2008年11月03日

DL非合法化問題 情報摂取の自由を守れ

 10月20日に開かれた文化審議会著作権分科会の「私的録音録画小委員会」で、
著作権法第30条の範囲を見直し、国民の権利である私的複製権を制限することで合意しました。

津田大介:「ダウンロード違法化」ほぼ決定 その背景と問題点 (1/3) - ITmedia News

 10月20日、約3カ月ぶりに開かれた文化審議会著作権分科会の「私的録音録画小委員会」において、2006年以来争点となっていたiPodに代表されるメモリーオーディオへの課金を見送ることと、著作権法第30条の範囲を見直すことが確認された(“iPod課金”見送り ダウンロード違法化へ)。

 委員会を主管する文化庁はこの骨子に従い報告書案をまとめ、来年の通常国会に著作権法改正案を提出する見込みだ。改正後は、インターネット上に置かれている権利者に無許諾で複製された「“音楽”と“動画”の違法ファイル」をダウンロードする行為は違法になる。

 この結論に対しては賛否が分かれていますが、
賛成論、反対論は概ね以下の通りとなっています。

賛成論
送信可能化権などを侵害している違法サイトなどからのダウンロードを非合法化すれば、
対価を支払って著作物を購入する人が増え、コンテンツ産業を振興することができる。
産業振興を成し遂げれば、良質なコンテンツを多数供給することができ、消費者の利益にもなる。

反対論
宣伝効果などを考えれば、違法サイトなどからのダウンロードは、
必ずしもコンテンツ産業に損失を与えているとは言い切れない。
また、消費者の利益を軽視し、産業振興ばかりを重視する議論はおかしい。

 つまり、賛否両論ともに、消費者、生産者双方の経済的利益を最大化することが目的という点では一致しており、
その手段としてダウンロードの非合法化が有効か否かが、議論になっているのです。
この議論は著作権の独占性、
消費するまでその利益を認識しにくい性質(こうした財を「経験財」といいます。)、
生産者の特殊性(一般に「クリエイター」と呼ばれる人は、
最初から金銭的な収益最大化を目指して制作に取り掛かることは少なく、
自らの作品を制作できること自体を利益と考えて、
「自分が作りたいものを作る」傾向が他産業に比べて強い)などを考えると、
どちらが正しいのか簡単には判断できず、市場の状況により結論は変わってくるとされています。

 もっとも、外国の事例を見る限りダウンロード非合法化の成果は芳しくないようで、
やはり娯楽商品という性質を考えると、
ムチを振り回して対価を支払わせる手法はなじまないように思われます。
案外、寄付制度を充実させて、大道芸人に対する投げ銭のような形で、
自主的なクリエイター支援を奨励することも、有効なのかもしれません。
これはこれでなかなかに難しい問題ですが、
ダウンロード非合法化の真の問題点は経済問題ではなく、人権保障問題です。

 ダウンロードが非合法化されるということは、情報摂取の自由が制限されるということです。
また、違法なダウンロードを取り締まるという名目で、
通信の自由(通信の秘密)の制限にもつながる可能性があります。
つまり、この問題は国民の人権保障と密接に絡む問題であって、
コンテンツ市場の生産者と消費者の利害調整で済ませられるような話ではないのです。

 また、人権問題である以上、そもそもダウンロード非合法化問題は
文化庁の審議会だけで議論するような話でもなく、
少なくとも人権行政を所管する法務省の関与が必要であり、
更にインターネット問題であることを考えれば、総務省の関与も必要になるはずです。
今後、自民党や公明党の部会審議などを経て、法案の閣議決定を目指すこととなりますが、
与党には慎重な審議を求めるとともに、
法務相と総務相には、閣議決定文書に「盲判」を押すようなことがないように求めたいと思います。

 ダウンロード非合法化を推進しているレコード業界に認識はないのでしょうが、
この問題は当ブログで何度も取り上げている児童ポルノの単純所持非合法化問題と同様、
国民の人権保障を危うくする突破口になりかねないものです。
政治や行政の世界において、「前例」は非常に大きな力を持つのですから、
「情を知らなければ大丈夫」「ストリーミングなら大丈夫」「罰則なし」などという美辞麗句を並べられても、
コンテンツ業界という一業界を振興するため、
それも効果があるのかないのかも分からない、
下手をすれば逆効果にすらなりかねないような施策のために、
国民の人権保障を危うくするような法改正は容認できません。
仮にダウンロードを非合法化しないことがコンテンツ市場に一定の悪影響を与えるとしても、
国民の人権保障を磐石にすることの方が、遥かに重要です。

 情報摂取の自由は、思想及び良心の自由や表現の自由から「派生原理として当然に導かれる」だけで、
明文規定になっていないため、最近様々な勢力に目を付けられているようですが、
情報摂取の自由が失われてしまえば、国民の利益が大きく損なわれるとともに、
国民の思想や表現にも重大な影響が出ることは明白です。

それは中国や北朝鮮が、表現の自由を抑圧すること以上に、
外国からの情報流入や、国内における情報流通に神経を尖らせていることを見ても分かると思います。
国民が多様な価値観や過ぎた知識を持つことを嫌う者にとって、
国民に入る情報を統制する手段は、喉から手が出る程欲しいものなのです。
それは戦中の大日本帝国政府や戦後のGHQも同じことでした。

 児童ポルノの単純所持非合法化問題はともかく、ダウンロード非合法化推進の背景に、
そのような陰謀じみた勢力がいるとは全く思いません。
しかし、推進者の思惑がどうであれ、「前例」を作ってしまえば、その結果は同じことです。
レコード業界は自らの軽率な行いが、国民に大変な不幸をもたらしかねないことを、
認識しなければなりません。

関連リンク
ダウンロード違法化についての超初歩的な経済学 - 池田信夫 blog

表現の数だけ人生が在る 私的録音録画小委員会にてダウンロード違法化が決定(その1)