とこちゃんのひとりごと

空のお話・少林寺拳法・家族・思ったことを綴る日記です。 仕事関係のことはプライベートモードにしています。 PASSWORDを知りたい方はprofileにあるアドレスにメールしてください。

面白かった本

「脳には妙なクセがある」池谷裕二



友達に借りてきて読んでる本です。作者は東大大学院准教授の脳研究者で詳しくは知りませんが最近特に注目されている方のようです。紹介には「日本が世界に誇るべき脳研究者」と書かれています。この人の本は初めて読んだけど、脳の働きやクセをとてもわかりやすい平易な表現で面白く書いてくれています。各章を読むたびに「なるほど」「ほう」と思うことがたくさんあって、なかなか面白いです。実生活に役に立つこともたくさんありますね。例えば・・・

1、運動が得意な生徒ほど、勉強の成績も良い?
2、他人の不幸を気持ちよく感じてしまう脳
3、それほど「やっぱり」ではない
4、意中の人の左側に座る「シュードネグレクト効果」
5、恋をすると脳の処理能力が上がる?
6、罰はなぜ存在するのか?
7、コミュニケーションの最強の武器とは?(笑顔の効果)
8、セクシーフェロモンは実在するか?
9、最も効果的な勉強法とは?(入力よりも出力重視の勉強法)
10、効果的なリーダーシップとは?
11、本番で実力を発揮するには?
12、脳は何のために存在するのか?

など、いくつか章のタイトルを挙げてみましたが、結構面白そうでしょ?いいこと書いてあるんです。言語は「通信手段」と「思考ツール」としての二つの役割があり、ボキャブラリーの豊富さと認知能力の高さ、内省力は関連がある。言語こそが「人間らしさ」を作り出す。とか、音痴と空間把握能力は共通性があり、女性に数学が苦手で音痴が多いのはこの理由による、とか。数学や音楽は空間把握能力に関連するんですね。コミュニケーションで笑顔が大切なのは、笑顔はたとえ本人が楽しくて笑っていなくても無意識に相手に対する受容度が上がったり、思いやりの気持ちを持てるようになる効果があるそうです。こういう話も仕事で使えそうです。

最後に挙げた「脳は何のために存在するのか」。人間の脳が高い情報処理能力を実現する「言語」を獲得したのはごくごく最近のことで、それ以前には「反射」や「学習」によって身の安全を確保するために機能してきたものだそうです。ですから脳は今でも身体との関連を強く持っています。脳は身体経験に強く影響を受けるのだそうです。経験や行動によって学んだ知識は脳に強く印象付けられ、その後の行動や判断にも影響を与えます。脳は身体の機能とともに生まれたものなのだそうです。従って、「心」や「精神」は脳にあるのではなく身体に散在するものであり、心と身体は切り離すことができないものなのだそうです。

「拳(剣)禅一如」「健全な精神は健全な肉体に宿る」など、昔からいろんな言い方で言われていることですが、脳科学的にもこれは正しいことなんですね。この辺、とても感銘を受けました。興味がわいた方は是非ご一読を。

「ビブリア古書堂の事件手帖ー栞子さんと巡るさだめー」三上延



出ました。三上延さんの「ビブリア古書堂の事件手帖」の続編。ストーリーもいよいよ佳境といった感じですね。ライトノベルですが「ビブリア古書堂」シリーズは第1巻発売当初からファンです。古書をテーマにした探偵小説という切り口が面白いのと、主人公は栞子さんという美女で、巨乳黒髪ロングヘアーだけど普段は非常にシャイでコミュニケーション不全、でも古書のことなら何でも知っている天才少女でビブリア古書堂という古書店の店主、古書に関する話の時だけは人が変わったように堂々と顧客から持ち込まれる数々の古書にまつわる謎を鮮やかに解き明かしていく・・・というあり得ない人物設定ですがこれがまた意外とはまるのです。

あとがきで作者もあと1巻か2巻でこのシリーズも終わりです、と書いていたけど、ラストをしっかりとまとめてほしいですね。人気の出たシリーズものというのは「出せば売れる」ものだから、ストーリーをずるずると引き伸ばしてマンネリ化に陥ってしまい、終わらせようがなくなる・・・というのがよくあります。10巻前後できちっとストーリーをまとめて終わらせるというのがいい作品には大事だと思います。ビブリアは作者本人がもう終わりにすると宣言しているのでラストがどういう展開になるのか楽しみですね。続編を作るなら作るで一回終わらせてから新シリーズで再開すればいいと思います。それは是非やってほしいですけどね。

ところで、僕の通っている少林寺拳法の道場にも数年前からOさんという近くの大学前で古書店を営むご主人が来てくれています。60を過ぎてから経験のない少林寺拳法を始められて、今は1級ですが黒帯を目指して熱心に稽古されています。何年もいらっしゃる割になかなかゆっくりお話しする機会はなかったのですが、昨年の忘年会でこのビブリア古書堂の話から古書のお話をいろいろ伺うことができました。Oさんは2代目らしくお店は親父さんから受け継いだようです。古書の知識はどのようにして身に付けるのか、古書の魅力とはどういうところか、古書店の経営というのは厳しいものなのか、など立ち入った事まで聞かせてもらってとても面白かったです。

Oさんもやはり活字中毒、本の虫らしく、いつも何か本を持ってないと不安になるという性質らしいです。読書家というのは博識で思慮深い方が多いと思っていますが、Oさんもそういう人のようです。話しぶりは穏やかですが聞けば聞くほどいくらでも面白い話題が出てきますし、好奇心が旺盛というか失礼ながら60代の方とは思えないくらい政治、経済、宗教、軍事、社会問題、読書、恋愛に至るまで興味をもって話題に乗ってきてくれます。会話してこれほど楽しい人はいませんね。本好きというのは妙に同類意識が強いので何となく先輩ながら同類を見つけた気がして嬉しかったですね。

世代も職業も全く違いますがとても親近感がわきます。最近はこういう人が少なくなってきてるだけに身近にこういう人が現れてくれたことがとても嬉しいです。昨日も稽古の後、体育館の外で寒いのに話し込んじゃいました。こういう人間関係が広げられることが少林寺拳法のいいところでもありますよね。

仕事引退したら道楽で儲からなくてもいいから、古書店やりたいなぁ・・・なんてちょっと夢を描きました。まあ古書店の経営というのはそんな甘いものではないようですが・・・。でも古書店やりながら本に囲まれて暮らして、夜は少林寺教えて・・・なんて素敵な老後だなぁって思っています。

島田荘司「星籠の海」

星籠の海 上
島田 荘司
講談社
2013-10-04


本の紹介、もう一冊。島田荘司「星籠の海」。「せいろ」と読みます。いつもながら上下2巻の大作。名探偵・御手洗潔シリーズの最新作です。昨年秋に初版が出た本なので最新作といっても少し前になりますね。どうも僕の中で訓練が始まったG.W.から時間が止まってしまっているようなので、昨年秋というとほんのちょっと前のような気がするんですが、もうすぐ一年になるんですね。浦島太郎みたいです。

さて、名探偵・御手洗潔。久しぶりの登場です。最近の作品では海外に行ってしまって日本での活躍はとんと見られなくなってしまっていますが、この作品は過去に遡って御手洗潔が日本を出国する前の最後の事件ということになっています。初期のころの御手洗潔が蘇ってファンとしてはこれも嬉しい限りです。

御手洗潔シリーズは1981年に発表された「占星術殺人事件」以来、たくさんの作品とスピンオフ作品がありますが、中でも「暗闇坂の人喰いの木」「水晶のピラミッド」「眩暈」「アトポス」あたりが一番好きです。御手洗本人の人物像は横浜馬車道に事務所を構え、占星術を趣味とする変わり者というのが当初の設定でしたが、作品が進むにつれてIQ300以上、世界中のあらゆる言語をネイティブ並みに使いこなし、脳科学が専門ながらあらゆる学問に精通した超人的な科学者、ただし警察や政府機関からの依頼を受けてときどき事件捜査を担当するという風に変わっていきます。その抜群の能力と集中力を生かし、御手洗潔の事件を本にして発表する語り部、そして事件においては間抜けな凡人の発想を御手洗にぶつけては粉砕される格好のワトソン役、石岡君とともに様々な難事件を鮮やかに解決していく格好よさはとても魅力的です。石岡君は女性好きで事件のたびに現れる美女にはしょっちゅう気を取られていますが、御手洗潔は学問と研究以外には関心がなく、事件にかかわって御手洗が救った経緯のある、ハリウッドに進出した大スター・松崎レオナの熱烈なラブコールにも結局見向きもしませんでした。他人となかなか相容れない変わり者の性格、強烈な個性と相俟って、この辺がかっこいいんですよね。

もちろん他の御手洗潔シリーズを順番に読んでいれば一番よくわかって楽しいのですが、もし読んでいなくてもこの作品だけでも十分に理解でき楽しめる内容になっています。

舞台は瀬戸内、事件は謎の死体が多数打ち上げられた愛媛県松山沖に浮かぶ興居島から広島県福山市、鞆の街へと移っていきます。かつては「潮待ちの港」として瀬戸内海の要衝として栄えた鞆の街、今は寂しい漁港の街となったものの今その町に謎の宗教団体が勢力を広げ次第に町の人々をを侵食していきます。教団を束ねるのは真喜多教祖こと国際的犯罪者ネルソン・パク。極めて慎重、かつ知能的な教団による西日本侵略を御手洗潔が阻止します。多くの登場人物をそれぞれの視点から章別に分けて物語を展開する島田氏得意の表現方法。これにより登場人物たちの立場や心情がよくわかり、どちらの側からも生きた人間の悩みや苦しみ、犯罪に加担していってしまう心の動きがよく伝わってきて感情移入もしやすいため、読者にはますます事件が身近なものになっていきます。「時計仕掛けの海」瀬戸内海が生んだ事件、江戸時代末期、幕府老中の要職に在り福山藩主であった阿部正弘が残した黒船への海戦配置図に赤字で描かれた「星籠」の文字、黒船に対し使用しようとした村上海賊の秘密兵器とは何か?歴史の謎を絡ませつつ御手洗潔とネルソン・パクの対決は最終局面へと向かいます。

いつもながら長いけれど長さを感じさせない、息をつかせぬストーリー展開に引き込まれる作品でした。御手洗潔シリーズはもっともっと続けてほしいものです。

東野圭吾「流星の絆」

流星の絆
東野 圭吾
講談社
2008-03-05


訓練が一段落して本を読む余裕ができたので(実は訓練中も軽いやつをちょこちょこ読んでたんだけど)、本をいろいろ読んでます。今回いいなと思ったのは東野圭吾「流星の絆」。

東野圭吾さんといえば江戸川乱歩賞をとったデビュー作「放課後」の衝撃からずっとファンです。とはいえ、長い年月が経って作風もだいぶ変わってきましたね。最近では福山雅治主演のドラマ、映画で話題になったガリレオシリーズ、映画化した「プラチナデータ」など面白い作品を次々と生み出しています。 そんな中、「流星の絆」は僕が読み逃していた作品で初版は2008年3月、もう6年も前の作品になるんですね。たまたま中2の次男が古本屋で買ってきて家にあったので何気なく読みだしたらはまってしまって一気に読んでしまいました。

長男・功一、次男・泰輔、末っ子・静奈の3人の兄弟は洋食店「アリアケ」を営む両親のもとで育っていました。功一小学6年、泰輔4年、静奈1年のある夜、兄弟は夜中にペルセウス座流星群を見るためにこっそり家を抜け出します。帰宅したとき両親は何者かに刃物で刺され惨殺されていました。泰輔は帰宅の際、家から出てくる犯人らしき男を目撃します。しかし、警察の懸命の捜査にもかかわらず犯人は杳として知れず、子供たちは施設に預けられ14年の歳月が流れます。時効まであと一年・・・子供たちは施設での様々な苦労を兄弟で力を合わせて乗り切り成長します。しかし、施設を出て社会に出ると騙され裏切られさらに多くの苦難が降りかかり、兄弟は生きていくためにやむを得ず詐欺を働きます。そして知恵者・功一を中心とした詐欺師グループとして活動していきます。

そんな中、ターゲットの一人として設定した人物の父親が泰輔が子供のころ目撃した両親を殺した犯人の顔と一致します。証拠を集め、真相を知るために兄弟は静奈を犯人の息子に接近させます。静奈は騙して金を奪い、犯人と思われる父親を追い詰めるために息子に近づいたはずだったものの、次第に息子・戸神行成の人柄や情熱に惹かれていきます。果たして14年前の洋食店惨殺事件の真相は?行成の父親は犯人なのか?そして行成と静奈の許されぬ恋の行方は?

しっかりと構成されたラスト、心地よい読後感はさすが東野圭吾です。改めて東野氏の力量を見直した傑作でした。

本屋大賞結果発表雑感

本屋大賞2014(http://www.hontai.or.jp/)は和田竜さんの「村上海賊の娘」に決定しました。3年目にして予想初的中!パチパチ。って自画自賛してます。

「とっぴんぱらりの風太郎」を2位に推してたんだけど、結果は5位と意外に低かったですね。血生臭さが女性書店員の皆さんに受けなかったんでしょうか?でも「村上海賊の娘」もかなり血生臭いですけどね。人が死ぬ数は半端ないし…。これはもうちょっと上位に来てほしかったです。

 2位は「昨夜のカレー、明日のパン」僕の感想では登場人物たちの心の動きが綺麗過ぎて、何となく「きれいごと」に感じてしまったんですよね。もっと人間の心って複雑で欲望があるもんだろうって、そういう葛藤があまり出ていなかったのが気になりました。それが違和感となって心に残ったのであまり上位には推さなかったんだけど、書店員の皆さんはそういう異和感はあまり感じなかったんでしょうか。

 「島はぼくらと」の3位、これは妥当だと思います。ほぼ予想通り。「さようならオレンジ」が4位!上位に来ましたね。発表までに読めなかったのが残念です。今読んでるところ。まだ前半ですが…。

僕のダークホースだった「ランチのアッコちゃん」は残念ながら7位と比較的下位でした。何で駄目だったんでしょうねー。女性受けする作品だと思うし、内容もとても良かったと思うんですが、ちょっとボリューム不足かな?一日で読めちゃう分量でしたからね。でも柚木麻子さんはこれからも注目して読みたい作家です。

 9位、10位は予想通り。この2作はちょっと物足りなかったですね。次回作に期待します。

今年の本屋大賞は全体にレベル低め、と感じてましたが、歴史もの2作が上位に入ったことはとても良かったと思います。男性好みな作品も評価されるようになってきてバランスが取れてきている感じがします。大きな賞を取ってすでに十分な評価を受けている作家は対象外とし、その中で「読んでほしい作家」の作品を選ぶという試みはノミネート作品の選出がとても重要だと思います。昨年は宮部みゆきさんまで候補に入ってたんだし、来年はもう少し幅を広げてよりレベルの高い作品のノミネートを期待したいと思います。

本屋大賞2014前日予想

いよいよ明日は本屋大賞の発表です。さて、大賞は誰でしょうか。残念ながら、あと1作、「さようならオレンジ」だけが発表までに読了できませんでした。なので、これを除いて独自に順位付けをしてみたいと思います。

第1位 村上海賊の娘                     和田竜
第2位 とっぴんぱらりの風太郎 万城目学
第3位 ランチのアッコちゃん  柚木麻子
第4位 島は僕らと       辻村深月
第5位 想像ラジオ       いとうせいこう
第6位 昨夜のカレー、明日のパン 木皿泉
第7位   教場          長岡弘樹 
第8位 聖なる怠け者の冒険    森見登美彦
第9位 去年の冬、きみと別れ   中村文則

半分は3月2日の記事で感想を書きましたから、今回は残りの4作の感想を少し。


ランチのアッコちゃん
ランチのアッコちゃん [単行本]
「ランチのアッコちゃん」は働く女性を主人公にそれぞれの女性が厳しい環境に立ち向かいながら、明るくたくましく生きていく姿を描いています。よくあるテーマと言えばそうですが、食べ物、飲み物、飲食店をテーマにした取り上げ方は斬新で、女性作家らしい繊細な文章と男性の登場が少ない分、登場人物に違和感がなく自然に作品世界に溶け込めて一日で読めてしまうので、とても良かったと思います。篠田節子さんの「女たちのジハード」は大好きな作品ですが、これと共通するものがありました。働く女性必読の元気が出る小説です。

「昨夜のカレー、明日のパン」若くして夫を亡くした若妻は夫が死んだ後も義父と二人暮らし。というと何だか怪しげな雰囲気を想像してしまいますがそうではなく・・・若くして病気で亡くなった青年の周りで彼の死を受け止めきれない周囲の人々。妻、父、いとこ、友人、そして妻の新しい恋人・・・。心の傷を癒しきれないままに穏やかに暮らす妻と義父。それぞれの人々が抱える心の葛藤と、少しずつ彼の死を受け入れて立ち直って行く様子を丁寧に描いています。ちょっと心の動きが綺麗過ぎて、共感性に乏しい部分はあったんだけど、それが最後まで少しの違和感として残りました。かすかな違和感を残しながらもストーリーとしては美しい小説だと思います。

「教場」警察学校を舞台に様々な事件が起こります。入校してくる学生たちを厳しい目で見つめ、ベテラン警察官らしい鋭い洞察力で校内で起こる事件を解決して行くのは「教官」。事件を未然に防止したり、或いは不適合者を追放したり、事件を起こしたものの警察官としての適格者を援助したり・・・謎の多い「教官」がすべてを見抜き問題を解決していきます。事件を解決するいわゆる名探偵役が謎めいた教官であるところ、これだけ次から次へととんでもない問題を抱えた生徒が入校してくるのか、あるいはこんなに何人も退校処分になる学生が警察学校にはいるのか?と実際のところは疑問だけど、小説としてはなかなか面白かったです。謎解きの部分も短編の連続小説形式になっていて登場人物も少しずつリンクしているところがなかなかいいです。推理小説として、なかなかいいという感じの作品でした。

「聖なる怠け者の冒険」森見登美彦さんの小説にはちょくちょくあるんだけど、登場人物がみんな変で何を考えてるかさっぱり分からなくて、ギャグ漫画のように都合よく展開が進んで、最後まで何が言いたいのかさっぱり分からない。読んでる間はそれなりに面白くて、それからどうなるの?という楽しさはあるんだけど、読み終わった後に残るのは「?????」の連続でした。「夜は短し恋せよ乙女」は良かったんだけどなぁ・・・今回はあんまりいい評価付けられません。

というわけで、悩んだ末、大賞は「村上海賊の娘」を選びました。他に候補としては「とっぴんぱらりの風太郎」「ランチのアッコちゃん」「島はぼくらと」があったんだけど、この4作の中でダントツにこれっっていうのはなかったですね。何となく例年の本屋大賞に比べてレベルが低い争いのように思います。一昨年の「船を編む」「ピアタ」「ジェノサイド」のようにどれも大賞にふさわしいから選びきれない、という感じじゃなかったです。昨年だって「海賊と呼ばれた男」「ソロモンの偽証」「楽園のカンバス」という素晴らしい作品があったんだけどなぁ。今年はもうひとつピリッとしませんでした。

とりあえず、明日の発表が楽しみです。

本屋大賞2014ノミネート作、やっと半分読んだ。

本屋大賞2014ノミネート作読破まであと半分。途中経過です。4/8の発表までに間に合うんだろうか・・・。あと1カ月余りで5冊か〜不可能ではないけど頑張らないと。何作か読み逃したらすいません。あ、でも間に合わなくても当然全部読みますよ。

 

今のところ読んだのは以下の5作品。

「とっぴんぱらりの風太郎」万城目学

「村上海賊の娘」和田竜

「想像ラジオ」いとうせいこう

「島は僕らと」辻村深月

「去年の冬、きみと別れ」中村文則

感想は以下の通り

「とっぴんぱらりの風太郎」(少しネタバレ。これから読む方は後半を見ないように)

とっぴんぱらりの風太郎

「プリンセストヨトミ」「鴨川ホルモー」「偉大なる、しゅららぼん」で続々作品が映画化され、人気がすごい万城目学さんの最新作です。今回は戦国時代末期、豊臣氏の滅亡寸前の時代に活躍した甲賀忍者の物語です。忍者の里をちょっとしたトラブルで追われた風太郎(ぷうたろう)は、話をしたり人に化けたり中に風太郎を閉じ込めたりもできる不思議なひょうたんに導かれ、豊臣氏滅亡に重大な関わりを持つことになる…。風太郎の悲しい生い立ち、忍者としてしか生きる道を与えられなかった仲間たち、心を閉ざし頑なに忍者として生きようとする風太郎を運命が翻弄し、少しずつ本当の自分に目覚めていく風太郎。しかし運命はその前に10万人の軍勢を立ち塞がらせた…。強敵忍者軍団との死闘、大阪城落城の炎の中、豊臣秀頼より預かった「大切なもの」を守るため風太郎の決死の脱出行はどこへ行きつくのか…。戦国エンターテイメントとしては最高に面白い作品でした。作品の長さも深さもあとに出てくる「村上海賊の娘」と甲乙つけがたいものがありますね。

(ここからネタバレ)

最近の活躍ぶりを見ると有力な大賞候補なんだけど、この作品、ラストが少し悲し過ぎます。結局風太郎は幸せをほとんど感じられずに生涯を終えることになってしまいました。読者としてはここまで感情移入してきた風太郎に任務を終えた後、忍者としてではない新たな幸せを手に入れて欲しかったと思うところでした。ラストははっきり死んだとは書いてないけど、どう読んでも生き残れたとは読みにくい。たとえ片腕になってでもいいから生き残って新たな人生を歩んでほしかった。読者として無理やりそう解釈したくなるくらい、辛いラストでした。万城目さんがどういう考えでああいうラストに纏めたのかインタビューなどがあれば聞いてみたいものです。作品としては大変素晴らしいのですが読後感の悪さが非常に気にかかる作品でした。

 

「村上海賊の娘」

村上海賊の娘 上巻

「のぼうの城」「小太郎の左腕」など時代小説の新星として人気が定着しつつある和田竜さんの作品です。相変わらずこの人の作品は登場人物の存在感と魅力がすごい。今回は戦国時代、瀬戸内海の覇者として君臨し、今でも西日本に多数散らばる村上姓のルーツのほとんどはこの村上海賊の人々の子孫と言われるくらい有名な村上一族の姫の物語です。帯には「悍婦にして醜女」とあり、「なーんだ。ぶさいくか。それじゃああんまり魅力がないかなぁ」とか思ったんですが、読んでみてびっくり。何故か南方系アジア人の血が入っているのか、村上海賊当主・村上武吉の娘、景(きょう)は実は美人だったのです。当時は色白のふっくらした(要は太目)女性が美人とされていたので、背が高くスマートで敏捷で色黒な景は要するに「手が負えないくらい暴れん坊で外国人のような顔立ちの現代風美人」だったのですが、時代背景から評価されずこのような悪評になってしまっていたという意味だったんですね。

 

小さい頃から海に出て男たちとともに海賊働きをすることを一番の楽しみにしてきた景の望みは「イケメンの海賊と結婚すること」と「戦に出ること」。武芸は村上海賊の中でも右に出るものなく、残虐な海賊行為もゲラゲラ笑ってやってしまう豪放磊落な性格と見栄えのいい男に目がないお茶目なところとのギャップがとても魅力的で面白いです。さて、時代は戦国時代。大坂石山本願寺を攻める織田信長は本願寺勢を包囲し兵糧攻めに入ります。雑賀孫一率いる雑賀一族の支援を受け、辛うじて持ち応えていたものの困窮した本願寺側は中国地方の支配者・毛利家に大量の兵糧の援助を依頼します。織田信長と敵対するか否か、また本願寺を救うとしてどうやって大量の兵糧を運びこむか、毛利家の重臣・小早川隆景は苦悩します。そして村上海賊の当主・村上武吉を説得し船を使って海から兵糧を運ぶ作戦に出ます。こうしてこの時代最大の海戦・木津川の合戦が始まります。

 

景はふとしたことから大坂に向かう一向宗門徒の一団と出会い、彼らを船で本願寺に届ける「上乗り」という役を引き受けることになります。門徒の一人「じい」の「堺に行けば姫様は大層な美人として評価される」という言葉を信じ、そこに楽園が待っていると勝手に思い込んでの出発でした。そして到着した堺で泉州海賊・眞鍋七五三兵衛(まなべしめのひょうえ)と出会い、陽気な泉州海賊たちと過ごした日々が景を少しずつ変えていきます。本願寺勢と織田信長の戦いを見、本物の戦とは何か、戦場に出る男たちの覚悟を知り、大きな衝撃を受けて傷心の景は一旦帰郷し二度と戦には行くまいと決心します。

 

そして始まった木津川の合戦、静かな冷戦状態のまま終わるかと思われた退却間際、本願寺に送り届けた少年とじいを救出しようと戦場に飛び込んだ景の行動が歴史を動かします。村上海賊の秘術・鬼手が発動し難波海は毛利水軍・村上海賊対泉州海賊の未曽有の戦場へと化します。下巻はほぼこの木津川の戦いの描写一辺倒です。これほど詳しく長い戦いの描写は見たことがありません。次から次へと人が死にます。戦国時代の「命の軽さ」を感じさせます。そして景も七五三兵衛も漫画かと思うくらい超人的に強いです。リアリティはないにしても面白いから許せます。史実を基にした作品であるということですが、エンターテイメントとしての要素が半端なくありますね。長い作品ですが3日ぐらいで一気読みしてしまいました。「とっぴんぱらりの風太郎」と違い読後感もよいので僕の中では文句なしの大賞候補です。

 

「想像ラジオ」

想像ラジオ

心の耳を澄ませばどこからともなく聴こえてくる「想像ラジオ」。DJアークの陽気な声。でもDJアークはどこか変です。だってDJアークが今いるところ、それは高い高い杉の木のてっぺんで仰向けになって指先一つ動かせないそうだから。そんなところから、愛する奥さんの連絡をたった一人で待っている可哀そうなアーク。想像ラジオには多くの人から瞬間的に同時に不思議なメールや電話が届きます。だって想像ラジオですから…。

 

大震災で死んで行った人々の心の声を聴きませんか?そんなテーマで描かれたこの作品。死んで行く人々、生き残った人々はそれぞれ死者にどう向き合っていけばよいのか。重い重いテーマを軽いDJアークの語り口調に乗せて読者に伝えてくる作品です。大感動作というほどでもなかったんですが、テーマの重さが深く心に残る作品でした。僕は身近な家族を亡くした経験がないのでわかりませんが、心に傷を負った人にとっては心を揺さぶられる作品になるかもしれません。

 

「去年の冬、きみと別れ」

去年の冬、きみと別れ

これは内容の紹介はAMAZONの紹介文から抜粋します。

「僕はあなたについての本を書くと決めたのです」

ライターの「僕」は、ある猟奇殺人事件の被告に面会に行く。事件の全貌及び被告の素顔をあぶり出し、ノンフィクション作品として刊行することを出版社から依頼されたからだ。

被告の職業はカメラマン。その才能は海外からも高く評価されるほどのものだが、被写体への異常なまでの執着が乗り移ったかのような彼の写真は、見る物の心をざわつかせた。

彼は、二人の女性を殺した容疑で逮捕され、死刑判決を受けている。だが、何かがおかしい。調べを進めるほど、事件への違和感は強まる。そして、関係者たちの精神的な歪みが「僕」をのみ込んでいく。

彼は一体なぜ、女たちを殺したのか? それは本当に殺人だったのか?

何かを隠し続ける被告、男の人生を破滅に導いてしまう被告の姉、大切な誰かを失くした人たちが群がる人形師。それぞれの狂気が暴走し、事件は混迷の度合いを深めていく。

事件の真相に分け入った時に見えてきたもの、それは――?

日本のみならず世界がその動向に注目する中村文則氏、渾身の書き下ろし小説!

(以上転記)

ミステリーとしては凝った構成でそれなりに面白かったけど、登場人物の魅力、存在感はあまりなかったし、テーマを感じられるような深みもいまいちでした。「このミス」あたりに選ばれそうな感じで僕としては「本屋大賞」にふさわしい作品じゃないなーと感じました。低評価。

「島はぼくらと」

島はぼくらと

これもあらすじはAMAZONの内容紹介から。

母と祖母の女三代で暮らす、伸びやかな少女、朱里。美人で気が強く、どこか醒めた網元の一人娘、衣花。父のロハスに巻き込まれ、東京から連れてこられた源樹。熱心な演劇部員なのに、思うように練習に出られない新。四人はフェリーで本土の高校に通う。「幻の脚本」の謎、未婚の母の涙、Iターン青年の後悔、島を背負う大人たちの覚悟、そして、自らの淡い恋心。故郷で知った大切なこと、すべてが詰まった書き下ろし長編。(以上転記)

 

辻村深月さんは若者を主人公にした作品が多く、若者心理の描写が上手ですね。「冷たい校舎の時は止まる」「凍りのくじら」「子供たちは夜と遊ぶ」などは読みました。僕は「凍りのくじら」が一番好きですけどね。まだ読んでませんが、最近「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ」が第142回直木賞の候補になったのも記憶に新しいところです。これらの一連の作品の登場人物が少しずつ別の作品にもチョイ役で登場して読者を楽しませてくれるのも恒例で、今回もそういう悪戯はありました。ファンが病みつきになる所以ですね。この作品は特別に大きな事件があるわけでもなく、人が死ぬわけでもありません。昔から島で暮らす人々と都会から島へ移り住む人々がそれぞれ抱える事情と想い、島を出ていく子供たちと島に残る子供たちの気持ち、学校に残る「幻の脚本」の正体とその意味など、ほんの少しのミステリーを丁寧に描いています。読んだあと温かい気持ちにさせてくれるいい作品に仕上がっています。辻村深月さんといえばミステリーではちょっとダークな若者心理を描くのに長けた作家というイメージだったのですが、今までの作品とは少し違う雰囲気が却ってよかったなと思いました。本屋大賞でも上位に入ると思います。

 

いまのところ、読んだ半数の作品のReviewでした。また大賞発表前に自己採点ランキングをやりたいと思います。間に合うように頑張ります。

「人間にとって成熟とはなにか」曽野綾子


曽野綾子さんの「人間にとって成熟とは何か」という本を読みました。幻冬舎新書の新刊でジャンルとしてはエッセイだと思います。。新聞に広告が出てたのを見て面白そうだったのでさっそく買ってきたんだけど、うーん、全部共感ばっちりっていうわけではないですが、でもなるほどと思える部分とか、そうそうそれ同感と思う部分とか結構あって面白かったです。

 この本に限らず曽野綾子さんのエッセイはタイトルに惹かれますね。文中の各章に小見出しがあるんですが、そこに「読んでみたい」と思う興味深いテーマが並んでいます。
「人間の心は矛盾を持つ」
「「安心して暮らせる社会」は幻想」
「「もっと尊敬されたい」という思いが自分も他人も不幸にする」
「身内を大切にし続けることができるか」
「権利を使うのは当然」とは考えない
「品がある人に共通すること」
「思ったことをそのまま言わない」
「他人より劣ると自覚できれば謙虚になれる」
「報われない努力もある」
「破れたジーパンは幼稚な証拠」
「他人を理解することはできない」
「甘やかされて得することは何もない」
「不純な人間の本質を理解する」などなど。

僕なんかはこういうタイトルを見るだけで「曽野さんは何を言いたいんだろう」って興味津津になってしまいます。

曽野綾子さんの作品は、調べてみれば僕は「太郎物語」くらいしか読んでないですね。同じくクリスチャンの作家で三浦綾子さんがいますが、この人と混同してる部分がかなりありました。「氷点」や「塩狩峠」は三浦綾子さんの方だったんですね。曽野綾子さんの本名がまた三浦さんだから余計ややこしいんですよね。「太郎物語」は学生時代に読みましたが、とても面白かった印象があります。筋はもう忘れてしまったな…また再読してみたいと思います。

 驚いたのは曽野綾子さんはもう80歳を超えてらっしゃるんですね。戦争も体験した世代、それでこういう文章を書いて発表していることだけでもすごいことだと思います。エッセイですから「老人の繰り言」的な印象を受ける記述もそこここにありますが、それはそれで80歳を超えた世代の方の生の声と思えば、「そういう風に見えるんだな、考えるんだな」と思える部分もあって面白いです。

 戦争体験のみならず、アフリカでの医療援助活動に随行したりした経験からも「本当の貧困」や「本当の苦しみ」というものを目の当たりにしてきている人であるだけに、東日本大震災の被災者やいじめで苦しむ子供等に対しての厳しい意見がマスコミで取り上げられることが多く、否定的な見方をする人も多いようですが、文章を読んでみると曽野さんの言いたいことには納得できる部分も多く、なかなか今の社会にこれだけ歯に衣着せぬ意見が言える人は少ないと思うので一読の価値はあったと思います。むしろ、今のマスコミの「いじめられる子供は可哀そう」「政治が悪い」「社会が悪い」と、弱くなっている現代の日本人の問題を何でも人のせいにして済ませようとする風潮に違和感を感じている身としては、的を射た意見であると感じることが多いエッセイでした。

 曽野さんのエッセイは過去にもたくさん出ているのでこれを機会に何冊か読んでみようと思い、中古本で注文しました。楽しみです。

本屋大賞2013のノミネート作発表

今年も本屋大賞のシーズンがやってきました。毎年楽しみにしている賞ですが、昨年はノミネート作を全部読んで選考前に自分で順位をつけてみるということをやってみました。残念ながら僕の一押しだった高野和明『ジェノサイド』は大賞を逃しましたが、BEST3は正解で楽しませてもらいました。どの作品もとても面白く読書の幅を広げてもらいましたが、特に上位3作の『ジェノサイド』『ピエタ』『舟を編む』は素晴らしい作品でした。

今年のノミネート作は以下の通りです。
公式ホームページはこちら(http://www.hontai.or.jp/

『海賊とよばれた男』 百田尚樹(著) 講談社
『きみはいい子』 中脇初枝(著)ポプラ社
『屍者の帝国』 伊藤計劃、円城塔(著) 河出書房新社
『晴天の迷いクジラ』 窪美澄(著) 新潮社
『世界から猫が消えたなら』 川村元気(著) マガジンハウス
『ソロモンの偽証』 宮部みゆき(著) 新潮社
『百年法』 山田宗樹(著) 角川書店
『ふくわらい』 西加奈子(著) 朝日新聞出版
『光圀伝』 冲方丁(著) 角川書店
『楽園のカンヴァス』 原田マハ(著) 新潮社
『64』 横山秀夫(著) 文藝春秋
以上11作品。

『海賊と呼ばれた男』は先日読み終えたところです。『永遠のゼロ』の路線を引き継いで戦前〜戦後の動乱の時代、主人公・国岡鐡三は下関の小さな燃料会社から「国岡商店」を立ち上げ、何度も倒産の危機に見舞われながらその都度、創意工夫と大胆な戦略によって会社を持ち直し成長させていきます。石油業界の厳しい荒波を乗り越え、『店員は家族』という自らの信念のもと敗戦後、絶体絶命の危機に瀕しても決して社員の首を切らず、GHQにもSeven Sisters(7人の魔女)と呼ばれる石油メジャーの総攻撃にも屈せず闘い抜き、日本唯一の外国資本の入っていない石油会社を大企業に育て上げた男の一代記です。モデルは出光興産の創業者・出光佐三で実話をもとにした物語だそうです。どこまでが完全な実話なのかはわかりませんが、まさにドラマのような見事な生き様を描いています。男の子にはたまらない痛快な物語ですね。

 宮部みゆきさんの『ソロモンの偽証』は以前にレビューを書きましたね。これもさすが宮部さんというしかない素晴らしい作品でした。全3巻という大作です。学園ものでこれだけのものを詰め込めるのは宮部さんの力量がないととてもできないことじゃないでしょうか。ちょっと登場人物の中学生たちかしこ過ぎという気はしますが、大人が十分楽しめるレベルの作品でした。これが高校生くらいならまだ納得もいくんだけどね・・・中学生の中学生らしい子供っぽさが時々描写されてるんだけど、大人も発想が及ばないほどの深いテーマと謎に挑んで思わぬ展開から解決に導いていく中学生たちは優秀な大人そのもので、ちょっと現実味という観点では無理がある気はしました。でも宮部さんの描きたかったテーマはよく伝わってきたし、設定上の無理に眼をつぶれば大変読みごたえのある面白い作品でした。「模倣犯」以来の秀作と言えると思います。ところで、本屋大賞は芥川賞・直木賞の受賞者などを外し、まだ世間に広く認知されていない作者の作品を広めることをそもそもの目的にしていましたが、宮部さんほどの超売れっ子作家、ノミネートするのありなんでしょうか?芥川・直木賞取ってなかったでしたっけ?

 この2作品以外はまだ読んでいません。

冲方丁さんは『天地明察』で2010年に本屋大賞を受賞してすでに人気はブレイクしていますね。横山秀夫さんも有名な作家ですが本屋大賞にノミネートされるのは初めてなんですね。意外でした。西加奈子さんは2006年に「さくら」でノミネートされています。それ以来久しぶりのノミネート。僕は何作か西加奈子さんの作品は何冊か読んでいるのでお馴染みですが、まだそんなに知名度が高い人ではないかもしれません。テヘラン生まれの大阪・泉北ニュータウン育ち、まだ30代の若い作家さんです。西さんの方が抒情的なテーマが多く感じますが湊かなえさんとイメージがちょっとかぶるんですよね。僕としては…。「きいろい象」が昨年映画化されたことも話題性があって影響したかもしれませんね。

それから『晴天の迷いクジラ』 窪美澄さんの作品は読むのが楽しみです。以前のノミネート作で惜しくも2位に終わった『ふがいない僕は空を見た』は衝撃作でした。6年生のうちの息子が必死になって読んで「エロ本やん!」って感想を言ってましたが、まあ、子供にはわからん深いテーマが隠されていました。布団にこそこそ隠して読んでいる息子が面白かったですけどね。その窪さんが次にどんな秀作を書いたのか楽しみです。

 原田マハさんは恋愛小説家というイメージですが一作ぐらいしか読んだことありません。山田宗樹さんも中高生に人気の携帯小説の作家というイメージですがあまり読んだ記憶がありません。あとの人は全く初めてです。可能なら選考前に今年もマイランキングをつけてみたいと思います。 昨年は自分の好みだけで順位付けした結果、4位以下は大きく外しました。本屋大賞の投票者は女性が多いようなので、女性に好まれる作品が上位に来るということを念頭に置きつつ今年は選んでみようかなと思います。

『ソロモンの偽証』 宮部みゆき

ソロモンの偽証 第I部 事件
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ソロモンの偽証 第II部 決意
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ソロモンの偽証 第III部 法廷
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『ソロモンの偽証』
は天才・宮部みゆきさんの久しぶりの現代もの、しかも学園ものです。若者を登場人物にした作品は「小暮写真館」以来かな。中学校が舞台で中学生が主役という内容は宮部さんにしては珍しいですね。今までは高校生くらいが多かった・・・。宮部さんの作品は「外れ」と思うものが一つもないので、今回も刊行と同時にハードカバーで読み始めました。700ページくらいある厚い本で3部作。ホントに読んでも読んでも終わらない感じですごく嬉しいです。



いま、第2部まで読み終えました。第3部の完結編は1011日発売とのこと。いよいよ最終局面に入るところで発売が待ち遠しいです。ストーリー紹介したいところですが、あまりに長く複雑なストーリーにとても簡潔にお話の要点をまとめることができません。一人の中学生の自殺から始まるお話ですが、本当に自殺だったのか、他殺だったのか、それぞれの登場人物の子供たちの家庭環境や、トラウマを抱えた子供たちの葛藤と成長、教師たちの学校を守る気持ちと子供たちを守る気持ちのせめぎ合い、学校現場の体制批判を身上とするテレビディレクター、刑事であり親でもある主人公の父、少年課刑事の葛藤、多くの登場人物たちのたくさんのエピソードが連続し、一つ一つが別の小説になりそうなくらい精密な心理描写が一つの事件を軸に展開されます。その後、自殺の波紋が新たな事件を生み、複雑に絡み合った思惑の結果、混乱の中で無理やり事件は収束されようとして行きます。しかし、真実が隠されたまま、人知れず傷付いている多くの生徒たちを見て、「大人の解決」に怒りを覚えたヒロイン・藤野涼子は自分たち中学生の力で全ての真相を明らかにするために「学校内裁判」を提案します。



検事側、弁護側に分かれてそれぞれに調査を進める子供たちの前に、少しずつ表れる新たな事実、新たな疑惑。当初は作者の俯瞰した観点からの筋の通った事件描写に、簡単な事実関係だと思っていた読者も次第に「本当の真実は別のところに隠されているんじゃないのか」という疑惑が芽生え始めます。刑事、親、教師、校長、生徒たち、学校内だけの「裁判ごっこ」だったはずの学校内裁判が、大人たちを巻き込んで全ての関係者の注目のもといよいよ始まります。「真実」は何か?多くの証言者が一堂に会し、全てを語り合ったとき何が起こるのか、それが始まるのが完結編である第3巻です。



早く読みたーい。


 


 


 

決定! 本屋大賞2012

本屋大賞2012が決まりました。ホームページはこちら(http://www.hontai.or.jp/index.html)。順位は以下の通りでした。

大賞
『舟を編む』 著/三浦しをん(光文社)
510.0点
2位
『ジェノサイド』 著/高野和明(角川書店)
355.5点
3位
『ピエタ』 著/大島真寿美 (ポプラ社)
324.0点
4位
『くちびるに歌を』 著/中田永一(小学館)
265.0点
5位
『人質の朗読会』 著/小川洋子(中央公論新社)
213.0点
6位
『ユリゴコロ』 著/沼田まほかる(双葉社)
208.0点
7位
『誰かが足りない』 著/宮下奈都(双葉社)
173.5点
8位
『ビブリア古書堂の事件手帖  ―栞子さんと奇妙な客人たち』
 著/三上延(アスキー・メディアワークス)
153.0点
9位
『偉大なる、しゅららぼん』 著/万城目学(集英社)
137.5点
10位
『プリズム』 著/百田尚樹(幻冬舎)
72.0点

BEST3の予想は当たりましたが、大賞が『ジェノサイド』でなかったことは本当に意外でした。『ジェノサイド』には桁違いの評価をしてたのでちょっと残念です。三浦しをんさんの『舟を編む』は確かにすばらしい作品でしたが、内輪ネタのように感じたので自分としては順位を下げてました。が、本屋大賞はそもそも全国の書店員さんが3作を選んで投票するコンクールですから、内輪ネタが強いのは当然かもしれなかったですね。結果から見ればこの作品をベスト3から外す書店員さんは男女を問わずまずいないような気がします。一方の『ジェノサイド』は女性が読めば中にはベスト3から外す書店員さんがいても不思議はないわけで、その辺の差かなと思います。

『くちびるに歌を』が4位・・・僕はこの作品は最下位にランクしてたのでこれも意外です。普通の子供ネタの小説にしか思えなかったんですけどね。『ビブリア古書堂』『しゅららぼん』『プリズム』と男性に偏って人気がありそうな小説はいずれも下位。内輪ネタはともかく、子供ネタ、女性作家が上位を占めたことも考えると、この結果は女性の意見が多く反映してるような気がします。投票者は女性が多かったんですかねー。

『くちびるに歌を』と『しゅららぼん』の順位が逆ならほぼ納得のいくところだったんですが、「うーん、なるほど」と改めて読む人によって本の評価というのは違うものなんだなということを再確認しました。

『ピエタ』の評価が高かったことはとても嬉しかったです。

高野和明 『ジェノサイド』

ジェノサイド
ジェノサイド
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高野和明『ジェノサイド』は本屋大賞ノミネート作のうちでも大賞候補最有力と書評で噂されている作品だったので、楽しみにして読みました。まさに噂に違わずの素晴らしい大作でした。

高野和明さんといえば、『13階段』で江戸川乱歩賞を受賞してデビューしたのは知っていましたが、その他の作品はまったく読んだことがありませんでした。2001年に乱歩賞を受賞して10年も経つのに著作はほとんどなく、非常に寡作な作家さんみたいですね。『ジェノサイド』のようなすごい作品が書ける人であれば、過去の作品ももっと読んでみたいと思わせるすごい筆力でした。映画とかドラマの脚本ののほうが本職みたいな感じの人なんでしょうか。少しもったいないですね。

『パラサイトイヴ』『BRAIN VALLEY』を書いた瀬名秀明さんのような科学系の大変詳しい描写と研究者の世界を描いた表現が秀逸で、戦闘部分に関しては『終戦のローレライ』『Op.ローズダスト』等の福井晴敏氏を彷彿とさせるような迫力とリアリティがありました。

この作品では薬学・創薬に関する描写が専門的で詳しく、研究者の気持ちや心意気にも深く踏み込んだ描写がされている点、ブッシュ政権時代のアメリカをモデルにイラク戦争や軍事の外部委託に関わる諸問題なども考察しながら、主人公の一人である元特殊部隊員の傭兵の立場や気持ちにどんどん感情移入させてくれる表現力、戦争と平和の意味や人類の本質まで考えさせてくれるこの作品全体の深いテーマはいろんなことを考えさせられる内容でもあり、まさに大賞にふさわしい作品だったと思います。

ネタばれしない程度に大まかなあらすじを・・・。

イラク戦争の後始末に頭を悩ませる米国大統領の定例ミーティングに一つの変わった議題が取り上げられます。アフリカ中央部・コンゴにおいて謎の生物を発見。その生物は人間の突然変異とも考えられるが、驚異的な知能を持つ幼児であるという。前世紀、人類絶滅の可能性のある脅威をまとめた「ハインズマンレポート」にも取り上げられたことのある人類よりもさらに進んだ人類「超人類」の出現ではないか、との懸念がある。彼の知能であれば人間には不可能とされる素因数分解を用いた米国の最高機密を扱うセキュリティをも解読される恐れがある、とのことでした。大統領は半信半疑ながらも国家安全保障局に対し脅威の早期解決を指示します。すなわち、抹殺。

バグダッドでの傭兵任務に当たっていた元米国海兵隊特殊部隊隊員のイエーガーは極秘任務の依頼を受けます。莫大な報酬を約束する極秘任務の作戦場所はアフリカ、命の危険を伴うという謎の指令に難病の息子を抱え、治療のために必要な医療費を稼ぐためイエーガーは任務を承諾します。集められたメンバーは4名、作戦名は「ガーディアン」コンゴに住む小人族ピグミーの一集落を全滅させることと、その集落に滞在している白人学者を共に抹殺すること、そして正体不明の生物を目撃した場合は最優先に射殺すること、という任務を受けて4人はコンゴに向かいます。

一方、日本の薬学部の冴えない大学院生、古賀研人は同じく薬学研究者であった父の突然の死に遭遇します。父は駅のホームで突然の大動脈瘤破裂に襲われ突然の死を迎えます。葬儀が終わり父の死から一週間ほどが過ぎたある日、研人の大学のパソコンに突然父からのメールが届きます。「死者からのメール」には不思議な内容が書かれています。「このメールが届いたということは、私が5日以上お前やお母さんの前から姿を消しているのだろう。だが心配はいらない。おそらくあと何日かすれば父さんは帰れるはずだ。だが、しばらく帰れない場合を想定しておまえに頼みたいことがある。「アイスキャンデーで汚した本を開け」それからこのメールのことは母さんにも誰にも言わないように。以上だ。」実家に戻った研人は父との記憶を思い出し、子供のころアイスキャンデーで汚したことのある本を開くとその本は中味が繰り抜かれており、その中に父からの新たなメッセージを発見します。そこには更に意外な内容が…。冴えない愚痴ばかりこぼしていた末端研究者だと思っていた父が家族にも職場にも秘密でのめりこんでいた研究とは?父の遺した謎の創薬ソフト「GIFT」とは何なのか?研人の周りを次第に脅かす謎の組織。身の危険を感じ始める研人は次第に父の遺言の内容を信じ、自分の役割を果たそうと行動をはじめます。

アフリカで報道されないまま日常的に行われている大虐殺(ジェノサイド)、米国首脳部の考え、ついに生まれた超人類、日本とアフリカを結ぶ緊密なネットワーク。複雑に絡み合った糸が物語が進むにつれ徐々にほどけていきます。自分の利害のために人を殺そうとする者と、利害に関わらず人を救おうとする者、我が子を救うためアフリカの地獄絵図の中で任務に当たる傭兵と、父の遺志を継ぎ難病から子供たちを救うため死力を尽くす大学院生、決して交わるはずのない人々が交わる時世界は変わり、人類は人知れず転回点(Turning Point)を迎える…。

590ページの超大作ですが、読み始めると止められない抜群の面白さ、ラストまで上手にまとめてあって読後感もすごくいいので、長さも気にならないと思います。ピエタも素晴らしかったですが、桁外れのスケール感にやはりこの作品が本屋大賞間違いなしだと思います。

大島真寿美 『ピエタ』

ピエタ
ピエタ
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大島真寿美著『ピエタ』を読みました。帯に2012年本屋大賞ノミネート作ということで買ってみました。大島真寿美さんという作家は初めて知りましたが、プロフィールを読むともう20年も活動してらっしゃるベテランの作家さんだったんですね。代表作もいくつか紹介がありましたがどれも知らない作品ばかりでした。初めて読む作家さんの作品はいつも楽しみです。

さて『ピエタ』。舞台は18世紀のイタリア・ヴェネツィア。ピエタと呼ばれる慈善院(孤児院)があります。(ピエタとは?http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%82%A8%E3%82%BF%E9%99%A2)ここは子供を育てられなくなった親が赤ちゃんをこっそり預けることができるスカフェータと呼ばれるシステムがあります。今でいう「赤ちゃんポスト」の原型です。ここに捨てられた赤ん坊は「神の子」としてピエタで育てられ、成長します。男子は16歳になるとほぼ出されますが、女子は結婚しない限り基本的に一生をピエタの中で過ごします。その中でも特に音楽的才能に恵まれた女子は「合奏・合唱の娘たち」と呼ばれるメンバーに選ばれ、ヴェネツィアでの様々な演奏会に参加したりコンサートを開き、聴衆からの寄付を募ってピエタの生計を立てています。

主人公であり語り手のエミーリアもまた、スカフェータに捨てられた孤児でした。希有な音楽的才能を持つ親友のアンナ・マリーアと共にバイオリンの修行をしていましたが、成長するにつれて事務的才能を認められ音楽よりもピエタの運営に力を注いでいくようになります。有名な音楽家であり作曲家であったアントニオ・ヴィヴァルディは30年以上にわたりこのピエタで音楽を指導し、多くの曲をピエタの娘たちのために作曲しました。アンナ・マリーアはヴィヴァルディの指導により天才的ヴァイオリニストとしてピエタの音楽を支える存在になっていきます。この物語はヴィヴァルディの作った簡単な楽譜の行方を巡って、ピエタとヴィヴァルディの関わり、ヴィヴァルディの生涯と思い、ピエタに生きる女性たちの生きざまを生き生きと描いた小説でした。

冒頭はヴィヴァルディがヴェネツィアから遠く離れたローマで亡くなったという訃報がピエタに入ったところから始まります。この小説では生きているヴィヴァルディは登場しません。物語は主としてヴィヴァルディに関わった4人の女性たちが主人公です。ピエタの事務担当者として会計を預かるエミーリア、ヴァイオリニストのアンナ・マリーア、そしてヴィヴァルディの恋人であった高級娼婦のクラウディア。そして幼少時はともにヴァイオリンの修行をしていてピエタに大口の寄付を続けていた貴族の娘ヴェロニカ。

ヴィヴァルディとその音楽を愛した4人の娘たちが、それぞれの境遇に苦悩しながらも、前を向いて凛と生きていこうとする姿勢にとても共感が持てました。ヴィヴァルディ亡きあと、衰退するピエタの音楽と財政を立て直すため奔走するアンナ・マリーアとエミーリア。ヴェロニカが裏に詞を書いたという一枚の楽譜を探し出せば大口の寄付をするという申し出を受けて、楽譜を探すエミーリアは司祭でもあったヴィヴァルディに高級娼婦との付き合いがあったことを知り、恐る恐るながらピエタのためにクラウディアに会いに行きます。そこで知ったクラウディアとヴィヴァルディの関係とは?寄付を餌に楽譜を探させる高慢な貴族の娘という印象であったヴェロニカのピエタへの真の思いとは?ピエタを捨ててローマへ旅立ち、そこで亡くなったヴィヴァルディの思いとは?

大した意味があるとも思えない一枚の楽譜に亡きヴィヴァルディの思いと娘たちへの深い愛情を感じることのできるラストシーンはとても感動します。18世紀のヴェネツィアの街の美しい描写とカーニバルの雰囲気が独特の世界観を作り出し、大変美しい小説になっています。エミーリアを視点に据え、全編にわたっての細かい心理描写は女性作家ならではだと思うし、揺れ動く女性の気持ちを丁寧に描いたこの作品は本屋大賞ノミネートにふさわしい素晴らしい小説でした。僕の評価では間違いなく大賞候補だと思います。読後感がとても爽やかで元気の出る小説でした。ヴェネツィアにも是非一度行ってみたくなりますし、あらためてヴィヴァルディの音楽も聞いてみたいと思いました。

百田尚樹  『プリズム』

百田尚樹さんの『プリズム』を読みました。百田尚樹さんは『永遠のゼロ』以来のファンで彼の作品はほとんど読んでいますが、今回の『プリズム』も良かったです。ちょっと変わった種類の恋愛小説ですが百田尚樹さんには新しいジャンルと言えそうです。

美しい人妻の聡子は仕事として始めた家庭教師先の豪邸の広い庭で不思議な男性と出会います。会うたびに態度も表情も違う人物は家庭教師をしている子供の父親の弟だと言います。しかしある時は邪険に植木鉢を投げつけられ、ある時は快活に話しかけられた上に突然キスされそうになり、ある時は茫然とした表情で無視されます。しかし、ある時はとても知性的で礼儀正しい素晴らしい印象の男性として現れます。そしてどう見ても同一人物であるにもかかわらず、それぞれ以前会った時の記憶はないようなのです。

知らず知らずのうちに興味を持つようになり、関わっていくうちにその岩本広志という人物が解離性同一性障害、いわゆる多重人格という極めて稀な病気に苦しむ人物であることを知るようになります。当初は12人の人格を持っていたという広志が現在は治療の結果7つの人格に統合され、現在も治療を継続中であることを交代人格の一つである村田卓也から教えられ、卓也と共に主治医である女医の進藤先生の話を聞き治療に協力することになっていきます。

広志の創り出した「理想人格」である卓也に聡子は次第に心を惹かれていき、多重人格という特殊な状況にある人格の一部だということを知りつつ、卓也への思いを抑えきれなくなっていきます。広志の人格を統合するためのISH(Inner Self Helper)として現れた卓也は全ての交代人格の記憶を持ち、広志のすべての理性と知性を司って振る舞い、広志の中の交代人格を一人一人説得して人格を統合させていきます。しかしいずれは卓也もまた広志の中に統合されるべき存在として消滅の日を待たなければいけないのです。

聡子と卓也の恋の行方は?多重人格障害はどのようにして起こり、どのようにして治療できていくものなのか?ダニエル・キイス著「5番目のサリー」や「24人のビリー・ミリガン」などで多重人格者の小説はいくつか読みましたが、日本の作家で多重人格を深く取り扱い、多重人格の一部である交代人格と恋をするという不思議なテーマに取り組んだのは初めてじゃないかと思います。聡子の魅力、卓也の魅力、多重人格者の苦悩と再生がとても丁寧に描かれていて、読みごたえのあるとてもいいお話でした。

「ビブリア古書堂の事件手帖」三上延

ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫)
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ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)
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ラジオで紹介しているのを聴いて面白そうだと思って買った本ですが、最初本屋さんには置いてなかったのでAmazonで注文しました。でも、みるみるうちに人気が出て今は本屋さんでも店頭平積み、本屋大賞にもノミネートなんて言ってますね。テレビでも紹介されたりしたようですが、マスコミの力というのは本当にすごいものです。

この「ビブリア古書堂の事件手帖」、メディアワークス文庫という比較的若者向けの軽い感じのシリーズで出てますが、なかなかのものです。表紙のイラストは主人公の篠川栞子(しおりこ)さん。まずはこの栞子さんのイラストに男子は参りますね。

舞台は鎌倉。鎌倉市内にひっそりと佇む古びた古書店、ビブリア古書堂の若い女性店主がこの栞子さんです。近所に住む活字恐怖症の若者、五浦大輔は祖母の所有していた夏目漱石全集に関連する自身の活字恐怖症になったきっかけや、亡くなった祖母の秘密を解き明かす事件をきっかけにこのビブリア古書堂で働くことになります。


栞子さんは美人だけれども、普段は極端な人見知りで対人関係の苦手な人。店に来るお客さんを接客するのも一苦労です。しかし、本に関する知識と所有する本から持ち主の置かれた状況や心の動きを推理することには天才的な洞察力を発揮します。その能力を生かし、ビブリア古書堂に持ち込まれる様々な古書から、その裏に隠された秘密を解き明かし、こじれた人間関係を鮮やかに解決していきます。

世に推理小説は数あれど、本の名探偵は初めてお目にかかるし、大輔と栞子さんの恋の行方も気になるところ。味方となるのはせどり屋(価値のある古書を集めて古書店で売ることを商売にしている人)のホームレス、敵は本のストーカーなど、登場人物も個性的で面白いです。

今のところ第2巻まで出ていますが、人気が出ているのでこれからどんどん続きも出そうです。文庫本で小さいし、とても読みやすい本なので是非読んでみてください。

荻原浩 『愛しの座敷わらし』

愛しの座敷わらし 上 (朝日文庫)
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愛しの座敷わらし 下 (朝日文庫)
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文庫本で荻原浩さんの「愛しの座敷わらし」を読みました。文庫では上下2巻なんだけど、面白いので1日で読んでしまいました。荻原浩さんといえば映画化した「明日の記憶」が有名ですね。若年性アルツハイマー病に罹った一流企業のサラリーマンを渡辺健が演じ、本人とその家族の心の動きを追った感動的なドラマでした。今回の「愛しの座敷わらし」ももうすぐ水谷豊主演で映画化されるそうです。楽しみ。

さて、ストーリーは食品メーカーに勤める高橋家の主人・晃一は東京本社から東北の支社に左遷されます。家族と共に東北に移住することになったのですが、住処を探すに当たって晃一が見つけてきたのは、かなり郊外の田舎町のそのまた外れにある古民家。広い一戸建てに住むのが夢だった晃一にはここが気に入ってどうしても住みたかったのです。ところが現実派の主婦・史子は猛反対。少し認知症の疑いのある姑、東京の学校で少しいじめにあっており友達のいない中学生の長女梓美、小さい頃から喘息の気があり過保護気味の9歳の長男・智也と何かと問題の多い家族と共に無理やりここに越してきます。

新しい家に入ったもののこの家には不思議なことが起こります。誰もいない部屋に見える人影、消えるシュークリームやマスカット、誰も動かしていないのに移動するカエル人形・・・はては梓美が夜中に見た鏡に子供の顔が映って大騒ぎ。近所のおばあさんが言う「座敷ぼっこ」、智也が出会う不思議な子供の正体を友達に「座敷わらし」だと教えてもらって少しずつ座敷わらしのことが分かってきます。

最初は智也と姑・澄代にしか見えない座敷わらしの姿が次第に他の家族にも見えるようになっていきます。そして、座敷わらしの出現とともにそれまでばらばらだった家族の心が少しずつ寄り添い、打ち解けあって全てが上手く回っていきます。生きる意欲を取り戻す澄代、仕事だけでない生き方、家族の大切さに気付く晃一、夫の存在価値を認め直す史子、友達とは何かに気づき父を見直す梓美、引っ込み思案を返上し、喘息の不安もなくなってサッカーに打ち込み、のびのびと成長していく智也・・・。

そんなとき、座敷わらしのおかげか晃一に再度栄転の知らせが…というようなお話でした。登場人物が一人一人生き生きとしていて、それぞれの悩みや個性にも違和感がなく、「座敷わらし」という一つの非現実的設定によってドラマが動いてくところがすごくいいです。面白い場面はなんだか「クレヨンしんちゃん」的なコメディータッチでした。でも怖いところは少し怖いし、泣けるところはしっかり泣けるとても素晴らしい作品でした。映画の前に是非読んでみてください。

最近面白かった本

最近読んだ作品の中から面白かったものの感想をいくつか・・・。

綾辻行人『Another』

Another

Another
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 「館シリーズ」で有名な京大推理研究会出身の本格推理小説の旗手、綾辻行人さんの最新作。ある中学校での学園モノです。本格推理作家である綾辻さんには珍しくホラーに分類されるような種類の小説です。以下帯書きより・・・

「その『呪い』は26年前、ある善意から生まれた――。1998年、春。夜見山北中学に転校してきた榊原恒一(15歳)は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、いっそう謎は深まるばかり。そんな中、クラス委員の桜木ゆかりが凄惨な死を遂げた!この’世界’ではいったい、何が起こっているのか?秘密を探るべく動き始めた恒一を、さらなる謎と恐怖が待ち受ける・・・。」

(以下多少ネタばれ)Anotherとは「もう一人」という意味のようです。夜見山北中学3年3組では26年前から不思議な現象があり、4月からクラスには過去に死んだ「誰か」が紛れ込んでいるのです。しかし、その死者が誰なのかは死者が紛れ込んでいる間は誰にもわからない。死者本人にもわからない。過去の記録もなぜか消えてしまい、死者の関係者の記憶も不思議なことに曖昧になってしまいつじつまが合わされる。そして4月から毎月一人以上、クラスメイトやクラスメイトの近い親族に死者が出る。「無い年」もあるのだが、一度始まってしまうと毎月死者が続くことは決して止めることができない。たった一つの方法を除いて…。そして「無い年」にするために四月から3年3組で行われる「おまじない」とは…。

現実的ではないけれど、大胆な舞台設定から謎に包まれた不思議な街の掟を有効に使い、次から次へと展開が変わって長いけれど飽きさせない構成力はさすがです。最後まで一気に読めて、続きが気になって仕方がない、そしてラストも意外性があっても納得のいく説明が得られるまとめ方は見事です。本格推理で鍛えた論理性は健在ですね。

百田尚樹『錨をあげよ』
錨を上げよ(上) (100周年書き下ろし)
錨を上げよ(上) (100周年書き下ろし)
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 本屋大賞で4位に入賞した百田尚樹さんの最新作、分厚いハードカバー2冊の超大作です。主人公・作田又三。昭和30年大阪下町生まれ。幼いころから乱暴者、下品でずるくて、しぶとくて、ルール無視でもお構いなし。人生の至る所で敗北を喫しながらも決してへこたれない不屈の男。この男の幼少時から30歳過ぎまでの人生を本人の語りの形で書いています。青春小説・悪漢小説ともいわれる小説で面白いと言えばそれなりに面白いんですが・・・

僕の場合はどうもこの主人公に共感できる部分がなくて、何だか腹が立ちっぱなしでした。女が好きですぐ女性に一目惚れする。好きになったら一途で強引、相手に嫌われようと避けられようとお構いなしでストーカーのように追いまわし、とことんあきらめない。女性の気持ちなど全く無視して自分の都合のいいように相手の気持ちを解釈する。あるのは自分の欲望だけ。ただ好きになった女欲しさに受験勉強を頑張ったり、興味もない学生運動に参加したり、次から次へと思いつきで行動します。女に徹底的に振られると一気にやる気をなくし、勉強も放り出し、学生運動も抜け、大学も辞めて東京へ飛び出していきます。東京ではレコード店で働くもそこで好きになった大学生に横恋慕し、一時はうまくいくも結局振られてせっかくうまく行きかけた仕事にも興味をなくし、今度は北海道へ飛び出していきます。そして北海道でもまた・・・。

そんな調子で女を好きになり、その影響で女の気を引きたいがためにその女の求めるものに必死になり、振られるとあっさり興味をなくし、遠くへ出ていく。それをあちこちで繰り返すが何も学ばない・・・とことん自分勝手でわがままで下品で暴力的。怖いもの知らずでヤクザにも平気で喧嘩を売る。うまく行かなくなったら現実逃避で脱出。最終的に運だけは強いようで、無茶なことも度胸と機転で何とか切り抜ける。そんな人生を追跡していくわけですが・・・又三はたまたま運が良かったからこんなひどいことをやっててもそれなりにやってこれただけで、現実にはもっとひどいことになるし、彼の人生から何かを学ぶ気にはなれないなぁ、というのが正直な感想でした。それなりに力はあっても、何をやっても中途半端、根気がなく本物の一流には決してなれない。人間の質が下品な典型的な男かな。最後まで主人公がかっこいいとは思わなかったところが、この作品の評価を高くできない理由でした。

窪 美澄『ふがいない僕は空を見た』
ふがいない僕は空を見た
ふがいない僕は空を見た
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 「本の雑誌が選ぶ2010年度ベスト10」の第1位、1作目の『ミクマリ』は第8回「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作、2011年本屋大賞第2位の作品です。幼いころから女性の出産を見続けてきた助産院の息子、マザコンの夫と不妊に悩む主婦、セックスに興味を持つ女子高生、強制わいせつ容疑を掛けられた元塾の講師、など、決して悪人ではないけれどちょっとだけ弱さを持つ人々がそれぞれの思いを持ってうまくいかない人生を生きていく。そんな性に関わる物語を連作形式で少しエロチックに直截な表現でつづった小説です。セックスに関する遠慮のない表現がR-18文学賞にふさわしい内容ですが、決してエロなだけでなく少しだけ弱い心の持ち主である登場人物たちの悩みや苦しみ、それに立ち向かっていく勇気などを上手に書いています。確かに男性が読むより女性が読んだ方が共感を得やすい小説かもしれません。

湊かなえ『花の鎖』
花の鎖
花の鎖
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 僕の最近の一押しはこれですねー。湊かなえさんは『告白』で一躍有名になり映画化もされて大ヒットしています。デビュー以来この人の作品は全部読んでいます。どの作品もそれなりにいいのですが、この『花の鎖』は『告白』以来のインパクトのある小説でした。湊さん独特のマルチストーリー形式がこの作品でも使われています。登場人物は3人の女性。梨花、美雪、紗月。
 
梨花の母に充てて毎年届く大きな花束。差出人はKというイニシャルのみ。母は何も語らないまま父と共に事故で死んでしまった。それでも花束は毎年届き続ける。そんな時、これまで面倒を見てくれた祖母が入院し難しい手術が必要になる。梨花は何とかKと連絡を取り援助を請おうとするが…。
 
伯父の伝手により建設会社に入社し、伯父の部下であった和哉と見合い結婚をした美雪。不妊と周囲からのプレッシャーに悩む美雪ではあったが、和哉は見合いの相手であると知る前から美雪が恋をしていた相手で夫と暮らす日々は幸せであった。和哉は美雪の従兄の陽介とともに独立し建築事務所を立ち上げるも、やりたい設計の仕事は陽介に遮られてできなくなる。そんな中、地元で活動した有名な画家・香西路夫の記念美術館を設立するコンペティションが開かれることになり、和哉は陽介に内緒で応募する決心をする。しかし…。
 
水彩画教室の講師をしている紗月は25歳。ある日Kというイニシャルが書かれた封書が届く。差出人は短大時代の友人である喜美子であった。大事な用があって会いたいという。「浩一さんが大変なことに。倉田先輩と同じことで苦しんでいるの。」と言う喜美子だが、紗月は冷たく突き放す。短大時代に山岳部で何があったのか?

一見、ばらばらに見える3人の物語が次第に近づき、最後で見事に繋がります。伏線はあちこちに引かれており、湊さんの小説を読み慣れていれば大体の流れは見えるのですが、それでも見事な構成力です。3人の女性の苦悩や生き様が強いインパクトをもって感動を呼びます。湊さんの小説を読んだことのない方も是非読んでほしい一冊です。

夏川草介 『神様のカルテ2』

神様のカルテ 2
神様のカルテ 2
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羽田の本屋さんでふと見ると『神様のカルテ2』を発見!おおーっと思い即買ってきました。3日ほどで読了。前作を上回る内容でとっても良かったです。夏川草介氏の前作「神様のカルテ」は1年ほど前に読みましたが、2010年本屋大賞の第2位に輝いた秀作でした。これがデビュー作だなんてびっくりですね。あらすじは紀伊国屋BOOKWEBの書評から抜粋すると以下のような感じです。

(以下抜粋)
神の手を持つ医者はいなくても、この病院では奇蹟が起きる。
夏目漱石を敬愛し、ハルさんを愛する青年は、信州にある「24時間、365日対応」の病院で、今日も勤務中。
読んだ人すべての心を温かくする、新たなベストセラー。第十回小学館文庫小説賞受賞。

栗原一止は信州の小さな病院で働く、悲しむことが苦手な内科医である。ここでは常に医師が不足している。専門ではない分野の治療をするのも日常茶飯事なら、睡眠を三日取れないことも日常茶飯事だ。経験豊かな看護師と、変わり者だが優秀な外科医の友人との助け合いながら、日々の診療をなんとかこなしている。そんな栗原の、母校の医局から誘いの声がかかる。大学に戻れば、休みも増え愛する妻と過ごす時間が増える。最先端の医療を学ぶこともできる。だが、大学病院や大病院に「手遅れ」と見放された患者たちと、精一杯向き合う医者がいてもいいのではないか。悩む一止の背中を押してくれたのは、死を目前に控えた高齢の癌患者・安曇さんからの思いがけない贈り物だった。

常に生と死に直面しながら、最良の医療を模索する青年医師。個性豊かな人々を、医療現場の臨場感を、リアルに描きながら展開する心温まるヒューマンドラマ。
著者紹介 夏川草介[ナツカワソウスケ]
1978年大阪府生まれ。信州大学医学部卒。長野県の病院にて地域医療に従事。『神様のカルテ』で第十回小学館文庫小説賞を受賞しデビュー。
(抜粋終わり)

 まだ30過ぎの若手医師、栗原一止は夏目漱石の大ファン。話口調まで時代がかって文学調の話し方をするので昔から「変わり者」と呼ばれています。しかし内科医としては優秀で、24時間365日の医療を掲げる信州の救急病院にとっては欠かせない存在。一止は自らの理想を信じ、医局に入ることを断わり、大変な地域医療の第一線に敢えて留まり続けます。ぼろぼろの集合住宅「御嶽荘」に学生時代からの住まいを続け、ここで知り合った写真家の奥さんとも新婚なのになかなか顔を合わせることも叶わない。そんな忙しい毎日の中から少しずつ事件が起きて物語が進行していきます。「御嶽荘」の住人との交流や最愛の妻・榛名(ハル)との交流がとってもハートウォーミングで大きな見どころとなっています。

今回出た続編の「神様のカルテ2」ではますます一止とハルの心の交流、表現下手な二人のお互いを思う気持ちが絡み合って、とても温かい気持ちになります。病院ではいつも過酷な勤務が待っていて、多くの患者が命を落としていきます。医師として病魔と闘いながら、死にゆく人を見送る一止の表には出さない悲しみと、医療への情熱と、患者のために語る深い言葉が胸を打ちます。そんな一止を優しい目でいつも見つめている妻のハル。夫の顔色一つで悩みを抱えていても、悲しいことがあってもすべて見抜いてしまいます。そしてコーヒーを入れたり、飲みに誘ったり、山に連れて行ったり、さりげない言葉と態度で夫を支え続けます。とっても健気ですねー。

作者はまだ若い人ですが、ハルは男性にとって一種の理想の妻だと思います。可愛くて控えめで、自分のことは自分でできて、ほったらかされても文句も言わず、夫の気持ちはちゃんとわかってくれていて、いつでも何を置いても夫のために夫が一番して欲しいことをしてくれる…そんな都合のいいよくできた奥さんなんて現実にはいるわけないと思うけど、こんな子がもしいたらいいなぁ、と思う理想の妻ですね。

そして一止も変わり者だけど、優秀で、まっすぐで一途な私利私欲に走らない理想の若手医師。表現は下手だけどハルのことも心から愛しています。この二人だけでなく、登場人物はどの人も理想を求めて、純粋でまっすぐな人たちばかりで、「嫌な人」は一人も出てきません。そういう人たちが集まって物語を構成しているから、このお話は現実感は乏しいけれど、読後感のよい気持ちの温かくなる小説に仕上がっているんだと思います。理想的な登場人物ばかり集めて心地よい会話、心地よいSTORYを構成し登場人物の言葉を通して自分の考えを訴えるという手法は宮本輝さんもよく使う手法ですね。

帯には「泣ける小説」というようなことが強調されて書かれていましたが、僕は全然泣けるような感じはしませんでした。人は死ぬけど悲しみよりも希望や未来や明るさの方が印象に残ります。とても読後感が良くて、また続きを読んでみたい、一止とハルの物語をもっと見ていたい気持になりました。ハルの素性もまだはっきりとされていないし、登場人物もようやく出そろってきたという感じだし、続編はもう少し続くかなという感じはしてますね。「神様のカルテ3」が楽しみですが、近々映画化するそうなのでこれも是非観ておきたいですね。主演は櫻井翔と宮崎あおいだそうです。

有川浩 『阪急電車』

阪急電車 (幻冬舎文庫)
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「図書館戦争」シリーズなどで有名な有川浩(ありかわひろ)さんの『阪急電車』を読みました。有川さんは高知県出身の女性作家で『塩の街』『空の中』『海の底』の3部作は自衛隊シリーズとして自衛隊に所属する人物を主人公とした小説。『図書館戦争』シリーズでも軍事色、SF色の強い小説を多く書いています。とは言ってもこの人のいいところはちょっと硬いお話の中にも恋愛小説的要素が必ず入っていて、ほのぼのとする素敵な恋愛のストーリーが濃すぎず、薄すぎずストーリーに温かいインパクトを与えているところです。

この恋愛的要素をどっぷり書いたのが『植物図鑑』という小説ですが2010年の本屋大賞にもノミネートされました。ただこれはまだ僕は読んでないんですよね。同じく純恋愛小説として『レインツリーの国』がありますが、これは図書館シリーズの第二弾、『図書館内乱』に登場した作中作を実際に発表したものです。僕は基本的に甘い非現実的な恋愛小説って好きじゃないんですが、この作品はとても良かったです。この人の恋愛観ってとてもいいですね。

で、この『阪急電車』。舞台は阪急今津線に乗り込んでくる様々な乗客たちの人間模様をそれぞれの駅に対応して描いたものです。図書館で出会った社会人、同じ講座を受講している大学生同士の偶然の出会い、主婦同士の付き合いに嫌気がさしている婦人、孫と一緒に電車に乗るおばあさん、婚約者を寝取られて結婚式で復讐する女性など様々な登場人物が一つの電車に乗り合わせ、すれ違いながらもそれぞれにわずかな関わりを持ちながら連作形式でお話が進行していきます。

有川さん独特の軽妙でほのぼのとした恋愛風景が随所に展開され、それぞれの登場人物の悩みや苦しみが出会った人々によって徐々に解きほぐされ、最後はそれぞれの明日に向かって歩み出すという、前向きで読後感のよい小説に仕上がっています。有川さんはこの沿線に住んでいたことがあるみたいですね。今も住んでるのかな?

最近文庫でも発売されて人気が出ていますが、通勤途中や空いた時間に読む小説としてはとてもいいと思います。これを読むと今津線に乗ってみたくなりますよ。

宮部みゆき『小暮写真館』

小暮写眞館 (100周年書き下ろし)
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宮部みゆきさんの最新作。『小暮写真館』を読みました。いつもながら宮部みゆきさんの作品は面白いです。今回は現代ものですがちょっとだけ幽霊がらみの連作小説です。主人公は花菱英一、高校一年生。ちょっと変わった両親の元に生まれた長男で下には8つ年下の弟、光がいる。変わり者の両親が買った新しい家はなんと「小暮写真館」。老人がずっと店を守ってきた写真館が、主人の死によって売りに出され、建物は古くて売り物にならないので古家付き土地として売っていたものをなんと古家をそのまま残して買い取り住むことになった。店先にはショーウィンドウ、リビングは店舗。そしてなんとこの家には無くなったご主人の幽霊が出るという噂が…。

ふとしたことから手に入れた心霊写真の謎を親友のテンコ(店子力・タナコツトム)と共に解明した英一は心霊探偵として一部で有名に…。次々と舞い込む不思議な写真の意味を街の人々に話を聞いて回りながら解明していきます。
(以降ネタばれ。未読の方で読む予定の方は読まない方がいいかも)
不思議な写真の解明というエンターテイメントだけで終わらないのが宮部さんの作品のいいところです。実は英一には風子という妹がいたのですが英一が10歳、光が2歳の時にインフルエンザ脳症により亡くなってしまったのです。そのことにより両親も英一も深い心の傷を負っており、様々な事情から花菱家は親戚との付き合いを一切断っています。風子が亡くなった時に何が起こったのか、様々な出来事を通じて次第に明らかになって行きます。

一方、両親が小暮写真館を買った不動産屋には変わった女性が勤めています。英一はテンコとともに写真の謎を解明するときにこの不動産屋で情報を得、以降ちょくちょく入り浸るようになるのですが、ここで勤めている女性事務員の垣本順子は「ばっかみたい」が口癖の変な人。やたら愛想がない割に子供の心理や他人の心の傷に妙に鋭いところがある。店の外の人気のない川沿いのベンチでたまに順子と話をするようになった英一は少しずつ順子の隠された境遇を知っていく。

親戚からの干渉により再び花菱家に危機が訪れたとき、英一は家族を守るために立ち上がります。自分の苦しみや悲しみを乗り越え、弟と両親のために勇気を振り絞って行動する英一の姿はとても感動します。常に死者である風子とともに生きる家族の姿と、その家族を見守る小暮写真館のご主人の霊の存在がとても心温まるストーリーになっていて単なるオカルトものとは一味違います。

宮部みゆきファンの方は必読ですね。

冲方丁(うぶかたとう)『天地明察』

天地明察
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2010年本屋大賞第1位、冲方丁(うぶかたとう)『天地明察』を読みました。本屋大賞は毎年楽しみにしている賞でこれの入選作はどれも素晴らしい本が多いので一番信頼しています。今年も信頼を裏切らず、第1位に選ばれた『天地明察』は素晴らしい作品でした。冲方丁さんの作品はずっと前に『ばいばいアース』を読んだかな。SF系の作品でやや若者向け…まあまあ面白かったかな?くらいの印象でした。それが突然の本屋大賞1位、吉川英治文学新人賞とすごい賞、というか僕が一番気にかけている賞をふたつとも取ってしまうなんてどんな作品なんだろうと期待しながら読んでいきました。

まずは書評にあった紹介文から。
(以下引用)『江戸、四代将軍家綱の御代。戦国期の流血と混迷が未だ大きな傷として記憶されているこの時代に、ある「プロジェクト」が立ちあがった。即ち、日本独自の太陰暦を作り上げること。武家と公家、士と農、そして天と地を強靱な絆で結ぶこの計画は、そのまま文治国家として日本が変革を遂げる象徴でもあった。実行者として選ばれたのは渋川春海。碁打ちの名門に生まれながら安穏の日々に倦み、和算に生き甲斐を見いだすこの青年に時の老中・酒井雅楽頭が目をつけた。「お主、退屈でない勝負が望みか?」日本文化を変えた大いなる計画を、個の成長物語としてみずみずしくも重厚に描いた新境地。時代小説家・冲方 丁誕生の凱歌がここに上がる!』

江戸時代、主人公は渋川春海、碁打ち衆として江戸城に登城を許された四家の一つ安井家に生まれ、将軍の御前で碁を打つことを生業とする2代目安井算哲としての顔を持つが、無類の算術好きで若いころから算術への興味が尽きない。将軍の上覧碁という真剣勝負とは縁のない指導碁の仕事に飽き、自分と同い年の天才算術家・関孝和との出会いを通じて算術へとのめりこんでいく。算術絵馬なるものがあると聞き登城前に駆け付けた渋谷・金王八幡宮で問題にのめりこんでいるうち、えんという気が強い美しい女性と関という者が残した一瞥即解の解答に出会う。これがのちのち春海の運命を大きく変えていく。

日本初の太陰暦、貞享暦はいかにして作られたか。度重なる挫折を乗り越え、渋川春海の生涯をかけた努力と闘いの日々、多くの権力者から信頼され寵愛され、ついに多くの功績を残すに至った碁打ちにして数学者、日本初の天文学者となった渋川春海の20年に及ぶ苦闘が余すところなく描かれていて、あまりの面白さに息つく暇もなく一気に読んでしまいました。そして春海を支えた二人の女性との関係がまた感動的なのです。詳細はこれから読む方のために伏せますが、感動できる作品であること請け合いです。時代小説というジャンルに抵抗がある方もこの作品はそういう抵抗感なく読める作品であると思います。苦しみながらもついに目標を達成し、幸せな人生を手に入れていくサクセスストーリーでもあります。

春の海のように爽やかな春海の人生に、風が吹き抜けるような心地よい読後感が感じられました。何度読んでも元気が出てくる、そんな作品はまさしく本屋大賞第1位にふさわしい傑作だと思いました。まだのかたは是非ご一読あれ。

『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』

パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々 盗まれた雷撃
パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々 盗まれた雷撃
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最近、子供たちが『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』にはまっています。「ハリーポッター」シリーズのような冒険ファンタジー小説なんだけど、映画化して今も上映しています。この間の沖縄旅行のときに長男が原作本を見つけて、読みたいからというので買ってあげたんだけど大迫力の映画の予告編につられてのことだったみたいですね。結局、長男・次男とも原作を全部読みきる前に映画を観てしまったので、いま本は全部読むようにうるさく言ってるところです。春休みに入ると塾の春期講習とか野球とかで忙しくなるのでなかなか日本語吹き替え版のやってる昼間の時間に二人揃って連れて行くのは難しく、で、僕が仕事でいない間に妻が二人を連れて行くことになったわけです。映画はかなり良かったみたいで、二人とも2時間釘付けになって見てたそうです。まあ、それはそれでよかったかな。

原作本は僕の方が先に全部読みましたが、なかなか面白かったです。ギリシャ神話の神々が現代社会に登場し、神々と人間のハーフ、「デミゴッド」と呼ばれる子供たちが活躍する物語です。子供とはいえ神々の血を引く子孫であり、超人的な能力を持っています。主人公のパーシー・ジャクソンは原作ではニューヨークに住む12歳(映画では17歳)の少年。海神ポセイドンの血を引くデミゴッドで、人間世界ではADHDで難読症の問題児で特殊な学校を転々とする生活を送っていましたが、校外授業で訪れたメトロポリタン美術館で怪物に襲われたことをきっかけに覚醒し、怪物の襲撃から逃れるため「訓練所」へと脱出します。そこで自らの父親の名を知り、水を自在に操る強力な能力を次第に目覚めさせていきます。

大神ゼウスの最強の武器である雷挺(Thunder Volt)が何者かによって盗まれ、疑いがポセイドンとその子であるパーシーに向けられます。怪物によって攫われた母を救うため、また自らの無実を晴らし、ゼウスの怒りを納めるため、パーシーは二人の仲間と共に雷挺を探してニューヨークを出発し、陸路ロサンゼルスへと向かいます。旅の途中、様々な怪物や神々と遭遇しながら少しずつ手掛かりを得、冥界の神ハデスとの対面を経て次第に真相に迫っていきます。果たしてパーシーは真相を解き明かし、ゼウスの雷挺を発見することができるのか、雷挺を盗んだ真犯人は?また母の行方は?二転三転する展開や神々の戦いと神の力を持つデミゴッドたちの怪物たちとの戦いなど、謎解きも冒険も戦いも見所は満載でとてもわくわくするお話です。軍神アレス、妖魔メドゥーサ、知恵の神アテナ、酒の神ディオニュソス、精霊ケンタウロスなどのお馴染みのキャラクターも非常に人間くさく登場し、ギリシャ神話好きの方なら大人でも十分に楽しめる内容でした。

「ギリシャ神話の神々は滅んだのではない。移動したのだ。かつてはローマ帝国へ、そして今はニューヨークへ」現代の政治・経済・文化の中心地ニューヨーク、そのランドマークであるエンパイア・ステート・ビルの600階(実際は遥か上の天空に上ったところ)に現代のオリンポスが人知れず存在する・・・という奇想天外な設定ながら、現代に存在する神々の活躍はとても面白いです。映画のヒットによって続編も大人気らしく、この「パーシー・ジャクソン」シリーズは全5巻まであるんだけど、本屋でもアマゾンでも続編の入荷は1ヶ月待ちです。もちろん、予約してますよ。

続・マッハの恐怖

マッハの恐怖〈続〉―連続ジェット機事故鎮魂の記録 (1973年)
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事故に関する話なのでプライベートモードにしました。続きを読む

『BOX!』 百田尚樹

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『永遠のゼロ』の作者である百田尚樹さんの最新作です。高校の女性教師を主人公に高校生のボクシング部を舞台にした青春小説です。雰囲気的には佐藤多佳子さんの『一瞬の風になれ』にも似たようなところはありますが、今回はボクシング。試合のシーンの描写にはなかなかの読み応えがあります。

ブックレビューから抜粋すると・・・『高校ボクシング部を舞台に、天才的ボクシングセンスの鏑矢、進学コースの秀才・木樽という二人の少年を軸に交錯する友情、闘い、挫折、そして栄光。二人を見守る英語教師・耀子、立ちはだかるライバルたち…様々な経験を経て二人が掴み取ったものは!?『永遠の0』で全国の読者を感涙の渦に巻き込んだ百田尚樹が移ろいやすい少年たちの心の成長を感動的に描き出す傑作青春小説』となっています。

幼馴染の鏑矢と木樽は対照的な性格。鏑矢は奔放で喧嘩っ早く、不真面目。一方の木樽は貧しい家庭に生まれ、運動が苦手で唯一得意だった勉強を生かして特進コースに進学し奨学金で何とか学校に通っている。鏑矢はボクシング部の特待生として1年生から天才的なセンスを発揮する。木樽はある事件をきっかけにそんな鏑矢に憧れ自分もボクシングを始める・・・。

天才的であるが故にさらなる天才である強力なライバルの出現に意欲をそがれ、徐々に輝きを失っていく鏑矢の苦悩、一方コーチの指導の下、地道に愚直に基本練習を積み重ね、超人的な努力を続けて少しずつその能力を開花させていく木樽。真の天才は誰か?努力は才能を超えるのか?そして二人の前に立ちはだかる底知れぬく強さを誇るライバル・稲村。稲村もまたボクシングの怖さを知るが故に、その恐怖に打ち勝ち戦い続ける真のボクサーであった。この3人の戦いを中心に、彼らを見守る女性教師・耀子の存在が花を添えます。

レビューにもあるように、この小説は現役高校生が読むよりも、かつて高校生であった大人たちに、限界に挑む情熱とひたむきさを取り戻すために多くの示唆に溢れた大人のための青春小説という感じがします。全30章のうち木樽のデビュー戦は22章。終盤は一気に読ませる展開で目が離せません。読み出すと夜寝られなくなること請け合いです。子供たちの成長が早すぎるという声もありますが、成長期の子供たちの1年間という時間は大人にとっての何年分にも匹敵するという意味に捉えれば、小説としては許せる範囲だと思います。

努力すれば自分は変えられる!ライバルや自分自身との戦いを忘れた大人たちに、「BOX!」という掛け声が聞こえてくるような爽やかな一冊でした。

誉田哲也さんの本

この頃、誉田哲也(ほんだてつや)さんにはまってます。って本の話なんですけどね。ずっと前に『僕が春を嫌いな理由』を読んでたんですが、それなりに面白かったもののあんまり印象には残ってませんでした。それが最近文庫化した『月光』と『ジウ』(1〜3)を読んで非常にインパクトを受けたので、続けて『ストロベリーナイト』『ソウルケイジ』の姫川玲子シリーズ、『武士道シックスティーン』と『武士道セブンティーン』の武士道シリーズを読みました。どれも面白かったなぁ。

月光 (徳間文庫)
月光 (徳間文庫)
『月光』はネット上の反響も賛否両論。特に女性には受けが悪かったみたいです。まあ、当然といえば当然ですけどね。内容があまりにショッキングなのと、主人公の相手役の男性にあまり魅力が感じられない点が特に不評だったみたいです。僕もあまり面白いとか共感できるという点よりも内容のあまりのショッキングさにインパクトを受けて、感想といわれても・・・という感じはしました。音楽教師と女子高校生の不倫、激しい性描写、事実を知った同級生からの脅迫とその後の顛末。姉の死後、真相を知るために調査を開始する妹。果たして事件の真相は?というお話です。

極めて純粋で優しい心を持った少女が悲劇に巻き込まれていく過程は痛々しいです。全てのきっかけとなったのが音楽教師との恋ですが、なぜそうなったのか、どうもこの音楽教師の人間的魅力がもの足りません。ただの妻にコンプレックスを持つ優柔不断男。少女を大切に思いながら、自分の立場や相手の立場をうじうじ考えるばかりで、何も行動をしようとせず事態が最悪の方向へ進むのを最後まで何も知らずに傍観しています。彼女が死んでなお真相を探ろうとはせず、妹が調査に乗り出してくるまで自身の傷心を慰めながら安穏と日々を送っています。女性の読者からすれば「何でこんな男のために」とそりゃ思うでしょうね。そういう意味では結構腹の立つ作品でもありました。

ジウ〈1〉―警視庁特殊犯捜査係 (中公文庫)
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ジウ〈2〉―警視庁特殊急襲部隊 (中公文庫)
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ジウ〈3〉新世界秩序 (中公文庫)
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ストロベリーナイト (光文社文庫)
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ソウルケイジ
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『ジウ』シリーズと姫川玲子シリーズは警察小説です。様々に個性的で魅力的な主人公たちが凶悪な殺人事件に挑みます。誉田哲也さんの作品の特徴は容赦ない殺人シーンや性的描写シーンにあると思います。非常に刺激的ですが、ストーリーの展開が速く、視点を複数の登場人物に切り替えながらテンポよく進行していくので読み飽きないし、事件の真相もあまり違和感なく読み取れます。格闘シーンの描写や心理描写は巧みで読み出すとやめられなくなる面白さがあります。警察という組織の悪い部分を比較的強調していますが、そんな中で主人公たちが組織上の問題点をクリアし、事件解決に向けて大活躍する様子はとても面白いです。文庫で買いやすいのも助かりますね。

武士道シックスティーン
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武士道セブンティーン
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『武士道シックスティーン』と『武士道セブンティーン』は著者初の青春小説。誰も人が死なない初めての作品(笑える)だそうです。いままでちょっとエグイ小説が多かっただけに、こんな作品も書けるんだなってある意味感心しました。剣道を舞台にした二人の女子高校生の物語です。日舞から転身した柔の早苗、小さい頃から英才教育を受けた剣道エリート、剛の香織。二人の剣道家がある日たまたま出場した横浜市民剣道大会で出会います。負けるはずがないと思っていた相手に敗れた香織は、負けた理由にどうしても納得がいかず、負けた相手を求めて東松学園高校剣道部へと進みます。

性格も剣道のタイプも全く違う二人がそれぞれに苦悩しながら成長していき、最初仲が悪かった二人が次第に惹かれあい無二の親友、剣友でありライバルとなって行きます。剣道の試合の描写も上手で面白く、それぞれの少女の苦悩も成長もよくわかります。とても爽やかで感動できる青春小説です。今までの誉田作品とは全く一線を画する別ジャンルの小説ですね。でもどちらも面白くて一日で読んでしまいました。あまり刺激の強すぎる小説が苦手な方はまずはこの『武士道』シリーズがお勧めですね。

池井戸潤 『空飛ぶタイヤ』

伊丹空港の南北ターミナルビルの間、一階の外通路にある本屋さんは書籍数は少ないながらいつも面白い本を置いてあるので贔屓にしてる本屋さんです。本屋さんって趣味があって、わりと大きな本屋さんでも自分と全然趣味が合わず、面白いと思う本が全然置いてない本屋さんもあります。本屋さんに置く本って誰が決めてるんでしょうね。その店の店長さんかな?それとも入荷する本を選ぶ担当者がいるのかな?そういう人はどうやってその本を決めてるんでしょうね。まさか全部読んでるわけじゃないだろうし・・・。

ともかく本屋さんに並んでいる本は店によって選ぶ趣味が違っていて、その空港の本屋さんは僕の趣味と非常によく合います。特にハードカバーの本は狭い棚に2列ほど並んでいるだけなのに、その中には必ずと言っていいほど僕が興味を持つ本があります。今回仕事に出る前にそんな中から選んで買ってきたのがこの本です。

空飛ぶタイヤ (Jノベル・コレクション)
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池井戸潤『空飛ぶタイヤ』。2006年9月に単行本として初出誌されたものでもう2年半ほどになるんですね。直木賞の候補作にもなったそうで有名な作品だったようですが知りませんでした。横浜で大型トレーラーのタイヤが走行中に外れ、それが道を歩いていた母子のお母さんに直撃しお母さんが即死するという痛ましい事故が起きました。当初、トレーラーを運行する運送会社の整備不良という結論になりつつあったのですが、整備状況には何の問題もない。運送会社社長の赤松は真の事故原因を究明するため調査を開始します。事故を起こしその結果何の罪もない一人の母親を死なせ、遺族への謝罪もままならず、取引先からの受注も滞り、銀行には融資を断られ窮地に追い込まれる赤松ですが、懸命に会社を建て直すため奔走します。そして、車の構造上の欠陥と「リコール隠し」という大手自動車会社の不正に行き着きます。大手自動車会社の巨大な壁と世間の厳しい風当たりに立ち向かい、二転三転しながら少しずつ真相に近づいていきます。そして警察とマスコミを巻き込み事件は少しずつ動き始めます。

被害者遺族の深い悲しみ、原因は車の構造欠陥であるにも拘らず加害者と決め付けられた会社社長の苦悩、腐敗した巨大自動車会社の内部事情、融資する銀行の内部事情など、さすが銀行勤めの経験のある作者ならではの深くリアリティのある企業の内部描写が秀逸です。また、登場人物それぞれの家族の悲しみや苦しみ、それぞれの戦いを上手く編みこんであり、固いばかりでない人間ドラマになっています。視点を運送会社社長ばかりでなく、銀行担当者、自動車会社社員の3つに分け、それぞれの立場、視点から事件を眺める手法も、それぞれの考え方の違いがよくわかります。そして最後にそれぞれのピースが一つにまとまっていく、この辺りの構成力は見事でした。3人の主役がいて3人の人生がそれぞれに描かれていましたね。

何年か前に似たような事件がありましたね。財閥系のM自動車による度重なるリコール隠し。タイヤが脱輪して母子が巻き込まれ死亡するという事件も実際にありました。最初はノンフィクションもどきのつまらない作品かなと思ったんですがどうしてどうして。人物描写、心理描写が非常にすばらしくて感動しました。実際の事故、事件を参考にして作られた物語だというのは明白ですが、ニュースでは伝わらない当事者の苦しみ悲しみと再生のドラマが見事に描かれています。興味のある方は是非読んでみてください。

『チェーンポイズン』 本多孝好

チェーン・ポイズン
チェーン・ポイズン

本多孝好さんの『チェーンポイズン』を読みました。本多孝好さんといえば以前『正義のミカタ』を読みましたね。昭和46年生まれの比較的若い作家です。『正義のミカタ』はいじめられっ子だった大学生を主人公とした青春小説という趣でしたが、今回は随分趣が変わって、生と死をテーマにしたミステリーになっています。日常生活に疲れた36歳の独身OLと、不思議な共通点を持つ謎の連続自殺を追う週刊誌記者、二つの視点からストーリーを展開させる構成になっています。

キャリアを積めるわけでもなく、雑用仕事ばかり毎日山のように抱えて、恋人もなく結婚できる当てもなく、未来への希望をすり減らしつつ日々を生きるOLの女性。魅力の乏しい36歳の女性に対して世間の風は冷たく、救いを求めて始めたブログも結局は世の中と同じ。何の希望も楽しみも見出すことは出来ませんでした。絶望を感じた女性は次第に「死」を考えるようになります。ある日、ついに会社をサボって公園のベンチに座り、ふと「もう死にたい」とつぶやいたとき・・・。

「本当ですか?」と声がかけられます。『本当に死ぬ気ならあと1年待ちませんか?』と。
スーツを着た彼女より少し年上くらいに見える謎の人物は言います。
「1年我慢すれば私が楽に死ねる手段を差し上げます。」
「きっかり1年後、私はまたここにきます。もしそのとき、その気になったら、ここに来てください。私が1年頑張ったご褒美を差し上げます。」と。

その言葉を胸に、死ぬことを生きがいにして彼女は残り1年の時間をどう使うか、考えていきます。そしてふと目に止まったボランティア募集の広告をきっかけに、親から捨てられた子供たちのいる児童養護施設に関わっていきます。さて、そこで何が起こり1年後彼女はどうなっていくのか・・・。

一方、耳の病気で音が聞き取れなくなった天才バイオリニスト、凶悪犯罪の被害者遺族であり裁判で犯人の死刑判決を得た人物と、取材した対象者が二人続けて自殺したことに疑問を持つ週刊誌記者。アルカロイド系毒物という普通あまり使わない自殺方法による自殺であり、しかも自殺しておかしくない事由が発生してから1年以上の時間がたってから自殺していること、同じ時期に共通する毒物と時間経過というキーワード。この不思議な符合に疑問を抱き、記者は調査を開始します。同時期にやはり毒物により自殺した高野章子という何の変哲もないOLを鍵に彼はこの連続自殺の真相を探り始めます。他の二人は有名人であり、世間の誰もが自殺してもおかしくないと感じていたが、高野章子はごく普通のOLであり、周囲の誰も彼女が自殺するとは予想していなかった。特殊な毒物を届けるセールスマンの存在を疑う記者は「高野章子」という女性の周囲にセールスマンがいると考えて「高野章子」の最後の1年間を追います。

「高野章子」の最後の1年間と、謎のセールスマンの正体、毒物の正体と入手経路は?自殺をキーワードに生と死を考える、単なるミステリーの域をを超えた素晴らしい作品でした。興味ある方は是非読んでみてください。

伊坂幸太郎 『砂漠』

最近、伊坂幸太郎さんの作品にはまってます。少し前にも紹介したけど、今年の本屋大賞で一位になった『ゴールデンスランバー』が面白かったのと、その前に読んだ『死神の精度』も面白かったので、他の作品も続けて読んでいます。一番最初に読んだ彼の作品は『アヒルと鴨のコインロッカー』で、これも吉川英治文学新人賞を取っていて、今映画化かドラマ化もされていてそれなりに評価の高い作品なんだけど、これは最初に出たとき読んだらあんまり面白いと思わなかったんだよね。だから、最初の印象が悪くて伊坂幸太郎さんの作品はしばらく避けてました。

それが、小学3年の長男の家庭教師に来てもらっている学生さんと話していたときに、彼が伊坂幸太郎が好きだというので聞いてみると、『死神の精度』や『重力ピエロ』の話をしてくれました。それでもう一度興味を持って『死神の精度』を読んでみたんですが、これが意外に良かった。で、今回本屋大賞となった『ゴールデンスランバー』に続くわけです。

で、今回は少し前の作品になるけど、『砂漠』という作品を読みました。ひとくくりにすれば仙台での大学生活を舞台にした青春小説、という感じかな。伊坂さんは僕の3つ下の37歳くらい。でも大学生くらいの若者の感性を描かせたらすごく上手ですねー。独特の語り口とちょっと醒めた視点でありながら、やっぱり実は若者らしい熱さを持った主人公たちが生き生きとしていて魅力的です。自分の大学時代はもっとつまらなくて悶々としていたので、こんな大学時代を送りたかったなぁ、なんて感想を持ちます。そんなノスタルジーを感じながら読むと読後感のとても良い爽やかな小説に仕上がっていました。

『砂漠』というのは社会のことですね。主人公たちは大学という柵に囲まれた、整えられた環境の小さな街の中で言いたいことを言い、やりたいことをやりながら、周囲の砂漠は厳しいとか、砂漠は大変だとか言い合っています。主人公の青年は今の自分たちが守られた環境にいることを知りながら、将来のこと、社会のことを語り合う仲間たちに「でも砂漠には行ったことがないくせに・・・」と一人思います。そんな醒めた感性の青年と、戦争を起こすアメリカ大統領を毛嫌いし、いつも世界の平和を気にしている極端に熱い感性を持った青年、滅多に笑わないし、言い寄ってくる男は次々と振るくせになぜかこのメンバーには仲間入りする並外れて美しい女子大生、大学は遊びに来たと豪語し、女の子ばかり追い掛け回している青年、そしてスプーン曲げや念力で車を飛ばすこともできる超能力を持つ女の子、このちょっと変わったメンバーが仲間になって(おそらく)東北大学法学部の4年間を仙台で過ごす間の様々な出来事を描いています。

爽やかな小説を読んでみたい方は是非一度読んでみてください。

北方謙三 『楊令伝』

北方謙三『水滸伝』全19巻の文庫版が出揃ったので読了しました。確かに面白かった。久しぶりに歴史ものの読み応えのある本に出会うことができました。歴史上は梁山泊の頭領である宋江は暗殺者により毒殺され、梁山泊は崩壊したということですが、北方水滸伝は少し違う結末を用意していました。詳細は未読の方のために伏せますが、この辺が史実に囚われない歴史小説の良さですね。ただ歴史の大きな流れを変えてしまうと辻褄が合わなくなってしまうので、最後に梁山泊が童貫率いる禁軍に敗れるというところは変えられなかったようです。

歴史上の事実から梁山泊が敗れるというラストがわかっていたので、血沸き肉躍る英雄譚も一抹の憂鬱感がありました。すごい勢いで勝ったり、大活躍してるけど最後は負けちゃうんだよなぁ、とか、やっぱり死んじゃうんだよなぁ、とか考えてしまうんですよね。それが『水滸伝』を読みながらずっと付きまとっていてイヤだったところでした。

楊令伝 五 猩紅の章
この『水滸伝』の続編、『楊令伝』が刊行されています。まだ文庫化されてなくてハードカバーで高いですが、我慢できなくて買い始めてしまいました。梁山泊の最後の闘いに生き残った楊令が新たに梁山泊の頭領となり、宋の打倒を目指すというお話に変わっていきます。水滸伝で死んでいった英雄たちの子供や親戚などが新たに梁山泊に加わり、楊令の超人的なヒロイズムとともに宋と新たな闘いを繰り広げるストーリーは相変わらず面白いです。

史実で言えば宋は北に勃興した金によって滅ぼされ国を取って代わられます。楊令は金と結び、梁山泊の同士を再結集して宋の打倒に向かいます。今度は勝てるんだな、という水滸伝とは逆の結末がわかっているので、安心して読めます。最後は勝つのがわかっているアメリカ映画を観るときのような気分かな。不安感がない分だけ読むのが楽しいです。まだ本文は完結していないと思うんだけど、最後まで楽しんで読みたいと思います。

新宿鮫

氷舞―新宿鮫〈6〉 (光文社文庫)
大沢在昌さんの「新宿鮫」シリーズにはまってます。キャリアでありながら警察組織上層部の秘密を握ったために幹部から疎まれ、新宿署の一警部として左遷された一匹狼の凄腕刑事・鮫島。刑事という仕事に生きがいを感じ、妥協のない正義感と自己の信念を決して曲げない純粋さを持って新宿という特殊な街で次々と危険な大事件を解決していく、痛快な刑事小説です。

警察内部の複雑な力関係、キャリアとノンキャリアの相克、新宿という街の独特な空気、強敵となる多彩な犯罪者の出現、そして年齢と立場の違いを超えて、心から愛する女性・ロックシンガーの晶(しょう)との関わり、警察内部では弾かれ者、嫌われ者として扱われる鮫島の数少ない理解者・上司の桃井と熟練鑑識員・藪の魅力。新宿という街に巻き起こる犯罪の凶悪さ、事件の設定の複雑さで推理小説的に読ませる魅力もあり、鮫島と晶の関係にはらはらする恋愛小説的要素もあり、キャリアでありながら優秀な現場捜査官という鮫島のヒーロー小説的かっこよさもあり、いろんな面白さが凝縮された刑事小説で、何巻読んでも飽きません。登場人物がそれぞれに個性的で魅力があり、一筋縄でいかない人物設定がさらに物語の魅力を深めます。

今は6巻の「氷舞(こおりまい)」を読んでいるんだけど、今回は晶のライバルになりうる魅力的な女性が現れ、鮫島の追う事件に関わってきます。元CIA情報員の殺人事件とコカインの密輸、逗子で起きたホテル経営者偽装殺人との関わり、大物政治家の関与と警察上層部への圧力、そして一人芝居の美しきアーティスト「マホ」の事件との関わりは・・・?もうすぐクライマックスですが、今回は鮫島を目の敵にしている同期キャリアの香田警視正が、今までのようなただに鮫島に権力を振りかざして当り散らして、捜査の妨害をするという役どころではなく、少しずつ彼の人間性が見えてきているので面白いです。この事件から少しは鮫島を認めるようになれば面白いのだけど・・・。鮫島は晶を捨てるわけがないから、マホこと杉田江見里とは一時的な悲恋に終わるんだろうなぁ。

文庫本で古い本なので古本屋でもいくらでも手に入ります。面白いですよ。

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