戸張孤雁

小林紀晴のエッセイ「TOKYO NETURE PHOTOGRAPHY」第5回

小林紀晴のエッセイ「TOKYO NETURE PHOTOGRAPHY」第5回

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古い民家の壁を背景に咲くアロエ。
アロエは都市の路上によく似合う。
多肉植物ゆえか。
コンクリートの続きのように感じられるからか。

縦位置で撮影したものを印画紙にプリントして、
テーブルの上に横にして置いてみる。
まるで違和感がない。
つまり、それだけ自然から遠いということか。

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小林紀晴
《Ebisu 01》
《Ebisu 02》
共に2017年撮
ゼラチンシルバープリント
11x14inch
Ed.20

こばやし きせい

■小林紀晴 Kisei KOBAYASHI(1968-)
1968年長野県生まれ。
東京工芸大学短期大学部写真科卒業。
新聞社カメラマンを経て、1991年よりフリーランスフォトグラファーとして独立。1997年に「ASIAN JAPANES」でデビュー。1997年「DAYS ASIA》で日本写真協会新人賞受賞。2000年12月 2002年1月、ニューヨーク滞在。現在、雑誌、広告、TVCF、小説執筆などボーダレスに活動中。写真集に、「homeland」、「Days New york」、「SUWA」、「はなはねに」などがある。他に、「ASIA ROAD」、「写真学生」、「父の感触」、「十七歳」など著書多数。

◆小林さんが平凡社より新著「見知らぬ記憶」を刊行されました。
小林紀晴_00001小林 紀晴
出版年月: 2018/01
出版社: 平凡社
判型・ページ数: 4-6 224ページ
記憶の襞に隠れた過去が、ふとした瞬間に蘇り、時空を超えて往還し、別の様相をおびて未来を予言する。そこにはいつも写真が……。
『ASIAN JAPANESE』から二十余年、著者の新境地。
本体: 1,800円+税


◆埼玉県立近代美術館で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が開催されています。現代版画センターと「ときの忘れもの」についてはコチラをお読みください。
詳細な記録を収録した4分冊からなるカタログはお勧めです。ぜひご購入ください(2,200円)。
会期:2018年1月16日(火)〜3月25日(日)
埼玉チラシAY-O600現代版画センターは会員制による共同版元として1974年〜1985年までの11年間に約80作家、700点のエディションを発表し、全国各地で展覧会、頒布会、オークション、講演会等を開催しました。本展では45作家、280点の作品と、機関誌等の資料、会場内に設置した三つのスライド画像によりその全軌跡を辿ります。

○<ちと日が経ってしもうたが、埼玉県立近代美術館「版画の景色 現代版画センターの軌跡」を観ましたのじゃ。
現代版画センターの事は全く知らなかったのじゃが、1974年に誕生してから1985年に倒産するまでの約10年間、版画の普及とコレクターの育成を目指し、様々なジャンルのアーティスト約80名と協力して、700点以上の作品を世に送り出したのだとか。
本展では、安藤忠雄、草間彌生、アンディ・ウォーホルなど有名どころから、今まで知らなかった作家まで、45名の作家の約280点の作品を展示。(前期・後期で一部展示替えあり)
フライヤーも4種類。力が入っておりますのぅ。
会場に入ると、まず靉嘔のシルクスクリーンやエッチングが約20点並んでおりまする。
1974年に限定11111部で制作されたシルクスクリーン《I love you》は、何と1000円で販売されたそうな。
タイムマシンで1974年に行きたいぞよ〜。
様々な技法の版画だけでなく、立体作品もございます。
磯崎新の《空洞としての美術館1》は、シルクスクリーンとドローイングと立体を組み合わせた幅4m80cmもある作品じゃが、一般家庭で飾るのはちと難儀よの。
わたくしのお気に入りを、出品リスト順に。
★高柳裕《魚座》 凸版(作家自刷り)
繊細なエンボスが美しくてツボじゃ。
★木村茂《森の道1》《森の道2》《森の道3》 銅版(作家自刷り)
3点それぞれ変化があって素敵。
★元永定正《みぎひだり》《しろいせんのあみめから》 シルクスクリーン
この2点を含め展示の12点、どれもユーモラスで楽しい。
★加山又造《レースをまとう人魚》 リトグラフ
加山又造は大好きなのじゃ。
白い肌に黒いレースが美しく、背景も暗い色彩に黒いレース模様。
★野田哲也《Diary; Jan.15th '77》《Diary; May 17th ’83》 木版、シルクスクリーン(作家自刷り)
日記シリーズ、惹かれまする。
★宮脇愛子《Golden Egg A》《Golden Egg B》 ブロンズ
卵をふたつに割ったような、金色に輝く立体作品。
宮脇作品は、他にも銅板やシルクスクリーンが多数展示されておりまする。
★舟越保武《若い女 B》 リトグラフ、雁皮刷り
展示の3点どれも好きじゃが、《若い女 B》の少年のような横顔がお気に入り。
★北川民次《バッタの夢》 エッチング
北川作品は5点、リトグラフ、エッチング、木版がございます。
バッタに押し潰されそうな《バッタの夢》は、ちと怖いけど面白い。
★駒井哲郎《消えかかる夢》 メゾチント、エッチング、エングレーヴィング、アクアチント
駒井哲郎も元々好きなのじゃ。駒井作品も5点の展示ございます。
観応えある展覧会でありました。
会期は3月25日まで(前期は2月18日まで)。ご興味ある方はぜひ。

(20180212/ビスうさ・ウェネトさんのブログより)>

○<版画の景色
東京でなく、埼玉県でこの内容の展示が出来たことにすごいと思う。アンディーウォーホル、安藤忠雄、草間彌生というビッグネームの作品もあるけども、今日名前も知らない芸術家の作品も多数あり、見応えも相当高いと思う。ただ、1974年からの表現だから、古いと思う人もいるかもしれませんが、やっぱり訴えてくるものはある。
今回の気になる芸術家は、木村茂、島州一、菅井汲、林芳史、堀浩哉、宮脇愛子、元永定正さんたちの作品で、もう少し調べようと思います。

(20180210/横田敦 龍堂さんのfacebookより)>

○<#版画の景色 脳内に転写された版画が逆に、目の前の景色に抗う形態としてこびりつく。翻って今日の陽気が春の到来だと期待してしまうのも連日続いた寒さの影響なんだろ
(20180211/H.Mさんのtwitterより)>

西岡文彦さんの連載エッセイ「現代版画センターという景色が始まりました(1月24日、2月14日、3月14日の全3回の予定です)。草創期の現代版画センターに参加された西岡さんが3月18日14時半〜トークイベント「ウォーホルの版画ができるまでーー現代版画センターの軌跡」に講師として登壇されます。

光嶋裕介さんのエッセイ「身近な芸術としての版画について(1月28日ブログ)

荒井由泰さんのエッセイ「版画の景色―現代版画センターの軌跡展を見て(1月31日ブログ)

スタッフたちが見た「版画の景色」(2月4日ブログ)

毎日新聞2月7日夕刊の美術覧で「版画の景色 現代版画センターの軌跡」展が紹介されました。執筆は永田晶子さん、見出しに<「志」追った運動体>とあります。

倉垣光孝さんと浪漫堂のポスター(2月8日ブログ)

嶋吉信さんのエッセイ〜「紙にインクがのっている」その先のこと(2月12日ブログ)

大谷省吾さんのエッセイ〜「版画の景色−現代版画センターの軌跡」はなぜ必見の展覧会なのか(2月16日ブログ)

○埼玉県立近代美術館の広報誌 ソカロ87号1983年のウォーホル全国展が紹介されています。

○同じく、同館の広報誌ソカロ88号には栗原敦さん(実践女子大学名誉教授)の特別寄稿「現代版画センター運動の傍らでー運動のはるかな精神について」が掲載されています。

現代版画センターエディションNo.104 戸張孤雁
現代版画センターのエディション作品を展覧会が終了する3月25日まで毎日ご紹介します。
104-1_戸張孤雁《画譜特装版〔敞脳品年賀状(後摺り2点入り)》戸張孤雁
《画譜特装版 木版小品》
木版(1976年原版木より後摺り、摺り:五所菊雄)
Image size: 9.0×13.5cm
Sheet size: 25.5×18.1cm
Ed.275

104-2_戸張孤雁《画譜特装版〔敞脳品年賀状(後摺り2点入り)》戸張孤雁
《画譜特装版より 年賀状》
木版(1976年原版木より後摺り、摺り:五所菊雄)
Image size: 10.0×15.3cm
Sheet size: 25.5×18.1cm
Ed.275

戸張孤雁は1882年(明治15年)2月19日に生まれ、1927年(昭和2年)12月19日に45歳で没しました。今日が誕生日ですが、もちろん私たちが生まれるはるか昔に亡くなっています。「現代版画センター」のエディションとしては「えっ?」と思う人も多いでしょう。埼玉の会場で機関誌を読んでいただけば、スタッフだった星野治樹さんの長期連載「孤雁ノート」にお気づきになるでしょう。
孤雁の残した版画は僅か10数点ですが、その木版の版木が一時私たちの手元にありました。原版木から後摺りをして「戸張孤雁全国展」を開催するのが夢でした。
山本鼎らによる創作版画運動は全国的な広がりをもち、それを支えた人々の志は私たちが範としたものでした。だから直営の画廊名も「ギャラリー方寸」としました。
倒産によりその夢は絶たれ、孤雁の版木はいまは愛知県美術館に収蔵されています。
パンフレット_05
出品作家45名:靉嘔/安藤忠雄 /飯田善国/磯崎新/一原有徳/アンディ・ウォーホル/内間安瑆/瑛九/大沢昌助/岡本信治郎/小田襄/小野具定/オノサト・トシノブ/柏原えつとむ/加藤清之/加山又造/北川民次/木村光佑/木村茂/木村利三郎/草間彌生/駒井哲郎/島州一/菅井汲/澄川喜一/関根伸夫/高橋雅之/高柳裕/戸張孤雁/難波田龍起/野田哲也/林芳史/藤江民/舟越保武/堀浩哉 /堀内正和/本田眞吾/松本旻/宮脇愛子/ジョナス・メカス/元永定正/柳澤紀子/山口勝弘/吉田克朗/吉原英雄
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◆小林紀晴のエッセイ「TOKYO NETURE PHOTOGRAPHY」は毎月19日の更新です。

●ときの忘れものは昨年〒113-0021 東京都文京区本駒込5丁目4の1 LAS CASAS に移転しました。TEL: 03-6902-9530、FAX: 03-6902-9531
20170707_abe06新天地の駒込界隈についてはWEBマガジン<コラージ12月号>をお読みください。18〜24頁にときの忘れものが特集されています。
2018年から営業時間を19時まで延長します。
営業時間=火曜〜土曜の平日11時〜19時。日・月・祝日は休廊。
JR及び南北線の駒込駅南口から約8分です。

吉増剛造、松本竣介、そして戸張孤雁

現在、「ときの忘れもの」で開催中のルイーズ・ニーヴェルソン展ですが、1970年後半に名古屋のアメリカン文化センターという所で個展がありました。
確か、彫刻家・篠田守男氏のニーヴェルソンについての講演がありました。当時の館長の方が美術に造詣が深く、アメリカの現代作家の紹介をされていました・・・。

名古屋のSさんのメールより>

展覧会はやってみるもんだ、といまさらながらの述懐です。
ただいま開催中の「ルイーズ・ニーヴェルスン展」、来廊者は日に一名乃至数名と例によって愚痴ったら、その効あってか少し来る人も増えました。
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来る人のほとんどが作家を知りません。
「黒い箱の・・・」と言うと、「ああ、あの人」という反応が少し。
亭主はメアリー・カサット(Mary Stevenson Cassatt, 1844〜1926年)、ジョージア・オキーフ(Georgia O'Keeffe 、1887〜1986年)と並び、アメリカを代表する(20世紀を代表する)女性作家と信じておりますが、いかんせん見る機会がなければ若い世代には伝わらない。
因みにGoogleで検索してみると僅か4800件、オキーフの64,000件と比べても格段に少ない。
国内でニーヴェルスンを所蔵する美術館は、川村美術館、原美術館、新潟市美術館、富山県立近代美術館、愛知県美術館、福岡市美術館など、そこそこあるのですが・・・・・・

偶然ですが、ロンドンのPACE Galleryでニーヴェルスンの1950年代中頃から亡くなる88年までの活動に焦点をあてた展覧会が開かれています。ぜひネットでご覧になってください。画像が立体を中心に43点も掲載されています。さすがです。
亭主が「いい、いい」というものだから、脅迫に負けて購入者もぼつぼつ出現(!)。おかげさまで干天の慈雨のごとき喜びを社長は味わっております。
会期は来週末までです。ぜひお出かけください。

さて竹橋の東京国立近代美術館声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」展が開催されています。

20160607吉増剛造展20160607吉増剛造展 裏
「声ノマ 全身詩人、吉増剛造展」
会期:2016年6月7日[火]〜2016年8月7日[日]
会場:東京国立近代美術館
   〒102-8322 千代田区北の丸公園3-1
時間:10:00〜17:00 (金曜日は20:00まで) ※入館は閉館の30分前まで
休館:月曜(7/18は開館)、7/19(火)

ナショナル・ミュージアムで詩人の個展、画期的な展覧会です。
絵画や彫刻ではなく「詩」をテーマに何を展示するのか、難しい課題ですが、吉増先生だから可能になったともいえるでしょう。企画者の保坂健二朗(同館主任研究員)さんへのインタビューをぜひお読みください。

国立の美術館には、ある時代において先進的な展覧会を行う使命があります。そのミッションに吉増さんは合致する人物だった」(同インタビューより)

他の数多の美術館が予算削減、議会向けの入場者の見込める展覧会の開催に右往左往する現状から考えれば、まことにうらやましい「国立」ならではのスタンスですが、最近の竹橋、常設も含め大健闘しています。
20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_01
社長とオープニングに行ってまいりました。

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_02
展覧会は8月7日まで。

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_04
植田実先生と待ち合わせ。

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_24
アラーキーは最前列で吉増先生にエールを送っていました。

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_28吉増剛造ご夫妻
吉増先生にはジョナス・メカス展の折にギャラリー・トークをお願いしました。

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_30柳澤紀子さんと吉増先生

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_33おびただしい日記、メモ、原稿などが真っ暗な空間に展示されています。

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_32会場を仕切るのは黒い布。

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_31文字が打ち込まれた銅板や、カセットテープなど「詩人」という言葉にはいりきらない多くのものが展示されています。

親交のあるジョナス・メカスさんの映画上映もあります。
「リトアニアへの旅の追憶」(監督/ジョナス・メカス、日本語字幕付、16ミリフィルムによる上映)
2016年7月16日(土)14:00-16:00(開場;13:30/吉増剛造によるアフタートークあり)
2016年7月17日(日)14:00-15:30(開場;13:30)
会場:東京国立近代美術館 地下1階講堂
定員:先着140名
要観覧券、要整理券(整理券は当日10:00より1階受付で配布)
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吉増展と同時開催の「MOMATコレクション」もぜひお見逃しなく。
20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_21
東近美は昨年、松本竣介の作品を11点収蔵したのですが、以前から所蔵している作品とあわせ、3階6室と2階ギャラリー4で展示しています。竣介ファン必見です。

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_19
松本竣介の素描
植田実先生には生誕100年展のおりに全会場をまわっていただき「生きているTATEMONO 松本竣介を読む」を全14回にわたりブログに連載していただきました。

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_17
駒井哲郎の銅版画

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_14
亭主大興奮!!!
戸張孤雁の彫刻が展示されています。

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_11
戸張孤雁「唱える女」(c.1914年)

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_12
戸張孤雁「唱える女」

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_10
戸張孤雁「煌めく嫉妬」(1924年)

20160606 東京国立近代美術館「吉増剛造展」レセプション_06
戸張孤雁「水面を眺める女」(1914年)

吉増剛造、松本竣介、駒井哲郎、戸張孤雁らのベストの作品を一度に鑑賞、おなか一杯の一日でありました。

●今日のお勧めは松本竣介の素描です。
04_ShunsukeMATSUMOTO
松本竣介《兵士》
鉛筆、紙
イメージサイズ:14.0×18.0cm
シートサイズ:14.5×19.0cm

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ときの忘れものの通常業務は平日の火曜〜土曜日です。日曜、月曜、祝日はお問い合わせには返信できませんので、予めご了承ください。

12月9日は孤雁の命日

毎年12月9日の戸張孤雁の命日を迎えると、短命(昭和2年46歳で没)で逝ったこの彫刻家であり創作版画のパイオニアだった人のことを思い、まだやり残した仕事があるなあと感慨にふける。
亭主と社長の陋屋には孤雁の木版の小品が飾ってある。
孤雁年賀状
戸張孤雁「木版小品(1921年年賀状)」
1921年年賀状として制作、
1976年原版木より後摺り(摺り:五所菊雄)
9×13cm 限定275部
『画譜』第3号特装版に挿入

画商になりたての頃、盛岡第一画廊の上田浩司さんに孤雁のことを初めて教えられてからもう40年が経つ。
美術にはど素人だった亭主はもともと本好きだったから版画の世界が性に会い、やがてH氏という創作版画のコレクターに出会い、10年間に約7,000点をおさめるほどに入れ込み、創作版画を買いまくった。その中心が孤雁だった。とは言っても弧雁が遺した版画作品は10数点に過ぎない。いろいろな経緯があったのだが、その木版の原版木の全てが一時亭主の手元にあった(現在は愛知県美術館が所蔵)。
その版木から後摺りを行ない、「孤雁木版画集」を刊行することが夢だった。中の一点は後摺りも完成し、某所に眠っている。亭主の生きているうちに何とか世に出したいのだが・・・・
1882(明治15年)東京日本橋に生まれた孤雁の本名は志村亀吉。後に母方の戸張家を継いだ。亭主が孤雁を追いかけ始めた頃には、まだ志村家の妹さんがご存命で、兄孤雁のことをいろいろ教えていただいた。
1901(明治34年)渡米し、苦学しつつアート・スチューデンツ・リーグなどで絵画を学ぶ。荻原守衛(碌山)と知り合うが、1906年病のため帰国。碌山の影響で彫刻への関心を深め、1910年太平洋画会研究所彫塑部に入る。1916年からは日本美術院彫刻部に出品し、翌年同人となる。1913年石井柏亭らと水彩画会を創立、1919年には創作版画協会に参加し版画制作を行い、「タンスの前」「玉乗り」「千住大橋の雨」などの傑作を遺す。
1927(昭和2)年12月9日死去。下谷区谷中大泉寺に埋葬された。
戸張孤雁玉乗り「玉乗り」

アトリエの戸張弧雁
アトリエの戸張孤雁(1916年頃)
(愛知県美術館「戸張孤雁と大正期の彫刻」展図録4ページより
同展は1994年1月25日〜3月6日まで開催された)

戸張孤雁 《煌く嫉妬》 1924年 ブロンズ
戸張孤雁「煌く嫉妬」
1924年 ブロンズ
35.0×19.0×20.6cm
愛知県美術館蔵
*これはブロンズですが、石膏による原型も一時私が預かり、ギャラリー方寸で展示しました。


さて、創作版画といえば「方寸」そして「山本鼎」である。
山本鼎のゆかりの信州上田に新しい市立美術館ができ、そのオープン記念展が「山本鼎のすべて」だというので、こりゃあ行かずばなるまいと、強引に露天風呂愛好会の秋の例会に合わせて紅葉の信州に行ってまいりました。
池田満寿夫美術館20141026
先ずは、松代にある池田満寿夫美術館(長野市)で生誕80年記念展「東洋の幻影、大陸の記憶」(12月16日まで)を見る。
二階展示室では「池田満寿夫と瀧口修造」を特集展示していました。スフィンクスはじめ池田満寿夫の名作版画を堪能。
遠方なので、しょっちゅうは来られませんが、若い学芸員の皆さんの熱心さにはいつも心打たれます。

角間温泉20141026
その夜の宿は吉川英治はじめ文人達が愛した角間温泉の越後屋旅館。湯田中から少しのぼったひなびた温泉宿で、隣の共同浴場もなかなかでした。

上田市美「山本鼎」展20141027
翌朝、角間温泉から山をかけくだり上田に。新設の上田市立美術館で開館記念特別展「山本鼎のすべて」を見ました。
今回はこれが主目的。

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開館記念「山本鼎のすべて」
会期:2014年10月2日〜11月9日
会場:上田市立美術館 企画展示室ほか

先日、町田市立国際版画美術館「鬼才の画人 谷中安規展―1930年代の夢と現実」のすばらしい展示をご紹介しましたが、そのとき<展覧会に松竹梅があるとすれば>、として以下の自己流な基準を書きました。

は、集められた作品がすばらしく、展示に学芸員の「愛」と「熱」がこめられたもの。
は、作品は諸般の事情でベストを集められなかったものの、学芸員の「愛」と「熱」によって観客を魅了したもの。
は、集められた作品がすばらしいにもかかわらず、学芸員の「愛」も「熱」も感じられないもの。

あのときは実は別の展覧会を暗に批判したのですが、上田に行ったら、いや見事に今年のワースト1の展覧会でした。
チラシにも大看板にもメインで取り上げられているように山本鼎は「版画」の人です。創作版画運動の文字通りパイオニアでした。
しかしながら鼎が生涯に遺した(確認できる)版画は亭主の記憶に間違いがなければ50数点に過ぎません。
そのいずれもが、日本の近代版画史に輝く名作です。

入場券を買って会場に入ると蜿蜒と凡庸な油彩の展示が続く。
「なんだいこりゃ、鼎の油彩の面白くないのは常識だろうが」とぶーぶー言いながら会場を巡るが行けども行けども「版画」が無い!
「おっ、こんないい油彩あったっけ」と立ち止まったら、なんとセザンヌ。某美術館から借りてきたらしい。
ポールセザンヌ上田初公開ほか、ルノアール・モネなど印象派画家の作品4点も公開します。>とある。
油絵信仰、権威主義もろの品の無さ。

とうとう会場を出てしまった。いったい鼎のあの懐かしい「版画」はどこだ!(怒)
ありました、ありました。
おそらく今後は市民たちに貸し会場として使われるだろう狭くて粗末な別室に、あわれ鼎の版画作品がぎゅうぎゅうに押し込められていました。

<会場:上田市立美術館 企画展示室ほか>というのはこのことだったのか。

若き修行時代の木口木版修作(驚異です!)はじめ、ほぼすべての版画作品、そして希少な版木(現存する3点、残りは生前鼎自ら鉈で割ってしまったと息子の太郎さんからうかがいました)までそろえて出品しているのに、こんな評価しかできないなんて、鼎がかわいそうで泣けてきた。
行っていない方には亭主がなぜ怒っているのかおわかりにならないでしょうが、たとえば「長谷川潔展」で、蜿蜒と長谷川潔の(凡庸な)油絵が続き、(あの神の恩寵のごとき奇跡の)銅版画が隅の方においやられていたとしたら、皆さんどう思います。
あれほど素晴らしい版画をつくった山本鼎がなぜかくも凡庸な油絵を量産したのかを問うのが学芸員の仕事でしょ。
ちょっとできる画商さんに聞いてご覧なさい、鼎の版画ならどこでも100万円以上、ものによっては数百万でも買ってくれるでしょう。しかるに鼎の油彩ときたら10万円でも買う画商さんがいるかどうか。

油彩と版画ということでいえば今春、丸の内の三菱一号館美術館で開催された「ヴァロットン ―冷たい炎の画家」の展示は見事でした。今まで見過ごされてきたヴァロットンの凄みを大きな油彩と小さなモノクロの木版画を同時に展示することによってあきらかにした画期的な展覧会でした。企画した学芸員の見識に拍手したいですね。

かつて上田の山本鼎記念館には小崎軍司先生という鼎の顕彰に生涯をかけた研究者がいました(山本鼎評伝の著者)。何も知らなかった亭主に鼎の版画のすばらしさを教えてくれたのが小崎先生でした。
展示は展覧会のいのちです。
キャプションもおざなりで(町田を見習え)、学芸員の「愛」も「熱」もない、いまどき珍しい展覧会でした。
上田刀屋外観20141027
巨大な建物が空しく感じられる寒々した展覧会をあとに、口直しに上田の名店・刀屋に、ん十年ぶりに行きました。
相変わらず順番待ちの列が。

上田刀屋20141027
お品書きに注目!
「普」通盛なんか頼んだら大変、まして「大」なんか頼んだ日にはわんこそば100杯と同じです。

刀屋の美味しいおそばでも腹立ちは解消せず、さわやかな秋空のもと車を飛ばして軽井沢へ。
20141027軽井沢セゾン美術館
軽井沢セゾン美術館、やっぱりここはいいなあ。
コレクションもいい、ロケーションもいい。
堤さんは事業ではこけたけれど、この美術館を残してくれた、大偉業ですね。

軽井沢セゾン美磯崎版画20141027
亭主がエディションして、露天風呂愛好会会長の石田了一さんが刷ってくれた磯崎新先生の大作「MoCA」の前で。

万平ホテルでお茶をして解散。
池田満寿夫も、温泉も良かったけれどほろ苦い信州の短い旅でした。

*亭主追伸
怒りにまかせて書いたブログを社長が読んで、新橋烏森神社の焼き鳥屋で「あなたの気持ちは分かるけれど、皆さん一所懸命やっているの。少し言い過ぎどころか三言多い!」と懇々と説教されました。
青木茂先生みたいに「全文削除」といえるほど潔くないのですが、加筆修正は一切せず「部分削除」いたしました。お許しください。
21時10分、一部削除いたしました

12月9日は戸張孤雁の命日です

戸張孤雁は、1882年に生まれて、1927年に、46歳で亡くなっている。短命で寡作だったせいもあって、よくは知られていない。近代美術史上のもっともひそやかな存在と言っていい。
瀬木慎一「戸張孤雁」より(現代版画センター機関誌『画譜』第4号・1976年9月所収)

今春亡くなった瀬木慎一先生が詩人らしい言葉で「もっともひそやかな存在」と評した戸張孤雁の、今日12月9日は命日です。
アトリエの戸張弧雁
アトリエの戸張孤雁(1916年頃)
(愛知県美術館「戸張孤雁と大正期の彫刻」展図録4ページより
同展は1994年1月25日〜3月6日まで開催された)

戸張孤雁 《煌く嫉妬》 1924年 ブロンズ
戸張孤雁「煌く嫉妬」
1924年 ブロンズ
35.0×19.0×20.6cm
愛知県美術館蔵

亭主は常々東京生れの画家や彫刻家の不運を嘆いていました。
戸張孤雁は挿絵や創作版画の先駆としても重要であるとともに、親友荻原碌山の遺志を継いで近代彫刻史に残る秀作を残しましたが、いまだ生地東京の美術館で回顧展ひとつ開かれていません。
なにせ東京出身の画家や彫刻家は多い、加えて東京で制作活動をし、東京で亡くなる作家も膨大だから、都立、区立の美術館も彼らをフォローするだけでもたいへんである。
戸張孤雁「品川妓楼」600
戸張孤雁「小田原妓楼」
制作年不詳 木版
45.5×32.0cm
このときの忘れもののコレクションは状態があまりよくありませんが、東京国立近代美術館には山本孝さんが寄贈した良品があります。

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戸張孤雁(とばり こがん)は、1882(明治15年)東京日本橋生まれ。
本名・志村亀吉。後に母方の戸張家を継ぐ。1901(明治34年)渡米し、苦学しつつアート・スチューデンツ・リーグなどで絵画を学ぶ。荻原守衛(碌山)と知り合うが、1906年病のため帰国。荻原の影響で彫刻への関心を深め、1910年太平洋画会研究所彫塑部に入る。1916年からは日本美術院彫刻部に出品し、翌年同人となる。1913年石井柏亭らと水彩画会を創立、1919年には創作版画協会に参加し版画制作を行い、「タンスの前」「玉乗り」「千住大橋の雨」などの傑作を遺す。
1927(昭和2)年12月9日死去。下谷区谷中大泉寺に埋葬される。

生涯独身(美しい恋人はいましたが)、 東京出身がたたって、いまだにこの優れた作家を顕彰する機関も美術館もありません。もし孤雁が他の地方の出身だったら、美術館が放っとかないでしょう。
以前名作「千住大橋の雨」を買い損なったことについて書いたことがありますが、亭主は1974年から10年ほど戸張孤雁に夢中になって追いかけました。当時、妹さんもご健在で、兄孤雁のことをいろいろ聞くことができました。また縁あって一時、私の自宅に全版木を保管していました(現在は愛知県美術館の収蔵)。また彫刻代表作「煌く嫉妬」の原型も当時現代版画センターが持っていたギャラリー方寸の戸張孤雁展で展示したこともあります。
下の2点の木版は、亭主の現代版画センター時代に孤雁の原版木から後摺りしたものです。
孤雁年賀状
戸張孤雁「木版小品(1921年年賀状)」
1921年年賀状として制作、
1976年原版木より後摺り(摺り:五所菊雄)
9×13cm 限定275部
『画譜』第3号特装版に挿入

孤雁
戸張孤雁「木版小品」
制作年不詳、
1976年原版木より後摺り(摺り:五所菊雄)
10×15cm 限定275部
『画譜』第3号特装版に挿入

近代美術史上のもっともひそやかな存在、孤雁の回顧展をどこか東京の美術館が開いてくれないかしら。
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戸張孤雁「千住大橋の雨」〜瑛九「窓」

物忘れがひどい。
先日も本屋に行って川柳作家・岸本水府を描いた『道頓堀の雨に別れて以来なり』が文庫本に入っていないか(単行本はどこに行ったか行方不明)、店員に尋ねようと思ったのだが、何としても作家名が出てこない。
かもかのおっちゃん>のあの人なのに、のどまで出掛かっているのだが・・・まさか、「かもかのおっちゃんの奥さんの本探しています」なんて恥ずかしくて言えないしね。
ほんとに弱った。田辺聖子の名をやっと思い出したときは、さすがにほっとした。

私らの商売はお客さんの名前はもちろん、売った絵の作家名、作品名、売価等々を諳んじていなければ落第である。ひたすら記憶力の勝負である。
ところが最近、私、落第続きなのである。
先日もある作品を贔屓の客に勧めた。
「綿貫さん、それ前に買ったじゃない」・・・
私もこの先、長くはないかも知れない。

戸張孤雁こんなことばかり愚痴っているとほんとにぼけてきそうなので、話を変えましょう。
某月某日、某オークション会社から電話がかかってきた。
「綿貫さんが入札して下さった戸張孤雁の『千住大橋の雨』なんですが、コンディションの変更をお伝えしたくて電話しました。実はカタログには<大体良好>と書いたのですが、右上に破れの補修跡があり、その他にも・・・・・」
ピンときて、「入札が殺到したので、額の裏を開けたんでしょ」と指摘したら「実はそうなんです。エスティメート3〜5万円に踏んだんで、まあ<大体良好>でいいかなと思っていたら、反響が大きくて」慌てたらしい。
村上某のオフセットに高額の値をつけておきながら、孤雁の『千住大橋の雨』にエスティメート3〜5万円だなんて、あんまりだ(怒、苦笑)。
歴史の浅い日本でいくつものオークション会社が競うように設立されれば、当然スタッフ不足(人数、能力)をもたらし、「コガンって誰?」ということにもなる。
いまさら、「あんたね。孤雁の彫刻はいずれ重文だよ」といってもはじまらないか。
「千住大橋の雨」は20数年前、100万円を越す金額で某コレクターに売ったことがあります。その原版木も一時私の手許にありました(現在は愛知県美術館所蔵)。
文句無く日本創作版画史上、ベスト10に入る名作です。
私へそまがりだから、上記の電話を受けてさらに入札金額を316,000円までアップさせた。社長にはもちろん内緒です。
因みに私、オークション会場に行って競りに参加したことはない。行けば熱くなりとんでもない買い物をするのはわかりきっているので、社長に強く諌められている。だからいつもカタログを見てひそかにファックスで入札するだけです(涙)。
果たして結果は32万円ということで、具眼の士はいるもんですね。悔しいような、ほっとしたような・・・・。

オークション会社を意地悪婆さんみたいにけなしてばかりいるようですが、作品の流通、価格の公開など評価すべき点の方がもちろん多い。
毎回数百点の出品作品を集め、それを一つ一つチェックし、正確なデータを記載するのは容易なことではありません。スタッフの皆さんの奮闘には同情を禁じえません。いずれの会社のスタッフも皆さんお若い。でもそうやって段々と経験が蓄積されていくのでしょうね。景気の良いところに人材が集まるのは世の常ですから、未来は明るいと信じましょう。

つい先日も、最大手のシンワがコンテンポラリーアート・オークションを開催したことなど、数年前の惨憺たる市場の低迷を考えると隔世の感があります。
瑛九・窓
わが愛する瑛九も「窓」(油彩8号、1957年頃、日経『瑛九作品集』84頁所収)が出品され、520万円というハンマープライスで落札されました。
美術館や一部の熱狂的支持者が支えた時代から、市場で流通する<商品>になってきたということでしょうか。
あの作品はかつて私どもの壁にかかっておりました。嫁に出した身としては、喜ぶべきなのでしょうね。

◆ときの忘れものでは本日より5月2日まで「アンドレ・ケルテス写真展」を開催しています。
どうぞお出かけください。

ギャラリー方寸「竹久夢二と大正のロマン」1982年1月29日〜2月7日

「竹久夢二と大正のロマン」
会期:1982年1月29日〜2月7日
会場:ギャラリー方寸
主催:現代版画センター

出品:竹久夢二、戸張孤雁、恩地孝四郎、藤森静雄、田中恭吉

G方寸82年1月竹久夢二と〜展DM

ギャラリー方寸「戸張孤雁と創作版画の人々展」1981年4月25日〜5月6日

「戸張孤雁と創作版画の人々展」
会期:1981年4月25日〜5月6日
会場:ギャラリー方寸

G方寸81年4月戸張孤雁と〜
G方寸81年4月戸張孤雁と〜画面

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ギャラリー&編集事務所「ときの忘れもの」は建築家をはじめ近現代の作家の写真、版画、油彩、ドローイング等を扱っています。またオリジナル版画のエディション、美術書・画集・図録等の編集も行なっています。
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