国際政策コラム<よむ地球きる世界>No.159
by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)
平成24年7月27日
反基地運動は沖縄人滅亡への道
まず、これが専門家の常識だが、日本人の常識にはなっていない
かもしれない。
「現在の中国は、基本的に、乾隆期に形成された直轄地と藩部を
含む領域を、有史以来の中国の固有の領域と見なしている。これに
隣接する地域は、朝貢国のベルトを形成した。」(並木頼寿他
『世界の歴史19・中華帝国の危機』中央公論社、1997年、p.12)
清朝六代乾隆(けんりゅう)帝の時代、18世紀後半の中国は
歴代王朝で最大の版図に拡がったとされるが、それを有史以来まで
さかのぼって「固有の領域」にしてしまい、そのすべてを近代の
(欧米流)概念の領有権として国民に刷り込んでしまった。それが
現在の中国である。
藩部とはチベット、モンゴル、新彊の間接支配地域(辺境)、
朝貢国は朝鮮を筆頭に琉球、ベトナム、タイ、ビルマ、ネパールなど
の「属国」を意味する。
現代中国が国民のナショナリズムを煽り立てた結果、「属国」だった
地域を再び文字通りの属国にする、すなわち中国を宗主国と認めさ
せなければ気が済まないところまで来てしまった。
今月に入って中国は、領有権争いの激化する南シナ海の西沙、
中沙、南沙の三群島を、一部は実効支配していないにもかかわらず、
新たに「海南省三沙市」に昇格させた。市は日本の県に相当する。
すでに1992年の領海法で中国領と規定しているので、国内法上の
既成事実を更に進めたことになる。
また国防省は同市を含む「三沙警備区」を新設すると発表した。
フィリピンなどとの海上紛争では漁業関係の監視船だけでなく、
海軍艦艇が出ていくぞというあからさまな脅しである。
さてそうなると、次は同じく「古来から中国領」だという日本の
尖閣諸島にも、同じ手法をとることで東京都の購入に対抗するの
ではないかという懸念が生じる。
しかし、多分そうはならないだろう。なぜならば、92年領海法
では、尖閣4島を名指しで「台湾の付属諸島」と規定したからだ。
大陸の中国共産党政府は台湾(中華民国)に対して、香港をモデル
にした「一国二制度」でいいと甘い言葉をかけ、なし崩しの吸収合併
を目指している。
それを尖閣だけ切り離して国内法上の行政区にしたり、軍事的な
占領を試みたりすれば、却って台湾の不信感を募らせてしまう可能性
が強い。台湾調略の大目標を優先すると、尖閣で一方的に強い措置を
とるのは避けるだろう。
日本は、だからといって安心していいわけではない。中国として
は、尖閣よりも琉球全部に手を出すほうが遥かに得策だ。「古来からの
属国」を日本から取り戻すという大義名分がある。
オスプレイ反対の動きに呼応するかのように、中国国防大学戦略
研究所の所長(少将)がネット上で沖縄の「帰属問題」を取りあげ、
「1879年の日本による琉球占領を認める国際条約はない」などと
ブチあげた。(産経、7/14)
思い出してほしい。日本は戦後一貫して中国共産党政府の善意を
疑わず、今日まで譲歩を重ねてきた結果、前国家主席の時から属国
に位置づけられた。日本を公式訪問した江沢民が、天皇陛下を格下
扱いし、宮中晩餐会に人民服で乗り込み、陛下が訪中時の歓迎に謝意
を表されたのをわざと無視した。
属国の君主が挨拶に来るのは当たり前で、中華が対等に礼を言う
ことはない。
古来からの属国でない日本が新たな属国になったのだから、属国
であった琉球は新たな藩部、あるいは飛び越して直轄地になるべきだ。
中華としてはそう考えるに違いない。
沖縄が戦略的要衝であり、だからこそ米国の大戦略に欠かせない
存在なのだという事実を考えれば、中国が尖閣どころか沖縄県全部
を「核心的利益」と主張し出すのは、時間の問題だと言えるだろう。
考えてほしい。中国が無法でお荷物の北朝鮮をなぜあれほど庇い、
擁護し続けるのか。朝鮮が「古来から」最も模範的な朝貢国だった
と気がつけば、答は自然に出てくる。
フィリピンやベトナムなどの旧朝貢国は、今のところASEANという
連携で抵抗しつつ、それでも少しずつ属国化を余儀なくされている。
沖縄県民は、反オスプレイを手がかりに、米軍基地全廃、反米反日
の道を選ぶのだろうか。
その道の先にあるものは目に見えている。月刊誌WiLL5月号の
仲村覚氏論文によれば、ネット上ではすでに2007年の日付で中国語の
「琉球復国運動基本綱領」や、「琉球特別自治区」「臨時憲法」など
が登場し、あたかも独立運動が盛り上がっているような情報工作が
行われているという。
これらは香港の反日愛国団体や国営メディアの「環球時報」など
官民にまたがった工作として打ち出され、日本にも協力者がいる
らしい。また国連にも浸透し、2008年に人権委員会はアイヌ民族と
並べて「琉球民族」を先住民と認めるよう、日本政府に勧告した。
歴史的に左翼がスローガンとする「民族解放」の下地(しもじ、では
ない)が、でっち上げだがすでに国際的に拡がっているのである。
民主党政権発足後、菅直人副総理(当時)が「沖縄は独立したほう
がいい」と漏らしたことが大きく報道され、でっち上げでなくそう
考えている要人がいることを証明した。
本来は、聖徳太子以来、属国でなかった日本が、現代中国の
中華再興に異を唱える役割を担うべきだったのに、この無惨な現状は
なんと表現したらいいのだろうか。
(おおいそ・まさよし 2012/07/27)
by 大礒正美(国際政治学者、シンクタンク大礒事務所代表)
平成24年7月27日
反基地運動は沖縄人滅亡への道
まず、これが専門家の常識だが、日本人の常識にはなっていない
かもしれない。
「現在の中国は、基本的に、乾隆期に形成された直轄地と藩部を
含む領域を、有史以来の中国の固有の領域と見なしている。これに
隣接する地域は、朝貢国のベルトを形成した。」(並木頼寿他
『世界の歴史19・中華帝国の危機』中央公論社、1997年、p.12)
清朝六代乾隆(けんりゅう)帝の時代、18世紀後半の中国は
歴代王朝で最大の版図に拡がったとされるが、それを有史以来まで
さかのぼって「固有の領域」にしてしまい、そのすべてを近代の
(欧米流)概念の領有権として国民に刷り込んでしまった。それが
現在の中国である。
藩部とはチベット、モンゴル、新彊の間接支配地域(辺境)、
朝貢国は朝鮮を筆頭に琉球、ベトナム、タイ、ビルマ、ネパールなど
の「属国」を意味する。
現代中国が国民のナショナリズムを煽り立てた結果、「属国」だった
地域を再び文字通りの属国にする、すなわち中国を宗主国と認めさ
せなければ気が済まないところまで来てしまった。
今月に入って中国は、領有権争いの激化する南シナ海の西沙、
中沙、南沙の三群島を、一部は実効支配していないにもかかわらず、
新たに「海南省三沙市」に昇格させた。市は日本の県に相当する。
すでに1992年の領海法で中国領と規定しているので、国内法上の
既成事実を更に進めたことになる。
また国防省は同市を含む「三沙警備区」を新設すると発表した。
フィリピンなどとの海上紛争では漁業関係の監視船だけでなく、
海軍艦艇が出ていくぞというあからさまな脅しである。
さてそうなると、次は同じく「古来から中国領」だという日本の
尖閣諸島にも、同じ手法をとることで東京都の購入に対抗するの
ではないかという懸念が生じる。
しかし、多分そうはならないだろう。なぜならば、92年領海法
では、尖閣4島を名指しで「台湾の付属諸島」と規定したからだ。
大陸の中国共産党政府は台湾(中華民国)に対して、香港をモデル
にした「一国二制度」でいいと甘い言葉をかけ、なし崩しの吸収合併
を目指している。
それを尖閣だけ切り離して国内法上の行政区にしたり、軍事的な
占領を試みたりすれば、却って台湾の不信感を募らせてしまう可能性
が強い。台湾調略の大目標を優先すると、尖閣で一方的に強い措置を
とるのは避けるだろう。
日本は、だからといって安心していいわけではない。中国として
は、尖閣よりも琉球全部に手を出すほうが遥かに得策だ。「古来からの
属国」を日本から取り戻すという大義名分がある。
オスプレイ反対の動きに呼応するかのように、中国国防大学戦略
研究所の所長(少将)がネット上で沖縄の「帰属問題」を取りあげ、
「1879年の日本による琉球占領を認める国際条約はない」などと
ブチあげた。(産経、7/14)
思い出してほしい。日本は戦後一貫して中国共産党政府の善意を
疑わず、今日まで譲歩を重ねてきた結果、前国家主席の時から属国
に位置づけられた。日本を公式訪問した江沢民が、天皇陛下を格下
扱いし、宮中晩餐会に人民服で乗り込み、陛下が訪中時の歓迎に謝意
を表されたのをわざと無視した。
属国の君主が挨拶に来るのは当たり前で、中華が対等に礼を言う
ことはない。
古来からの属国でない日本が新たな属国になったのだから、属国
であった琉球は新たな藩部、あるいは飛び越して直轄地になるべきだ。
中華としてはそう考えるに違いない。
沖縄が戦略的要衝であり、だからこそ米国の大戦略に欠かせない
存在なのだという事実を考えれば、中国が尖閣どころか沖縄県全部
を「核心的利益」と主張し出すのは、時間の問題だと言えるだろう。
考えてほしい。中国が無法でお荷物の北朝鮮をなぜあれほど庇い、
擁護し続けるのか。朝鮮が「古来から」最も模範的な朝貢国だった
と気がつけば、答は自然に出てくる。
フィリピンやベトナムなどの旧朝貢国は、今のところASEANという
連携で抵抗しつつ、それでも少しずつ属国化を余儀なくされている。
沖縄県民は、反オスプレイを手がかりに、米軍基地全廃、反米反日
の道を選ぶのだろうか。
その道の先にあるものは目に見えている。月刊誌WiLL5月号の
仲村覚氏論文によれば、ネット上ではすでに2007年の日付で中国語の
「琉球復国運動基本綱領」や、「琉球特別自治区」「臨時憲法」など
が登場し、あたかも独立運動が盛り上がっているような情報工作が
行われているという。
これらは香港の反日愛国団体や国営メディアの「環球時報」など
官民にまたがった工作として打ち出され、日本にも協力者がいる
らしい。また国連にも浸透し、2008年に人権委員会はアイヌ民族と
並べて「琉球民族」を先住民と認めるよう、日本政府に勧告した。
歴史的に左翼がスローガンとする「民族解放」の下地(しもじ、では
ない)が、でっち上げだがすでに国際的に拡がっているのである。
民主党政権発足後、菅直人副総理(当時)が「沖縄は独立したほう
がいい」と漏らしたことが大きく報道され、でっち上げでなくそう
考えている要人がいることを証明した。
本来は、聖徳太子以来、属国でなかった日本が、現代中国の
中華再興に異を唱える役割を担うべきだったのに、この無惨な現状は
なんと表現したらいいのだろうか。
(おおいそ・まさよし 2012/07/27)