はじめに

 弁護士の平井康太です。

 

 2021年4月1日からは中小企業においても均等均衡待遇に関する改正法(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律。以下「パートタイム有期雇用労働法」といいます。)が施行されます。

 

 改正法の施行に先立ち、当事務所でも2021年2月6日に「労働組合向け公開zoom相談会~均等・均衡待遇の実現に向けて取り組む労働組合を応援します~」を開催しました。

 

 公開相談会の中で、労働組合が積極的に格差是正を求めている事例をいくつも寄せていただきましたが、改正法の内容など重要な点が十分には広まっていないように感じています。

 そこで、労働組合が格差是正を求めていくにあたって是非知っていただきたいポイントを3つをご紹介します。

 

【ポイント1】 一つ一つの待遇に分けて改善を求めよう

 まずは、中小企業でも2021年4月1日から施行されるパートタイム有期雇用労働法8条の条文を見てみましょう。

 

パートタイム有期雇用労働8条

「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」

 

 この条文に「待遇のそれぞれについて」とありますが、これは一つ一つの待遇の格差について不合理かどうかを問題にするという意味です。

 そのため、団体交渉の場において、「基本給、賞与、退職金、諸手当の待遇格差を改善せよ」と複数の待遇をまとめて議論するのではなく、「まず、扶養手当について」「次に、住宅手当について」と一つ一つの待遇に分けて改善を求めていきましょう。

 一つ一つの待遇に分けて改善を求める実益は次のポイント2を見てください。

 

【ポイント2】 待遇の性質・目的を明らかにさせていこう(職務内容に関係なく格差是正を求めることができる待遇もある)

 パートタイム有期雇用労働法8条では、「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」と明記しており、格差が不合理かどうかを判断するにあたって、考慮すべき事情を限定しています。

 

 ここがとても分かりづらいところですが、非常に重要な点ですので、具体例を挙げて説明したいと思います。

 

 例えば、通勤手当についていうと、通勤手当は、通勤に必要な交通費の補助のために支給するものですから、通勤手当の格差が不合理かどうかを判断するにあたっては、労働者が通勤に必要な交通費の負担をしているか否かが重要です。逆にいうと、業務内容の違いなどは、通勤手当の格差を問題するときには考慮すべき事情にはなりません。

 そのため、いくら使用者が「業務内容が違うからパートに通勤手当は支給しない」と言ったとしても、通勤に必要な交通費を負担している短時間労働者や有期雇用労働者に通勤手当を支給しないことは不合理であり、パートタイム有期雇用労働法8条に反することになります。

 

 他方で、一定の業務内容に関して支給する特殊作業手当は、当該業務内容に対する対価として支給するものですので、特殊作業手当の格差が不合理かを判断するにあたっては、当該業務を行っているかどうかが重要になります。そのため、当該業務を行っている短時間労働者や有期雇用労働者に特殊作業手当を支給しないことは不合理であり、パートタイム有期雇用労働法8条に反することになります。

 

 このように、問題とする待遇によって、職務内容を考慮すべき場合や、職務内容を考慮すべきではない場合があり、何を考慮する必要があるかは待遇によって異なります。そのため、ポイント1でも説明しましたが、一つ一つの待遇に分けて格差の是正を求めていくことが大切になります。

 

【ポイント3】 職務内容が異なってもバランスのとれた待遇を求めよう

 ポイント3を説明するにあたって、基本給を例にしたいと思います。まずは、ポイント1とポイント2にあるように、一つ一つの待遇について性質・目的を明らかにさせていくことが重要です。

 

 そのため、基本給という一つの待遇について、労働組合で賃金規程の分析や団体交渉で使用者に説明させるなどして、基本給の性質・目的を明らかにしていきましょう。

 基本給といってもその内容は様々で、勤続年数で決める場合のように職務内容と直接関係しないものもあります。職務内容が関係しない基本給の場合、使用者が基本給の格差の理由として職務内容の違いを持ち出すことができないのはポイント2で述べたとおりです。

 

 今回は、基本給の性質・目的を検討した結果、基本給額の決定にあたって職務内容が重要であるということになったとします。

 しかし、正規と非正規との間で職務内容が異なっていれば、それだけでいくらでも格差を設けることができるということではありません。

 

 パートタイム有期雇用労働法8条は、正規と非正規との間で職務内容が異なっている場合でも、均衡待遇(違いに見合ったバランスの取れた待遇)にすることを求めています。

 そのため、正規と非正規とで職務内容に違いがあったとしても、その違いに応じたバランスのとれた基本給額にしなければ、パートタイム有期雇用労働法8条に違反するということがあり得ます。

 

 そこで、労働組合は、使用者に対して、団体交渉において、基本給額の決定にあたって、職務内容のどのような点をどのように(どれくらい)考慮しているのか、その具体的な根拠は何かを説明させることが重要です。

 そして、正規と非正規の実際の職務内容を比較してみて、使用者の説明では基本給について合理的な説明ができない格差が存在すれば、たとえ職務内容に違いがあったとしても均衡が取れているとは言い難いため、当該格差の是正を求めていきましょう。

 

 このように、改正法では同一の労働でなくとも格差是正が必要な場合があります。「同一労働同一賃金」というのはあくまで政府のスローガンにすぎず、パートタイム有期雇用労働8条は同一労働でなくとも不合理な格差の是正を求めていることに注意が必要です。

 

おわりに

 正規と非正規の格差是正は、裁判に限らず、裁判外での労働組合の取り組みが極めて重要です。公開相談会でも労働組合が格差是正に取り組んでいる事例が寄せられ、心強く思います。

 今回ご紹介したポイント3つは、格差是正の要求の仕方や考え方についての大枠に関するものですので、さらに具体的に検討をしたいという場合には、労働契約法旧20条のこれまでの最高裁判決や、パートタイム有期雇用労働法8条のガイドラインを参照することが重要です。以下に関連のリンクや参考書籍も挙げておきますので是非ご参照ください。

 

〇労働契約法旧20条に関する最高裁判決

 最高裁判決で違法と認められた待遇格差について是正を求めていきましょう。

 

・当事務所の平井哲史弁護士のブログ記事(昨年の最高裁判決の解説あり)

 「時代の扉」を動かす!~最高裁で3つの完全勝訴判決~ : 東京法律事務所blog (livedoor.jp)

・ハマキョウレックス事件

 087784_hanrei.pdf (courts.go.jp)

・長澤運輸事件

 087785_hanrei.pdf (courts.go.jp) 

・日本郵便事件(東日本)

 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/772/089772_hanrei.pdf 

・日本郵便事件(西日本)

 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/773/089773_hanrei.pdf 

・日本郵便事件(九州)

 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/771/089771_hanrei.pdf 

・メトロコマース事件

 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/768/089768_hanrei.pdf 

・大阪医科大学事件

 https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/767/089767_hanrei.pdf 

 

〇パートタイム有期雇用労働8条のガイドライン(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)

 どのような格差が問題となるのかについて、具体的な待遇ごとに記載があります。団体交渉で役立つ内容も多いですので、要求をまとめる際に確認をしておきましょう。

 全文ガイドライン (mhlw.go.jp)

 

〇参考書籍

 昨年の最高裁判決が出る以前に出版されたものですが、改正法の内容や格差是正の取り組みの仕方を理解するうえで、現在も有益な内容です。

・日本労働弁護団『働く人のための「働き方改革法」均等均衡待遇』(本編・資料編)(2020年)

・水町勇一郎『「同一労働同一賃金」のすべて』(有斐閣・新版・2019年)

 

〇パートタイム有期雇用労働8条以外の概略

 今回はパートタイム有期雇用労働8条について紹介しましたが、それ以外の重要な改正についての概略は以下の記事をご覧ください。

 本当の「働き方改革」を私たちの手で実現しましょう│東京法律事務所 (tokyolaw.gr.jp)