弁護士の菅俊治です。
本日、国際自動車事件の最高裁判決が言い渡されました。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=86544
主任は指宿昭一弁護士・谷田和一郎弁護士ですが、同種事件を担当している関係で、最高裁の段階から、私も弁護団に参加しています(ほかに、東京法律事務所からは小部正治・江夏大樹。江東総合法律事務所の蒲田哲二、中村優介の各弁護士も一緒に参加しています)。

バズフィードジャパンの渡辺一樹さんが、「引き分け、再戦だ」と報じていただいています。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170228-00010010-bfj-soci

ところで、
日本経済新聞が、「歩合給から残業代を差し引く賃金規則は「有効」」という報道をしています。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG28H94_Y7A220C1CR8000/
でも最高裁判決は賃金規則は「有効」とは書いていません。
ですから判決の誤読、書きすぎです。
最高裁判決は、当然に公序良俗に反して無効とは言えないとしたのみで、労働基準法37条に違反するかどうかについて原審で審理がされていないので、それを判断させるために高裁に差し戻したということです。
つまり、今日の判決はドローということです。


1 この事件の争点

この事件は、歩合給の計算上、残業代相当額を控除する仕組みの違法性が問われた裁判です。

◎ふつうの残業代計算
ふつうの歩合給における残業代計算とは、こんな感じです。
話を分かり易くするために分かり易い数字におきかえますが、たとえば月間68万円を売り上げたとして、歩率50%を歩合給と定めていれば、その月の歩合給は34万円となります。
このとき、もし残業をした場合には、歩合給に対しても割増賃金を支払う必要があります。

歩合給の割増賃金は、
  歩合給÷総労働時間=時間単価
  時間単価×残業時間×25%
で計算します。

たとえば、残業時間が20時間だったとすると、
時間単価は、
  34万円÷(170時間(月の所定時間)+20時間)=1789(円/時) 
割増賃金は、
  1789(円/時)×20時間×25%=8945円
となります。 

◎国際自動車事件の場合
ところが、国際自動車における残業代計算は、
まず、上記の歩率計算をして、68万円×50%=34万円という数字を出すところまでは同じなのですが、34万円(「対象額A」と名付ける)から、割増賃金額をそっくりそのまま控除した金額を歩合給と定めてしまいます。
歩合給=34万円-割増賃金額

◎結局どうなるか?
結局、残業時間が20時間だったときは、
上記の「ふつうの残業代計算」では、歩合給34万円+割増賃金8945円となるのに、
国際自動車の場合は、歩合給33万1055円+割増賃金8945円=34万円となってしまいます。

もし、残業時間が40時間だったときは、
上記の「ふつうの残業代計算」では、歩合給34万円+割増賃金1万6190円となるのに、
国際自動車の場合は、歩合給32万3810円+割増賃金1万6190円=34万円となってしまいます。
※ 34万÷(170時間+40時間)=時間単価1619(円/時)
  1619(円/時)×40時間×25%=1万6190円

もし、残業時間が60時間だったときは、・・・
どこまで残業時間が増えても、国際自動車の場合は、「割増賃金」が増える分、「歩合給」が減ってしまいます。

2 原審東京高裁の判断
原審の東京高裁平成27年7月16日判決は、このような賃金規定は、労働基準法37条の趣旨に照らして公序良俗に違反して無効だと判断しました。

私もこの判断は正しい判断だと思います。
このようなあからさまな労働基準法37条の脱法はないと思うからです。

3 本日の最高裁の判断
さて、本日の最高裁はどのような判断をしたか?
最高裁が弁論を開くというのは、通常は原審の判断を覆すときなので、どのような覆し方をするのかやや不安な気持ちで言い渡しに臨みました。

(1)東京高裁への差し戻し
まず、結論部分は、東京高裁が下した原判決を破棄して、東京高裁に差し戻しを命じました。
東京高裁でもういちど審理をやり直すということで、これは予想の範囲内でした。

(2)37条違反の問題とはなり得る・「当然に」公序良俗に反するとはいえない
つづいて、最高裁は、国際自動車のような賃金の規定の仕方の有効性について、
「労働基準法37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定をしていないことに鑑みると、労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合に、当該定めに基づく割増賃金の支払が同条の定める割増賃金の支払といえるか否かは問題となり得るものの、当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することはできない」
と述べました。

そして、
原審は、本件規定のうち歩合給の計算に当たり対象額Aから割増金に相当する額を控除している部分が労働基準法37条の趣旨に反し、公序良俗に反し無効であると判断するのみで、本件賃金規則における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができるか否か、また、そのような判別をすることができる場合に、本件賃金規則に基づいて割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて審理判断することなく、被上告人らの未払賃金の請求を一部認容すべきとしたものである。そうすると、原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った結果、上記の点について審理を尽くさなかった違法があるといわざるをえない。 
と述べました。

つまり、労働基準法37条に違反しているかどうか、十分に審理判断されていないので、東京高裁に戻すとしたわけです。
通常の賃金と割増賃金とを判別することができるか否か、判別できたとしてもそれが37条により支払うべきとされた金額を下回っていないかどうか、等について原判決がよく調べていないから、結論を出すために差し戻すということです。

主任の指宿昭一弁護士は、最高裁判決を評して
「われわれが勝ったとも、負けたとも言っていない。ドローだ。」
「われわれに対して、宿題を出したとも言える。」
「東京高裁をしっかり準備して、最高裁からの宿題に応えて勝利しよう」
と述べていました。

(3)「なお」法内残業は労働基準法37条違反にならない
最高裁は、「なお」として、いわゆる法内残業に関しては、37条違反にならないとしました。
これはあたりまえの話ですね。


4 明確区分性なし
ということで、舞台は東京高裁に移ります。
争点は明確区分性の有無です。
そして、私は国際自動車の賃金規定は明確区分性は認められないと思います。

◎通常の賃金
最高裁は、本件において通常の賃金と割増賃金とが明確に区別されているといえるかについて、原審では審理判断されていないとしました。

通常の賃金と割増賃金とが明確に区別されているということの意味は、所定の労働時間に対して、一義的に(歩合の場合は一定の計算式で)賃金額が決まるということを含んでいるはずです。

時間外労働をしたか否かで、通常の賃金の額が変動するならば、それは労働基準法37条が想定している「通常の賃金」とはいえない。通常賃金と割増賃金との境界が曖昧になっています。

◎残業すればするほど賃金が下がる
これは、ようするに残業をすればするほど、「通常の賃金」が減ってしまうと言い換えること
ができます。

先の例ですと、
「ふつうの残業代計算」では、歩合給は月間売上が決まると歩合給は一義的に決まります(先の例では売上高68万に対して34万円でフィックス)。     
このとき、歩合給を総労働時間で割った「単位時間当たり歩合給」は、その労働者の時間あたりパフォーマンスといえます。

これに対し、
国際自動車では、通常の賃金が、売上以外の残業時間によって変動してしまいます。
売上高68万に対する歩合給が、
残業時間ゼロ   34万円 
残業時間20時間 33万1055円 
残業時間40時間 32万3810円 
残業時間60時間 ・・・
という具合です。

やはり、
歩合給は、時間外労働時間とは無関係に、売上高に対して一義的に決まっていないと通常の賃金とはいえないと思います。
少なくとも、賃金の計算期間の当初の段階で決まっている必要がある。実際、働いてみて、残業時間がわかってはじめて、通常の賃金の額も確定するというのは、おかしい。
残業時間によって変動するならば、それはもはや「通常賃金」とはいえず、 割増賃金と明確に区分されているとは評価できません。

逆に言えば、割増賃金だけでなく、通常賃金部分も削ってしまっている、従って明確区分性を満たしていないのが、国際自動車の賃金規定です。

よって、本件賃金規定は労働基準法37条に違反している。
私はそのように思います。

弁護士 菅俊治
東京法律事務所
https://www.tokyolaw.gr.jp/lawyer/suga_s.html


(追記)
主任弁護士の指宿昭一弁護士のコメント。
http://www.ak-law.org/news/2077/


(追記2)
「ふつうの残業代計算」のところの計算が間違っていたので、ご指摘を受けて直しました。