政府の教育再生懇談会(座長・安西祐一郎慶応義塾長)の携帯電話問題ワーキンググループは12日、
子供の有害情報対策として「小学生が携帯電話を持つことがないようにする」ことを盛り込んだ
提言案をまとめました。
asahi.com(朝日新聞社):「小学生には携帯持たせない」政府の教育再生懇が提言案 - 社会
政府の教育再生懇談会(座長・安西祐一郎慶応義塾長)の携帯電話問題ワーキンググループは12日、子どもの有害情報対策として「小学生が携帯電話を持つことがないようにする」ことを盛り込んだ提言案をまとめた。年末に麻生首相に提出する。
中学3年生の63%、小学6年生の32%が携帯電話を持っているという文科省の調査結果を踏まえ、特に小学生が携帯を持たないようにする取り組みを重視。携帯電話がなくても困らないようにNTTに公衆電話の増設を求める。
非常連絡のため子どもに携帯電話を持たせたいとの親の声にも配慮。通話機能などに限定された子ども向け機種を無償貸与する案を検討することも盛り込んだ。
「親の声」には配慮するとしていますが、「子供の声」は一切無視する構えです。
つまり、教育再生懇談会に子供を利益の主体と考える意思は微塵もなく、
一部の大人の利益の客体として捉える姿勢を鮮明にしたものといえます。
これはかつて大きな社会問題となった、管理教育思想そのものであり、
政府の意思決定機関にこのような思想が蔓延していることは、憂慮すべき事態です。
また提言案は、「携帯電話がなくても困らないようにNTTに公衆電話の増設を求める」としていますが、
教育再生懇談会が聞こうともしない「子供の声」を聞けば、
子供は携帯電話の通話機能よりも、
ネット機能やメール機能を重視していることが分かります。
東京の中学生女子、携帯サイト利用1日平均44.8分、メール23.6回(INTERNET Watch)
利用内容を見ると、小学校では通話の方が多く、1日平均12.1分。これに対してサイトは5.8分で、メールは6.3回だった。中・高校ではサイトの方が上回っており、中学校では通話が1日平均8.3分なのに対し、サイトが35.0分、高校では通話が10.3分なのに対し、サイトが63.3分だった。メールは中学校が1日平均21.3回、高校が20.0回と、小学校と比較して3倍に増加している。特別支援学校は通話が1日平均6.5分、サイトが16.0分、メールが9.7回だった。
小学生では若干サイト閲覧時間よりも通話時間の方が多いものの、
メール回数を考えれば通話機能使用時間とネット機能、メール機能使用時間はほぼ同じといえるでしょう。
中高生になると、ネット機能使用時間だけでも通話機能使用時間を大きく上回るようになります。
中には携帯電話を見て、「これ電話できるの?」と聞く子供までいるそうで、
今後もネット機能やメール機能重視の流れは変わらないと思われます。
そして、子供から携帯電話を取り上げる口実としてよく利用される、
「ネットいじめからの保護」についても、全く子供の利益に資するものではありません。
何故なら、平成18年度に全国の小中高校などで認知されたいじめのうち、
「ネットいじめ」はわずか4%しかなかった上、
当の被害者でさえ、ネットいじめの加害者よりも、
管理教育思想に染まった親や教師の方が脅威と考えているケースが少なくないからです。
いじめ一挙6倍、定義を見直し12万5000件 - MSN産経ニュース
平成18年度に全国の小中高校などで認知されたいじめは12万4898件で、前年度比6・2倍と大幅に増加したことが15日、文部科学省の「児童生徒の問題行動調査」で分かった。昨年、いじめを苦にした自殺が相次いだことを受け、いじめの定義や調査方法を見直し、国私立学校も対象に加えた結果という。パソコンや携帯電話のインターネットを使った「ネットいじめ」は約4900件で、全体の4%あった。いじめが原因とみられる自殺も6人いた。
ネットいじめ(Bullied by a Mouse)|ABMレポート|図書館|チャイルド・リサーチ・ネット(CRN)
第5に、子どものなかには、親が過剰に反応することを心配して、親にいじめについて話すことをためらう子がいる。10代の子どもにとって、親からコンピューターやインターネットのアクセスや携帯電話を取り上げられることは、社会的に孤立して、友人達と連絡を取れないことを意味するからである(Cottle, 2001)。
こうした事実を鑑みれば、ネットいじめを発見し、対処するために必要なことは、
親や教師が「携帯電話を取り上げてやる」などといって
子供に不信感を抱かせることではなく、
「携帯電話を取り上げるようなことは絶対にしないから、何でも相談して欲しい」といって
子供の信頼を勝ち得、もしいじめを発見したら、警察やISPに通報して加害者を特定し、
然るべき処罰を与えることだということが分かります。
そもそも、いじめ全体の問題として捉えれば、
全体のわずか4%しかないネットいじめなど無視し、
残り96%の多くを占めると思われる校舎内のいじめ対策に重点を置いた方が、
余程「子供の保護」になるでしょう。
「ネットいじめからの保護」という口実が、
子供の人権を侵害するための方便でしかないことが、よく分かると思います。
青少年ネット規制法などの、子供から表現の自由や情報摂取の自由を奪おうとする施策の背景には、
管理教育思想があるのではないかとモバゲー苦境 管理教育の亡霊が子供を襲うで書きましたが、
教育再生懇談会の提言案などを見る限り、どうやら当たっていたようです。
何のことはありません、「携帯電話問題」とは、21世紀になってなおこの世に止まる、
管理教育思想という亡霊が姿形を変えたものに過ぎないのです。
子供と保護者がこのことを理解していくことが、何よりも求められています。
関連リンク
管理教育 - Wikipedia