70  サインあり


12安藤忠雄
《SCENE I/WALL》
1984年 シルクスクリーン
Image Size: 38.0×38.0cm
Sheet Size: 65.0×50.0cm
Ed.150  サインあり
*現代版画センターエディション
こちらの作品の見積り請求、在庫確認はこちらから
※お問合せには、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記してください


◆ときの忘れものは「安藤忠雄展 ドローイングと版画」を開催しています。
会期:2017年9月26日[火]〜10月21日[土] 11:00〜18:00 ※日・月・祝日休廊
201709_ando

●六本木の国立新美術館で「安藤忠雄展―挑戦―」が開催されています。
会期:2017年9月27日[水]〜12月18日[月]
オープニングのレポートはコチラをご覧ください。

●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜18時。日・月・祝日は休廊。

JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。
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杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」第19回

杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」

第19回 祝祭の時間


今回は先月15日からブレゲンツ美術館(Peter Zumthor設計)で開催されている展覧会について紹介しようと思います。(概要はKunsthaus Bregenzも参考にしてください)

ブレゲンツ美術館は、スイスとドイツ、オーストリアが接するボーデン湖沿いのオーストリア側にある街ブレゲンツにある市立美術館で、ピーターズントーの代表作の一つとして知られています。(詳しくは過去の記事にて)
1997年に竣工し2017年の今年はオープン20周年の節目にあたるため、美術館はズントー事務所に展覧会を打診しました。実は10周年であった2007年にもピーターズントー展が行われ、その際は主に建築プロジェクトを説明する大きな模型とドローイング、インタビューで展示が構成されました。それもあってか今回はズントー建築を説明し紹介するいわゆる“建築の展覧会“ではなく、ズントー自身がキュレーターとなって展覧会をオーガナイズするという趣旨で始めから一貫して進められていきました。

具体的な企画とデザインがスタートしたのは今年に入ってからでしょうか。まずは美術館の縮尺1/50の簡単な空間模型をコンクリートで作り、(日本で言うところの)1階から4階までの各階にどういった展示企画を入れていこうかと話し始めます。この段階から後に1階はコンサートホール、2階は写真展、3階は図書室、4階はガーデンとほぼ案は固まり、では誰が何をどうするかというトピックに移りました。

タイトルはDear to me。込められた意味としては、ピーターが気に入って大切にしているモノや事柄を共有できる場所にしたいということです。ピーターの息子はドラムをメインの楽器として身の回りのモノを扱って音を創り出すミュージシャン。その彼が演奏家をオーガナイズして主に1階で行われる演奏会のプログラムを詰めていきます。全体のマネージメントはピーターの義理の娘が舵取りをし、建築制作的な部分は僕の担当に決まりました。

ズントーはパンフレットの冒頭の言葉で次のように語っています。
Denken ist eine Linie, Emotionen sind Raum.
Ich liebe das Denken in Bildern.
Räume schaffen können, die berühren,
wie gewisse Passagen in der Musik von Mahler oder Wagner,
komponiert mit den Mitteln von Schönberg oder Webern,
mit der Energie und Transparenz von Strawinski — das wäre schön.
Aber jetzt ein Fest!

思考は直線的で、感覚は空間的だ。
(図面に描かれた思考の線は、建築空間となって感動を呼ぶ)
私は情景を思い浮かべながら考えることが好きだ。
グスタフ・マーラーやリヒャルト・ワグナーの音楽にある音符群のように、
アルノルト・シェーンベルクやアントン・ヴェーベルンが編曲で行なったように、
イーゴリ・ストラヴィンスキーの曲がエネルギッシュで透明感があるように、
建築空間も創られ、そして人の心を動かすことができる。そうあって欲しいと思う。
さぁ祝祭の時間だ!(筆者訳)



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1階はグランドピアノのあるステージが中心にあります。ステージ上部には音響のために天井板が吊られ、建物の主構造であるコンクリート壁にも抽象的な幾何学の音響パネルがいくつか取り付けられています。ステージの周りにはレッドカーペットが敷かれ、どこかの授賞式のようにこれが“フェスティバル“であることが敢えて強調され、その上に今回の展示のために特別にデザインされた四種類の色と素材(深いオレンジ、青緑色、濃紫のベルベットと気紛れな生地のレザー)のアームチェアとスツール、そして二種類の素材(楓と洋梨の木)と大きさの異なる円形テーブルがあります。

IMG 07

これらの家具は以前紹介した家具メーカーが中心となって制作されました。

美術館にまず入るとバーカウンターがあり、そこでチケットを購入しフリードリンクを受け取ります。演奏やディスカッションがないときでも、休日の朝にゆっくりとカフェを愉しみに来てもいい、なんて少し気取って行ってみたくなる(笑)ようなで場所であり、また同時にカジュアルな親しみやすさもあります。それはひとえに天井が高いということにとても関係しているのではないでしょうか。
6メートル20センチある天井高さと400平米強の広い空間は通常の建物ではなかなかあり得ないワンルームの大きさで、カフェとして使うにはとても贅沢。ぽかーんとした心地良い静けさとガラスを通して入ってくる朝の柔らかな光が “こういう大きな気積のあるカフェをいつも設計したかったんだ。やっぱり良いね“ と思わず口に出したい気持ちにさせます。少し奥まったところには映像作家がまとめたピーターのインタビュー(計30分)があり、ヴァルスの温泉施設を設計した若い頃の貴重なインタビューなども視聴することができます。



IMG 03

2階はクラシックな展示空間で作品数はあまりないため、ブレゲンツ美術館の光と空間のコンセプトがよく見て感じられます。壁にはヘレン・ビネット(Hélène Binet)によって撮影された、ギリシャのランドスケープアーキテクト(Dimitris Pikionis)がデザインしたアテネにある舗装路の写真、ピーターのお気に入りです。作品の由来はともかくとしても、光と陰がモノクロによっては強調され、ヌメッとした舗装石の表情がぐっと感覚を惹きつける非常に力のある写真です。
写真レイアウトは当初計画したものから写真家自身が会場で変更し、一瞬アレっと思うほどの余白があります。配置を移動したい衝動に少しだけ駆られながらも、確かにこの写真は間隔を狭めて並列して展示するには強すぎるな。という気持ちにもさせてくれる。僕がとても感心してしまったのは、自分からはこうしない(勇気がなくてできない)だろうという微妙な、同時に絶妙な余白だからです。

中心にはオルガ・ノイヴィルス(Olga Neuwirth )による30分ほどの新曲がオルゴールとなっています。オルゴールなんて見たのも久しぶりだなぁ。とニヤッとさせてくれる遊び心があり(笑)、その穴の空いた約16mの紙は空中に滑らかな曲線を描いて天井から3点で支持されています。この綺麗な曲線は狙ったものではなく、はじめ単純に3点で吊ってチューリップのイラストみたいにしてみたらオルゴールが上手く回せず、試行錯誤のうちにたまたまできた形なのです。僕たちは恣意的に形をデザインすることを極力避けているのですが、こうした“出来てしまった形“が“作った形“よりも美しく見える瞬間がとても心地よいです。(とはいえ1階の壁にあるアコースティックパネルは若干、形が前にでてきていますが。。。)



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3階は僕たちの事務所があるハルデンシュタインの隣り街(Chur)にある古書店のオーナーから借りた約40,000冊の本からなる図書室です。本棚は黒MDFで簡単に作られ会場でビス打ちして組み立てられ、高さ3メートル弱、三種類の幅があります。その本棚をまるで多角形で円を描くようにしてアレンジして中心に読書スペースを作り、時にはそこで小さな演奏会や作家による読み聞かせなどのイベントを行います。
この約40,000の本は傍からみるとほとんどバラバラに収納されており、AtoZの並びにすらなっていません。(もちろん美術館側からはあるシステムで管理されています) 来館者はただ自分の気の向くままに歩き本に出会う。建築デザイン図書や好きな作家の小説コーナーはここにはなく、それが逆にデータベース化された公立図書館や書店とは違って無造作に収納された自分家の本棚のようで、妙にプライベートな感じがします。一方で、フロア全体の照明を少し暗してクラシックな図書室のような雰囲気にしなかったことで、本棚と本たちが展示室の中に置かれた作品のように見えてくる瞬間があります。

IMG 09

またここにはライブラリーテーブルとスイスの老舗家具メーカー(Horgenglarus)の椅子があり、スタンドランプはこの展示のためにデザインされイタリアの照明メーカー(Viabizzuno)から販売されます。

ここまで会場を登ってくると少し疲れてきますが、最上階には最も美しい展示があります。



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スイス出身のアーティスト、シュタイナー・レンツリンガー(Steiner & Lenzlinger)によるガーデンのインスタレーションです。タイトルはルンゲンクラウト(Lungenkraut)。自然の枝木や木の実の殻など、そしてどこかの景品でもらったようなプラスチックのおもちゃなどを組み合わせて創られた美しいオブジェが天井からモビールのように吊られ、微かな風でゆっくりくるくると回って重力を感じさせないように浮遊しています。ルンゲンとはドイツ語で肺を意味し、展示物も肺で呼吸したように膨らんだ表現のものが多いため強い生命感も感じさせてくれます。
打ち上げの食事会で本人たちと出会い、今までいろんな場所で展示をしてきたけれど初めて展示作品を吊っているワイヤーが見えない状態の展示空間に出会うことができた。と話していたのが印象的でした。つまり会場が柔らかい光に満ちていて、どの方向からも強い光がないため影ができにくいのです。



オープニングには988人が訪れて会場は人混みとなりました。エントランスから2階へ向かう階段への動線は混み合って進めず、そのため来館者は一旦地下へ降りてそこからエレベーターで2階へ登るという不思議な動線を頼りにせざるを得ない事態になりました。(後々聞いたことには1997年にオープンして以来の来場者数だったそうです)
会場で出会った知人やプレス関係者に話を聞くと、建築家ピーターズントーの展示を目当てに来たものの、具体的に何の展示をしているのかは事前にチェックしていなかった、もっと言えばチェックせずとも、もちろん建築の展覧会だろうとタカをくくっていた人がほとんどで、十中八九に戸惑いと驚きの混じった印象を持っていました。それはこれがズントーがオーガナイズした展示であって、ズントー建築プロジェクトを紹介しているわけではなかったからです。

とはいえ、戸惑いの後に来るのは “なるほどなぁ“ という驚嘆。建築家による建築プロジェクト展は見たいけれど、4階フロアの会場では間延びしてしまうかもしれない。そこでこうしたズントー自身の作品を紹介するのではなく言わば “ズントーに影響を与えたモノや人たちを紹介してそこからズントーを導き出せ“ というメッセージは、とりわけクリエイティブな仕事をしている人たちにとってはなかなか刺激的な問いであったようです。

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会期中の毎週末にはズントーと作家、音楽家もしくは美術家との対談があり、展示に参加しているヘレン・ビネットやオルガ・ノイヴィルス、さらには造園家ジル・クレマンや映画監督ヴィム・ベンダースなどの各方面のエキスパートも来ます。またアーティストによる演奏会や作家による読み聞かせなども行われます。一度来て見て終わりではなく、足繁く通って理解していく展覧会。“ズントーパス“というディズニーもビックリな会期中無制限に入場できるパスもあるので、機会がある人は是非足を運んでみてください。



掲載している写真のうち、1,3,4番目のものはブレゲンツ美術館のウェブサイトより
その他は筆者によります。
すぎやま こういちろう

■杉山幸一郎 Koichiro SUGIYAMA
日本大学高宮研究室、東京藝術大学大学院北川原研究室にて建築を学び、在学中にETH Zurichに留学。大学院修了後、建築家として活動する。
2014年文化庁新進芸術家海外研修制度によりアトリエ ピーターズントー アンド パートナーにて研修、2015年から同事務所勤務。
世の中に満ち溢れているけれどなかなか気づくことができないものを見落とさないように、感受性の幅を広げようと日々努力しています。

◆杉山幸一郎のエッセイ「幸せにみちたくうかんを求めて」は毎月10日の更新です。

●本日のお勧め作品は、エド・ベイナードです。
20171010_baynard_01_hanaエド・ベイナード
「花」
1980年
木版
作品サイズ:70.0×100.0cm
A.P.11/16
サインあり


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◆ときの忘れものは「安藤忠雄展 ドローイングと版画」を開催しています。
会期:2017年9月26日[火]〜10月21日[土] 11:00〜18:00 ※日・月・祝日休廊
201709_ando

●六本木の国立新美術館で「安藤忠雄展―挑戦―」が開催されています。
会期:2017年9月27日[水]〜12月18日[月]
オープニングのレポートはコチラをご覧ください。

◆イベントのご案内
10月31日(火)16時〜「細江英公写真展」オープニング
細江先生を囲んでのレセプションはどなたでも参加できます。

11月8日(水)18時飯沢耕太郎ギャラリートーク<細江英公の世界(仮)
*要予約:参加費1,000円

11月16日(木)18時より 植田実・今村創平トーク<ジャパンネスのこと、都市住宅のこと>
現在フランスで開催中の<ポンピドーセンター・メス「ジャパン・ネス 1945年以降の日本における建築と都市」の報告をするとともに、建築展覧会のあり方、建築の表現についてお話をします。また、同展にてフォーカスされた建築雑誌『都市住宅』について、同展での展示の狙いなど、同誌の元編集長植田実さんとお話しします。(今村創平)
*要予約:参加費1,000円

ギャラリートークへの参加希望は、必ず「件名」「お名前」「連絡先(住所)」を明記の上、メールにてお申し込みください。twitterやfacebookのメッセージでは受け付けておりません。当方からの「予約受付」の返信を以ってご予約完了となりますので、返信が無い場合は恐れ入りますがご連絡ください。
E-mail: info@tokinowasuremono.com

●ときの忘れものは、〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました(詳しくは6月5日及び6月16日のブログ参照)。
電話番号と営業時間が変わりました。
TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531 
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