2009年07月06日

児童ポルノ 焚書令の発令要件を示せ

 衆議院法務委員会で審議中の児童買春・児童ポルノ禁止法改正案について、
与野党が密室で修正協議を続けている模様です。

「児童ポルノ規制で修正協議 自公と民主」:イザ!

 衆院法務委員会の与党と民主党の理事は2日午後、児童ポルノの拡散防止強化を目的とした、与党提出の児童買春・ポルノ禁止法改正案と民主党の対案をめぐり修正協議に入った。

 協議では、個人が趣味で児童ポルノの写真や映像を持つ「単純所持」を規制対象に加えることの是非、児童ポルノの定義などに関して与党と民主党の間で見解の隔たりがあることを確認。双方が修正案を用意し、9日に次回協議を行うことで合意した。

 密室協議による法案修正自体は、残念ながら日本の国会では常態化しており、
特に児童ポルノ禁止法改正案に限ったことではありません。
しかし、この法案については、与党が日本史上初の焚書令(焚書令第一号)となる単純所持禁止規定を提案し、
民主党も焚書令賛成派と反対派の主張を足して2で割ったような取得禁止規定を提案しており、
協議結果次第では日本の人権保障を未曾有の危機にさらすことになるのですから、
密室で協議を進めることは到底容認できません。
協議は全て公開して、慎重の上にも慎重に、法改正の必要性を検討するべきです。

 児童ポルノ禁止法改正案が他の表現規制法令と大きく違うのは、
規制対象の表現内容ではなく、規制対象の行為です。

つまり、規制を受ける表現の内容が時の政治情勢によってコロコロ変わるのは世の常であり、
例えば戦中であれば反戦・反軍がターゲットとなり、
戦後はわいせつ物、そして最近10年は児童ポルノがターゲットになっているわけですが、
いずれも規制されたのは表現の自由(発信権)のみであり、
情報摂取の自由(受信権)や思想の自由(所持権)まで直接規制されたことはありませんでした。

 児童ポルノ禁止法改正案と同種の法律として、戦中制定されていた治安維持法を取り上げる人もいますが、
治安維持法が禁じていたのは「国体変革」や「私有財産制度否認」を掲げる結社、
つまり共産主義政党の設立や加入、そしてその目的遂行(これが拡大解釈されていきます)でした。
あの悪名高い治安維持法でさえ、児童ポルノ禁止法改正案ほど直接的に、
情報摂取の自由や思想の自由を侵害してはいなかったのです。

 だからこそ、当ブログでは特に与党案について、
実現すれば日本史上における焚書令の第一号となり、
国民の人権保障が決定的に後退することになると何度も書いているのです。
焚書令賛成派はさも児童ポルノ問題が例外中の例外であるかの如く装っていますが、
国会審議を見ている限り、そのような発言は一言もありません。
むしろ定量的な被害実態調査すらないままに「ペドファイル、小児性愛者との戦い」(葉梨衆議院議員)を公言して憚らず、
児童保護など何の関係もない思想弾圧法であることを、半ば宣言しているような状態です。

 このようなでたらめな議論を認めて焚書令第一号が通ってしまえば、
焚書令は例外中の例外どころか、一切の法的制約を受けないという「前例」が作られ、
政治的制約(民意)さえクリアできれば、時の権力者が自由に発令できるということになってしまいます。

これは戦後日本の法的基盤である日本国憲法が前提とする「法の支配」を事実上葬り去り、
大日本帝国憲法が前提としていた「法治主義」に逆戻りするということです。
民主主義に対する人権の優位が逆転し、人権に対して民主主義が優位に立つことになると、
一時的な政治的混乱に乗じて恒久的な人権侵害法を制定することが可能となり、
国民の人権保障は常に危機にさらされ続けることとなります。

 先述の治安維持法についても、制定の3年前に「過激社会運動取締法案」として帝国議会に提出されたものの、
「具体的な犯罪行為が無くては処罰できないのは『刑法の缺陥』」と司法省政府委員が述べるなど、
あまりの危険性に世論の猛反発を受け、貴族院で大幅な修正を加えて可決された後、
衆議院で審議未了・廃案となりました。
しかし、その1年後に関東大震災が発生し、戒厳令下のドサクサに紛れ、
司法省は「治安維持ノ為ニスル罰則ニ関スル件」という緊急勅令を制定しました。
これが治安維持法の前身となり、その後の治安維持法制定、目的遂行罪導入、
思想犯保護観察法制定、予防拘禁制度導入につながっていったのです。

 つまり、理屈抜きに無条件で焚書令第一号の発令を認めるのであれば、
第二号、第三号と続くのは時間の問題となります。
関東大震災のような大災害など必要とは限らず、
1件の殺人事件をきっかけに焚書令が発令されることさえあり得るでしょう。
宮崎被告に死刑判決 特異な事件に振り回されるなで書いたように、
たった1人の異常者が引き起こした幼女連続誘拐殺人事件を振りかざして焚書令の発令を要求する者達が、
現実に存在するのです。

 次から次へと際限なく焚書令が発令される事態を回避するためには、
最低限、焚書令の発令要件を国会審議で明らかにしておく必要があります。
また、1年間の時限立法として制定して、
「焚書令は毎年見直されなければならない」という前例を残す選択肢も考えられます。
与野党が密室で修正協議を続けている状態なので、
現在どのような議論になっているのかは定かではありませんが、
焚書令第一号という、日本の人権保障を大きく左右する法令であることを強く認識し、
慎重な議論を続けるべきです。

関連リンク
イタリア「テレホノ・アルコバレーノ」児童ポルノ国別調査は - 保坂展人のどこどこ日記

「ペドファイルとのたたかい」でいいのか?「児童ポルノ法」審議について - よたよたあひる’S HOME PAGE - 楽天ブログ(Blog)

メディア戦隊レッドテイラー ロリコンとペドファイル

治安維持法 - Wikipedia



この記事へのコメント
  1. はじめまして。
    楽天ブログのよたよたあひると申します。
    記事中のご紹介、そしてトラックバックをありがとうございました。
    もうしわけないのですが、スパムを消している最中にせっかくこちらからいただいたトラックバックを消してしまいました。もしもよかったら、もう一度トラックバックをお送りください。
  2. Posted by よたよたあひる at 2009年07月13日 22:35