1 強行採決をうかがう国会の様子

 連休を経て、共謀罪(政府は『テロ等準備罪』と呼んでいます。)の創設を内容とする組織犯罪対策法改正案の審議が再開されました。
 テロ対策を掲げて提出されたこの法案ですが、277もの類型の対象行為のうち、テロ組織がやりそうなものは一部で、テロとは関係ないものが多く含まれていることが指摘され、国会審議でも言われてきました。

 分が悪いと思ったのか、安倍首相は、マフィアなどの犯罪集団によるマネーロンダリングその他の国境を越えて行われる犯罪行為の取り締まり強化のための国際協力を求めたパレルモ条約を批准するため必要だと言い出しました。

 ですが、テロ対策とマフィアの取り締まりでは随分目的が違ってきます。この時点でもう、テロ等準備罪なるものを設ける必要性を示す立法事実がないことを政府自身が認めたようなものなので、いったん廃案にして出直すのが筋と言えるかと思います。

 それでも、政府は強硬姿勢を続けていて、今月17日にも強行採決をするのでは、と言われています。これに対し、政府答弁がくるくる変わり、また国民の中から出ている懸念が払拭されるような十分な審議がされていないのに採決とは何事か、といろんな団体の要請や集会が目白押しで企画されています。世論調査でも、賛否が割れて、しかも国民の内心の自由や発言の自由に対する大きな制約となるものであるにもかかわらず、まだ3分の1の方が『よくわからない』と答えている状況です。そこで、改めて、法案審議のルールと共謀罪創設法案について考えてみたいと思います。

2 国民の自由を制約する法案の審議のルール

  自民党議員の中には30時間議論したらもう採決してもいいなどと言っている人もいるようです。
  ですが、犯罪行為を新設するということは、その分、適用を受ける国民の自由な活動に対し規制を設けることになります。一般に憲法学の世界では、自由に対する制約は、それがやむを得ない必要に基づく必要最少限度のものでなければならないと理解されていて、私なども司法試験の勉強にあたりそのような教えを受けました。

  ですので、今回の共謀罪の創設法案の審議にあたっては、
①277の新たな規制を設ける必要がどこまであるのか、
②この規制は過度に国民の自由権を侵害することになりはしないか、
といった2つの角度から検討をする必要があります。

 審議時間がどの程度かなどは関係ありません。必要な
議論が尽くされているかどうかが問題です。問題点を理解しないでお経を読むようなマネをしたり、言を左右にしてきちんと疑問に答えないでいるうちは審議が深まったとは到底言えません。それで採決をするようでは数の横暴であって、民主主義を蔑ろにするものです。

3  審議するほど疑念が深まる共謀罪法案

(1)本当に必要があるのか丁寧な検討が必要

  では、共謀罪法案の審議はどうか? ここは私も審議を全部見ているわけではないですし、人によって評価は分かれるかもしれません。ですが、テロ防止のために必要と言っていた、最初の立法目的にかかる事実があるのか果たして審議で明らかにされたでしょうか? 277ある対象行為についての共謀を犯罪行為として新たに取り締まるようにすることがテロ抑止になることが論証されたでしょうか?
  少なくとも私の目にはそうは見えません。法務大臣はもとより首相も、言い方を変えてきているのですから。
  この点は、①テロの防止なり、越境犯罪抑止のために本当に共謀罪という類型を設ける必要があるのか、現行法では対応できないのか、②設けるにしても政府案にある277もの類型を設ける必要まであるのか、現行法では対応できないのか、をしっかり審議する必要があります。

  少し前になりますが、民進党の福山議員の質問に答えて金田法相がテロ対策のために現行法では対応できない例をあげていましたが、その場で福山議員から現行法でも対応できると批判をされて答弁が止まったことがありました。こういう状態では本当に共謀罪を設ける必要があると言えるのか、疑わしいと言わざるを得ません。

(2)共謀罪は過度に国民の自由を制約する

  また、過度に国民の自由を制限することにならないかという点ではどうでしょうか。この点は神奈川新聞や東京新聞の社説が簡潔ですが論じています。

  政府は、一般人は対象とならないと言いますが、今でも沖縄の基地建設反対の住民運動をしている方々を敵視して、リーダーの一人を逮捕勾留してみたり、大分県で普通の住民運動をしている方々を県警が盗撮等の監視をしていたりといったことが報道されています。これが共謀行為も対象にするとなればどうなるか想像してみましょう。
  何か破壊行為があるとかがなくても、警察が破壊行為に及ぶかもしれないと狙いを定めて、その共謀の事実を探知しようとすれば何をするでしょうか。謀議というのは口頭でやりとりするのが通常でしょうから、録音でもしなければ証拠は残りません。すると本人たちが捜査機関に差し出すために会話を録音するはずもないわけですから、捜査機関としては盗聴を考えるでしょう。

  現在でも一部の犯罪行為に関しては令状をとった上での盗聴は許されていますが、これも犯罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合のことです。共謀というのは犯罪行為を遂行する前の段階ですから、この時点で犯罪を犯したことを疑うに足りる理由など内偵を送り込んでない限りは出てこないでしょう。それでも共謀罪の捜査をするんだとなれば、勢い、何もないところに疑いをかけて常時監視のための盗聴や盗撮に及ぶ
ということが想定されます。これは過度に市民生活を侵害することにならないでしょうか。

(3)一般市民は本当に対象にならないのか?

  批判を避けようとして、政府は、組織的犯罪集団による行為が対象であり、一般市民は対象にならないと最初答弁していました。
  しかし、組織的犯罪集団の定義はあいまいで一般市民も対象になるんじゃないかと指摘されてました。それをかわそうと一般市民は対象にならないと言い切ったわけですが、それでは十分取り締まりができないと考えたのか、普通の市民団体でも犯罪集団に一変した場合には対象になると言い方を変えました。なんだ結局、一般市民も対象にするんじゃんとなったわけです。これでは、「一般市民は対象にならない」というのは本当なのか非常に怪しいものとなります。

  これに対し、犯罪集団に変わったのなら一般市民ではなくなってるんだから問題ないという議論もありましたが、問題は誰が何を持って市民集団が組織的犯罪集団に一変したと評価するかです。
  この点については捜査機関が判断する以外にないはずで、それでは捜査機関がこうと決めたらいいということになり抑制が効かないじゃないかという指摘がされていますが、これに対しての的確な答弁はなされているでしょうか。ここはきちんと審議で明らかにされるべきところです。

(4)LINEやメールを監視するのでは?  

  また、LINEやメールを監視するんじゃないかとの指摘もされており、これに対しては、蓮舫民進党代表の質問に対して金田法相がLINEやメールも対象にすると言ったかと思えば、具体的な犯罪の疑いがない段階で一般人が対象になることはなくリアルタイムで監視をするものではないと答弁を変遷させました。

  ですが、メールやLINE以外の証拠で具体的な犯罪の疑いが確認できるなら、共謀罪ではなく、共謀の対象となった犯罪の予備罪で処罰することにし、その罪を犯した証拠として令状を取った上でサーバーに残っているデータを差し押さえればいいのであり、新たに共謀罪を設ける必要はないでしょう。

  他方、それでは共謀段階で犯罪を抑止できないと言えば、やはり犯行に至る前の共謀行為そのものを監視しないとおよそ犯罪実行前の摘発はできませんから、結局、狙いを定めて対象となる人およびグループの日常の会話やメールを探知しようとすることになります。そうなれば、メールやLINEを覗き見ることはやることになるでしょう。それを絶対にやらないという答弁は私は確認できていません。

  ですので、LINEやメールを監視しないのかどうか、覗き見る場合があるとすればどういう場合なのか、どういう手続でどの範囲でおこなうのか、についてきちんと審議で明らかにし、その是非を検討すべきです。この点でも、国会審議はまったく不十分と言ってよいでしょう。

(5)予備行為よりも話し合うだけのほうが刑が重い!?

  さらに、民進党の枝野議員が質問していましたが、たとえば強盗罪には予備罪があります。この強盗予備罪は法定刑は懲役2年以下です。ですが、共謀罪が成立すると、強盗の共謀行為は懲役5年となります。予備行為に至る前の話し合いの段階のほうが法定刑が重くなってしまいます。これは罪と刑のバランスを欠くことになります。この点、政府は、組織的犯罪集団による共謀はより単独犯の強盗の予備よりも危険性が高いと弁明したようですが、現在でも複数名で強盗を計画し、実行することはおこなわれています。すると、「組織的犯罪集団」による強盗の共謀と、強盗を計画する集団による強盗の共謀とでどう違うのか。この点の説明はありません。ある場面では単純な強盗の共謀として予備罪にも問われず、また別の場面では組織的な強盗の共謀として逮捕・処罰されることになりうるというのは甚だ不自然です。
  日本国憲法は第31条で罪刑法定主義の原則をとるとされています。罪と刑のバランスをとる必要があるのであり、この点をきちんと審議で詰めないまま強行採決をすれば、安倍政権は刑事法の分野でも憲法をふみにじるのかと非難されることになるだろうと思います。

弁護士 平井哲史