1.「判断は最終的にサイト管理者に委ねられている」
インターネット掲示板「2ちゃんねる」が覚醒剤売買を持ち掛ける書き込みを放置したとして、
警視庁サイバー犯罪対策課は12月20日、
麻薬特例法違反
2ちゃんねる書類送検:刑事責任追及に慎重論も− 毎日jp(毎日新聞)
インターネット掲示板「2ちゃんねる」に覚醒剤の売買をもちかける書き込みを放置したとして、警視庁は20日、2ちゃんねるの元管理人の男性(36)を麻薬特例法違反(あおり、唆し)ほう助の疑いで書類送検した。掲示板の違法な投稿を巡って管理人が立件されるのは異例。
(略)
しかし、元管理人の刑事責任を問うことには慎重論も強い。捜査関係者によると「薬、違法」の掲示板には、昨年5月に無職の男が広告を投稿した時点で約9800件の違法情報が放置されていたが、全投稿に占める比率は約6%。800以上の掲示板の集合体である2ちゃんねる全体でみると、比率はさらに低くなる。
IHCの削除依頼に限界があるとの指摘もある。園田寿・甲南大学法科大学院教授は「掲示板の書き込みを削除する義務が管理人に課されるのは、裁判所から命令を受けた場合などに限られる。法的に削除の義務がない限り、書き込みを放置した管理人の刑事責任を問うのは難しい」と話す。
一方、警視庁が捜査に着手した直後から、2ちゃんねるの自主的な規制で違法情報が大幅に減少した。昨年12月から半年間の削除依頼は123件で、11月までの半年間に比べて約94%減った。捜査幹部は「薬物犯罪の抑止という成果につながった」と話す。堀部政男・一橋大学名誉教授は「ネット上の情報に対する法規制や公権力の介入を最小限に抑えるためにも、掲示板の管理人は、違法情報の排除に社会的な責任をもたなければならない」と話している。
この問題を巡っては、自宅の家宅捜索を受けた後に西村氏が、
警察からの2通の削除要請には対応済で、他は財団法人インターネット協会が運営する
「インターネット・ホットラインセンター(IHC)」からの削除要請だったことを明らかにしていました。
これに対して警察庁は、IHCからの削除要請があった場合、
「判断は最終的にサイト管理者に委ねられている」というコメントを出して応じています。
2ちゃんねるに纏わる昨今の出来事について : ひろゆき@オー
インターネット掲示板「2ちゃんねる」が違法情報約5千件を削除せずに放置していたとされる問題で、開設者の西村博之氏が「警察からの削除依頼は2通で、削除している」などと、ブログに反論を掲載していたことが17日、分かった。
警察庁は今月10日、2ちゃんねるが平成23年中、同庁と財団法人が運営する「インターネット・ホットラインセンター」(IHC)の削除要請計5068件を放置したと発表。
西村氏は「警察から送られたeメールの削除依頼は2通」「2通に関する書き込みは、削除済みです」と主張、IHCからのメールも認めたが、「財団法人が情報を違法と決めることは出来ません」などとした。
警察庁は「IHCは有識者らの意見を踏まえて決めたガイドラインに沿って適切に削除を要請している。判断は最終的にサイト管理者に委ねられているが、要請があった場合は削除してほしい」とコメントした。
2.「例外的とはいえない範囲の者」の利用で幇助罪に
しかし、警視庁が家宅捜索のみならず、立件にまで踏み切ったことで、
警察庁のコメントは完全な嘘だったことが明らかになりました。
IHCがその時々の都合に合わせて、正式な行政機関の
民間団体を装ったりしていることは由々しき問題です。
ところが、ファイル共有ソフト「Winny(ウィニー)」を開発・公開し、
著作権法違反幇助罪に問われて無罪となった事件の最高裁判例に照らしてみると、
例えIHCからの「違法情報」削除要請であっても対応しない場合、
インターネット掲示板の管理人は幇助罪に問われる可能性があることが分かります。
この判例では、ソフトの公開で著作権法違反幇助罪が成立する要件を、次のように示しました。
- 当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,実際に当該著作権侵害が行われた場合
- 当該ソフトの性質,その客観的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら同ソフトの公開,提供を行い,実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたとき
3.規定明確化して恣意 的運用を排せ
「ソフト」を「インターネット掲示板」に置き換えて「2.」を検討すると、
IHCからの削除要請が「例外的とはいえない」件数に達する場合、
個々の書き込みの適法性を判断できなくても、
対応しなければ幇助罪が成立する可能性があると考えられます。
結果として、インターネット掲示板の管理人が刑事訴追リスクを回避するためには、
責任の所在が不明確なIHCの「言いなり」にならざるを得なくなるのです。
刑法上、従犯(幇助犯)は「正犯を幇助した者」としか規定されていないにも関わらず、
何らかの行為が「例外的とはいえない範囲の者」の犯罪行為に利用されれば従犯になるという、
非常に幅広い解釈を示した最高裁の責任は重大です。
しかし、現に最高裁判例として残ってしまっている以上、
国会で従犯規定を「個別具体的な犯罪行為を積極的に幇助した者」などに改正すべきです。
西村氏が幇助罪で立件された問題は、
日本の刑事法制に看過し難い欠陥があることを、浮き彫りにしています。