1.アクセスコントロールの強化に直結するマジコン規制
10月10日、複製されたゲームソフトを起動できるようにする「マジコン」について、
文化庁長官官房著作権課が、製造・販売などを犯罪化する方針であることが明らかになりました。
「「マジコン」販売に刑事罰 野放し状態、コンテンツ産業の成長阻害も」:イザ!
インターネット上で出回る携帯ゲーム機の海賊版ソフトを利用可能にする制御回避機器「マジコン」などの製造・販売について、文化庁が刑事罰を含む著作権法の厳格化に乗り出す方針が10日、明らかになった。マジコンをめぐっては、著作権者が莫大(ばくだい)な損害を受ける一方、これまで規制に向けた有効な手立てがなく、いたずらに流通を許す状態が続いていた。同庁は他の機関とも連携し、不法行為の一掃を目指す構えだ。
社団法人「コンピュータエンターテインメント協会」が東大に調査を依頼し、今年6月に公表した「違法複製ゲームソフトのダウンロードに関する使用実態調査」によると、マジコン使用による被害額は昨年までの6年間で、国内で少なくとも9540億円、全世界では3兆8160億円にのぼると試算される。
具体的にどのような規制となるのか、まだ定かではありませんが、
複製されたコンテンツを使えるようにする技術の開発や使用を原則禁止している、
米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)型の規制導入を念頭においているのであれば、
規制対象はマジコンだけではなく、
機器製造業者の「アクセスコントロール」(使用方法統制)に従わない行為全般に及ぶこととなります。
何故このようなことになるのかといえば、マジコンを効果的に規制するためには、
ゲーム機製造業者の意図しない使い方を全面的に規制するほかないからです。
仮に全面的に規制せず、
例えば違法にダウンロードしたゲームソフトを起動することのみ可能な機器を規制することとした場合、
販売者がマジコンに別の機能を付加し、その使い方を強調して販売を継続することは容易に想像できます。
これでは全く意味がないので、マジコンとして使える機器は全て規制しなければなりませんが、
ゲーム機を製造業者の意図しない方法で使おうとする場合、
ゲーム機に組み込まれたアクセスコントロール機能を回避しなければならず、
こうした手法が直接的・間接的にマジコンとして利用可能であれば、同様に規制対象となってしまいます。
結果として、あらゆる使い方が規制対象となるのです。
そして、法令による規制対象を「ゲーム機」に限定することは、
他の機器との均衡上、難しいと考えられますので、
結局マジコンを法令で規制しようとすれば、あらゆる機器について、
「消費者は製造業者のアクセスコントロールに従わなければならない」と規定せざるを得なくなるのです。
米国のDMCAは実際にそう規定しており、これまでに多くの問題が発生しています。(詳細は本記事末尾の関連リンクを参照)
2.ダウンロード件数を単純集計して算出された「被害額」
それでも規制導入を検討しなければならない理由として、
前節で引用した記事では、マジコン使用による「被害額」が、
2004年から2009年までの6年間で、3兆8,160億円に上っていることを挙げています。
しかし、この金額の算出根拠となっている、
社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)の依頼により作成された
「違法複製ゲームソフトのダウンロードに関する使用実態調査」を読んでみると、
ずさん極まる算出方法を採用していて、とても法規制の根拠にできる代物ではないことが分かります。
その算出方法とは、次のようなものです。
- (2004〜2009年累計販売タイトルトップ20位の被害額)=(税抜価格)×(ダウンロード件数)
- 上記に全販売ソフト中の調査対象タイトルの売上比率、ダウンロードカウンター設置サイト比率、
国内外売上比率を乗除して全体の被害額を算出
つまり、ダウンロード件数を単純集計して、
それに価格を掛けて算出した金額が、全て利益になるはずだったと主張しているわけです。
そう、CESAは何と、価格が0円で物理的に場所も取らない複製ゲームソフトと、
価格が約3千〜6千円で物理的に場所を取る正規版ゲームソフトを、
消費者は同じだけ手に入れようとするだろうといっているのです。
CESAの現実認識は驚くべきものであるといえますが、
この調査報告書を作成したのが東京大学大学院の教授であるというのは、
輪を掛けて驚くべきものでしょう。
報告書は、東京大学大学院情報学環の馬場章教授、藤原正仁特任助教のクレジットで作成されているのです。
なお、彼らはダウンロード件数と売上数にどれだけの差異があるのかということよりも、
調査対象が114サイトしかなかったことの方が重要だと考えているらしく、
「被害額は、本調査で推計したよりもはるかに大きな金額となることは間違いない。」のだそうです。
3.「消費者の自主的かつ合理的な選択の機会」の確保がイノベーションを引き当てる
規制の根拠が極めて薄弱だということは明らかですが、
一方でアクセスコントロールの強化というのは、
消費者は製造業者に従うべきだという発想にほかならず、
消費者主権の理念に真っ向から反するものです。
この理念に基づいて制定された消費者基本法においても、
「消費者の自主的かつ合理的な選択の機会」の確保を「消費者の権利」として掲げており、
消費者の権利を強く制約するアクセスコントロールの強化にあたっては、
その必要性を慎重に検討する必要があります。
また、消費者の権利を守ることは、事業活動を制約するばかりではありません。
消費者の選択の機会が確保されるということは、
事業者から見れば様々な選択肢を提供する機会があるということだからです。
そして提供する選択肢は、消費者の利益に資するのか分からないものであっても許されるため、
イノベーションを「引き当てる」まで、試行錯誤を繰り返すことができるのです。
最近よく取り上げられるツイッターが典型例で、
もしツイッター社があれは駄目、これも駄目といっていたら、
ツイッターを利用した様々なサービスは提供できなかったでしょうし、
そもそもこれほど利用が広がることもなかったでしょう。
安倍政権の退陣後、あまり聞かれることもなくなってしまった「イノベーション」ですが、
実は6月11日と10月1日に行われた菅首相の所信表明演説で、3年ぶりに盛り込まれました。
それも「新成長戦略」の最終段階で取り上げられており、
中長期的に重要な課題として認識しているものと考えられます。
菅政権が本当にイノベーションの引き当て数を増やすことが重要だと考えているのであれば、
間違っても不明確な根拠に基づいて無用な規制強化を行い、
消費者の権利を侵害してイノベーションの芽を摘むようなことはしないでしょう。
アクセスコントロール問題への対応は、
菅政権が消費者の権利やイノベーションをどの程度重視しているのかを測る、
リトマス試験紙となります。
関連リンク
第239回:アメリカ・デジタルミレニアム著作権法(DMCA)のDRM回避規制の影響: 無名の一知財政策ウォッチャーの独言
マジコン規制ではすまないアクセスコントロール回避規制 - P2Pとかその辺のお話@はてな