桐村茜<詩画集のこと>

 フランスではテクストと版画又はオリジナルの絵で構成された豪華本の事をリーヴルドアーテイスト(アーテイストの本と訳してよいのでしょうか?英語ではアーテイスツブックと言います)といいそれを専門に扱う本屋が最近はやや減ってきましたがパリの中にもいくつかあります。アメリカ等ではアーテイスト自身のテクストやテクストの無いものもありますが、フランスでは詩人、作家、哲学者等とのコラボレーションが伝統的且つ一般的でひとつのジャンルとしてありそのフェアや展覧会があちこちで開かれ多くの本好きやコレクターが訪れます。又多くの著名なアーテイストも(古くはロートレックからピカソ、ミロ、スーラージュなど)詩画集を手がけており文学者や詩人などとアーテイストの交流の伝統を感じさせます。
 私が初めて詩画集を作ったのは1996年で、フランスでの版画コンクールで受賞しその副賞として版画の刷り師と当時の5000フラン(約10万円)分の仕事が出来ることになり、前から作ってみたいと思っていた詩画集を作ろうと思ったのが始まりです。
 詩人は決まっておらず、先にイメージを作り始めた私に、その頃同じシテデザールのアトリエで制作していた友人が菅井汲氏や多くのアーテイストとの詩画集制作や美術評論で知られるジャン=クラランス ランベール氏を紹介してくれ、氏の一冊の詩集の中から好きな詩を選んで制作することになりました。すでに銅版画でレリーフを使ってのイメージは出来始めていたのでそれに近い詩を選ぼうとしたのですがとても難しく、アーテイストのエゴイズムというのか無恥な私はランベール氏の詩の部分をそれぞれの版画に合わせて切り取って使うことにしたのです。当然のようにマケットを見たランベール氏からクレームがきてこれは私の詩ではないと言われタイトルは氏の造語から選んだ“fragments de DEPAYSAGE(大野英士氏に”異景の断章“と訳して頂きました。)”ではなくフラクタル(瓦礫)にしようと言われるなど計画が暗礁に乗り上げてしまいました。変更はせず詩画集を作りたいと思っていた私に、氏を紹介した友人はこのまま最後まで終えてしまうように勧めランベール氏とは連絡を取らず、詩画集を完成させてしまったのです。さてそれでも完成の報告にランベール氏に会いに行くことになりこわごわ本を渡しました。詩画集のすべてに眼を通し本を閉じた氏は”Akane, C’est tres beau.(アカネ、とても美しいよ)”とおっしゃって、その途端、氷がとけたようでした。

Fragment de DEPAYSAGE
1)『Fragments de DÉPAYSAGE(異景の断章)』
詩:ジャン=クラランス ランベール
訳:大野英士
詩画集サイズ:29.5x21.0x2.3cm
a版:銅版画5点、布箱入り 限定30部
税込84,000円
b版:銅版画5点、木箱入り 限定6部
在庫無し


その後、パリのギャラリーでのタピエスやミロ他のアーテイストとのランベール氏の詩画集展に私との詩画集も加えてくださり、又アーテイストと詩人の手書きのテクストでの詩画集の企画があったときは氏から私を指名してくださり、私の2冊目の“ILE ELLE(島 彼女)”が出来上がりました。

1Q9wem
2)『ILE ELLE(島、彼女)』
詩:ジャン=クラランス ランベール
訳:水橋 晋
詩画集サイズ:18.5x11.0x2.5cm         
a版:銅版画、活版印刷文字、アクリル函入り 限定30部
税込54,600円
b版:銅版画、ランベール氏手書きテクスト 限定5部
税込84,000円


この2回のランベール氏とのコラボレーションでとても良いインスピレーションを氏の作品から得られることがわかり、その後、私からお願いして空想地図の詩を書いていただいたり最近作の “BIOS(生命)”、最も新しい6部限定の手書きテクストのLivre pauvreに至るまで6回のコラボレーションをしています。

BIOS-Livre d'Artiste-2
3)『BIOS(生命)』
詩:ジャン=クラランスランベール
訳:笠井 裕之
詩画集サイズ:30.0x60.0x1.2cm
シルクスクリーン多色刷り9点
a版:アクリルボックス入り 限定40部
税込141,750円
b版:オリジナル+ランベール氏手書きテクスト付き 限定7部
税込173,250円


BIOS-ORIGINAL『BIOS(生命)』オリジナル


 詩人とのコラボレーションでは当然のことですが双方がクリエターとして独立しながら響き合う関係とでもいうのでしょうか、決して説明をしたり、隷属しないよう気をつけています。又、その関係を保つ為にテクストを自分なりに良く消化しそれをもとに自由な世界をつくりあげることが私の喜びでもあります。時にはなかなかはいりこめないテクストというのもあり、そんな時は、その作家の他の作品を読んでみたり、少しずつ時間をかけてその精神性をできるだけ理解するよう務め完成させてゆきます。
 例えばルーマニアの注目されている若い詩人、リンダ=マリア バロスの詩 “エレクトリックドレス”でのコラボレーションではLEDを使った紙のドレスは発表の時にまだ納得したかたちになっておらず、ただ光の点滅する白いドレスだけでしたがその後、やはり文中の“詩人の手、翼のような、空に血の跡を引く、、、”からイメージを広げてベージュのやわらかい紙で2つの腕を作り、背中に翼のようにさげて、その腕から赤色の何枚かの紙にリンダの詩を書いてくっつけフランス国立図書館での詩的ファッションショーでは私自身が着て俳優の朗読とともにパフォーマンスを行いました。

AKANE en Robe eフ〕eフ…trique
*ドレスを着た桐村茜さん
(パリのPAN TOTALにて)
文中の詩的ファションショーの映像は下記アドレスで御覧頂けます。

後にはさらに発展して詩人の朗読と音をミックスして音を作りリールアートフェアではコンテンポラリーのダンサーにそのドレスを着て踊ってもらっています。
http://www.youtube.com/watch?v=m2zPBnwRqq0
http://www.youtube.com/watch?v=dhkm_sHuhjw

 今、取り組んでいるのは、フランスのアートグラフィックセンターのコレクションとして出る アラン ジュフロワ氏との“質問”という詩画集です。これは詩人の現在の世の中における死生観がテーマで5篇の詩とともに構成するのですが、本の大きさに制限があるのでどのように展開するか試行錯誤しながら制作しています。又このあとフランスのあるギャラリーからやはりランベール氏との詩画集のお話もあり、私に詩画集を続けるきっかけを作ってくださった氏との縁は切れそうにありません。
(フランス、カッションのアトリエにて、桐村 茜)


TRANSMUTATION BOX-2
4)『TRANSMUTATION(変成)』
詩:アブデルケビール ハティビ
訳:笠井 裕之
詩画集サイズ:26.5x13x3.5cm
a版:銅版画、活版印刷文字、布箱入り 限定30部
税込84,000円
b版:銅版画、活版印刷文字、アクリルボックスオブジェ付き 限定6部
税込168,000円


TRANSMUTATION布箱『TRANSMUTATION(変成)』布箱


I D'ILE,DIT-IL
5)空想地図『I D’ILE DIT=IL(愛の島と彼は言う)』
詩:ジャン=クラランス ランベール
訳:関口涼子
サイズ:75.5x52.0cm
a版:ピグメントプリント、アクリルチューブ入 限定30部
税込73,500円
b版:ピグメントプリント、チューブなし 限定30部
税込68,250円


I D'ILE, DIT-ILチューブ桐村茜空想地図『I D’ILE DIT=IL(愛の島と彼は言う)』
アクリルチューブ


桐村茜(きりむらあかね)略歴
*京都府生まれ、武蔵野美術大学 美術学科(油絵専攻)卒業
*1992年、パリのシテデザール(国際芸術都市)滞在のため渡仏、
 以後パリにて制作活動、2001年パリ郊外に仏政府のアトリエを得、
 活動の場を移し現在にいたる。
*2006年、日本政府文化庁海外特別研修員としてニューヨーク滞在
*フランスメゾンドアーテイスト会員
*日本美術家連盟会員
*国際アートフェア(シカゴ、パリ、ロンドン、オランダ、他)、国際版画コンクール受賞、出品多数、
 個展(フランス、スペイン、オランダ、ドイツ、スイス、イタリア、日本他)多数

<詩画集による受賞>
* 第9回インターナショナルビエンナーレ“Livres A Voir”PRIX DE CREATION(フランス、2012)
* サロンドートンヌ リーヴルドアーテイスト部門 著作権協会賞(パリ、2010)

<画集、カタログ>
1990 桐村 茜エクスリブリス集(つくし館、東京)
1996 詩銅版画集“Fragment de DEPAYSAGE”,詩:ジャン=クラランス ランベール

2000 “La Memoire,le temps”-作品カタログ
2004 詩銅版画集 ”ILE ELLE”,詩:ジャン=クラランス ランベール
2006 詩銅版画集 “TRANSMUTATION”,詩:アブデルケビール ハティビ
2011 詩画集(シルクスクリーン) “BIOS” 詩:ジャン=クラランス ランベール

2012 リーヴル ポーヴル(ミックストメデイアと手書きテクストによる)
     詩:ジャン=クラランス ランベール

<コラボレーション>
2005 雨傘、(コラージュ) “Ode au Parapluie”、詩:ジャン=クラランス ランベール
2006 イマジネーションマップ “L D’ILE,DIT-IL” 詩:ジャン=クラランス ランベール
2010 紙、LEDによるドレス “Robe electrique”、詩:リンダ=マリア バロス

*画廊亭主敬白
宝塚に住む装丁家のKさんの紹介でパリ在住の桐村茜さんがときの忘れものにいらしたのは今年の7月でした。
1992年に渡仏以来、パリを拠点に制作活動を続けています。
特に精力的に取り組んでいるのが詩画集の仕事で、文学、音楽、美術、演劇などの異分野の人たちの交流とコラボレーションの成果は上掲の写真でおわかりになると思います。
桐村さんにご自身が手がけた詩画集について寄稿していただきました。

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