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カテゴリ:非正規労働 > 労働契約法20条

 

 弁護士の笹山尚人です。

 去る2019年3月19日、今泉義竜弁護士と共に担当している、オートバックス(ファナス)事件を東京地方裁判所に提起しました。

 以下、本件の概要及び意義について述べたいと思います。ご注目をいただければ幸いです。

 

一 新たな20条裁判を提起

 メトロコマース事件や、日本郵便事件など、労働契約法20条を根拠に、正規雇用従業員と有期の非正規雇用従業員との不合理な格差は許さないたたかいが取り組まれています。

 本件の提訴は、新たな20条裁判を提起するものです。

 本件は、非正規雇用の労働者が、どんなに誠実に頑張って会社に貢献しても、それが形になって認められることなく、賃金面で格差を設けられ、また、13年の長きにわたって働いてきたのに、正社員には認められる病気休職制度の適用を認めてもらえず解雇された、という事件です。

 

二 事案の概要

 原告は田島才史(たけし)さん(52歳)。

 オートバックス加平インター店で、オーディオの販売等の業務を担当してきました。

 被告(株)ファナスは、オートバックスセブンとフランチャイズ契約をし、「オートバックス」ブランドで自動車用品等の販売を業とし、原告の勤務地など4つのオートバックス店舗を運営しています。

 

 事案の流れは概要次のとおりです。

2005年11月

 原告、派遣労働者として被告オートバックス加平インター店において車のオーディオ機器等の接客販売に従事。その後被告に直接雇用されるに至り2006年4月以降毎年4月1日から翌年3月末日までの1年間の有期雇用契約を13回にわたり更新。

2015年4月

 被告、原告を雇止め。原告からの抗議を受けて撤回。原告、心身に不調を感じるも出勤を継続。被告、原告に対する差別、嫌がらせを開始。朝礼に原告だけ参加をさせない、これまでより1時間早く仕事を終えることを命じる、正社員らが原告に対し、「お前見たいなクズに言われたくない」といった暴言を吐くことが日常的に行われる。

2015年9月

 原告が首都圏青年ユニオンに加入。

2018年5月15日

 原告、不安障害により1か月の自宅療養が必要である旨の診断がされ休職。

2018年5月22日

 原告は被告に対し、労働契約法18条に基づく無期転換申し込みをした。

 原告は青年ユニオンを通じ、休職や賃金水準・諸手当の問題について団体交渉を申し入れ、話し合いにより解決することを目指しつつ療養を継続。

2018年11月30日

  被告が原告を解雇。原告に休職制度が適用されていない前提で、長期欠勤が継続していることを理由とする。

 

三 本件の意義

 加平インター店には30人近くの従業員(うち約半数が非正規)がいますが、田島さんは15年に月間売上が正社員も含めて5カ月間トップとなり、年間で3位に。16年には6カ月間トップで、年間売上も3位。オートバックス全体でも東日本でトップになったこともありました。13年の間に抜群の実績を残しました。

 これだけの奮闘をしても、田島さんは、期末賞与や達成手当などの手当を支給されず、また、慶弔休暇や病気休暇の適用も認められませんでした。そのため、病気になるや会社は欠勤が続いているとして解雇に及んだのです。

 病気休暇制度の適用については、厚労省が定める「同一労働・同一賃金ガイドライン」でも付与されなければならないとされています。病気休職を非正規に認めない会社の対応が不合理で、差別にほかならいことに疑問の余地はありません。

 こうした非正規差別を許さない、新たな労働契約法20条裁判の地平を切り開く。そういった意義が本件にはあると考えています。

 

 最後に、田島さんが、提訴の記者会見で語った言葉を引用します。

「オートバックスは象、僕みたいなアリは簡単に潰される。でも、間違ったことはしていない。数字は正規・非正規に関係ない。正当に、公平に評価すべきだ。憲法13条には個人の尊厳が定められている。一人ひとりの尊厳を踏みにじるような行為をやめ、差別をなくしてほしい」。

              以 上

※報道記事一覧

弁護士ドットコム記事:オートバックス、元バイト男性が提訴 「非正規に休職を認めないのは差別」
共同通信記事:オードバックスFCを提訴 従業員「休職なく解雇は不当」
レイバーネット記事:「理不尽でひどい非正規差別は許せない」~オートバックスの接客労働者が提訴
週刊女性記事:「社員と同じはぜいたくですか?」労働契約法20条を武器に闘う非正規の乱
週間金曜日記事: 「休職規定なし」は非正規差別か 労働契約法20条を問う

弁護士の長谷川悠美です。

 

2019年2月20日、東京高裁で、メトロコマース事件の判決が出ました。

 

メトロコマース事件は、駅の売店で働く非正規労働者が原告です。同じように駅の売店で働く正規労働者に比べて賃金等がすごく低いので、その是正を求めています。

労働契約法20条で、『非正規と正規の不合理な相違はゆるされませんよ』と定められたので、それを契機に提訴しました。

★どれだけ格差があるのかは、過去ブログをご覧ください

メトロコマース労働契約法20条裁判が、いよいよ判決を迎えます!

労働契約法20条をめぐる判決迫る~メトロコマース事件
 

地裁判決は本当にひどい判決でした…。なんと、売店での販売以外の様々な仕事をしている正規労働者を含む、全正規労働者と比較したのです。

労働契約法20条は、たとえば非正規の仕事が正規の業務内容や責任の8割程度なら、8割の賃金を支給する、全く同じなら同額の賃金を支給するという均等均衡待遇の理念をもとにつくられています。

なので、全く違う仕事の人と比べられてしまったら、格差是正が認められるはずはありません。

 

★詳しくはこちらのブログ記事をご覧ください

メトロコマース事件東京地裁判決を読んでの違和感-ふつう「他の条件をできるだけ同じ」にして比較しませんか?

 

高裁判決では、地裁判決のこの判断を正面から否定しました。

 

“労働契約法20条が比較対象とする無期契約労働者を具体的にどの範囲の者とするかについては、(中略)有期契約労働者において特定して主張すべきものであり、裁判所はその主張に沿って当該労働条件の相違が不合理と認められるか否かを判断すれば足りる”

 

“原告らは、(中略)比較対象すべき(中略)無期契約労働者を、正社員全体ではなく、売店業務に従事している正社員(中略)に限定しているのであるから、当裁判所もこれに沿って両者の労働条件の相違が不合理と認められるか否かを判断することとする”

 

このように、原告が主張する正規労働者(固定販売業務に従事する正規労働者)を比較対象とすると判断したうえで、こう付け加えました。

 

“比較対象すべき(中略)無期契約労働者を正社員全体に設定した場合、契約社員B(注:原告たちの雇用形態)は売店業務のみに従事しているため、それに限られない業務に従事している正社員とは職務の内容が大幅にことなることから、それだけで不合理性の判断が極めて困難になる。”

 

これは明らかに地裁判決への嫌味ですね。

これを前提に、高裁判決がどのような判断をしたのかをざっくり紹介すると、

 

・まず、退職金について一部請求を認めました(各原告の月額賃金を基準に、正社員の退職金規程の計算方法にあてはめて算出した金額の4分の1)。

 

・住宅手当、褒賞相当額は、労働契約法20条施行後について請求を全額認めました。

 

・早出残業手当は、割増率差額分について認めました(なんとこの会社は残業代の割増率にまで正規と非正規で差を設けているのです!)

 

・基本給、資格手当、賞与、慰謝料については請求を認めませんでした。

 

まだまだ不十分な内容ではありますが、非正規格差是正に向けて一歩前進した内容です。

とくに、非正規は退職金をもらえなくても当然だという風潮の中、一部ではあっても退職金を認めたことは大きな意義があります。

 

ただ、その退職金の額は、4分の1にとどまりました(しかも退職金計算のベースになる月額賃金に正規と非正規で格差があるので、正規の4分の1よりもさらに低額になります)。その理由は、判決には何も書かれていません。

 

労働契約法20条の第一人者である東京大学の水町勇一郎教授も、毎日新聞で

“根拠が曖昧なまま支払額を「正社員の4分の1」に限定した点は疑問だ。”

とコメントしています。

 

賞与や基本給も棄却されています。

売店での販売という同じ仕事をしているのに。

 

その結果、請求金額は4人で合計約220万円と低額にとどまっています。

まだまだ不十分な内容なので、原告たちや、原告所属の労働組合は「不当判決」と評価しています。

 

★東部労組とメトロコマース支部の声明はこちら(最後に弁護団の声明も載っています)

 

メトロコマース事件判決の少し前、2月15日には、大阪医科大事件の高裁判決で、労働契約法20条に基づき賞与の一部の請求を認める判決が出されました。

退職金の一部を認めたメトロコマース事件の高裁判決と併せて、非正規労働者の格差是正の足掛かりにしていけたらと思います。

 

メトロコマース事件、これからは最高裁に舞台を移します。
上告審では、退職金はさらに多く、賞与も基本給も認めさせるべく、弁護団も力を尽くして引き続き頑張ります!

 

(弁護団は、東京法律事務所の、弁護士今野久子、井上幸夫、水口洋介、滝沢香、青龍美和子、そして私、長谷川悠美です。)

弁護士の今泉です。
自動車保険アクサダイレクトでおなじみアクサ損害保険会社を相手に、昨年末、有期労働者に対する不合理な格差是正を求める裁判いわゆる労契法20条裁判を東京地裁に提訴しました。
岸朋弘弁護士と一緒に担当しています。1月10日が第一回期日でした。

原告のXさんは、別の大手損害保険会社を定年退職した後、200812月に有期雇用契約社員として採用され、従前から長年経験を積んできた人身事故担当業務に従事しました(定年後再雇用ではありません)。


業務内容は、配点された案件について、事故内容を確認した上で、契約者又は運転者、相手方への連絡から始まる様々な事務処理をし、最終的に損害額の積算や示談交渉、賠償金の支払いなどの事故処理を行うというものです。
配点された事件をそれぞれが担当者として責任を持って一人で解決をするというのがこの仕事であり、正社員と有期契約労働者とで仕事内容に異なることはなかったというのがXさんの認識です。


同じ仕事をしているにもかかわらず、Xさんの基本給は正社員の標準給与の7割以下、年度末に正社員に払われた業績賞与がXさんには払われないといった格差がありました。また、正社員には保障されている退職金、特別有給休暇(慶弔休暇、公傷病休暇)、傷病有給休暇や育児休業・介護休業等が有期契約労働者には就業規則上保障されていないという格差がありました。

有期労働者に対する不合理な格差は違法とされており(労働契約法20条)、2018年6月1日に最高裁がこの法律の解釈を示しているところです。

Xさんは70歳で雇止めとなっていますが、これまでの待遇格差は労働契約法20条に反するとして、損害賠償を請求したのが本件訴訟です。

裁判では、正社員と有期契約社員の間で業務の相違がどれほどあったのか、人事異動などの実態がどうだったのか、各種の格差を設けることに合理的な理由があるのか、といった点が争点となるでしょう。


不合理な格差の是正を実現できるよう、取り組んでいきます。

弁護士の笹山尚人です。

 

 2018年7月10日、私と、江夏大樹弁護士とで担当した事件について、東京地裁民事第11部(阿部雅彦裁判官)が判決をしまして、完勝と言って良い勝利判決でしたので報告します。

 

 事案は、ソフトウェアの開発・販売などを事業とする株式会社システムディで働く私たちの依頼者Iさんが、勤務している会社と会社の代表取締役Dを訴えたものです。

 

 訴えの内容は、被告株式会社システムディに対し、

①原告の賃金を一方的に減額した点について差額賃金の支払い

②退職強要によって休業させられたことについて休業損害や慰謝料などの支払い

③復職を求めたのに会社がその復職を拒絶したのでその期間の賃金の支払い

④復職後も一方的に賃金を減額したので差額賃金の支払いを求め、

⑤代表取締役Dの言動(「裏切りの人生」や、「この寄生虫」といった言葉)を投げつけたことについて、Dと会社に連帯して慰謝料の支払いを求めた、

というものでした。

 

 判決は、賞与の一部と消滅時効によって支払いを認めなかった部分、慰謝料の金額判断において当方の主張全部を認めなかった、という点があったものの、それらを除き、当方の請求を全て認める、という内容でした。

 

 判決の中では、次の判旨は特に良かったと評価しています。

 

ア、労働契約は労働者と使用者が対等の立場における合意によって形成され変更される(労働契約法第3条1項)。特に賃金はもっとも重要な労働条件であるから、労働者の業績不良などを理由に使用者が労働者の賃金を一方的に減額する場合、その法的根拠が就業規則にあるというためには、就業規則においてあらかじめ減額の事由、その方法、程度等につき、具体的かつ明確な基準が定められていなければならない。本件の場合、それがないから賃下げは許されない。

 

イ、使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう配慮する義務を負うが(労働契約法第5条)、さらに、労務遂行に関連して労働者の人格的尊厳を侵しその労務提供に重大な支障を来す事由が発生することを防ぎ、又はこれに適切に対処して、職場が労働者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務を負う。使用者がこの義務を怠り、その使用人においてほかの労働者の意思決定を不当に強要し、あるいはその人格権を違法に侵害する言動があった時は、使用者は債務不履行に基づき労働者に発生した損害を賠償する義務を負う。

 

ウ、退職強要の言動に関しては、直接的な証拠が存する部分では勿論、それがない場面でも、Iさんの供述、Dの供述、使用人の証言などや物証などから丁寧に事実を認定し、当方が主張する事実を認定した。

 

エ、認容した慰謝料の金額も、相当であった。

 退職強要の慰謝料は、80万円を認容。一方、Dが、Iさんに対し、「裏切り」「寄生虫」という言葉を投げつけたことについては、Dと会社の連帯責任の慰謝料を20万円として認容。

 

 この判決は、労働法を丁寧に解釈して法のなんたるかを示すとともに、本件で発生した事実についても証拠に基づき丁寧に認定したものです。

 会社が、労働者を気に入らなくなり、その職場外への追い出しをはかろうとして、賃下げをしたり、パワハラの言動を行うことがまま見受けられますが、そうした事案が許されないことを明らかにしてくれた判断と、高く評価できるものです。

 

 会社と代表者が、この判断に従い、自らの行いを反省して、今後は法に即した職場環境を形成すること、Iさんの就業環境、ひいては会社の就業環境を正常化して働きやすい職場作りを行うことを切に希望します。

 

                                    以 上

 

弁護士の菅俊治です。
3月23日、籠池氏の証人喚問に世間の注目が集まるなか、もう一つの注目の労働事件の判決が言い渡されました。
メトロコマース事件です。

残念ながら東京地裁は労働者側敗訴の判決を言い渡しました。労働組合が弾劾声明を発表しています。
http://blog.goo.ne.jp/19681226_001/e/45902f695fcd653a945c3b70b3a6c885
原告労働者たちが、団体交渉により自分たちと正社員との労働条件の「差」を初めて知ったときいかに驚いたか、以前、このブログでも書きました。
http://blog.livedoor.jp/tokyolaw/archives/1064298874.html 

判決文を読んで、違和感を覚えたことがあったので、とりいそぎその点を書きたいと思います。

本件では、売店業務に従事している契約社員の労働者が、正社員との労働条件の差は労働契約法20条に違反しているとして訴訟を提起しました。

契約社員(有期契約ではたらく労働者)と、正社員(無期契約で働く労働者)の労働条件には、いろいろな違いがあります。その違いが、
「不合理と認められるものであってはならない。」
といっているのが、労働契約法20条です。

ところで、なにか物事を比較するときには、
「他の条件はできるだけ同じにする」
という発想が自然ですよね。

だから、契約社員と正社員の労働条件の差を比較するなら、「職務の内容」ができるだけ同じで、「職務や配置変更の範囲」もできるだけ同じ正社員を見つけて、その差に合理性があるかを判断するものと思っていました。
メトロコマースの場合なら、「売店の仕事に専従している正社員」がいるなら、その労働条件と比較するのが自然です。

たとえば、仮に10年売店の仕事をした正社員Aと、10年売店の仕事をした契約社員Bがいたら、その二人の退職金の差を比較して不合理と認められるかを審査すべきということになる、等々ということです。
同じく売店の仕事を10年してきたのに、一方には退職金が支給され、他方は退職金ゼロって、不合理と認められるんじゃないかと。

でも、今回の判決はそのような比較は駄目だというんです。
広く「正社員一般」と比較するのが相当だと。
そこに違和感を覚えましたね。

判決は、「売店業務に専従している正社員」の存在は認めています。比較不能なのではなくて、比較はやろうと思えば可能なのです。が、そのような比較は失当だというのです。
その理由は、そのような正社員は「ごく一部」で、契約社員から登用されたりという経歴があるから、だというのです(50頁)。

でも、契約社員からの登用だからといって比較しない理由がよくわからないです。
むしろその人たちの労働条件とこそ比較するのが妥当ではないかという気がします。

土田道夫教授の『労働契約法』(2版)793頁を読むと、
① 職務内容・人材活用の仕組みが同一の無期契約労働者と比較し、
② 職務内容・人材活用の仕組みが異なる無期契約労働者と比較する。
この結果、
②との間で不合理性が否定されても、
①との間で不合理性が肯定されれば、20条違反と評価される。
とあります。

僕の考えもこれに近いです。
 
①の比較対象を見つけられるか否かが労働者側の実務上の課題である。
 
①と②の間にくる場合、つまり「職務内容は同じだけど、人材活用の仕組みは微妙〔形式的には違うが実際の運用は同じ)」という場合は判断が難しく、それをどうするかが理論上の課題であり、立法上の課題でもある
 
と思ってました。

判決は、土田さんの整理でいうところの①の判断をすることそのものを「失当」と言っているように読めます。

違和感を覚えます。 


この事件は、非正規労働者の権利のために頑張ってきた仲間たちが必死の思いで訴えた裁判です。
労働契約法20条という条文は、平成24年にできたのですが、そのような立法につながる、たくさんの非正規労働者の苦難の歴史のうえに闘われている裁判です。
しかも、私にとっては、東京法律事務所の同僚弁護士が担当した事件であっただけに、正直、落胆しています。
4000万円の請求で、4000円ばかりの請求認容とは。

この悔しさをばねに、原告団・労働組合・弁護団はきっと頑張ってくれるでしょう。
私も、引き続き、訴訟に、立法に頑張ろうと思っています。 

東京法律事務所の弁護士 【菅 俊治】のプロフィール

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