東京法律事務所blog

カテゴリ: 福島原発訴訟

3つの地裁判決が出て

 弁護士の笹山尚人です。

 川口智也弁護士、岸朋弘弁護士とともに、福島原発被害弁護団に参加しています。

 

 2017年10月10日、福島地裁で、生業訴訟の判決が言い渡されました。原発事故による被害賠償を求める裁判としては、全国で3例目となります。生業訴訟の弁護団には、青龍美和子弁護士が参加しています。

 

 全国では、18の都道府県で、30もの損害賠償請求事件が取り組まれており、その原告数は総計1万2千人を超えます。今後も判決は続いていきます。その内容いかんによって、我が国の原発をめぐる政策の在り方にも大きな影響があると思われます。

 

 3つの地裁判決を受けて、原発事故の被害賠償をめぐる問題の到達点をどう見るか。これからいかなる課題があるのか。先を見据えて検討してみたいと思います。

 

各地裁の判決の概要

(1)17・3・17 前橋地裁判決

 まず最初の判決は、前橋地裁でした。2017年3月17日、45世帯・137名の原告が国と東電に対し、約15億円の慰謝料の支払いを求めた事件で、前橋地裁は、国と東電に対し、合計して3855万円余を支払うよう命じました。

 

(2)17・9・22 千葉地裁判決

 全国で2例目となるのは、千葉地裁判決です。18世帯45名が、国と東電に慰謝料など計約28億円の損害賠償を求めた事件です。

 千葉地裁は、東電に対し、原告のうち避難区域以外から避難した者4人を含む17世帯42人に計約3億7600万円を支払うよう命じました。

 国が定めた中間指針の範囲を超えた損害があったなどとして、事故前の生活を丸ごと壊されたことに対する「ふるさと喪失」の慰謝料を認めました。

 一方で、国の賠償責任を認めませんでした。

 

(3)17・10・10 福島地裁判決

 そして3例目が、福島地裁判決。

 約3800人の原告が、慰謝料など総額約160億円の賠償を国と東電に求めた事件です。

 福島地裁は、東電に約2900人の原告に合計約4億9000万円余りの支払いを命じ、国もこのうち約2億5千万円余りについて連帯して責任をとるように命じたものです。

 前橋地裁と同様に、国にも責任があるとの判断が下されました。

 

3つの判決から見えてきた裁判所の考え方1-中間指針の不十分さの指摘

 原告の属性や、裁判で求める内容などが違いがありますので、当然のことながら、3つの裁判所の判示内容はそれぞれ異なるものではあります。しかし、そこになんらかの共通点や特徴がないだろうか。私の見るところ、いくつかの観点を指摘できると思われます。

 

 1つには、「中間指針が適正妥当で、これで被害に対する賠償が十分だ」とした判断は一つもない、ということです。

 2011年8月、国は、福島第一原発事故の被害者に対する被害救済の在り方についての考え方をまとめました。これが、「中間指針」です。東電は、基本的にはこの「中間指針」に沿って賠償を行い、「中間指針」の範囲を超えた損害賠償の要求に対しては、頑なにこれに応じないとの基本方針で被害者に対応してきました。裁判上も、「中間指針に基づいて賠償している。これで賠償としては十分」という対応を繰り返してきました。

 今回の3つの判決は、いずれも、この「中間指針」を超えた範囲での損害の存在を認め、その賠償を命じています。国と東電の被害者に対する賠償は、全く足りるものではない。そのことが次々と明らかになってきた。一連の判決は、この観点を照らすものとして、とても重要です。

 とりわけ、実質的に「ふるさと喪失慰謝料」を認めた点で、千葉地裁判決は評価できます。「ふるさと喪失慰謝料」とは、原発事故によって、被災者が避難を余儀なくされ、それまでの地域生活における共同体としての生活利益の一切合切を奪われてしまったことの苦痛の賠償を求めるものです。

 他方、福島地裁判決では、実質的にこの「ふるさと喪失慰謝料」は認められず、この点に大きな課題が残ります。

 

裁判所の考え方2-賠償の十分さの問題

 では、賠償が十分かという点の問題を考えますと、これは3つの判決、そろって「不十分」と言わざるを得ません。

 各判決とも、原告の請求額と裁判所が賠償を認めた額とを比較すると、パーセンテージとしては次の割合となります。

 前橋地裁-3%程度

 千葉地裁-13%程度

 福島地裁-3%程度

 

 私も弁護団で同じような事件を担当していますからわかりますが、原告が訴訟で請求する金額は根拠のない数字ではありません。多くの原告が、苦しい自分の生活や胸の内を、懸命に計算して算出した数字です。それが全体的に見てですが、わずかに数パーセントから、多くても10%強しか認められないとするなら、これは余りに賠償額として低い。

 低いということは、中間指針が賠償の基準として十分ではないというところは突破できたとしても、中間指針が根本的に欠陥のあるものだという判断までは勝ち取れていない、ということになるわけです。ふるさと喪失慰謝料を唯一認めた千葉地裁判決にしても、それは国の避難指示区域から避難した原告に限られています。しかし、避難区域は国が一方的に指定したもので、放射性物質への恐怖からふるさとを離れ、かつての地域共同体を失ったという意味では区域の内外の区別はあまり意味がないはずです。

 

中間指針の不十分さとは

 なおここで指摘してきた「中間指針の不十分さ」については、あげればきりがありませんが、私見では、ざっくり以下のように指摘できます。

1、原発の被害者を、基本的には、国の定めた避難指示区域内に居住していた者に限定し、区域外の者を被害者から切り捨てる態度を取っていること。

2、自宅の土地建物の賠償の評価や、農業や営業損害の評価を、従来の不法行為法の実務の考え方に基づいて把握し、結果として生活再建できなくなる事例を生み出したこと。

3、慰謝料を一律月額10万円とし、避難に伴う苦痛に包摂されない苦痛について、評価を怠り指針を定めていないこと。

 

裁判所の考え方3-東電と国の責任

 結論として、東電と国の責任については、肯定される流れが出来つつあると考えられます。

 最初の判決となった前橋地裁判決は、東電について、遅くとも2002(平成14)年には、福島第一原発の敷地地盤面を優に超えて非常用電源設備を浸水させる程度の津波の到来を予見することが可能であり、2008(平成20)年5月には実際に予見していたとし、給気ルーバのかさ上げなどの結果回避措置をとれば、容易に福島原発事故を回避し得たにもかかわらずこれを怠ったとして、特に非難に値する事実が認められるとして、実質的に重過失の判断をしました。そして、国について、遅くとも、2007(平成19)年8月頃には、東電に対して、結果回避措置を講じる旨の技術基準適合命令を発するなどの規制権限を行使すべきであったのに、これを怠ったことについて、炉規法及び電気事業法の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、著しく合理性を欠くものとして、国家賠償法1条1項の違法性を認めました。

 これに対し、千葉地裁判決は、津波の予見可能性は認めました。しかし、当時は地震対策が優先課題だから、事故という結果を回避する義務が一義的に導かれるとは言えないなどとと述べて、「結果回避義務の否定」をし、国の責任を否定したのです。

 そこで判断が分かれた国の責任について、福島地裁がどういう判断をするかが注目されたところ、福島地裁は、いわば「前橋地裁」説を採用して国の責任を肯定したのです。

 このように、原発事故に国と東電の責任があるのかについては、「ある」と判断するのが、3つの裁判を通じての流れになってきているといえるのではないかと思います。

 

私たちの課題

 以上を踏まえますと、私たちの課題は、流れが生まれつつある国と東電の責任について確立した考え方にまで固めていくこと、「中間指針」には欠陥があり、全く不十分なものであり、賠償の考え方を根本的に改める必要があることの流れを作ること、の2つであると考えられます。

 直近では、3つの判決に続く判決は、2018年3月に、京都・東京・福島地裁いわき支部、と3つ連続して言い渡される予定です。

 とくに私、川口弁護士、岸弁護士が担当しているのがいわき支部の裁判です。この裁判では、合計219名の原告が、132億円余の賠償を求めています。この裁判では、1名を除き、原告全員が強制避難区域の住民であり、かつ、いわき支部が、福島第一原発に最も近い場所にある地方裁判所であることから、いわば「地元」の裁判所が、「地元」住民の深刻な被害の実態をしっかりと受け止めてくれるかどうか、がテーマとなっています。被害事実を素直に受け止めてくれれば、「中間指針」の問題が十分暴露される判決になると期待しています。

 京都・東京・いわきと、連弾で良い判決を勝ち取り、原発事故で故郷を失い苦しい生活を続けている被害者の生活と尊厳の回復をはかり、ひいては原発政策を転換させるために、私たちはさらに頑張っていきたいと考えています。

 

署名ご協力のお願い

 最後に、「避難者訴訟」では、裁判所宛ての公正判決署名を2018年2月末までに10万筆集めようとの活動にも取り組んでいます。みなさまのご協力もお願いしたいと存じます。




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 弁護士の笹山尚人です。

 福島原発被害弁護団に所属しています。

 

福島第一原発事故被害とそれに対する訴訟の取り組み

 

 20113月に発生した東日本大震災に伴い発生した福島第一原発の過酷事故によって、福島県浜通り地域の住民を中心に、多くの住民が避難を余儀なくされ、帰宅ができないままの過酷な避難生活が継続しています。また福島県を中心とした多数の住民が、避難を選択しなかった場合でも、放射性物質の影響が判然としないまま、従来の生活を継続してよいのかについて深刻な懸念を抱えています。

 こうした福島第一原発事故によってもたらされた様々な被害に対しては、全国で、国や東京電力株式会社に対する損害賠償請求等の訴訟が提訴されています。

 

福島の被害現場はいま、どうなっているか

 

 私は、2016年9月30日、担当する避難者訴訟における検証手続で、福島第一原発がある福島県双葉町に入りました。検証とは、裁判官が物体の形状等を直接に知覚・認識し、その結果を証拠資料とする手続です(民事訴訟法232条以下)。要するに、事件の現場に行って、発生した被害について五感でじかに感じてもらい、それをも判断資料にしてもらう手続きです。

 

 福島県双葉町は、現在も帰還困難区域です。高い放射線の影響があります。国は、現在年間20ミリマイクロシーベルトの放射線を対外被ばくすることを危険の基準としています。1日あたりにすると、3.8マイクロシーベルト以上の被ばくが危険水域です。

 

私はこの日、約2時間の滞在で3マイクロシーベルトの被ばくをしました。

 

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 到底、この地域で毎日生活することができないことがわかります。

 

 ここでの被ばくを避けるために、帰還困難区域に入るためには、写真のような防護措置をすることが必要です。

 

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 今回は、双葉町で養蜂業を営んでいたOさんのお宅と養蜂施設、それから双葉南小学校を検証しました。

 自宅内は、事故当時のまま。地震のために家財が倒れ、物が散乱した後、Oさんたちは直ちに避難することになりました。そのまま長期間自宅に戻ることができず、自宅は放置されたまま。その期間内に、泥棒や動物の侵入が繰り返され、自宅は荒れ放題になってしまったのです。

 

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 養蜂場は、かつての養蜂用の籠が放置され、雑草が生い茂った状態。

 

 双葉南小学校は、廃墟と化してシーンとしていました。かつては、子どもたちの元気な声が響き渡ったのでしょう。弁護団は、かつて双葉南小学校とその子どもたちが、地域の行事を担うなどして、また子どもたちが地域ぐるみで大切に育てられていた様子を写真を使って説明しながら、現状との対比を示して、裁判官に理解してもらうための説明をしました。

 

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福島第一原発事故に対する賠償訴訟

 

 自宅を、暮らしを、ふるさとを、こんなふうにメチャクチャにしてしまったのは誰だ。

元の暮らしを、生業を、返せ。苦しめたことには、完全な賠償を。

 こんな思いで、福島原発事故被害の裁判は、全国で取り組まれています。

 避難によって全国に散らばる原告たちのうち約1万人は、「原発被害者訴訟原告団全国連絡会」を結成し、損害賠償請求等訴訟を担当する弁護団も、弁護団全国連絡会議を結成して、相互の情報交換や訴訟体制の相互支援活動を行っています。

 当事務所でも、私と岸朋弘弁護士、川口智也弁護士が福島地裁いわき支部で行われている「避難者訴訟」「いわき市民訴訟」に取り組んでおり、また、青龍美和子弁護士が、福島地裁で行われている「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(「生業訴訟」といいます。)に取り組んでいます。

 これらの訴訟では、訴訟ごとに差異はありますが、多くの場合、被害者たちが受けた自宅や避難や元の生活形態や環境を失ったことに関する経済的損失や精神的苦痛に対する賠償、避難しない生活での放射性物質の影響による精神的苦痛に対する賠償、放射性物質の影響を被った地域の原状回復を求めるものとなっています。

 

賠償請求訴訟は大詰めに

 

 これらの裁判は、2017年、大きな山場を迎えます。

 全国で取り組まれている訴訟のうち、群馬訴訟が3月17日に判決を迎えます。千葉訴訟が1月31日に結審。そして、当事務所の青龍弁護士が参加する「生業訴訟」が3月21日に結審。千葉と生業は、2017年中の判決が見込まれます。

 これらの裁判での判決の動向は、私が担当している避難者訴訟、いわき市民訴訟を含め、後から判決を迎える裁判に大きな影響を与えるものといえます。

 このように、裁判は大詰めを迎えつつあるのです。

 ぜひ多くの皆さんに関心を持っていただき、ご支援をお願いしたいと考えています。

 

 事務所では、「生業訴訟」が裁判所に提出する公正な判決を求める署名について、みなさまのご協力をお願いしております。
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 ぜひともご協力を、お願いいたします。作成後は、事務所あてにお送りいただけますと幸いです。署名用紙は以下のサイトからダウンロードできます。

『生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!』福島原発訴訟原告団・弁護団Webサイト

 

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