東京法律事務所blog

2019年04月

 

 弁護士の笹山尚人です。

 去る2019年3月19日、今泉義竜弁護士と共に担当している、オートバックス(ファナス)事件を東京地方裁判所に提起しました。

 以下、本件の概要及び意義について述べたいと思います。ご注目をいただければ幸いです。

 

一 新たな20条裁判を提起

 メトロコマース事件や、日本郵便事件など、労働契約法20条を根拠に、正規雇用従業員と有期の非正規雇用従業員との不合理な格差は許さないたたかいが取り組まれています。

 本件の提訴は、新たな20条裁判を提起するものです。

 本件は、非正規雇用の労働者が、どんなに誠実に頑張って会社に貢献しても、それが形になって認められることなく、賃金面で格差を設けられ、また、13年の長きにわたって働いてきたのに、正社員には認められる病気休職制度の適用を認めてもらえず解雇された、という事件です。

 

二 事案の概要

 原告は田島才史(たけし)さん(52歳)。

 オートバックス加平インター店で、オーディオの販売等の業務を担当してきました。

 被告(株)ファナスは、オートバックスセブンとフランチャイズ契約をし、「オートバックス」ブランドで自動車用品等の販売を業とし、原告の勤務地など4つのオートバックス店舗を運営しています。

 

 事案の流れは概要次のとおりです。

2005年11月

 原告、派遣労働者として被告オートバックス加平インター店において車のオーディオ機器等の接客販売に従事。その後被告に直接雇用されるに至り2006年4月以降毎年4月1日から翌年3月末日までの1年間の有期雇用契約を13回にわたり更新。

2015年4月

 被告、原告を雇止め。原告からの抗議を受けて撤回。原告、心身に不調を感じるも出勤を継続。被告、原告に対する差別、嫌がらせを開始。朝礼に原告だけ参加をさせない、これまでより1時間早く仕事を終えることを命じる、正社員らが原告に対し、「お前見たいなクズに言われたくない」といった暴言を吐くことが日常的に行われる。

2015年9月

 原告が首都圏青年ユニオンに加入。

2018年5月15日

 原告、不安障害により1か月の自宅療養が必要である旨の診断がされ休職。

2018年5月22日

 原告は被告に対し、労働契約法18条に基づく無期転換申し込みをした。

 原告は青年ユニオンを通じ、休職や賃金水準・諸手当の問題について団体交渉を申し入れ、話し合いにより解決することを目指しつつ療養を継続。

2018年11月30日

  被告が原告を解雇。原告に休職制度が適用されていない前提で、長期欠勤が継続していることを理由とする。

 

三 本件の意義

 加平インター店には30人近くの従業員(うち約半数が非正規)がいますが、田島さんは15年に月間売上が正社員も含めて5カ月間トップとなり、年間で3位に。16年には6カ月間トップで、年間売上も3位。オートバックス全体でも東日本でトップになったこともありました。13年の間に抜群の実績を残しました。

 これだけの奮闘をしても、田島さんは、期末賞与や達成手当などの手当を支給されず、また、慶弔休暇や病気休暇の適用も認められませんでした。そのため、病気になるや会社は欠勤が続いているとして解雇に及んだのです。

 病気休暇制度の適用については、厚労省が定める「同一労働・同一賃金ガイドライン」でも付与されなければならないとされています。病気休職を非正規に認めない会社の対応が不合理で、差別にほかならいことに疑問の余地はありません。

 こうした非正規差別を許さない、新たな労働契約法20条裁判の地平を切り開く。そういった意義が本件にはあると考えています。

 

 最後に、田島さんが、提訴の記者会見で語った言葉を引用します。

「オートバックスは象、僕みたいなアリは簡単に潰される。でも、間違ったことはしていない。数字は正規・非正規に関係ない。正当に、公平に評価すべきだ。憲法13条には個人の尊厳が定められている。一人ひとりの尊厳を踏みにじるような行為をやめ、差別をなくしてほしい」。

              以 上

※報道記事一覧

弁護士ドットコム記事:オートバックス、元バイト男性が提訴 「非正規に休職を認めないのは差別」
共同通信記事:オードバックスFCを提訴 従業員「休職なく解雇は不当」
レイバーネット記事:「理不尽でひどい非正規差別は許せない」~オートバックスの接客労働者が提訴
週刊女性記事:「社員と同じはぜいたくですか?」労働契約法20条を武器に闘う非正規の乱
週間金曜日記事: 「休職規定なし」は非正規差別か 労働契約法20条を問う

弁護士の中川勝之です。

 3月28日付けで、社保庁不当解雇撤回裁判について、最高裁判所第一小法廷は、上告棄却と上告不受理の両決定をしました。
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 最高裁判所第一小法廷の裁判官は次のとおりです。

 

 

氏名

前職(最高裁判所ホームページの略歴に基づく)

裁判長裁判官

池上政幸

平成26年大阪高検検事長

   裁判官

小池 裕

平成26年東京高裁長官

   裁判官

木澤克之

平成25年学校法人加計学園監事

   裁判官

山口 厚

平成28年弁護士名簿登録(第一東京弁護士会)

   裁判官

深山卓也

平成29年東京高裁長官

 

 

 国公労連は、最高裁決定に対して、司法の役割を投げ捨て、「政治のパワハラ」を黙認したとして抗議するとともに、分限免職処分の取消を求めるたたかいはこれで終わらず、愛媛事案及び秋田事案の裁判闘争とともに、裁判闘争と平行して2008年に閣議決定した「日本年金機構の当面の基本計画」を取り消し、年金業務に就くことを希望している元社保庁職員を年金職場に戻すたたかいもすすめる等と表明する談話を発表しています(末尾掲載)。全厚生緊急声明を発表しています。

 

 2月22日付けで、弁護団は「本件の審理に関する意見書」を提出し、最高裁による慎重かつ公正な判断を求めていましたが、約1か月で片付けられてしまいました。ここでは意見書の内容を掲載し、最高裁が無視した原判決(東京高裁判決)の問題点等を指摘します。

 国公労連も表明していますが、分限免職処分の取消を求めるたたかいは最高裁の不当決定によっても終わりません。引き続きご支援、ご協力、宜しくお願い申し上げます。

 

1 先行事案と異なる本件の経緯及び認定

 年金機構法に基づく2009(平成21)年末における社会保険庁の廃止に伴い、社会保険庁職員525名が、官制の改廃による廃職(国公法78条4号)にあたるとして分限免職された。本件は、そのうち、社会保険業務センターおよび東京の社会保険事務所に勤務していた申立人らが、分限免職処分の取消しを求めて争ってきたものである。

 こうした大規模な事件であるため、社会保険庁分限免職に関しては、全国各地で同種訴訟が提起され、京都事案、広島事案、愛知事案など、すでに上告棄却決定により確定した事案もある。しかし、本件は過去に例のない、国策による大量の国公法78条4号による分限免職であり、公務員の身分保障、分限免職回避努力義務の主体、分限免職回避努力義務の判断基準、定員枠と分限免職回避努力義務の関係、政治権力の行政への介入など、最高裁が新たな判断を示すべき、憲法・法令解釈上の重要で過去判断されたことのない事項が数多く含まれている。

 したがって、すでに同種訴訟に対して棄却決定がなされたのは、最高裁の判断の誤りであって不当であるが、本件東京事案は、後述するとおり、他の事案と異なる経緯があり、異なる認定がなされているので、その点に留意されたい。

 

2 本件は原判決が最高裁に判断を求めている

 もっとも、同種訴訟で結論が出されていても、原判決の憲法・法令解釈の誤りを上告理由・上告受理申し立て理由とする上告審の場合、訴訟ごとに「原判決」がそれぞれ異なる以上、別々に判断しなければならないことは言うまでもない。

 それのみならず、本件は、他の同種訴訟にはない特徴がある。

(1)原判決は、内閣(国)の分限免職回避努力義務の有無について、最高裁昭和50年2月25日判決を引用し、国家公務員と国の間の勤務関係を認めて国が信義則上の分限免職回避努力義務を負うとしつつも、それは抽象的ものであるとし、それでも国家公務員の身分保障原則を損なわないとした(37、38頁)。

(2)原判決は、公務員の分限免職回避努力義務の履行の程度について判示した最高裁昭和48年9月14日判決を引用して、内閣の分限免職処分回避努力が間接的配慮にすぎないと解しても、「社保庁長官等及び厚労大臣の取った取組が分限免職処分回避努力義務の履行として不十分であると認められれば、本件各処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとして違法であるとされるのだから、48年判決に違反することにもならない。」と判示した(39頁)。

(3)前述のとおり、本件は、国公法78条4号に基づく分限免職回避努力義務の効力が裁判所で争われた初めての事案である。したがって、その判決は、国公法78条4号の解釈適用の先例となるべき内容を持ったものでなければならないことは当然である。原判決が最高裁判例を引いて論旨を展開しているのは、この点を意識してのことと考えられる。つまり、原判決は、結論はともかく、法令解釈に関する重要な事項を含む問題があることを前提に争点の設定と判断を行っているものといえる。

そうである以上、これらの点について、上告審として、原判決から判断を求められている問題として受け止めて、判断を示すことが最高裁の最低限の責任なのである。

 

3 本件で検討されるべき事項

 上記に述べたほかにも、本件には他の同種事案にない訴訟の経緯や独自の判示があり、法令解釈に関する重要な事項を有している。

(1)本件は、同種訴訟の中でも唯一、一審で、年金機構採用を希望していた申立人の一人が分限免職取消認容の判決を得た。ところが、控訴審の原判決で、「機構の正規職員として採用されるための努力を最大限尽くしたものでなければ足りないとまでいう法的根拠はない」として、その判断は覆された。しかし、年金機構は、国とは別の法人格を持つとはいえ、厚生労働大臣の直接の監督下にある。国および厚労大臣は、年金機構の採用基準についても直接監督することができる。そのもとで、年金業務を担う一方、大量の欠員のある年金機構に対して、国及び厚労大臣はどの程度の分限免職回避努力義務を負うかは、公務員の身分保障原則ともかかわって、法令解釈上重要である。

(2)原判決は、内閣法制局への説明資料にも、行革推進法に基づく雇用調整本部を活用すれば分限免職回避努力義務違反にならないと記載されていたことについて、作成者の思い込みであるとして、雇用調整本部を使って省庁間配転を行った農林統計、食糧管理、北海道開発と異なっても公正原則、平等取扱原則に反しないとした点も、法令解釈上重要である。

(3)原判決は、懲戒処分歴のある社保庁職員を一律年金機構に採用させないとした「基本計画」の閣議決定が、政権与党の政治的圧力により再生会議の「最終整理」を捻じ曲げたものであることを実質的に認定しつつ、議院内閣制の下では与党の関与も当然であるとした(58頁)。これは、行政は政治権力ではなく法律に基づいてなされるとの行政の中立性、公務員の全体の奉仕者性と身分保障原則に照らして、法令解釈上重要である。

(4)原判決は、「社保庁や公的年金制度に対する国民の信頼の失墜は(中略)個々の社保庁職員にその責任を帰することができない」としつつ(62頁)、懲戒処分歴のある社保庁職員を一律年金機構に採用させないとした「基本計画」の閣議決定を政策的判断として容認した(53頁)。これは目的と手段との合理的関連性を欠いており、やはり平等取扱原則や身分保障原則にかかわって法令解釈上重要である。

(5)原判決は、2010(平成22)年3月末時点での厚労省の欠員と年金機構への出向による人員不足の存在を認めながら、その穴を埋めなくても分限免職回避努力義務違反とは言えないとしており、分限免職回避努力義務の程度にかかわって法令解釈上重要である。

以上にかんがみ、貴裁判所におかれては、本件上告受理申立理由を受理する慎重かつ公正な判断をなされたい。

 

司法の役割を投げ捨て、「政治のパワハラ」を黙認した上告棄却に抗議する
――社保庁不当解雇撤回裁判・東京事案の上告棄却にあたって(談話)

 2019年3月29日

                      日本国家公務員労働組合連合会(国公労連)

                               書記長  九後 健治

 

1、最高裁判所第一小法廷(裁判長:池上政幸、裁判官:小池裕、木澤克之、山口厚、深山卓也)は3月28日、「分限免職取消等請求事件」(東京事案)について、裁判官全員一致の意見として、①本件上告を棄却する。②本件を上告審として受理しない。③上告費用及び申立費用は上告人兼申立人らの負担とする。との決定を行った。

最高裁判所は、不当な東京高裁判決を審理を開かずに容認し、不当解雇を不問にするもので、極めて遺憾である。加えて、最高裁判所は決定理由として、①上告については民事訴訟法312条1項又は2項に該当しない(※1参照)、②上告受理申立てについては同318条1項により受理すべきものとは認められない(※2参照)とした。これは、先に上告棄却された京都、広島、愛知と同じ理由であり、社会保険庁職員に対する分限免職の問題点を正面から受け止めず、上告を門前払いとした最高裁判所に厳重に抗議するものである。

 

2、この事件は、2004年に発覚した国会議員の年金未納問題を末端の社会保険庁職員の責任にすり替えたうえ、2008年には自民党の求めに応じて懲戒処分歴のある職員を日本年金機構に採用しないという基本計画を閣議決定し、2009年12月31日付けで525人の分限免職処分を強行した「政治のパワハラ」そのものである。分限免職の非合理制は、25人の分限免職を取り消した人事院判定からも明らかであるとともに、本事件の第一審で、原告のうち1人について分限免職回避努力が不十分だったとする判断が行われた(後に高裁において一審判決は取り消された)ことを鑑みれば、まともな審理も行わず門前払いとしたことは、政府の主張を鵜呑みにし「政治のパワハラ」を黙認したことに他ならず、司法の役割を投げ捨てたものと言わざるを得ない。

 

3、東京事案は、全国7つの事案のうち、唯一地裁段階で一人とはいえ分限免職処分の取り消しを勝ちとったたたかいであった。そのことは全国の仲間を励まし、全国のたたかいを牽引するとともに共闘を広げるなど大きな役割を果たしてきた。これまで、裁判闘争で奮闘されてきた原告と東京事案のたたかいを支えてきていただいた全国の仲間にあらためて敬意を表し感謝を申し上げる。

しかし、分限免職処分の取消を求めるたたかいはこれで終わらない。愛媛事案は昨年12月に高松高裁での不当判決を受けて最高裁に上告しており、秋田事案は仙台高裁で5月17日に判決が出される。引き続き、政府や内閣に屈することなく、公平・公正な裁判所としての役割を果たすようたたかいをすすめる必要がある。また、裁判闘争と平行して2008年に閣議決定した「日本年金機構の当面の基本計画」を取り消し、年金業務に就くことを希望している元社保庁職員を年金職場に戻すたたかいもすすめなければならない。

加えて、すべての公務員が時の政権に忖度することや不当な圧力に屈することなく、憲法に規定された「全体の奉仕者」として働くことのできる民主的公務員制度の確立も求められている。国公労連は全厚生の社保庁不当解雇撤回闘争を全面的に支援するとともに、すべての公務員が国民のための公平・公正な行政・司法が行われるよう奮闘するものである。

以上

【※1・上告】

第312条 上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。

2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第4号に掲げる事由については、第34条第2項(第59条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。

一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。

二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。

二の二 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。

三 専属管轄に関する規定に違反したこと(第6条第1項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。

四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。

五 口頭弁論の公開の規定に違反したこと。

六 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。

 

【※2・上告受理の申立て】

第318条 上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。

 

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