2008年10月19日

次期総選挙 党首ではなく議員を見極めよ

 衆議院議員の任期満了が来年9月10日に迫る中、
今月中に衆院を解散して11月30日に総選挙をすべきだという声が、
与野党で強くなっているようです。
もっとも、人事権と並んで首相の力の源泉といわれる衆院解散権をどのタイミングで行使するかは、
麻生首相の専権事項なので、実際にいつ解散・総選挙となるのかはまだ分かりません。
解散・総選挙が近いと思わせて与野党の選挙資金を吐き出させ、
相対的に資金力の低い民主党に打撃を与える、肉を切らせて骨を断つ戦術も十分に考えられます。
この戦術を採用すれば、衆院議員の任期満了までの1年の間、
衆院再議決を乱発することができるので、
麻生首相は自らの政治理念を実現しつつ、総選挙の武器になる政権実績を積み重ね、
民主党の資金が干上がったところで解散・総選挙を実施して勝ち、
長期政権を樹立するという、極めて理想的なシナリオを描くことができるのです。

 麻生首相がこのような戦術を取り、あえて早期解散論を放置しているのか、
単に抑えきれないだけなのか、それとも早期解散・総選挙に打って出るつもりなのか、
まだ分かりませんが、早期解散・総選挙の可能性が低くない状況にあるとだけはいえると思います。
そこで、この辺で前回の郵政解散・総選挙に与党が圧勝してから今日に至るまで、
政治情勢がどのように変化していったのか、この3年間をできるだけ簡潔にまとめ、
その後に次期総選挙で取るべき投票行動を書いておきます。
なお、私がいわゆる小泉改革の支持者であることは過去の記事を読めば明らかだと思いますが、
ここで私が書きたいのは小泉改革を推進するための投票行動ではなく、
各々の有権者が支持する政策、例えば小泉改革で緩和された規制の再強化であっても、
それを多くの有権者が支持するのであれば推進することができる投票行動です。

1.郵政解散・総選挙から3年間の政治情勢

 まず、2005年9月11日に行われた前回の総選挙を戦った自民、民主両党の党首は、
小泉純一郎氏(66)と岡田克也氏(55)でした。
一言でいえば、小泉氏は郵政民営化実現のためには身内に落下傘候補をぶつけることも辞さない、
急進的な改革者であり、
岡田氏は自民党の分裂を期待して事態の静観を決め込む観客でした。
結果は周知の通り、与党が3分の2を獲得する圧勝。
郵政民営化に反対する元自民党議員も議席を獲得し、
民主党の議席は郵政民営化賛成・反対両派の草刈場のようになってしまいました。
当然、岡田氏は引責辞任。後任者は民主党の若き改革派、前原誠司氏(46)です。
左翼傾向の強い菅直人氏(62)を96対94の僅か2票差で破っての勝利でした。
この時点で、自民、民主両党の党首はともに改革派となり、改革競争の時代が訪れるかと思われました。

 しかし、前原氏が党首に就任してから5ヵ月後、堀江メール問題(ウィキペディア)が発生し、
僅か半年で党首辞任に追い込まれます。
その後任者が、現在の民主党党首、小沢一郎氏(66)です。
またも出馬した管氏を119対72で破りました。
小沢氏は「選挙に勝つことが最優先」と公言して憚らず、
良くも悪くも政局至上主義者と呼ばれています。
政府・与党のスキャンダル追及を前面に掲げ、
現実離れした経済、外交政策を一貫して主張する手法で、
党内の分裂を避けつつ与党不支持層を取り込むことに成功しました。

 一方の自民党は、2006年9月に小泉氏が自民党総裁任期を満了して首相を辞任、
後任者は安倍晋三氏(54)で、麻生太郎氏(68)と谷垣禎一氏(63)を
464対136対102で破りました。
安倍氏は「戦後レジームからの脱却」を掲げて経済政策よりも教育や安全保障を重視し、
教育基本法改正や旧防衛庁の省昇格を実現しました。
しかし、小沢民主党は閣僚の事務所費問題や「消えた年金」問題などの、
政府・与党のスキャンダルを政治問題化させることに成功し、
2007年7月29日に行われた参議院選挙で与党は惨敗。
参議院の議席が過半数割れする事態に陥りました。

 その後内閣改造を実施するものの、心身ともに疲弊し切った安倍氏は9月に体調を崩し、首相を辞任。
後任者は福田康夫氏(72)で、330対197で麻生氏を破りました。
福田氏はいわゆる「派閥の論理」で首相に担ぎ上げられたような形となり、
「何がしたいのか分からない」といわれ続けた挙句、1年後の2008年9月に辞任しました。
そしてその後任者の麻生氏が与謝野馨氏(70)、小池百合子氏(56)、石原伸晃氏(51)、石破茂氏(51)を
351対66対46対37対25で破り、現在に至ります。
麻生氏は積極財政を掲げ、景気対策のための財政出動を志向しています。

 この流れを一言でまとめると、郵政選挙の結果を受けて、
一時的に自民、民主両党が党首に改革派を据えることとなったものの、
短期間の内に「古い政治家」が台頭し、
今では小泉改革などすっかり影を潜めてしまったということです。

確かにサブプライム問題に端を発する金融危機が市場経済に対する信頼を貶めた影響はあるのでしょうが、
それにしても先の自民党総裁選において改革派とされた小池氏と石原氏の
合計得票数が83票しかないというのは、あまりにも急激な変化だといえます。

2.次期総選挙で取るべき投票行動

 何故、このようなことになったのか。
現状を変える術は、有権者にはないのか。
また逆に、現状を維持するには、どうすればよいのか。
その答えは、国政選挙があくまで議員を選ぶ選挙であることを認識することにあります。

 最近、与野党を問わず、衆院総選挙を「政権選択選挙」と呼ぶ議員が多くいます。
確かに与野党のいずれかの勢力の第一党党首が首相になるので、
有権者が立候補者個人の政治理念などを考えず、
所属政党や推薦政党のみで投票するのであれば、
与野党のどちらかを「選択」することは可能でしょう。
しかし、与野党のどちらかを「選択」して、その後はどうなるのでしょうか。
参議院で過半数を失い、右往左往する自公政権を見れば分かる通り、
行政府の長たる内閣総理大臣の地位など実は大したものではなく、
国会で予算案や法案を通せなければ、ほとんど何もできないのです。
そこで、人事権というアメと解散権というムチをいかにうまく使って「国会運営」するかが、
内閣総理大臣兼与党第一党党首の腕の見せ所というわけですが、
「ポストなどいらない」といわれたら人事権は通用せず、
「解散できるものならやってみろ」といわれたら解散権も通用しません。

 結局、内閣総理大臣の権限など、大局的に見れば補助的なものでしかなく、
各議員の支持なしに自らの政治理念を実現することなどは不可能なのです。
それは「稀代の喧嘩師」といわれた小泉氏でさえ、一度は郵政民営化法案を参議院で否決され、
衆議院解散・総選挙に追い込まれたことからも分かることです。
独裁国家ではない以上、行政府の長とはいえ議会の厳しい監督を受けるのは当然であり、
自らの政治理念を実現できるか否かは、議員の支持を得られるか否かに掛かっているのです。

 それだけに、どのような政治理念を持つ立候補者に、
どれだけの得票を与えるのかということが、
極めて重要になってくるのです。
選挙の時の党首が、有権者が支持する政策を掲げていたとしても、
当選した議員がそれを支持してくれなければ結局は実現できず、
法案にする段階で骨抜きにされたり、付帯決議に縛られたりし、
最悪の場合には党首辞任に追い込まれてしまうのです。
自民、民主両党が小泉氏と前原氏という、改革派党首を失った後、
急激に「古い自民党」に回帰してしまっているのはこのためで、
党首を「選挙の顔」としか考えず、面従腹背してきた議員が本性を現してきているのです。

 これを防ぐためには、有権者が過去の発言などから立候補者の本性を見抜き、
本心ではどのような政治理念を持っているのかを考えて投票する必要があります。
有権者が立候補者の所属政党や推薦政党を意識し過ぎず、
自らの選挙区の立候補者の内、議員として最もふさわしいと考える者に投票することが、
自らの支持する政策を実現することにつながるのです。

幸い、野党第一党の党首もかつてのように「自衛隊違憲」「日米安保破棄」などと叫ぶような、
恐ろしくてとても首相には据えられないトンデモ政治家ではなくなりました。
そのような政治家は、小選挙区制の下では生き残れないからです。
自民、民主両党の議員の違いが分かりにくくなったといわれますが、
それは小選挙区制導入によって民意の統合が実現されてきたということで、
喜ぶべきことなのです。
なお、死票を気にする必要はありません。(詳しくは戦略的投票と少数意見の尊重を参照)

 ちなみに、議会勢力が極右と極左と少数勢力のみとなり、
政治的混乱が続いて議会制民主主義に対する国民の信頼が地に落ちた挙句、
政府・与党(ナチス)が全権委任法を成立させ、
議会政治の終焉を迎えたワイマール共和国(現在のドイツ)の選挙制度は、
完全比例代表制でした。
極端な例ではありますが、政党間の「対立軸が明確」になどなったら
与野党議員の議論が成立しなくなるだけであり、
逆に「対立軸が不明確」な米英議会が国民から強く信頼されていることは、
記憶に留めておくべきです。

非常に長くなってしまいましたが、最後まで読んで頂きありがとうございます。
解散・総選挙がいつになるにせよ、
それが民意の実現に資するものとなることを願うばかりです。



Posted by 匿名希望 at 21:11│ 選挙制度
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ビックリするほどの内政干渉 [びっくり/]どこ見てんのか分からん顔してるけど、思考もどこ向いてるんだか分かりにくくて超かっこいいんですけどぉ [ニヤリ/]これが組関係でよそ者から頭指名されりゃ戦争にな...
石破氏 ポスト菅は前原氏適任【時々時事爺】at 2011年06月13日 22:44
この記事へのコメント

  1. 『椿事件』

    1993年9月21日、民間放送連盟の「放送番組調査会」の会合の中で、
    テレビ朝日報道局長の椿貞良が、選挙時の局の報道姿勢に関して

    「小沢一郎氏のけじめをことさらに追及する必要はない。
    今は自民党政権の存続を絶対に阻止して、
    なんでもよいから反自民の連立政権を成立させる
    手助けになるような報道をしようではないか」

    との方針で局内をまとめた、という趣旨の発言を行う。

    (ウィキペディア「椿事件」)
  2. Posted by   at 2008年10月20日 13:59