東京法律事務所blog

2018年11月

 

 弁護士の中川勝之です。

 

「晴海選手村土地投げ売りを正す会」の住民訴訟で、本年10月26日の期日において、原告らは不動産鑑定評価基準に基づく「不動産鑑定評価書」を書証(甲第68号証)として提出しました。

 

 期日に先立つ本年10月2日、都庁において記者会見も行いました。

 動画http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2312もご覧下さい。

 

 晴海選手村土地は、129億6000万円(1㎡当たり9万6800円)で東京都から特定建築者11社(三井不動産レジデンシャル、エヌ・ティ・ティ都市開発、新日鉄興和不動産、住友商事、住友不動産、大和ハウス工業、東急不動産、東京建物、野村不動産、三井不動産、三菱地所レジデンス)に譲渡されたところ、不動産鑑定評価基準に基づけば、その評価額は1611億1800万円(1㎡当たり120万3200円)とするものです。

その差額、実に1481億5800万円!

 

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 書証として提出した「不動産鑑定評価書」の評価額と実際の譲渡額の差額をまとめると次のとおりです(「単価(円/㎡)」欄及び「総額(円)」欄に上から順に、評価額、譲渡額、差額を記載、なお、「不動産鑑定評価書」には合計の「単価(円/㎡)」欄に評価額の記載はなく、私が総額と面積から計算したものです、差額も同じ)。

 

 

対象不動産

評価額

譲渡額

差 額

符合

所在・地番等

種別

面積

(㎡)

単価

(円/㎡)

総額

(円)

5-3 街区

東京都中央区晴海5丁目501 番

宅地

26,300.14

117万

307億7100万

5万6200

14億7900万

111万3800

 292億9200万

5-4 街区

東京都中央区晴海5丁目502 番

宅地

23,633.20

100万

236億3300万

7万9500

18億7900万

 92万0500

 217億5400万

5-5 街区

東京都中央区晴海5丁目503 番

宅地

37,441.27

126万

471億7600万

13万3000

  49億9400万

112万7000

 421億8200万

5-6 街区

東京都中央区晴海5丁目504 番

宅地

35,175.79

126万

443億2100万

 10万1000

  35億4300万

115万9000

 407億7800万

5-7 街区

東京都中央区晴海5丁目505 番

宅地

11,355.86 

134万

152億1700万

  9万3800

  10億6500万

124万6200

 141億5200万

 

合 計

 

133,906.26

120万3200

1611億1800万

  9万6800

 129億6000万

110万6400

1481億5800万

 

 ところで、本年10月31日、晴海選手村土地(跡地)のタウンネームが

「HARUMI FLAG」https://www.31sumai.com/mfr/X1604/

に決定された等と報じられ、分譲住宅(マンション)が買いなのか等の議論もされているようです。特定建築者11社は相当の収益を挙げるのではないでしょうか。

 

 他方で、東京オリンピック・パラリンピックの予算は当初の金額から何倍にもふくれあがって3兆円規模等と報じられており、東京都の負担も増大しています。

 

 東京都と特定建築者11社との間の敷地譲渡契約書の第2条第3項は、「第1項の規定(注:譲渡金額)にかかわらず、乙(注:特定建築者11社)が特定建築者応募時に提出した資金計画書に記載の無い新たな収入が生じる場合には、これに伴う事業内容の変更を踏まえて資金計画の修正を行い、敷地譲渡金額を変更するものとする。」と定めています。

 

 以上からすると、晴海選手村土地について、東京都が特定建築者11社に対してさらなる負担を求める、あるいは、特定建築者11社が東京都に対してさらなる負担を申し出る、ことが必要と考えます。

 

晴海選手村土地投げ売りを正す会」住民訴訟の次回期日は、2019年2月19日(火)午後3時から、419号法廷で行われます。傍聴等のご支援、ご協力、宜しくお願い申し上げます。

弁護士の今泉義竜です。

私が共同代表をつとめる東京法律事務所9条の会で特別企画を開催します。
20181201企画

「憲法改正の国民投票!? 護憲派に必要な10のこと」

12月1日(土)13:30~15:30(13:10受付開始)@主婦会館プラザエフ9階「すずらん」

参加費無料です。お申込みはウェブサイトから↓

https://www.tokyolaw.gr.jp/planning/9jyou-201812/

安倍首相は、来年参議院選挙の前に通常国会にて憲法改正の発議をすることを狙っており、
参議院選挙と同時または直後の国民投票の可能性は極めて高いと予想されています。
護憲派は、国民投票が行われた場合にどのようなものになるのか、具体的にイメージした上で戦略を立てる必要があります。
国民投票において大量広告の果たす負の影響について、元博報堂の広告マンであった本間龍さんは警鐘を鳴らしています。
一方、国民投票を考える上で参考になるのが、橋下市長による大量広告宣伝の下で行われた大阪都構想の住民投票です。
結果は否決派が僅差で勝利しましたが、権力者が主導して広告代理店も加わって投票を誘導する大量宣伝のもとで、どのように市民が対抗して勝利したのか、その経験から学ぶことは多いのではないでしょうか。今回お呼びするfusaeさんは、橋下市長側からの大量宣伝とたたかった大阪市民の一人です。

お二人には、それぞれの立場から、今護憲派がすべきことを提起していただきます。
改憲を止めるために必要なことを、みなさんとともに考える企画としたいと思います。

スペシャルゲストに〇〇谷姉妹も登場との情報も!?
 
ぜひご参加ください!
 https://www.tokyolaw.gr.jp/planning/9jyou-201812/

弁護士の今泉義竜です。


ドキュメンタリ―ディレクターの田容承(ジョン・ヨンスン)さんを招いて開催した11月5日のトークライブ「アナザーストーリーズ~光州事件から学ぶ私たちの民主主義の行方~」の報告です。


 私は、「弁護人」「タクシー運転手」「1987」を観て、韓国の市民が軍事政権とたたかって民主化を勝ち取ったというストーリーに感銘を受けていたのですが、事実はもっと複雑で、そんな単純なものではないということを、NHK「アナザーストーリーズ その時、市民は軍と闘った~韓国の夜明け光州事件~」の番組と今回のジョンさんの話を聞いて感じました。


 まず、弾圧の側の前面に立っていた若者は、徴兵された若者たちで、その中には直前まで民主化運動に参加していた方もいたということです。そして、徴兵が終わってから民主化運動に再び参加したという方もいるのです。民主化運動に参加していた若者も、徴兵されれば、軍の命令で市民と対峙し、場合によっては発砲し市民を殺傷することになります。弾圧の側に関わった人も、被害を受けた人も、現在も心にトラウマやPTSDを抱えており、38年前の出来事はいまだ「過去の事実」ではありません。


そして、この「立場の相対性」ということが、韓国の人たちの思いを理解する上で重要だと感じました。今は民主政権になりましたが、いつまた変わるかわからない、という危機感が共通認識として韓国の人々の中に強くあるようです。そのことが、民主主義は発展途上であり、民主主義のために行動し続けなければならないという思いにつながり、市民運動の原動力になっているのです。


日本は南北が分断された朝鮮半島の状況に大きな歴史的責任を負っているにもかかわらず、「朝鮮半島問題」という形で他人事のように語られがちです。ジョンさんはそのことが悲しいとおっしゃっていました。私自身、もっと自分事として隣国の歴史を学ぶ必要を感じました。そして、民主主義をもとめ不断に努力する韓国市民の今の姿からも、もっと学んでいきたいと思います。


 


以下、トークライブの概要を紹介します。


 


◇導入◇


まず、ジョンさんからNHKドキュメンタリー「アナザーストーリーズ」を作るに至った経緯が紹介されました。
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きっかけは映画「タクシー運転手」であったとのこと。記者やカメラマンなど関係者に会って話を聞き調査をしたそうです。光州事件の映像は、ほとんど破棄されてしまっていますが、ARDドイツテレビの日本支局に、「タクシー運転手」でも出てきたピーター・ヒンツペ―ターの撮影した映像のうち20分の動画が残っていました。今回特別に無償での上映を許可してくれました。


 


◇当時の映像の上映◇


会場では、ジョンさんの解説を聞きながら、その20分の動画を上映しました。


映像ではまず光州の全景から始まり、次にトラック荷台に光州の若者がたくさん乗って疾走している場面になります。

 若者たちは韓国の国歌である「愛国歌」などを歌っています。光州の人たちは、情報を発信してほしかったので、メディアの登場を歓迎したそうです。当時、金南大学校の学生で、現在は5.18記念館の室長をしている人も写っています。市民がよく国歌を歌い、国旗をかかげていることが分かります。光州の人たちは、軍事政権に対峙する私たちこそが愛国者であるという思いで結束していたのです。


武器による対峙だけでなく、有識者らによる政府との交渉も行われていました。軍の要求は、市民から武器を回収し、市民が元の場所に帰ることでした。市民の中には、交渉ではなく、最後まで戦うという者がいたため、交渉は決裂しました。


遺体を探すのは大変で、未だに遺体が見つかっていない人もいます。棺桶は国旗で包まれています。亡くなった若者の父親は、祈るように「偉大な死であってほしい」とつぶやいています。


市民は、自分たちのことを暴徒とか不穏分子と言われることに怒っていました。事件の最初の頃は混乱していた時期もありましたが、その後は、市民が自ら武器を回収したり、バリケードを外したりと、非暴力的な方向に落ち着いていました。


迷彩服を着て帽子に白いものをつけている人たちは、当時アジア最強といわれた空挺部隊です。空挺部隊は北朝鮮と戦うことを目的としている部隊です。遺体を引きずって運ぶなど、ひどい扱いをしています。


 


◇Q&A◇


 映像を見た後は、青龍弁護士の質問にジョンさんが答える形でのトークライブ。Q&Aの一部を紹介します。


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Q1 光州事件の様子を当時の韓国の人は映像で見ていたのですか


A 事件の当時は、軍が発砲している様子は放送されませんでした。1980年5月21日以降、市民が反撃のために武器を持って車に乗っているところが放送され、北朝鮮から来たゲリラなどと言われていました。


 


Q2 「アナザー・ストーリーズ」で軍の側の人を登場させたのはなぜですか


 A 事件には被害者がいれば加害者もいます。加害者側の意見を聞くのは、事実を明らかにする以上当たり前のことです。軍は必ずしも加害者ではありません。韓国の民主主義を語るときに、南北の分断を無視することはできません。韓国の民主主義は、アメリカの自由民主主義であり、同時に反共主義でもありました。


番組に出てくる、光州事件に軍の側で参加した人物は、なぜ現場に行くことになったかといえば、学校での軍事訓練を拒否したからです。韓国には強制徴兵という制度があり、無理矢理現場に送られることがあったのです。ちなみに、文在寅大統領は、光州事件以前のことですが、強制徴兵で空挺部隊に配属され、エリート隊員になった過去がありました。


光州事件に関わった軍の人には、心に葛藤を持ったまま現場に行った人がたくさんいたのです。彼らは、なるべく市民にダメージを与えないよう軍で働いたといいます。他方で、軍にはベトナム戦争から帰還した兵士もおり、彼らは残酷な経験を生き抜いてきた人でした。そのような兵士が投入されたということは、光州事件でも残忍なことが行われたことを意味します。


 


Q3 取材相手の反応はどうでしたか。


 A 光州事件を軍の側で関わった人はたくさんいます。しかし、皆、たとえ放送しないとしても当時のことは話したくない、関わったことを思い出したくないといいます。また、政権がいつかわるかわかりませんので、証言をしたことが原因で、今後自分の身に何が起こるかわかりません。光州事件はまだ終わっていません。トラウマ、自殺、就職差別、家族に対する差別、思想差別などがあります。市民の中には、あのとき死ねばよかったと考えている人もいます。そのため光州には韓国で唯一のトラウマセンターがあります。


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Q4 民主化闘争で命を落とした李韓烈(イ・ハニョル)について


 A まず、私がアナザーストーリーズを作ろうと考えたのは、私が当時、イ・ハニョルさんと同じ大学2年生であったことがあります。私は、彼がなぜ殺されたのかを明らかにしたいと思いました。番組を制作するときは、日本の視聴者は、「韓国の民主化?だからなに?」という感想を持つと思いましたので、構成に悩みました。日本には自ら民主化を実現した経験がないからです。結局、イ・ハニョルさんのお母さんの視点を最後に持ってくることにしました。ろうそく革命で政権がかわっても、一人一人の心は癒やされていません。今の韓国のTVや映画界は、世界に評価されるようになっていますが、民主化運動に参加していた人たちがかつて抑圧されていた思いをぶつけ、作っているからです。


 


Q5 番組「アナザーストーリーズ」の韓国と日本での反響について


 


A 韓国では不思議がられました。なぜ、今放映されるのか、なぜ、韓国よりも進んでいる日本で、と。日本では、軍側のインタビューを聞いて驚いたという感想がありました。


 


Q6 日本でタクシー運転手、1987が人気ですが、なぜ関心が高まっていると思いますか


A 日本の政治の停滞感の中で、韓国の市民運動のダイナミズム、国際連帯を感じている人が多いからではないでしょうか。


 


◇会場発言◇


 


(1)民放労連岩崎さん


韓国では、放送局をクビになったディレクターやプロデューサーがインターネットで発信するということをしています。そこに1980年代の経験があると感じました。市民の民主主義があってジャーナリズムを支えていると思います。


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(2)白石孝さん


ソウルの市民民主主義の内容を広めています(著書「ソウルの市民民主主義~日本の政治を変えるために~」)。1980年代の経験が2000年代の反共主義、財閥に対する戦い、最近の100万人規模のキャンドル革命に続いていると思います。朴元淳ソウル市長は、世界で最も革新的な市政を行っていますがほとんど知られていません。


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(3)発言を受けてジョンさんのコメント


まず韓国の言論の事情について知りたい方は、「共犯者たち」というドキュメンタリー映画を見てください。市民たちがマスコミに対しても非常に厳しい目でその活動を見守っていることがよく分かります。


それから「反共」が第一という韓国民主主義の性格を規定してきた南北分断の問題。ではなぜ朝鮮半島が南北に分断されたか。答えはひとつではないと思いますが、日本の植民地支配が深く影響していると考えています。つまり朝鮮半島の民主化と平和の実現は日本とも深く関わっている課題であることを改めて認識する必要があるのです。

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韓国の民主化宣言から30年が経ちましたが、私は「わずか30年」であると思います。


 ろうそく革命で市民が掲げた韓国の憲法1条には、「大韓民国は、民主共和国である。大韓民国の主権は、国民に存し、すべての権力は、国民から由来する。」とあります。この主権者意識が運動の原動力です。アメリカのマイケル・ムーア監督は分かりやすくこう言っています。「国民が政府を支配しなければ、政府が国民を支配する。」
ーーーーー
もっといろいろなお話がありましたが、報告は以上です。
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終了後、残ってくれた参加者の皆さんと記念写真。
寄せていただいた感想文70通は、後日ジョンさんにお渡ししましたよ。

12月はジョンさんから紹介のあった映画「共犯者たち」を観に行きたいと思います。
ポレポレ東中野にて12月1日~公開です。



弁護士の今泉です。

東京都が、築地市場で営業を続けている業者と、市場内に組合事務所を構えている東京中央市場労働組合に対し明渡を求める仮処分を10月18日付で申し立てていました。
都、築地に残る業者に仮処分申請

東京都が保全の必要性として挙げたのは、このままではオリンピックに間に合わない、ということだけでした。


私と平井康太弁護士が10月29日に労働組合の中澤委員長の相談を受けて受任し、
10月30日に第一回審尋期日が開かれました。
期日では、こちらから次回反論をする旨述べ、本日11月12日に第二回審尋期日が予定されていました。
しかし、11月8日に当方から答弁書を提出したところ、東京都は9日付で申立を取り下げるに至りました。
一方的に申し立てておきながら、第2回期日前に取り下げるというのは迷惑千万なことです。
短期間の準備で作成したもので荒いものではありますが、
東京都のやっていることのひどさを広く知ってもらうべく、当職らが提出した答弁書を以下に貼り付けます。

平成30年(ヨ)第3180号 

債権者 東京都

債務者 全労連全国一般東京中央市場労働組合

 

答弁書

2018118

東京地方裁判所民事第9部 御中

 

債務者代理人弁護士  今  泉  義  竜

同          平  井  康  太

 

第1 申立の理由に対する認否

1 被保全権利について

 第212及び3⑴は認め、その余は否認ないし争う。

2 保全の必要性について

 否認し争う。

 

第2 債務者の反論

1 被保全権利について

⑴ 債権者の主張

 債権者は、本年910日に東京都中央卸売市場の業務規程の変更等について農林水産大臣が認可し、豊洲市場を新設する旨の市場条例が平成301011日に施行されたことをもって築地市場が廃止され、それに伴い本件建物の使用許可は失効した旨主張する。

⑵ 農水大臣の認可は不適法である

ア 認可基準

卸売市場法は、「認可の基準」として以下を挙げる(卸売市場法10条、113項)。

① 当該申請に係る中央卸売市場の開設が中央卸売市場整備計画に適合するものであること。

② 当該申請に係る中央卸売市場がその開設区域における生鮮食料品等の卸売の中核的拠点として適切な場所に開設され、かつ、相当の規模の施設を有するものであること。

③ 業務規程の内容が法令に違反せず、かつ、業務規程に規定する前条第二項第三号から第八号までに掲げる事項が中央卸売市場における業務の適正かつ健全な運営を確保する見地からみて適切に定められていること。

イ 豊洲市場の欠陥

しかし、豊洲市場は、その立地が極めて不適切で交通アクセスが悪いだけでなく日本でも最大規模の土壌汚染区域であり、駐車場が足りないなど必要な規模も有していない。以下のとおり様々な問題が存在していることが明らかであるにも関わらず、必要な対策が取られていない。

(ア)土壌汚染対策の約束が反故にされた

当初、東京都は市場関係者及び都民との間で、①東京ガス操業由来の汚染物質は全て除去する②地下水位をAP1.8mで管理する③2m+2.5mの盛り土をするとの三つの条件をクリアすることを約束していた。

都議会では「無害化された安全な状態での開場を可能とすること」(20103月中央卸売市場予算案付帯決議)と決議され、平成20年「豊洲新市場予定地における土壌汚染対策等に関する専門家会議報告書のあらまし」には「ガス工場操業時の地面の下2mを掘り、綺麗な土壌と入れ替えます。その上に2.5mのきれいな土壌を盛ります」と記され、「無害化」については「技術会議により有効性が確認された土壌汚染対策を確実に行うことで、操業に由来いたします汚染物質が全て除去、浄化され、土壌はもちろん、地下水中の汚染も環境基準以下になること」(2011223日都議会予算特別委員会・岡田市場長答弁)としていた。しかしながら、約束は全て反故となった。

すなわち、①「東京ガス操業由来の汚染物質は全て除去する」は、汚染物質が除去されたことを確認する地下水モニタリングで現在も基準の170倍を超える数値が計測されており、対策の失敗が確認され、都知事も謝罪している。

また、②の「地下水位をAP1.8mで管理する」については東京都のホームページで地下水位が公表されているが、ほとんどの地点でAP1.8mを超えている。

さらには、③「盛り土」もされなかった。

 中でもとりわけ深刻なのは、「東京ガス操業由来の汚染物質は全て除去する」ということに失敗したことにより、土壌汚染対策法の「形質変更時用届出区域」を外せなくなり、今後、人への暴露経路が遮断できないような場合「要措置区域」の指定を受け「立ち入り禁止」などの措置が必要になる可能性を否定できない状況となっている。

(イ)豊洲市場用地の土壌汚染調査は土壌汚染対策法に違反している

そもそも、豊洲市場用地の土壌汚染調査からして脱法的なものである。これは債権者も認めているところであるが、豊洲市場用地は土壌汚染対策法で定められている「帯水層底面調査」を約300箇所も怠っており、明確に土壌汚染対策法違反である。当然、汚染の見落としが大量にあると考えられ、安全の上で明らかに問題がある。

(ウ)地下水管理システムの破綻は液状化対策の破綻でもあり、安全性の上で

問題がある

債権者が設置した「市場問題プロジェクトチーム」の時松孝次委員は、同PT

に「豊洲市場の液状化対策と築地市場における地盤工学的課題」という意見書を提出している。この中で時松委員は豊洲市場用地の液状化判定について「市場施設完成後に、地下水位をA.P.+1.8mに維持することで、液状化しない層を4.7m確保することにより担保されている。またA.P.+6.5mよりA.P.+2.5mまでの埋め戻し土の締まり具合によっては、地震時の地盤沈下、地下水上昇時の液状化などが問題となる可能性がある。したがって、地下水位をA.P.+1.8m以深に維持することが必要と考えられる」としている。現在の地下水位は、安全の上で明らかに問題がある。

(エ)約束の変更の手続きがされていない

「盛り土」がされていない事については2017617日、小池都知事が築地市場に直接訪れ「謝罪」をした。この「盛り土」がされていない事に代わる対策として専門家会議が提言したのが「地下ピットへのコンクリート敷設」「換気」「地下水管理システムの増強」である。

確かに、約束した条件を変更するということも予測不能な事情変更がある場合などにはやむを得ないが、それでも条件を変更するには約束をした市場関係者・都民の合意が必要不可欠である。豊洲市場の土壌汚染対策の約束ではこれがされておらず、約束を反故にした債権者が約束の変更を一方的に通告しただけである。これでは約束の変更とは認められない。債権者による「無害化」の三つの約束は現在でも残っている。

ウ 手続きにも瑕疵がある

また、築地市場の移転について国は、「食品流通の重要な基盤である卸売市場の問題であることから、農林水産省より、築地市場の移転を計画している東京都に対し、食の安全性や信頼が確保されるよう科学的見地に基づき万全の対策を講じるとともに、消費者等に対して対策の内容等について十分な説明を行い、その理解を得るよう求めている」としている(2007年政府答弁)。この答弁書の立場は2016103日衆議院予算委員会でも安倍総理大臣が認めている。小池都知事もまた、当初「地下ピットへのコンクリート敷設」「換気」「地下水管理システムの増強」という追加対策工事の終了後には専門家会議に諮る旨の発言をしていた。

しかし、専門家会議は公開で開かれることなく、本年730日に平田座長による「記者レク」が行われたに過ぎない。専門家会議の設置要綱では「会議は公開で行う」とあるが、いまだに議事録などの公開もされていない。

これは「対策の内容等について十分な説明を行い、その理解を得る」という政府答弁に反するものである。

エ 小括

以上のとおり、豊洲市場は無害化の三つの約束が全く反故にされ安全性に極めて問題のある土地上に設置されており、生鮮食料品等の卸売の中核的拠点として適切な場所であるとは到底言えず、認可の基準に適合しないものであるとともに、その手続きにおいても瑕疵があるものであるから、農水大臣の認可は不適法である。

 債権者は改正条例の施行により築地市場が「廃止」されたことをもって、債務者の使用許可における「築地市場が閉場となった場合」に該当し使用許可が失効した旨主張しているが、上記のとおり農水省の認可に不備がある以上、築地市場が「廃止」となったという債権者の法的主張には根拠がない。

 また、現在も築地市場において営業権を主張し営業を続ける仲卸業者が存在する以上、築地市場には市場としての機能が維持されているというべきであって、実態としても築地市場が「廃止」されたとは評価できない。

⑶ 債権者による明渡請求権の主張は権利の濫用である

 仮に形式的に債権者に明渡し請求権が認められるものとしても、多くの仲卸業者、関連事業者、地元住民の反対を押し切り、市場関係者と都民に対する公的な約束を一つも守らず反故にし、安全性の確保できない豊洲市場への移転を強行した上に、国策としてのオリンピックのために明け渡せなどという一連の債権者の対応は、地方自治の本旨に反するものであって、その権限を濫用するものに他ならない。

2 保全の必要性について

⑴ 債権者の主張は失当である

ア 本件では高度の保全の必要性が要求される

 債権者が求めている仮処分命令は、建物の明け渡し断行の仮処分である。そのため、「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」(民事保全法23条2項)でなければ保全の必要性は認められない。特に、本件で債権者が求めている仮処分命令は、本案判決がされた場合と同様の利益状態に置くものであるから、高度の保全の必要性が要求される。

イ 債権者主張の事実は高度の保全の必要性を基礎付けない

 債権者の主張は、つまるところ、2020年のオリンピックに利用する駐車場の工事が間に合わないから保全の必要性があるというものである。しかし、以下のとおり、債権者の主張は失当であり、高度の保全の必要性は認められるものではない。

(ア) オリンピックは高度の保全の必要性を基礎付けない

 オリンピックを行わなかったとしても国民の生命・身体・重要な財産が侵害されることはない。無害化三原則が反故にされて安全性の確保がされていない豊洲市場に移転させられる方が国民の生命・身体を侵害する危険のあるものであり、オリンピックを行わず築地市場で営業を営む者などが築地市場にとどまることの方がよほど公益に適う。

 したがって、債権者がオリンピックを理由としていること自体が高度の保全の必要性を欠いていることを裏付けている。

(イ) オリンピックの駐車場工事の遅延は高度の必要性を基礎付けない

 上記のとおり、オリンピック自体が保全の必要性を基礎付けるものではないが、さらに本件は、オリンピックのための駐車場が問題になっているに過ぎない。債権者は「車両基地」と呼んでいるが、単なる駐車場である。債権者はかかる駐車場が存在するとオリンピックを開催する上で便利であるという点を抽象的に主張するにとどまり、築地の駐車場の工事が間に合わなかった場合に、どのような問題がどの程度生じるかなど「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」に該当するほどの具体的な支障が発生する蓋然性を何ら主張していない。

 また、20168月末時点で小池都知事が豊洲移転延期をすることを決めていたのであるから、築地市場の土地は駐車場として利用出来るかが不確実であったのであり、築地市場の土地をオリンピックに必要不可欠な拠点として計画を進めることはあり得ない。このことも、築地市場の土地をオリンピックの駐車場として利用できない場合に高度の保全の必要性を肯定できる程度の具体的な支障が生じることがないことを裏付けている。

 したがって、オリンピックのための駐車場の工事が間に合わないという債権者の主張は高度の保全の必要性を基礎付けるものではなく失当である。

(ウ) 工期の遅れは債権者が自ら招いたものである

 上記のとおり、築地市場の土地を駐車場として利用出来なくとも具体的な支障はないため高度の保全の必要性は認められないが、さらに、以下のとおり、工期の遅れは債権者が自ら招いたものであるから、仮に、工期に間に合わないとしても、高度の保全の必要性が存在するという法的評価がされるべきではない。

すなわち、東京招致が決まったのは5年も前の2013年である。その後、20168月末に小池都知事が民意を受けて豊洲市場移転を延期することとなり、「築地は守る」といったスローガンを掲げていたのであるから、築地市場の土地がオリンピックのための駐車場として確実に利用出来る保証は何ら存在しなかった。むしろ、上記のような豊洲市場用地の土壌汚染の深刻さからすれば、早期に築地から豊洲へ市場を移転できる状態に整う可能性は乏しく(現に移転できる状態にはない)、築地市場の土地を駐車場として利用出来る可能性は乏しかったというべきである。

そのため、仮に債権者としては築地市場の土地をオリンピックに利用するという計画そのものを抜本的に見直すべきであった。

解体工事に債権者の主張するほどの時間がかかるとは思えないが、仮に間に合わないとすれば、それは債権者の仕事が杜撰であるからであって債務者には何の関係もないことである。

自ら策定した計画の問題、見通しの甘さに起因しているにもかかわらず、オリンピックに間に合わないから明け渡せなどして保全手続きによって市場関係者に負担を押し付けるというのは、あまりに身勝手な言い分という他ない。

まずはずさんな計画について謝罪し、話し合いによる解決を目指すのが債権者のとるべき態度である。

このように、仮に債権者の主張通りに工事をしなければオリンピックに間に合わないとしても、それは債権者が自ら招いたものであって、高度の保全の必要性があるとの法的評価がされるべきはない。

 したがって、オリンピックに間に合わないという債権者の主張は主張自体失当であり、保全の必要性は認められない。

⑵ 高度の保全の必要性を基礎付ける事実は疎明されていない

 仮に、債権者主張の事実が高度の保全の必要性を基礎付ける余地があったとしても、かかる事実は以下のとおり疎明されていない。

ア 証明と同程度の水準の疎明が要求される

 上記のとおり、債権者が求める仮処分命令は、建物明け渡し断行の仮処分であって、本案判決と同様の利益状態に置くものである。したがって、かかる仮処分を発令するためには、極めて高度の疎明が要求されるところであり、証明と同程度の水準の疎明が要求されるべきである。

イ 工事が遅れた場合の具体的な支障が疎明されていない

 上記のとおり、債権者が何ら主張していないため当然ではあるが、築地の駐車場の工事が間に合わなかった場合に、どのような問題がどの程度生じるかなど「債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」に該当するほどの具体的な支障が発生する蓋然性の疎明は一切なされていない。

ウ 工期が疎明されていない

 債権者は駐車場の工事が間に合わないと主張するが、債権者の主張する個々の工事の工期が正確であることを客観的に裏付ける資料は提出されていない。

エ 小括

 以上のとおり、高度の保全の必要性を基礎付ける事実は疎明されていない。

⑶ 回復不可能な被害が生じる危険

ア 次々に判明する欠陥

 前述のとおり、無害化三原則が反故にされて安全性の確保がされていない豊洲市場は、直近の事象でも重大な欠陥が判明しつつある。

① マンホールから処理前地下水が溢れた

 豊洲市場の開場予定の直前の2018923日、豊洲市場7街区のマンホールから臭いのある水が噴き上がる動画がネット上に公開された。この水は債権者によれば「処理前地下水」であるとのことだが、これは有害物質の直接摂取経路が遮断されていないという深刻な事態であり、土壌汚染対策法では「立ち入り禁止」にすべき事象である。

② 汚染の数値が上がっている

 そもそも、小池都知事が移転を「延期」した理由は「二年間モニタリング」が終わっていないことだったが、この間、検出されている汚染の数値は上がっている。20171月のモニタリング数値で環境基準の79倍のベンゼンが検出され、同年3月に100倍、12月には160倍、今年7月には170倍を検出している。

③ 地盤沈下によるひび割れ

 2018911日、豊洲市場に地盤沈下が原因とみられるひび割れが発見された。債権者は、これを2017年秋から把握していたにも関わらず、公表を怠っていた。このような重要事項について債権者は一貫して不誠実に対応している。

イ 築地再移転の可能性を残しておくべき

土壌汚染の問題のみならず、排水や冷蔵などの設備の不備も市場関係者から挙がっており、鮮度が保てずに腐敗臭が漂っているという報道もなされている。

豊洲市場は早晩閉場を余儀なくされ、築地に再移転せざるを得なくなる可能性も否定できない。

 豊洲市場が未だ不安定な機能しかない中で、築地市場をいったん取り壊して再移転先をなくしてしまえば、取り返しのつかない被害が生じる危険性が高い。

 少なくとも、豊洲市場が安定的に運営できる目途が立つ時点までは築地市場が市場としての機能を再開できる状態に保つ必要がある。たった2週間程度の夏のイベントのために築地市場を更地にしなければならない理由はどこにもない。

ウ 小括

 このように、オリンピックのために築地市場の土地を駐車場とすることは、回復不可能な被害を生じさせるものであって、高度の保全の必要性は否定されるべきである。

⑷ 債務者の被る重大な不利益

 そもそも、債務者が築地市場・仮設A12階を事務所として使用することになったのは、築地市場の現在地再整備に協力するためであった。仲卸売場の内側という一等地であることから、債務者は事務所を移転したのである。移転費用は全て自らねん出した。当時、事務所移転には200万円の予算を組み、それとは別に空調機代金400万円は10年かけて支払ってきた。

しかしながら、債権者は現在地再整備の約束を反故にし、いつの間にか現在地再整備を引っ込めて移転に舵を切り、債務者には借金が残ることとなったのである。

引っ越しをするとなればまた多額の費用が必要となり、労働組合の財政を圧迫しその存続を危険にさらすことになる。この点の損失補償について、債権者からは一切の提案がない。

 また、債務者はこれまで、築地市場を守るための活動に取り組んできており、築地市場に組合事務所が存在するということは、労働組合活動の象徴的な意味を有するものであって、事務所の場所は組合の方針の根幹にかかわることである。

 その拠点を労働組合が失うことは、労働組合の影響力の低下、組織の弱体化を招くものであって、その被害は甚大である。

 このように、債権者が求める仮処分命令は債務者に対しても甚大な不利益を与えるものであるから、高度の保全の必要性は否定されるべきである。

第3 結論

 以上より、被保全権利も保全の必要性も認められず、本件申立は速やかに却下されるべきである。                          以上


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