拝金 堀江貴文

想定外の連載開始! 「ライブドア事件」を題材(?)に描く感動の青春経済小説

第3章 起業 ――俺、走る(連載 最終回)

 そうこうして数日が経った。俺はコタツ兼テーブルのうえで、ウンウンうなってノートにあれこれゲームプランを書き殴っていた。杉作くん流にいえばアイディーアを考え続けていた。
 アイディーアどころか、もはや、ため息も出ない。
 バイトも辞めた。オッサンからもらった金はパソコンの購入費やらなんやらで、すでに30万円以上使っていた。

 あてもなく俺は近所をぶらぶらした。
 気がつくと、あの公園にいた。
 鳩は顔を覚えているかのように、ベンチに座った俺の前に集まってきた。
 だが、あの迷子のレース鳩、オッサンが「優作鳩」と名づけた鳩はいなかった。しばらく待ってみたが、いつまで経ってもやってくる気配はなかった。
 俺はポケットから携帯を取り出し、アルバムを見た。実は以前に1人で公園に来て、優作鳩の写メを撮っていた。
 そのときも俺は優作鳩に手で直接パンを食べさせた。右手でパンを食べさせながら、左手で携帯のシャッターを押した。

「ハイ、チーズ」
 カシャ。
 シャッター音に驚き、優作鳩がビビって羽をばたつかせる。

 ピンボケせずに撮影するのに10分くらいかかった。キレイに撮れたたった1枚の写メをアルバムに保存した。それを見る。
 旅立ったんだろうな。
 それがあの世なのか、それとも飼い主のもとなのか。
 いずれにせよ、どこかに行った。写メを1枚、残して。
 精神が不安定になっていたのか、少し涙ぐんでしまった。
 俺は想像した。優作鳩がどこか大空を飛んでいる姿を……。普通の鳩より美しい飛行姿勢で、優雅に飛んでいる。そして舞い降りる。そこに俺がいる。

「アッ!!」
 俺は思わず声を上げた。そうだ、優作鳩のゲームを作ろう。いや、作ってやりたい、俺は心からそう思った。どうしても俺は、優作鳩に会いたくなった。
 俺は走った。
 携帯を耳にあてる。
「ああ、藤田さん、なんでしょう、もうすぐ昼休みが終わりましてええ、午後の授業が、はじまるんですけどおおお」
 俺は怒鳴った。
「いいから、すぐ俺の部屋に来い! いいな、ソッコーで!」
 電話から「そんなああ、ご無体なああ」という声が聞こえていたが、そのまま切った。俺は興奮して、どうにも止まらなかった。
 感情も、カラダも。走る、走る、走る。うおおおお、と叫んで走り続ける。
 なんか昔見た青春ドラマっぽいが、そんなことはどうでもよかった。

(書籍につづく)

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第3章 起業 ――杉作くん(連載第24回)

 オッサン直伝のビジネス初心者4カ条。

 1つ、元手はかけない。
 2つ、在庫ゼロ。
 3つ、定期収入。
 4つ、利益率。

 そして、この200万円。そう、この200万円が、俺の年収分が実は「答え」になっていた。この程度の金でできる商売なんてハナから限られている。
 そうだ、ゲーム製作くらいなもん。
 工業高校の情報工学科にいたとき、俺は課題で何度かプログラムを組んで簡単なゲームを作った経験があった。ゲームを作るのは実はそう難しくない。実際、プレイステーション初期のころは、学生によるハウスメイドのゲームがバカ売れしたこともあった。俺も一時期、ソフト「RPGツクール」でロールプレイングゲームを作って遊んだ。モンスターに嫌いなクラスメイトや先生の名前をつけ(もちろん、ゲキ弱設定だ)、ボコボコにしてウサを晴らしたりした。プレステ程度のゲームなら性能のいいパソコンと専用ソフトがあれば、数カ月でできるのだ。

「杉作くん、杉作くん」と、俺はドアを叩いた。杉作くんは同じアパートの住人だ。駅に隣接するコンピュータ専門学校のゲームプログラマーコースに通っていた。その杉作くんから、いろいろアドバイスを受けることにしたのだ。もちろん、実務になったらこき使ってやろうとの思惑もある。
「どうもどうも」
 頭を掻きながら出てきた杉作くんを、俺の部屋に引っ張り込んだ。
「もし、杉作くんがゲーム作って売り込むとしたら、どこ?」
 ゲームといっても、いろいろある。そのときの主流はプレイステーション2だった。高度なグラフィックが売りのプレステ2以降は、もはやハウスメイドは通用しない次元になっていた。言ってみれば、ハリウッド映画みたいなもん。貧乏人お引き取りの世界。
 そこでハウスメイド系がいまだ通用しそうなゲーム機種を杉作くんに尋ねたのだ。
「ええ、そうですねえ、え」
 小太りの杉作くんは結構オタクが入っていて、語尾が「ええ」と伸びる。
「私でしたら、パソゲー、ご存知ですよね、お兄ちゃんシリーズ。ああいうエロ満載もいいんですが、それはやはり、私的にはゲームとしてのクオリティと言いますか、そういうのもええ」
 杉作くんと話すのは、ホントまどろっこしいが、我慢するしかない。
「プレステ2は、藤田さんがおっしゃるとおり、ええ、素人、私は厳密には専門教育を受けている素人なんですけど、お金とマンパワーがなければできませんので、ちょっと、無理となれば、ええ、そうですねええ。やるんだったら、ゲームボーイ系もいいんですが、今は、ニンテンドーは、オフィシャルになるのに、ハードルが高くて、新規参入が難しいと聞いていますう。すると、やはり、携帯のゲームサイトって、ことになるんじゃないでしょうか。JAVAも使えますし、実際ですね、ファミコン時代の人気ソフトも移植されて、これが人気になっていまして、私の知り合いの先輩もですね、そうしたゲーム製作会社に入りまして、ええ、はい」
 そのころ、携帯電話の性能アップにより、多彩な携帯ゲームが登場してきていた。そういう俺もドラゴンクエストが移植されたとき、月315円で加入してのめりこんでいた。
「そうですよね、ドラクエは、やはり名作は、素晴らしいと言いますか、携帯のゲームも、今はぁ、そのクオリティでも動かせは、するんですけど。と言ってもファミコンクラスを作るのは結構、面倒と言いますかあ、それならば、私的には、ポケモンですとか、遊戯王的なカードバトル系ですとか、ゲームボーイ設定で作ると思うんですよ。言うなれば、アイディーアですね、アイディーア。やっぱり、ゲームというのは、グラフィックも大事ですが、基本は、どれだけ面白いか、ですよ」
 きっと、授業で先生に、そう教えられているんだろう。アイディーアって。
 だが、ポケモンというのは、ナイス、アイディーアだ。小学生のとき、さんざん、ハマった。単純なグラフィックなのにすごく面白かった。ロープレとバトルの要素が噛みあって、遊べば遊ぶほど奥深いし、そのくせ、誰でも簡単にできる。
「ゲームボーイレベルなら、わりかし、簡単?」
 このあと、杉作くんは壊れたように喋り続けた。こんなソフトがあるとか、細かな設定ごとにこんな作業手順になるとか。俺はフンフンとうなずき、右から左へ聞き流した。細かいことは、コイツを丸めこんでやらせればいいや、と思いつつ、こう訊いた。
「うん、すごいね、杉作くんは。で、いくらくらい金、かかんの?」
 杉作くんは訊いてもいないことまで語尾を伸ばしながら、くどくどと説明した。オッサンと杉作くん、足して2で割りたくなる。あまりは、伸びた語尾。
 とにかく、内容によるが50万円くらいあれば、それなりのクオリティのものは作れるらしい。
「結局ですねええ、コストっていうのは、事実上、時間と言ってもですね、過言じゃないですよお」
 と、杉作くんは、過言気味に言う。とどのつまりコストは、1人で自宅のパソコンで製作して、膨大な時間を費やし、コツコツやるなら、ほぼ金をかけずに済む、と。それなりのスピードを求めれば、人を使った分担作業になる。そうすると当然、金がかかる、と。
 杉作くんは、そう言っているようだった。
 俺は手を3回ほど、ひらひらさせた。もういいや、出ていっての合図だ。杉作くんは、俺の失礼な態度を気にするふうでもなく「失礼しましたああ」と、きちんと挨拶したうえ、頭まで下げて出ていった。ぱしり体質なのは、そんなところから分かる。

 携帯電話ゲームはオッサン4カ条にすべて合致する。金は200万あれば十分。元手は部屋でやれば、まあ、タダみたいなもん。在庫と言っても店頭で売るわけじゃないので、これまたゼロ。定期収入は、携帯サイトで電話会社が自動徴収してくれるはずで、それが月ごとかどうかは分からないけど、スパンはそう長くないだろう。利益率に関しては、月額使用料300円に設定したとして、1万人が加入すれば、翌月から全部、儲け。ウハウハだ。
 よし、決まった。これでいこう。
 決まっていないのは何のゲームにするか……だけ。
 一番、肝心なことが決まっていなかった。
 俺、途方に暮れることにした。アパートに、西日が差しこむ。
 日まで暮れていた。
 はあああ、ため息が出た。

(つづく)
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