machiyama_rs02
                          photo by 與那原松美

今年も開催された「第6回沖縄国際映画祭」
映画関係者が大挙沖縄を訪れて例年以上の盛り上がりを見せましたが、中でも僕たちが一番注目したのが、アメリカ在住の映画評論家・町山智浩さんがやって来たこと! 
 
編集者としてベストセラーを連発。日本一読まれている映画雑誌「映画秘宝」を創刊し、現在は執筆活動はもちろん、ラジオやテレビに出演して目からウロコの「映画の見方」を僕たちに伝えてくれる、日本では数少ない“映画評論家”なのです。
 
私たちに与えられた取材時間はわずか30分ほどでしたが、映画に教養、差別、そして沖縄…と縦横無尽の知識と話題を繰り出す様はただただ圧巻。しかも、それがことごとく面白過ぎるのですから感動しちゃいました。
そこで町山さんがお話した内容13000文字、ほぼノーカットバージョンを全5回の連載でお届けします。
 
聞き手は「シネマラボ突貫小僧」代表の平良竜次です。





 
「沖縄は初めて来ました」 

竜次:主催者でも何でも無いんですが、沖縄に来てくださってありがとうございます!
 
町山:いえいえ。はい!
 
machiyama_rs12竜次:町山さんのことは「映画宝島・創刊準備号」(1990年)以来のファンでして、ちょうど高校生だったんですけど。
 
町山:ああそうなんですか! 古い話ですね(笑)。僕もまだ二十代でしたよ、はい。
 
竜次:本もほんと面白くて、編集後記で町山さんが「やりたいことがいっぱいありすぎて口から精子が出そうです」って書いていて(笑)。「なんなんだこの人は」と。
 
町山:アタマおかしいんじゃないか、大丈夫かと(笑)。
 
竜次:それからずっと追っかけ続けてきました。大ファンです。よろしくお願いします。
 
町山:ありがとうございます。
 
竜次:町山さんは沖縄は今回が初めて…?
 
町山:はい。そうです。
 
竜次:来たことはまったく?
 
町山:無いです。
 
竜次:来られたばかりなので、まだ印象も何もないですよね。
 
町山:昨日の夕方に来たばかりです。
 
竜次:帰られるのは明日…?
 
町山:あさってです。明日はひめゆり行けたらいいなと思ってるんですけど。
 
竜次:どうも明日も雨らしいですけど。また来ていただけたら。
 
町山:来ます。それはもう、また来ます。回りたいところもあるし、(今回は)時間が全然足りないですからね。
 
竜次:では、まず基本的なことからお聞きしていきたいのですが、その前に、僕たちの説明から。「シネマラボ突貫小僧」というNPO団体をやっていまして、1992年に『パイナップル・ツアーズ』という映画を作りました。
 
町山:ああ、ありましたねえ。
 
竜次:その3人の監督(中江裕司、真喜屋力、當間早志)がこの「突貫小僧」を作ったメンバーでして。
 
町山:はいはい! 
 
machiyama_rs11竜次:それで、映画を作ったり、新聞や雑誌、ウェブ上で映画の評論を書いたり上映イベントをしたりすることで、沖縄で映画を盛り上げようと長年活動してきたんですが。
そこで…(本を取り出して)、町山さんは「映画の見方がわかる本」を書かれたということで、ひとつ映画の見方を僕たちにご指南していただきたいなと。
 
町山:あははは(笑)。


竜次:…ざっくりした質問ですみません(笑)。 






「基本的なことが通じなくなっている」

竜次:僕自身、いろんな場所で映画の話をする機会があるんですが、なかなか皆さんにご理解いただけない部分があって。町山さんでも様々な媒体やイベントで映画のお話をしてきて「難しいな」と思うことがあったりするのかなと。
 
町山:(少し考え込んで)…どれぐらい通じてるのか、伝わっているのか分からない、というのはありますね。
 
竜次:もどかしいという部分はありますか。
 
町山:やっぱり最近はすごくありますよ。
 
竜次:最近ですか?
 
町山:最近です。あのう、やっぱり当たり前だと思っていることが通じないときってありますね。せっかく来てくれているんだけど、基本的なことが通じないからゼロから話をしなきゃなんないので、すごく時間がかかる。
 
竜次:今日もこれから舞台でお話されますけど、上映前にお話しするとか、WOWOWでも解説されていますけど、その枠内でどれだけ伝えられるのかという。
 
町山:今週の頭に東京で『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』ていう映画に関して説明したときに、これはその、12軒のパブを回るという男の話なんですけど、これって一体何を意味するのかというと、これはアーサー王というイギリスの伝説的な王様の話なんですけど、(観客に)「アーサー王を知っていますか」って聞いたら手がパラパラパラ…とちょっとしか手が上がらなかったんです(笑)。これは話が大変だ〜って思って!(笑)。みんな知らないのかと(笑)。

world-end_flyer
竜次:「アーサー王ってどこの人?」ぐらいの感じで。
 
町山:そう!大っ変ですよ〜。
 
竜次:そうなった場合はどうされるんです?
 
町山:うわあって思うんですけど、これはもう前提が違うのかと思うんですけど、しょうがないかと話をしますよね。
そのときに上手く話すとしたら、日本で言うと天下統一を成し遂げた織田信長、豊臣秀吉みたいなもの? まあそういうのが500年代、600年代のイギリスにいたといわれていると話すしかないですよね。だから歴史的に重要で聖徳太子みたいなものなんだと話をするという感じですよ。
 
竜次:そこの前提からちゃんと説明しないといけないと。
 
町山:ただ、その話をすると「ふーん」でしかないんですよ。最初からアーサー王を知っていれば、「あのアーサー王だったのかー!」ってなるはずなんだけど。
 
竜次:そういう驚きにはならないと。
 
町山:そうそうそう! そういう驚きにならないのが辛いところなんですよ。
 
竜次:そういう現象は、ここ最近ということなんですか?
 
町山:ここ最近ですね。一般教養のレベルがかなり下がっているから、日本全体で。
昔のようなものではないですよね。本当にゼロから話さないと通じない世界が出来てきているなと思いますよ。

(つづきます!)