弁護士の金井克仁です。

 最新の労働経済判例速報(70巻29号通算2391号:2019年10月30日)に「主要事業廃止に伴う整理解雇を有効とした一審判決が維持された例」として、新井鉄工所事件東京高裁判決(平成30年10月10日)が掲載されました。この新井鉄工所事件については、本年5月13日、東京都労働委員会において、申立人JMITU、同JMITU東京地方本部及び同JMITU東京地方本部新井鉄工所支部と被申立人新井鉄工所が和解協定書を締結し、解決しました。この場で多大なご支援、ご協力をいただいた皆様に感謝とお礼を申し上げるとともに、事件について簡単に紹介します(代理人は坂本雅弥弁護士、岸朋弘弁護士と私)。

【事件・裁判の概要】
(1)2015年12月8日、会社は組合に対し、2016年3月末で製造事業から撤退すること、従業員に対し希望退職を募ること、希望退職者には割増退職金を支払うことを表明しました。同月11日以降、団体交渉が繰り返されましたが、その中で会社に不誠実な対応や会社による支配介入があったとして、組合は2016年に東京都労働委員会に対し不当労働行為救済申立を行いました。
(2)会社は結局事業閉鎖を強行し、組合員ではない従業員は退職し、組合員らは2016年9月30日付けで解雇されました。
(3)この事件はいわゆる整理解雇(一般的に会社赤字等を理由にした従業員の解雇)でした。しかし会社は浦安工場・江戸川工場・本社建物及びその敷地など全部で66億円余りの不動産を有しており、余剰資産は118億円もありました。また会社は年間1億5000万円の賃料収入がありました。対して申立人ら7名の給与は年額約2500万円でした。そもそも会社は製造事業を閉鎖しただけで、倒産はもちろん清算等もしていません。 
(4)そこで組合員は解雇無効等の裁判を提起しました。しかし残念ながら、以下のように、いずれの判決でも解雇は有効と判断されました。整理解雇の4要件等を形式的に当てはめ、本件事件の特殊性(会社には赤字がないこと)は全く考慮されませんでした
東京地裁判決:平成30年 3月29日 請求棄却(労経速2357号)
東京高裁判決:平成30年10月10日 控訴棄却(労経速2391号)
最高裁二小決:平成31年 4月12日 上告棄却等(同上)
【都労委命令の概要】
 これに対して、都労委命令(平成30年12月4日《労働判例2019年10月1日号》)においては、会社が組合員に対して、個別面談を行い、退職勧奨したことについて、次のように判断し、会社に対し、文書交付を命じました(一部救済)。
 個別面談は、組合が、団体交渉の席で、組合員は希望退職には応じない旨を繰り返し明らかにし、会社に対する書面でも、組合員への個別面談を行わないことを強く要求していた中で行われた。また、支部の執行委員長も個別面談において、団体交渉で話をするよう抗議している。会社は、組合員に個別面談を行った理由として、希望退職者に対する優遇措置について、団体交渉で説明しようとしても、組合がこれに応じなかったので、希望退職の条件も含め、組合員と非組合員の別なく説明及び情報提供を行うべきと考えたと主張する。しかし、説明や情報提供が目的であれば、説明会の開催に加え、組合や組合員の反対を押し切ってまで個別面談を4回も実施する必要はない。
 そうすると、会社が希望退職に応じなかった組合員に対して、4回にわたり個別面談を実施したことは、組合の頭越しに個々の組合員に対して希望退職に応ずるよう直接働き掛けるものであったといわざるを得ず、支配介入に当たる。以上