1.3代連続の親米政権
2月21日から訪米している安倍晋三首相と岸田文雄外相は、
翌22日にオバマ大統領との首脳会談、ケリー国務長官との外相会談をそれぞれ行いました。
日米首脳会談(概要)(外務省)
日米外相会談(概要)(外務省)
両政府は,日本が環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉に参加する場合には,全ての物品が交渉の対象とされること,及び,日本が他の交渉参加国とともに,2011年11月12日にTPP首脳によって表明された「TPPの輪郭(アウトライン)」において示された包括的で高い水準の協定を達成していくことになることを確認する。
日本には一定の農産品,米国には一定の工業製品というように,両国ともに二国間貿易上のセンシティビティが存在することを認識しつつ,両政府は,最終的な結果は交渉の中で決まっていくものであることから,TPP交渉参加に際し,一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する。
両政府は,TPP参加への日本のあり得べき関心についての二国間協議を継続する。これらの協議は進展を見せているが,自動車部門や保険部門に関する残された懸案事項に対処し,その他の非関税措置に対処し,及びTPPの高い水準を満たすことについて作業を完了することを含め,なされるべき更なる作業が残されている。
【ワシントン時事】安倍晋三首相が22日、オバマ米大統領との会談後に行った内外記者会見の要旨は次の通り。
この3年間で損なわれた日米の絆と信頼を取り戻し、緊密な日米同盟が完全に復活したと宣言したい。
拉致問題の解決に向け強い意志を伝え、改めて大統領の理解と支持を得た。
邦人が犠牲となったアルジェリアのテロ事件もあり、テロ対策について近く日米テロ協議を行うことで合意した。
環太平洋連携協定(TPP)に関しては、選挙を通じて、聖域なき関税撤廃を前提とするTPP交渉には参加しないと国民に約束し、今回の会談で聖域なき関税撤廃が前提ではないことが明確になった。
−今後、TPP交渉参加の国内手続きをどう進めるか。
日米首脳会談の結果を25日の自民党役員会で説明し、公明党にも説明する。交渉参加するかどうかは政府の専権事項として、政府への一任をお願いしたい。時期については、なるべく早い段階で決断したい。
−日中関係をどう改善していくか。
戦略的互恵関係の原則に中国は立ち戻ってもらいたい。対話のドアは常に開かれている。習近平総書記は年齢的に私と変わらず、同じ国の指導者として13億の民を統治していくことが大変なことは十分認識している。同世代の指導者として、いろんなことを話し合う機会があればいい。
−日銀正副総裁人事について。
月曜日(25日)から進める。その週には候補者本人、与党の自民、公明両党の了解を得て、各野党に(協力を)働き掛けたい。(2013/02/23-11:03)
このように、日米両国が発表した共同声明は、
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉のみに焦点を絞る内容となりました。
これは第2次安倍内閣が発足して間もないということもありますが、
2012年4月30日に野田佳彦前首相が訪米して行われた首脳会談において、
日米関係に関する包括的な共同声明と付属文書を発表済みであることが大きいと考えられます。
日米首脳会談(平成24年4月30日)概要 日米共同声明:未来に向けた共通のビジョン(仮訳(PDF)/英文(PDF)) ファクトシート:日米協力イニシアティブ(仮訳(PDF)/英文(PDF)) グローバル・サプライチェーン・セキュリティに関する日米共同声明(概要・仮訳/英文)
ドナヒュー全米商工会議所会頭他ビジネス関係者との朝食会(概要)(平成24年5月2日)
野田総理大臣へのボールデン米国航空宇宙局長官及び日米宇宙飛行士の表敬について(平成24年4月30日)
野田総理を囲む懇談 ―感謝の集い―(平成24年4月29日)
フェアファックス郡捜索救助隊及び故テイラー・アンダーソンさんご家族と野田総理との懇談(平成24年4月29日)
野田総理の米国訪問動画(首相官邸ホームページへリンク)
日米首脳が共同声明と共同文書を発表するのは、小泉純一郎氏とブッシュ氏が首脳を務め、
「未曽有の蜜月時代」とまで評されていた2006年6月の「新世紀の日米同盟」(外務省)以来、
6年ぶりのことでした。(産経新聞)
安倍氏は記者会見で、「この3年間で損なわれた日米の絆と信頼を取り戻し」たとしていますが、
明らかに損なわれたといえるのは「トラスト・ミー」発言に象徴される鳩山由紀夫政権時ぐらいで、
実際には菅直人政権以降、急速に親米路線へと回帰していたのです。
従って、野田政権時には既に日米同盟が「復活」しており、
今回の訪米ではTPP交渉を除き、大きな成果は得られなかったといえるでしょう。
しかし、それは安倍氏の失態というよりも、
菅、野田、安倍の3政権で親米路線が継承されたため、
現時点における関係改善余地が少なかったというべきです。
2.「政府の専権事項」に与党の了承求める安倍首相
むしろ今回の訪米で問われるべきは、TPP交渉に対する安倍氏の矛盾した国内対応です。
前節で引用した記者会見で、安倍氏は「交渉参加するかどうかは政府の専権事項」と述べた直後、
自民、公明両党に「政府への一任をお願いしたい」と述べています。
憲法上、外交関係の処理や条約の締結は内閣が行うこととされており、
TPP交渉に参加するかどうかの判断は、政府(内閣)の専権事項です。
それにも関わらず、首相が国会に、
それも非公式なルートで一部の議員にのみ「一任をお願い」するというのは、
三権分立を侵して国会審議を
この弊害は早速現れていて、首脳会談後の共同記者会見が取り
【平安名純代・米国特約記者】米ワシントンのホワイトハウスで22日に開かれる日米首脳会談で、安倍晋三首相とオバマ米大統領が会談後に開く予定だった共同記者会見が見送られることが19日までに分かった。首脳級会談で共同記者会見が見送られるのは異例。米政府筋が本紙の取材に対して明らかにした。
米政府筋によると、見送りは米側が要請した。当初、米側は首脳会談で日本の環太平洋経済連携協定(TPP)への参加表明に対する期待を伝えていたものの、日本から困難との意向が伝達された。そのため、「踏み込んだ議論が期待できず、具体的な成果も発表できないため、記者会見は不要と判断した」という。
米国側にしてみれば、日本側が強く求めた「聖域なき関税撤廃」を前提にしないという、
当たり前のことを確約するためだけに、わざわざ共同声明まで出して交渉参加のお膳立てをして、
返ってきた答えは「決められない」。
要求を丸飲みされても交渉参加表明すらできない日本の首相とは一体何なのか、と思ったことでしょう。
3.国会審議でTPP交渉状況のフォローを
国会がやるべきことは、交渉前から協定の内容を政府に「一任」することではなく、
国会審議を通じて交渉状況を継続的にフォローするとともに、
政府が国益に沿わない内容で署名してきた場合は、
また、政府側にしてみても、背後に国益への責任感ある議会が控えていてこそ、
外国と対等な交渉ができるのです。
協定署名後に厳しい議会審議が待っている国と、
余程のことがない限り批准案が承認される国の間で交渉が行き詰まった時、
どちらが譲歩させられる可能性が高いか、火を見るよりも明らかでしょう。
TPP交渉に当たっては、関税撤廃などによって不利益を被る業界のソフトランディングの他、
消費者主権との整合性が不明確な「知的財産」分野の取り扱いなど、
外国に対して主張しなければならない日本の国益が多々あります。
それらをどう主張したのか、どのような反応があったのかを
協定署名後には批准案の可否を慎重に検討する国会があってこそ、
日本の国益に資する外交交渉を行うことができるようになります。
国会が協定の内容を政府に「一任」し、批准案を厳しく審議しない姿勢を示すことは、
政府の交渉を助けているように見えて、実際には重い