11月20日、文部科学省は「児童生徒の問題行動調査」を公表しました。
調査結果によると、2007年度に小中高校生が起こした暴力行為は18%増の52,765件、
小学生が起こした暴力行為に絞ると37%増の5,214件でした。
小中高校生が起こしたいじめは19%減の101,127件となっています。
但し、いずれも文科省の「認知件数」に過ぎず、相当の暗数があると思われるため、
件数の多寡や増減数にとらわれるべきではありません。
この点についてはさすがにマスコミも学習してきているのか、
それともいじめが減ったために数字を大きく取り上げることができなかっただけなのか、
定かではありませんが、暴力行為の件数増そのものについては、
やや自制的な報道が目立ったように思います。
内心がどうであれ、センセーショナルな報道を慎んだことについては評価できるのですが、
それでもこの調査結果の報道には、違和感を持たざるを得ない記事がいくつもありました。
「【主張】小学生の暴力 家庭もしつけに責任持て」コラむ‐オピニオンニュース:イザ!
しつけや指導では、だめなことはだめとルールを決め、厳しく守らせることが大事だ。だが、親も教師もしかるのが下手だ。子供の顔色を気にしすぎて厳しく罰すべきときにしからない。社会に出て初めて叱責(しっせき)を受け、それが理由で会社を辞めてしまう若者の問題とも無縁ではない。
いじめ調査 実態を本当に把握できたのか : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
文科省の教職員向け「ネットいじめ」対応マニュアルの事例では、いじめにあった本人や親からの相談をはじめ、異変に気づいた担任や部活動顧問による聞き取りが、解決の端緒になっている。
教師には、児童生徒や親が相談しやすい雰囲気を作り、信頼関係を築く努力が欠かせまい。
社説:荒れる子供たち 調査結果を具体策に生かせ - 毎日jp(毎日新聞)
学校のありようは社会を映しているともいわれる。不安や不信、疎外感などが醸し出す暴力を黙過するような風潮。そこに学校教育が全く無縁であるはずはない。今回の調査を「傾向」を見るためにとどめず、きちんと「対策」に結実させなければならない。
荒れる子どもに共通しているのは、日頃からいら立ちやストレスを感じていることだという。特に、親による勉強へのプレッシャーなどが原因となっている例が目立つようだ。
自分の子どもは日々、何にいら立っているのか、細心の注意を払おう。テストや通知表ばかりに目をむけていると、SOSを見過ごしてしまう。
これらの社説の要旨は、駄目なことは駄目と厳しく教え、
また子供との信頼関係を築いてSOSを見過ごさないようにしよう、ということです。
このことについては、特に異論はないでしょう。
問題は、彼らマスコミが今まで何をやってきたのかということです。
駄目なことは駄目と厳しく教えるのは結構なことですが、
駄目ではないことまで駄目と一方的に決め付けて子供に強要すれば、
親や教師、そして規制全体に対する信頼が失われてしまうのに、
今までに過剰な規制の緩和を訴えたことがどれだけあったのでしょうか。
逆に、管理教育思想に基づく理不尽な規制強化を容認するような報道の方が、
少なくなかったのではないのでしょうか。
子供の人権を侵害する青少年ネット規制法がまともな国会審議もなしに成立した時も、
このことを批判する報道はほとんどありませんでした。
このような体たらくで「規律尊重」を声高に叫んでも、
子供が相手にしてくれるはずがないでしょう。
子供を無視する教育再生懇談会でも書きましたが、
子供にとって管理教育思想に染まった親や教師は、いじめの加害者以上の脅威なのです。
青少年ネット規制法はまさに管理教育思想の普及促進法に他ならないものなのですから、
規制全体に対する信頼を回復し、子供との信頼関係を築きたいと考えるのであれば、
まずは青少年ネット規制法を廃止するべきです。
子供に説明の付かない規制を放置しておきながら「規律尊重」「信頼構築」などといくら叫んでも、
子供には相手にされないということを肝に銘じておかなければ、
いつまでも「今の子供は何を考えているのか分からない」と頭を抱えることになるでしょう。
別に「今の子供」が特別なわけでなんでもなく、
人間は理不尽な規制を制定しておきながら「規律尊重」を声高に叫ぶ者に対して、
警戒心を持つものだというだけの話なのですが。
関連リンク
平成19年度「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」について−文部科学省