2011年05月15日

国債直接引受の本質は財政政策の不透明化

1.競争入札から随意契約に移行

 東日本大震災からの復興費用が15兆円にも上るとされる中、
その財源を巡る議論が沸き起こっています。
財源の調達手段としては、歳出削減、増税、国債増発が挙げられますが、
負担者を特定するという点で特異なのが、増発国債の日銀直接引き受け論です。

民主幹事長、国債の日銀引き受けに慎重「大きなインフレ招く」  :日本経済新聞

 民主党の岡田克也幹事長は12日午後の記者会見で、東日本大震災の復興に向けた財源論に絡み、日銀に対して国債を直接引き受けさせるべきだとの声が党内から出ていることに対して「日銀引き受けはいわば禁じ手。手品のように引き受けさせると、財政規律が崩れ結果的に大きなインフレを招いて次の世代にツケを回してしまう」と語り、慎重な姿勢を示した。〔日経QUICKニュース〕

 直接引き受けがインフレにつながることはよく知られていますが、
何故インフレになるのか、買いオペ(間接引き受け)と何が違うのかということはあまり知られておらず、
議論の混乱を招いているようです。
両者の違いを簡単にまとめれば、次のようになります。

  • 買いオペ:財務省が競争入札で国債を売却してから、日銀が競争入札で購入する
  • 直接引き受け:財務省が随意契約で日銀に国債を売却する

 つまり、買いオペから直接引き受けに移行するというのは、
競争入札から随意契約に移行するということなのです。
そして、随意契約の価格は市場価格に拘束されないため、
日銀に不当な高値(低利回り)で国債を購入させることができます。
例えば、利回り0%(表面利率0%、最低価格100円)の「無利子国債」を競争入札しても、
買い手が付くことはありませんが、
日銀に圧力を掛けて直接引き受けさせれば、発行が可能となります。
更にいえば、利回りが0%未満の「マイナス国債」を発行することさえ可能です。

 日銀の資産はほぼ全て、最終的には国庫に帰属することとなっているため、
このような手法で日銀の業績を悪化させれば、
結局は増税やインフレと同様に、国民負担の増加となります。
しかし、その過程は複雑で分かりにくいため、
「無利子国債を日銀に直接引き受けさせれば、歳出を増加させても利払費は増加しない」などといった主張が横行し、
歳出削減圧力の緩和につながる可能性は高いでしょう。
その結果、総需要増加→インフレとなるのです。

 もっとも、直接引き受けがもたらす大きな問題はインフレではなく、
財政政策が不透明になることです。
直接引き受けを行った場合、市場価格と随意契約価格の差額が国民負担となりますが、
市場価格は帳簿に表れないため、正確な国民負担額を把握することは困難になります。
また、政府の歳入状況をチェックするためには、予算書や決算書だけでなく、
日銀に転嫁された国民負担額まで調べなくてはならなくなってしまいます。

 結局、買いオペに代えて直接引き受けを行う「利点」とは、
財政政策の不透明化によって財政民主主義を骨抜きにし、
国富バラマキ政策をやりやすくするということでしかありません。
よって、このような政策は論外です。

2.「ギリシャの二の舞」はあり得ない

 こうした議論が出てきてしまう背景には、
ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン(PIIGS)が
深刻な財政危機に陥っていることがあるようです。
特にギリシャは、来年の国債償還に必要な資金を確保できるメドが立っておらず、
債務不履行に陥ることが懸念されており、
日本も同じ状況になるのではないかという議論があります。

 しかし、PIIGSはいずれも固定為替相場制の一種であるユーロの加盟国です。
変動為替相場制であれば財政危機→通貨価値下落→インフレ・債務負担減となるところですが、
ユーロ加盟国にはこのような調整メカニズムが働かないため、財政危機から抜け出せずにいるのです。
日本は変動為替相場制を採用しているため、インフレになることはあっても、
国債償還が不可能となる事態はあり得ません。

 ただし、国債償還を「しない」可能性は残っています。
それも、今後1年以内の話です。

 財政的に国債償還が可能なのに、あえてせずに債務不履行に陥るのは、
例年3月までには成立している特例公債法案が未だに成立しておらず、
このままでは38.2兆円もの歳入欠陥が発生し、国債償還を含む予算執行を停止せざるを得なくなるからです。
予算関連法案の不成立を恐れるなでも取り上げましたが、
特例公債法案反対派には歳出を38.2兆円削減した予算案を提示する責任があるにも関わらず、
一向にその責任を果たす見込みがないため、
この状況が続けば債務不履行の懸念から国債価格が下落し、
無用な利払費の支払いを余儀なくされる可能性があります。

3.補正予算の慎重な国会審議が肝要

 そもそも借金というものは、一時的な負担を長期に分散するために行うものであり、
これは政府の災害復興でも、企業の工場建設でも、個人の住宅購入でも同じことです。
経常的経費に借金を充てながら、一時的経費に借金を充てることを渋るというのはちぐはぐな話で、
復興に必要な分は国債増発で対応すれば問題ありません。

 国会審議で力を入れるべきなのは財源論などではなく、
15兆円もの予算が本当に必要なのか、予算の内容は効率的なものとなっているのかに焦点を当て、
歳出の最適化を実現することです。
無駄な歳出が国民負担になるということは、財源が何であっても変わりないからです。
今回の震災で被害を受けた住家は、消防庁災害対策本部の5月13日発表(PDF)では、
全壊88,899棟、半壊35,678棟、一部破損271,149棟となっており、
復興費用が15兆円となると、被害住家1棟当たり3,800万円もの経費を被災地へ投入することとなります。
自然災害から財産を守る責任は所有者にあることを考慮すれば、
被災者、自治体、政府の費用分担を冷静に決めていくことも大切で、
間違っても「震災復興」を(にしき)御旗(みはた)にした国富バラマキ合戦が展開されないよう、
国会審議の行方を注視していく必要があります。

関連リンク
復興国債の日銀引き受けはそもそも財源か? - 岩本康志のブログ - Yahoo!ブログ

牛さん熊さんブログ : 政策委員による国債日銀引受に対する見解