東京法律事務所blog

弁護士の菅俊治です。

★アニメ業界のブラック化する労働環境

NHKクローズアップ現代+
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3987/

アニメ産業の労働環境について特集していました。

ほんと厳しい状況で働いていらっしゃいますよね。

私のところにも一件解決すると、また次の一件と相談がきます。
近年は、色つけとか仕上げとかは、海外で行うのが一般で、日本で制作会社と海外の請負会社との間をつなぐ、「制作進行」を担う方の相談が多いですね。


★週66時間労働?絵に描いたようなルール無視

ついこの間も、勤務をはじめてわずか6か月で身体を壊してしまった方からの相談がありました。

・使用者が求人広告を出したA社か、実際に勤務したB社かはっきりしない
・契約上の始業時刻も終業時刻もはっきりしない
・一日11時間労働、週6日労働のシフトが組まれている
・会社は実労働時間を一切記録していない
・賃金は月額14万円(残業代込み)

という絵に描いたような「ルール無視」の労働実態でした。


★労働時間を記録しよう!

幸い、この方の場合、先輩からのすすめで労働時間をメモにしていました。
そこで、
・シフト表
・労働時間を記録したメモ
をもとに労働審判を申し立てました。

今回の方は、毎日、iPhoneのメモ帳に出勤時刻と退勤時刻とをメモしていました。
記録って、本当に大事です。
佐々木亮弁護士の「裁判例に見る<労働時間>の記録の取り方」のいうとおり。https://news.yahoo.co.jp/byline/sasakiryo/20170610-00071940/


★ピンチ!債権回収できるか??

労働審判では、社長が労働実態を認めざるをえなくなり、第1回期日で請求額どおり半年分の残業代を支払わせる和解が成立しました。
ただ、資金繰りがつかないとのことで計8回の分割払いに。
悪い予感がしたので、念のためA社とB社に連帯責任を負わせる調停にしたのが幸いしました。

支払が滞ったため、B社に対して督促を繰り返しましたが、支払われず。
やむなく連帯責任を負ったA社に対して強制執行。

幸いなことに本日、満額回収と相成りました。

いまは体調も回復し、別会社で元気に働いておられます。

しかし、また別の方の申立が。。。

弁護士の笹山尚人です。
 当事務所の最高齢弁護士、渡辺正雄弁護士(9期。87歳)が久しぶりに事務所の総会にお見えになりました。
 
 総会の中で、渡辺弁護士がご挨拶された内容が、とても印象的なお話だったので紹介します。
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「かつて、昔のソ連に渡って活動した人に、佐藤三千夫さんという人がいる。
佐藤さんは、シベリア出兵に反対し、日本軍兵士に『故郷に帰って畑を耕せ』というチラシを配布した。
22歳で病死し、ソ連で国葬扱いで葬られた。

そのことを顕彰するということで、佐藤さんの郷里の宮城で顕彰碑が建立された。
私の父が、たまたま佐藤さんと郷里が同じ同級生ということで、
顕彰碑建立の際に招かれ、その際記念写真が撮影された。
その写真は、父が顕彰碑を抱きしめている図式のものだった。

 

私の司法修習が終わるとき、試験官であった検察官から、父のその写真を示され、    
   
『この建立碑を知っているか?ここに写っているのが、あなたの父親だというのはわかるね?』   
   
といった質問をされた。
私は黙秘して答えなかった。

 

写真の下には、私や父の交友関係などを詳細に調査したと思われる、分厚い記録があった。

 
私が司法試験を受けたのは、今の憲法下でのことだ。    
そのときでさえ、こんな思想調査が行われていた。

     
いま、共謀罪が成立してしまったら、いったいどうなるのだろう。
こんな非道なことが大手をふって許されることにならないか。」

 

渡辺弁護士からこんな話を聞いたのは初めてのことで、大変衝撃を受けました。

しかし、大先輩の重い一言です。

大事にしていきたいと思いました。

 

あとからメールでこのようなメッセージをいただいたので、紹介します。

       
私にはまったく関係のない70年前の事柄でした。
私の親父が中学時代、宮城県登米町で、親の同級生だった佐藤三千夫氏(徳永直著・文庫「日本人サトウ」新日本出版に詳しい)の、 戦後暫く経った顕彰墓新設のとき、酒造店をやっていた父が呼ばれ、酒瓶を提げて挨拶に行ったという話。


親父が新しい佐藤三千夫氏の墓に手をおいて、大勢と映っていた写真のことです。

私は、親から、
「この男は仲間で良い奴だった。中学で別れたきり行方知れずだったが、ロシヤに渡り20何歳かで死んでしまっていたそうだ」
と話され、その佐藤氏を顕彰する墓建立に呼ばれたという写真を見せられた覚えがありました。        
       

それがなんと、60年前の司法研修所卒業時・二回試験の口述試験のなかで試験官から、何の関わりが無い事柄なのに、唐突にこの写真を突きつけられての質問、
「この写真を知っているだろう」って。

驚天動地、これが「試験」だとはねえ 本当にビックラしたなあ!

たぶん、司法修習生の二年間、私は、独断か誤解によって、秘密警察に付きまとわれ、おそらく交友関係や私の行状などが探られ、机上にあったぶ厚い記録がつくられていたものと思われます。
(品行方正、夜遊び遊興ちっとも無しでね)        
       

秘密警察が、新憲法下でも機能していたことに、わたしは愕然とした覚えがあります。

・・・「共謀法」が成立すれば、特高(公安)警察のこうした活動が、いま以上に、公然と復活しかねない。


「法の現場実行者」警察機構等の知られざる実態の考察なども求められていると考えられるなあ、ってことですね。

 

6月4日           渡辺じじい 

 

 

※注:佐藤三千夫は、1900(明治33)年宮城県生まれの反戦運動家で、ウラジオストクにわたってマッチ工場ではたらき、社会主義思想に共鳴して、パルチザン部隊に入隊、シベリア出兵の日本軍に戦争反対をよびかけた。1922(大正11)年にハバロフスクにて22歳で病死し、ソ連で国葬扱いとされた。

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宮城の明治村ウェブサイトより
http://www12.plala.or.jp/aburahu/toyoma/sansaku/


弁護士の今泉義竜です。


 5月31日、Chubb損害保険会社(チャブ損保)に勤務する労働者のジョブグレード降格に伴う減給などが争点となった事件で、労働者側勝訴の判決を勝ち取りました(東京地裁民事36部・川淵健司裁判官)。
 buzzfeedの渡辺記者が記事にしてくれています。
 「トイレ離席するなら、書類にハンコをもらえ」 50代男性課長が受けた仕打ち

1 事実経過


【ジョブグレード降格その1】


原告は、1999年にチャブ損保の前身であるエース損保に入社し、数理部でグレード7Sと評価され保険料改定などの業務に従事していました。しかし、2007年に内部監査部へ異動となり、その際にグレードが7Sから6Sに引き下げられ、手当が2万5000円減額されました。当時その具体的理由は告げられませんでした。

【リハビリ勤務中の給与1割カット】


原告は、2012年に内部監査部の後藤部長からハラスメントを受けるようになり体調を崩し始めました。異動を申し出ましたが受け入れられず、不眠・うつ状態になりましたが、会社からはPIP(performance improvement plan:業績改善プログラム)を実施されてさらに心身に不調を来し、2013年10月から休職するに至りました。


2014年1月に復職したものの、リハビリ勤務扱いが8月末まで続き、その間給与が1割カットされる状態が続きました。


 【ジョブグレード降格その2】


2014年9月にようやく正式な復職が認められますが、人事部付きでの復職とされ、グレードが6Sから5Sへとさらに引き下げられてしまいました。


2 裁判所の判断


(1) ジョブグレードの降格について


被告は、ジョブグレードの降格について、

 ①就業規則上の根拠がある
 ②原告本人の同意がある
 ③引き下げに合理的理由がある


と主張しましたが、東京地裁判決は、これらをいずれも否定しました。


●グレード引き下げには就業規則上の根拠が必要


東京地裁判決はまず、


「本件降格は、労働者にとって最も重要な労働条件である賃金を不利益に変更するものであるから、労働者の個別の同意若しくは就業規則や賃全規程上の明確な根拠が必要というべきであり、かかる就業規則等の明確な根拠規定もなく、労働者の個別の同意もないままに、使用者が一方的行為により従業員のグレードを引き下げること(降格)は、人事権を濫用するものとして許されない」


という判断基準を示しました。


●就業規則上の根拠がない


被告は、下記の社内向け資料(一部抜粋)を就業規則であると主張していました。
chubb乙1


chubb乙2


これについて東京地裁は、


「就業規則は、労働者の労働条件や職場規律に関する基本的事項を定める労使関係における準則であるから、その内容は具体的かつ一義的に明確なものであることが要請される。」と述べた上、上記資料について「制度の概要をまとめた説明用文書にすぎず、就業規則の一部に当たると認めることはできない。」と判断しました。
 

●同意もなく、合理的理由もない


さらに、降格その1、その2いずれについても、労働者の自由な意思に基づく同意がなく、合理的な理由もないと判断しました。

なお、この労働者の同意の点については、「賃金に係る労働条件の不利益変更に関する労働者の同意の有無については、その判断は慎重にされるべきであり、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要であると解される」として、昨年の山梨県民信用組合事件(最高裁平成28年2月19日第二小法廷判決)を引用しています。

私が特に注目したのは、二回目の降格について、判決が


「被告は、十分な根拠もないままに原告の評価を引き下げ、原告から適応障害、抑うつ状態により治療中であり、対人関係によるストレスを避けるために配置転換等の職務上の配慮が必要との診断書が提出されたにもかかわらず、かかる措置や配慮を全く取らず、かえって原告に対する退職勧奨を繰り返し、そのような状況下で2度のPIPを実施し、その後原告が体調を更に悪化させたのであって、被告は原告に対し、極めて不適切な対応を繰り返していたものといわざるを得ない。」


と述べた点です。


 PIPという手法が退職勧奨の一環として使われており、労働者を精神的に追い込んでいるという実態は、IBMやブルームバーグと同様です。この一連の会社の対応を判決が「極めて不適切」と指摘した点は、重要だと思います。


(2) リハビリ中の減給について


リハビリ勤務として給与を1割カットとした点については、判決は「原告のリハビリ勤務は遅くとも同年5月末までで足りると認めるのが相当であり、同年6月以降も引き続き同年8月末までリハビリ勤務を継続し、基本給の1割減額を継続することは、被告の人事上の裁量権を逸脱した違法な措置というべきである。」と判断しました。


3 本件の意義


近年多くの企業で、ジョブグレード制が導入されてきています。

しかし、この制度が、実際には使用者による恣意的な減給を許す隠れ蓑のように使われているケースは多いと思われます。


本判決は、ジョブグレード制を理由にした恣意的な減給が許されないということを明確に示した裁判例として、活用できると考えます。

(※本判決は、被告が控訴せず確定しました。6月15日追記)
判決全文はこちらから→東京法律事務所ウェブサイト


 


 


 


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