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 弁護士の平井哲史です。先日、解雇を争って和解で職場に戻った方から、今のところ順調ですというお知らせをいただきました。大変うれしく思うとともに、改めて復職解決について思うところがありましたので、書いてみます。

 

解雇事件の請求内容

 労働事件の中で、解雇事件は常にトップ3を占めています。解雇は使用者がおこなえるわけですが、「やった者勝ち」にはならず、労働契約法16条により、客観的に合理的な理由があると認められなければ無効となります。有期契約の場合は、期間途中での解雇は「やむをえない事由」が必要です。このため、解雇が認められるためのハードルは低くなく、争う場合は通常、「地位確認等請求」と言って、解雇が無効だから労働契約は続いている、だから賃金も支払え、という請求をすることになります。労働契約は続いていると言う以上、基本的には「復職」を求めることになります。

 

無効となっても復職は多くない

 ところが、裁判で解雇無効となっても(あるいは解雇無効の心証が形成されても)、当該労働者が職場に復帰することは案外多くはありません。

 

ⅰ)使用者側の姿勢

 その最大の原因は、私の経験上ですが、使用者側が断固拒否の姿勢をとることです。いろいろと説得をはかっても使用者が職場に戻すのを嫌がる以上、合意を必要とする和解の方法では復職を実現することはできません。結果、判決を求めることになります。
 そして、判決を得ても、日本の場合、特段の事情がなければ、労働者の就労請求権を裁判所は認めようとしていませんので、使用者としては賃金を支払い続ければ、当該労働者を働かせない(職場に戻さない)という選択もできるためです。この点は、就労請求権に関する解釈を変更するか、立法による手当が必要と思いますが、当面は、理由なく長期にわたり労働者の就業を拒み続けたときには、それが人間関係の切り離しとして独立の不法行為となりうることに留意した現場の運用が求められるかと思われます。

 

ⅱ)労働者側の姿勢

 次に、使用者側の態度により導かれる側面もありますが、労働者のほうで実は復職を強くは希望しないという方も多いです。

 その理由で多いのは、時間です。使用者が被解雇労働者の復職を拒む以上、判決を求めることになりますが、解雇事件の審理は、東京地裁の場合、案件により長短の差がかなりでますが、概ね1年半程度かかる印象です。そして、その先、高裁、最高裁までやるとすれば、何年ものあいだ仕事が決まらない状態が続きます。この間、バイトでもしない限り賃金収入は途絶しますから、被解雇者とその家族の不安やストレスは想像に難くありません。結果、解雇されたのは悔しいし、ひっくり返したいけど、生活があるから長い時間は耐えきれないという方は、判決に行く前に、一定額の解決金の支払と引き換えに退職する内容の和解での解決をはかることになります。

 もう一つは、信用です。解雇にはいろいろな理由がつけられますが、多くの場合、それは被解雇者の働く者としてのプライドを傷つけるものとなります。このため、解雇はひどいと思っても、「こういうことする使用者は信用できない。」と思い、金銭解決のほうを選択される方も多くなっています。

 

ⅲ)裁判所の説得 

 そして、「ⅰ)使用者側の姿勢」を前提としますが、「一度関係が壊れた以上、元には戻らない」と思っているのか、金銭解決を早々に勧めてくる裁判官もいます。労働者本人が職場に戻りたいんだと強く言い、代理人としても、この事案ならば復職したっていいはずで、やっていけるであろうと言っても、なおも強く金銭解決を勧めてくる裁判官が時折おられます。これはこれで考えがあって言っているのであろうとは思うのですが、それだけの熱意をもって復職のための説得をはかってくれているのだろうか?と疑問に思わずにはいられないケースもあります。

 

復職と金銭解決のメリット・デメリット

 復職にせよ、退職前提の金銭解決にせよ、少し大げさに言えば、「人生の選択」をすることになります。そこで、「必ずこうなる」ということではありませんが、ありがちな復職解決と金銭解決のメリット・デメリットを考えてみたいと思います。

 

復職解決

金銭解決

メリット

・頑張ってきた仕事に戻れる(キャリアを継続できる)

・将来の退職金を期待できることが多い

・職場で築いた人間関係を失わずにすむ

・比較的早期に結論が出る。

・(解雇無効の心証であれば)まとまった額の解決金を期待できる

・解雇が有効となりそうな事案でもケースによっては出ることもある。

デメリット

・一般に解決までに時間がかかる

・解雇前と同じ業務に戻れない場合もある

・(特に判決で戻る場合)しばらくは緊張関係が続き、新たな紛争が起きる可能性もある

・その職場でのキャリア形成が途切れる

・勤続をイチからやり直さないといけない(退職金計算に不利)

・職場での人間関係が失われる

・金額は復職となる場合よりも低くなりがちとなる

 

やっぱり復職はいい

 話は戻りますが、復職を果たされた「元原告」の方は、裁判の途中、何度も金銭解決を勧められました。私自身も、その方の実績に鑑みるならば、他でも引き合いはあるだろうし、この職場にこだわらなくてもいいのではないかとも考えました。しかし、この「元原告」は、年齢も考えると他にいってももうステップアップは望めないし、業界内に出回った噂により他の職場でのキャリア形成は望めないとし、当該職場で頑張ることを希望されました。こうした感覚・読みは本人でなければわからず、裁判官や弁護士が軽々しく判断できるものではありません。本人の強い思いにこたえようと私も一生懸命裁判官と被告代理人に訴えました。結果、前とは違う部署にはなりましたが復職が実現しました。

 復職しても何をされるかわからないとの懸念もないではありませんでしたが、復職にあたり「これこれこういうことを協議していく」ということを双方で合意しておいたことで、出だしはちょっとトラブルになりかかったところもありましたが、概ねスムーズに復職が進みました。そして、冒頭の元原告の方からのお知らせとなりました。

 解雇事案の中には相互に感情的になり、たとえ復職しても新たに紛争が生じて、自己都合で退職したり、使用者が2回目の解雇に及ぶという例も見られます。こうならないようにするには、互いにどういうことに気を付けるべきかを理解し、誠実な態度をとることが求められるだろうと思います。このケースでは、裁判官および被告代理人の努力もあり(案外ここは大きな要素となります。)、それがうまくいきました。そして、復職を果たした方から順調ですという知らせを受けると、「あ~、頑張ってよかったな。やっぱり復職はいいな。」と弁護士冥利に尽きる思いです。

 

復職の隠れた条件

 今回のケースを通じて、復職(うまく復職する)には隠れた条件というのがあるなと思いました。一度壊れた関係をやり直すわけですから、法的地位として戻せばすむということにはなりません。信頼を回復するには、互いに相手を尊重することを意識しないといけないでしょうし、認識や意見の違いをすり合わせるための協議も大事になるでしょう。そうしたことのできる条件なり環境なりを復職にあたり整備できるかどうかで、その後の展開が変わってくるように思います。

 この事案で学んだことを生かし、この先も、「相手を変える」金銭解決ばかりでなく、「互いのロスを少なくする」復職解決にも努力していきたいと思います。

以上

 

 弁護士の平井哲史です。今回は、全国に広がってきているパートナーシップ制度、ファミリーシップ制度についてご紹介したいと思います。なお、文中に引用している写真は、2020年2月28日におこなわれた新宿区におけるパートナーシップ・ファミリーシップ制度創設条例案の説明会において、条例案づくりに携わった鈴木賢明治大学法学部教授の用いたフリップ画像(web配信を通じて保存したもののため右肩に会場の画面が入ってしまっていますが。)を教授のご了解をいただき転用したものです。

 

1 新宿区議会がパートナーシップ・ファミリーシップ条例案を否決

 

 新宿区議会は、さる3月17日の本会議で、区民の中からあがってきた要望を受けて立憲・共産・社民・ちいさき声をすくい上げる会・スタートアップ新宿の5会派が共同で提案したパートナーシップ・ファミリーシップ制度創設の条例案を、自民・公明・新宿未来の会などの反対多数で否決しました。私も条例案づくりに参加していましたので、なんとも残念なことです。特に、公明党の議員さんは、本会議に先立つ3月10日の文教子ども委員会の質疑の際に、自分たちは「アライ」(賛同者、協力者の意味)なんだ、自分たちも当事者から切実な声を聞いている、制度創設には基本的に賛成なんだと述べていたにもかかわらず、条例案には反対をされており、なんとも摩訶不思議な態度で、残念でした。

 

2 パートナーシップ・ファミリーシップ制度とは

 

 パートナーシップ制度とは、自治体が、異性間・同性間を問わず事実婚カップルについて、その届け出により、「パートナー」として承認する制度を言います。ファミリーシップ制度は、そうした「パートナー」関係にあるカップルの子とその子の親の相手方とが「ファミリー」であることを承認する制度のことです。いずれも、法律婚をしている「配偶者」だとか、養子縁組をした「親子」ではないけれども、「家族」であることを認知しようとする制度と言えます。

 

 このパートナーシップは婚姻届を出す法律婚とは異なり、届を出すことにより相互に法律上の扶養義務が生じたり、共同で築いた財産について共有の推定がされたり(別れる際の財産分与に影響する。)、あるいは相続権が生じるといった法律上の保護を受けることにはなりません。ファミリーシップも同様です。それでも、男女の法律婚カップルでないと「家族」として承認されず、入院時の付添や手術の同意、子どもの学校などへの送り迎えや行事の際の参列、公営住宅への入居(同居)など、社会生活上の様々な場面で不利益・不都合をこうむるため、特にLGBTQの当事者の方々やその支援者の皆様から、「生きやすいようにしてほしい」「暮らしやすいようにしてほしい」と切なる願いとして要望があがっているものです。

 


図1


図2

 

 上記のように、パートナーシップ制度は、法律上の権利が付与されるわけではないのですが、「家族」として承認されることで、行政や民間(不動産屋や病院など)の取扱が変わり、妙な偏見にさらされることなく、ありのままの自分で他の人と同様の扱いを受けうることを期待してのもので、これを導入するだけならば特段の予算措置を講ずる必要もないため、次に紹介するように全国で広がり始めています。

 

3 広がるパートナーシップ制度

 

 古今東西、愛情の対象は何も男女間に限ったことではありませんでしたが、異性間以外での恋愛は確実に少数であり、タブー視する傾向もあります。1990年代にエイズが広がった際には、「エイズは同性愛者から感染する」などという誤った偏見に基づいて差別が生じたりもしました。(日本では、輸血に用いる血液製剤にウイルスが混じっていたことから生じた薬害エイズ問題が主であったことが後にわかりました。)

 しかし、「自分はそうじゃないけど、(異性間愛を)人に押し付けなくてもいいんじゃない。」という声に代表されるように、人それぞれの在り方があり、犯罪のように社会を壊すようなこともないのだから、「個の尊重」として、多様な性のあり方を認めたっていいじゃないか、認めるべきだ、平等に扱おうよ、という考えが今、広がってきています。

長年続けられてきた「プライドパレード」や、『きのう何食べた?』という漫画(よしながふみさん作)及びこれを原作とするドラマ(西島秀俊さん、内野聖陽さんダブル主演)などLGBTQ当事者の日常の姿や悩みをとりあげた作品のヒットも、こうした考えの広がりを後押ししているように思います。

図3  

 

 そして、現に不利益・不都合をこうむっているならば、それは人権問題であるから、その原因を取り除こうよということで、全国的にパートナーシップ制度をつくる自治体が広がってきています。直近のところでは、上図のように、居住人口ベースで全国の3分の1を超える人が居住する自治体ですでにパートナーシップ制度が首長の肝いりで創設されています。

 

4 パートナーシップ制度を設けた自治体での変化

 

 パートナーシップ制度と言っても、それは「家族」として承認するという意味合いだけですので、この制度の創設から直ちにいろんな差別的取り扱いや偏見が除去されるわけではありません。

 しかし、社会生活上「家族」として承認することで、いろんな変化が生じえます。実際、東京都内でいち早くパートナーシップ制度を入れた世田谷区では同性パートナーにも国保の給付金を支給する取り扱いを始めたり、大阪市や札幌市では、犯罪被害者の家族に支給される見舞金等について、同性パートナーにも支給されるようになっています。近いところでは、国立市でも、この3月議会で、条例を改正して同性カップルも法律婚カップルと同様の福利厚生給付を受けられるようにしたことが報じられています。

 

図4

図5
 

 特に中高年の同性パートナーの方々の切実な要望として公営住宅への入居があるそうですが(「他人」だと同居が認められない)、これもパートナーシップ制度を入れた自治体では今後改善されていくようになるだろうと思います。

 

5 制度創設を果たした自治体・首長さんの気づき

 

(1)誤解に基づく偏見

 

 パートナーシップ制度を創設することに対しては、「法律婚制度を壊すものだ」とか、「好きでやってることに法的保護を与える必要などない」という反対意見が聞かれます。

 ですが、先に「2」で書きましたように、この制度は法律婚のような法的保護を与えるものではありません。これらの意見は誤解に基づくもので、偏見と言っても差し支えないものでしょう。卑近なところでは、足立区で、公の存在である区議会議員(自民党・白石正輝区議)が、少子化問題にからめて同性愛について「法律で守られると足立区が滅んでしまう」という趣旨の発言をし、差別を助長するものだとして強い批判を浴びました。

 

 確かに、この制度により「家族」と承認されることで、いろいろな社会生活上の不利益をこうむることが回避できる可能性が広がってくるので、「それならば法律婚しなくてもいいか」と考える人が増えてくる可能性も当然あります。しかし、法律上、同性婚が認められていない現在、そもそも同性カップルではそのような「選択」はできません。選択をできない人々に不利益を課すのは理不尽と言えます。また、異性間でも、自分はやはり法律婚がいいという人はまだまだ多数でしょうし、選択的夫婦別姓が認められていないもとでは事実婚がいいという方が増えても、それは社会の意識の変化であって、そのような変化を、不利益を課すことで押さえつけようとすることは、おかしいことだろうと思います。

 

(2)偏見があるからこそそれを解きたいという首長さんたちの思い

 

 上で紹介した反対意見があるからこそ、多様性尊重への理解を広げるためにパートナーシップ制度は必要なんだと考える首長さんたちがいます。

 札幌市では、導入した際に、800件の反対意見が届いたそうですが、そうした強い拒否感を示す人のぶつける言葉にさらされながら生活をしているLGBTQ当事者は日々どんな思いをして、どのように暮らしているのだろうか。そのことを想像し、だからこそこの制度が必要なんだと思ったと担当者の方は述べています。


図6

 

 また、区議が問題発言を発して悪い注目のされ方をした足立区では、自民党、公明党の推薦を受けて当選した近藤やよい区長がパートナーシップ制度を導入しましたが、近藤区長は当初、制度導入は時期尚早ではないかと思っていたが、人格を否定されたりする苦しみの中で生活している人がいるという事実に鈍感だったと率直に述べておられます。

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 差別を受ける人の痛みは、受ける側に立たないとなかなかわからないかもしれません。しかし、そこを想像し、共感し、苦しみを和らげよう、そういう思いが札幌市にも足立区長にも、そしておそらく制度導入をはかったすべての自治体の首長さん、担当者さんたちの中にあったのだろうと想像します。

 

6 立ち遅れる新宿区

 

 ひるがえって新宿区はどうかを見てみると、新宿は、世界でも有名な歓楽街である「歌舞伎町」をかかえ、かつ、テレビでもよくとりあげられる「二丁目」街があります。多くのLGBTQの方々がこの街で働き、遊ぶだけでなく、住んでいます。そういう新宿区であれば、世論をリードすべく、これらの人々の苦難を緩和する施策をとってほしいものだと思います。 

 

 ですが、新宿区をとりまく渋谷区、中野区、豊島区、文京区、港区ではすでに制度創設を果たしているにもかかわらず、新宿区では、区長を筆頭に、議会で質問をされても、制度創設は考えていないと拒否回答を続けています。こういう区の姿勢のもとでは、永遠にパートナーシップ制度の創設はなされないだろうと思わされます。だからこそ、議員提案で条例案が出されました。一般論として制度創設には基本的に賛成だといいながら条例案には反対し、否決する側に加わった公明党の議員さんは、「区長とともに」制度創設をすべきだと主張されていましたが、制度創設を拒み続けている区長とともにと言っていたら、制度創設はしないでいいんだと言うのに等しくならないでしょうか。

 5会派が共同提案した条例案は、「これまでの到達にたって『ベスト』な内容を目指す」としてつくられたもので、①同性カップルだけでなく、異性カップルでも事実婚状態にある方も対象とし、②「パートナー」だけでなく「ファミリー」の承認も含んでおり、③公正証書の作成を不要とするなど余計なハードルを課さない、ものとしていました。この内容で制度化できれば、新宿区はこれまでの遅れを挽回できるのではないかと思います。

 

図8
  
  図9

 
7 改めて制度創設を期待する

 

 新宿区がもたついている間に、札幌では、同性婚を認めない今の制度は憲法違反だとして国に損害賠償を求めて同性カップルの方々が訴えていた訴訟において、札幌地裁が、請求は棄却したものの、次のように述べて、同性婚を認めないことは憲法14条に違反するとの判断を示しました。

 

異性愛者と同性愛者の違いは, 意思によって選択・変更し得ない性的指向の差異でしかなく,いかなる性的指向を有する者であっても,享有し得る法的利益に差異はないといわなければならない。そうであるにもかかわらず,本件規定の下にあっては,同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段が提供されていないのである。そして,上記(3)オ~キで論じたとおり,本件区別取扱いの合理性を検討するに当たって,我が国においては,同性愛者のカップルに対する法的保護に肯定的な国民が増加し,同性愛者と異性愛者との間の区別を解消すべきとする要請が高まりつつあり,諸外国においても性的指向による区別取扱いを解消する要請が高まっている状況があることは考慮すべき事情である一方,同性婚に対する否定的意見や価値観を有する国民が少なからずいることは,同性愛者に対して,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないことを合理的とみるか否かの検討の場面においては,限定的に斟酌すべきものというべきである。

以上のことからすれば,本件規定が,異性愛者に対しては婚姻という制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず,同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは,立法府が広範な立法裁量を有することを前提としても,その裁量権の範囲を超えたものであるといわざるを得ず,本件区別取扱いは,その限度で合理的根拠を欠く差別取扱いに当たると解さざるを得ない。

したがって,本件規定は,上記の限度で憲法14条1項に違反すると認めるのが相当である。

 

 同性婚を法律で承認するかどうかについてはもちろんいろいろな意見があるでしょうし、全国で展開されている同性婚訴訟もこの先どうなっていくかは予断を許しません。法的に、正面から同性婚を認めるまでいくにはまだ時間がかかりそうです。そこに至るまでに、次のような同性婚訴訟原告の方々が訴える悲しみや不利益は続きます。

 

図10

 ですが、今目の前にある不利益を緩和し、社会的に認知された存在として生きやすくする、暮らしやすくするためにパートナーシップ・ファミリーシップ制度を各自治体で設ければ、法律上の権利付与はされなくてもパートナーとして承認されることで、その悲しみや不利益はいくらか緩和されるのではないでしょうか。また、LGBTQ当事者の皆様の世帯を社会を構成する一部として承認することは、以下のいちはやくこの制度を導入した渋谷区における調査に見られるように、社会参加を広げていく一助になるものと確信しています。

図11 (2)
「渋谷区パートナーシップ証明実態調査報告書」(2017年11月5日公表)より

 新宿区が考えを改めて、多様な住民が暮らしやすくするまちにするためにパートナーシップ・ファミリーシップ制度を創設することを改めて求めていきたいと思います。

以上

 

 

 


弁護士の平井哲史です。
今月(202010月)15日に、当事務所からは水口洋介弁護士と私が弁護団に参加していた日本郵便格差是正20条裁判の最高裁判決がありました。同種事件が3件あり、以下引用する最高裁判例集URLでは、判決を東日本・西日本・九州の順に並べています。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/772/089772_hanrei.pdf

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/773/089773_hanrei.pdf

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/771/089771_hanrei.pdf

ず


多くの格差処遇が労働契約法20条に違反した不合理な格差であるかが問われたこの訴訟で、最高裁は、すでに確定していた【住居手当】のほか、審理対象となった【扶養手当】、【年末年始勤務手当】、【年始期間における祝日給】、【有給の夏期冬期休暇】および【有給の病気休暇】のすべてについて、労働者側の主張を認める全面勝訴判決を出しました(夏期冬期手当については損害額の認定のために高裁に差し戻し)。


 \(^o^)/ 

当日の記者会見で、原告の一人が、『時代の扉が動く音がした』と語っておられて、主要な全国紙すべてがこの報道をおこなう中、毎日新聞・朝日新聞・産経新聞などが、この原告の言葉を見出しに使っていました。

私も、今回の判決は、「非正規差別」とも表現される大きな格差を是正し、働く人の所得全体を引き上げる展望を開くものとして、「時代の扉が動く」という言葉をあてたいと思います。

直前に出ていた2つの不当判決

実のところ、この最高裁判決は、不安な気持ちで迎えていました。一つには、原審の判断に対し、労使双方が上告や上告受理申立をおこなっていましたが、会社側の申立をより多く最高裁が受理していたことがあります。しかし、なによりも、この2日前の1013日に、秘書室業務の有期アルバイト職員に賞与や私傷病中の賃金補償がないこと等が問題となった【大阪医科大学事件】と、有期契約社員に退職金が支給されないこと等が問題になった【メトロコマース事件】で、最高裁は、いずれも原告の請求を一部認容していた原判決を覆して、賞与の格差も、退職金の格差も不合理とまではいえないと判断していたからです。

メトロコマース事件最高裁判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/768/089768_hanrei.pdf

大阪医科大学事件最高裁判決
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/767/089767_hanrei.pdf

この両判決において、最高裁は、賞与にしろ、退職金にしろ、正社員としての職務を担う人材の確保・定着をはかる目的のものである旨述べて、契約社員(メトロコマース事件)や、アルバイト職員(大阪医科大学事件)と正社員との職務内容や配置変更の違いをとりあげ、だいぶ近接しているのも使用者における組織編制上の事情によるものとして「その他の事情」として考慮し、賞与も退職金もまったく支給しないことを不合理とまでは認められないとしていました。

<正社員としての職務を担う人材の確保・定着をはかる目的>というフレーズは、前記の日本郵便事件においても会社側が似たようなフレーズを繰り返し用いていました。このため、日本郵便事件においても、問題となっている各手当・休暇について、こんな抽象的な趣旨・目的を認定されたら、原審の判断から後退があるのではないか?と不安にさらされました。

なお、この2つの最高裁判決に対しては、多くのコメントや批判がなされていますが、メトロコマース事件を担当した当事務所の青龍美和子弁護士による記事はコチラです。↓

http://blog.livedoor.jp/tokyolaw/

ハマキョウレックス事件から前に進んだ日本郵便事件判決

フタを開けてみると、日本郵便事件では、各手当や休暇について、<正社員としての・・・・>などという抽象的なフレーズは用いず、個別具体的に各手当や休暇の趣旨・目的が認定され、その趣旨は時給制契約社員にも妥当するとされ、完全勝訴となりました。これは、2年前に「鏑矢」となったハマキョウレックス事件最判(平成3061日・民集第72288頁)をさらに前に進めたものと評価できます。

もともと労働契約法20条は、2009年の政権交代を招くきっかけとなった「派遣切り」により、期間の定めのある労働契約では「ものが言えない」ことにより低劣な労働条件でも受け入れざるを得なくなるという状況が広く、かつ長くあったことが可視化されて、その反省から、旧民主党政権時代の2012年(平成24年)に労働契約法を改正して盛り込まれたものでした。

この労働契約法20条は、正社員と有期契約労働者との労働条件の相違について、「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」と定めていました。

そして、この規定について、ハマキョウレックス事件最判は、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解される。とし、『不合理と認められるもの』とは,「有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう」としていました。そのうえで、同事件最判は、①皆勤手当、②無事故手当、③作業手当、④給食手当、⑤通勤手当、について不合理な格差であると認定しました。

日本郵便事件では、ハマキョウレックス事件では不合理な格差とはされなかった【住居手当】についても、比較対象の正社員も転居を伴う転勤がないことに着目して、不合理な格差と認定し、会社側の上告も受理しませんでした。そして、判断対象となった各手当・休暇については、業務の対価としての性質を有する【年末年始勤務手当】や、【年始期間の祝日給】のほか、【扶養手当】、【夏期冬期休暇】、【病気休暇】についても不合理な格差と認めたことは、ハマキョウレックス事件から大きく前進をさせたものと評価できます。

各手当・休暇についての日本郵便事件最判の判断

各手当・休暇についての日本郵便事件最判の判断を以下に抜粋・引用します。

扶養手当

第1審被告において,郵便の業務を担当する正社員に対して扶養手当が支給されているのは,上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから,その生活保障や福利厚生を図り,扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて,その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。

上記目的に照らせば,本件契約社員についても,扶養親族があり,かつ,相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば,扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべきである。

年末年始勤務手当

郵便業務についての最繁忙期であり,多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において,同業務に従事したことに対し,その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。また,年末年始勤務手当は,正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず,所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり,その支給金額も,実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。

上記のような年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば,これを支給することとした趣旨は,本件契約社員にも妥当するものである。

年始期間における祝日給

年始期間の勤務に対する祝日給は,特別休暇が与えられることとされているにもかかわらず最繁忙期であるために年始期間に勤務したことについて,その代償として,通常の勤務に対する賃金に所定の割増しをしたものを支給することとされたものと解される。

時給制契約社員も、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく,業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている。そうすると,最繁忙期における労働力の確保の観点から,本件契約社員に対して上記特別休暇を付与しないこと自体には理由があるということはできるものの,年始期間における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は,本件契約社員にも妥当するというべきである。

有給の夏期冬期休暇

(国民一般に受け入れられている慣習的な休暇をとる時期に勤務に就くことに対する対価としての性質を有する【夏期冬期休暇】については、時給制契約社員に付与しないことが不合理な格差にあたること自体は問題にならず、それにより損害を被ったと言えるかどうかが争点になっていました。)

第1審原告らは,夏期冬期休暇を与えられなかったことにより,当該所定の 日数につき,本来する必要のなかった勤務をせざるを得なかったものといえるから,上記勤務をしたことによる財産的損害を受けたものということができる。当該 時給制契約社員が無給の休暇を取得したか否かなどは,上記損害の有無の判断を左右するものではない。

有給の病気休暇

第1審被告において,私傷病により勤務することができなくなった郵便の業 務を担当する正社員に対して有給の病気休暇が与えられているのは,上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから,その生活保障を図り,私傷病の療養に専念させることを通じて,その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。

もっとも,上記目的に照らせば,郵便の業務を担当する時給制契約社員についても,相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば,私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当するというべきである。

先行2判決との違いを考える

 この日本郵便事件最判の【有給の病気休暇】部分の判断と、メトロコマース事件および大阪医科大学事件の最判とを比較すると、その違いが浮かび上がると思います。

① 趣旨・目的を具体的にとらえているか否か 

 日本郵便事件最判では、上記で紹介したように、有給の病気休暇は「正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待される」ことに着目しつつも,その目的は「生活保障を図り,私傷病の療養に専念させることを通じて,その継続的な雇用を確保する」ものであると具体的に目的を認定しました。

 これに対し、メトロコマース事件最判は、退職金の目的について、労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものとしつつ、「第1審被告は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給したものといえる」としました。

 また、大阪医科大学事件最判は、賞与について、「正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、第1審被告は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとした」としました。「私傷病による欠勤中の賃金」についても、それは「正職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度である」としました。

 日本郵便事件最判が、正社員が長期の継続勤務が期待されるとしながらも、病気休暇の目的は、療養に専念させることを通じて継続的な雇用を確保するものと具体的な目的を認定したのに対し、後2判決は、退職金と賞与のいずれも、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的」、「正職員の雇用を維持し確保することを前提」としています。これでは、「正社員の確保のための制度だから契約社員には適用がない」という結論を容易に導くことになりかねません。

② 違いに応じた均衡な処遇の観点を持っているか

 次に、日本郵便事件最判では、扶養手当と有給の病気休暇について、「時給制契約社員についても,相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば」、その趣旨は妥当するとしました。日本郵便事件でも、時給制契約社員と正社員とで、まるで同じ職務内容だと認定されたわけではありませんでした。しかし、最高裁は、「相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば」制度を設けた趣旨は妥当するとして、扶養手当も病気休暇もまったく付与していないことは不合理な格差だとしました。

 これに対し、メトロコマース事件、大阪医科大学事件の両方とも、原審において、正社員と同等ではないけれども、正社員と同様の計算方法で算出した退職金の4分の1、正社員の60%程度の賞与をも支給しないことは不合理な格差であるとしていたのを覆し、まったく支給しないことも不合理とは言えないとしました。

 両判決はいずれも事例判決であり、職務内容や配置変更の範囲等の違いの程度が異なる事案ではまた異なる判断もありえます。ですが、正社員と並んで働いている労働者について、賃金の後払いや功労報償の性質も持つとされる退職金や賞与について、まったく支給しないことも不合理ではないとしてしまった両判決は、多くのコメントが指摘するように、<違いに応じた均衡処遇>の観点を欠落させた文字通りの不当判決と言えるでしょう。

 とりわけ、大阪医科大学事件最判については、他の区分の有期契約社員には正社員の80%の賞与が支給されていることとの整合性がつかないし、私傷病による休職中の賃金補償については、有給の病気休暇について不合理な格差と判断した日本郵便事件最判と矛盾するものと言え、不当性が際立ちます。

待遇格差の解消に向けた努力を

 本訴訟をかまえた郵政産業労働者ユニオンhttp://piwu.org/index.html)の皆さんは、早速、最高裁判決に従うこと、そして、判決に沿って原告となった人以外の時給制契約社員の皆さんに、不合理な格差とされた手当・休暇の不付与に対する損害の賠償をすること、不合理な格差処遇の改善をはかること、等を会社に求めています。

報道によると、会社は、最高裁判決を受けて、今後どうするかを大労組(郵政産業労働者ユニオンではない)と協議することにしたとされていますが、その帰結が、本訴訟の地裁判決後になされたように、ごく一部の改善と引き換えに正社員に対する手当の廃止や削減等により格差を縮めようとするいわゆる「悪平等」では、時給制契約社員のみなさんの待遇改善には結びつきません。むしろ格差のある処遇を固定化させようとするものとも言えます。ですので、しっかりと時給制契約社員の待遇改善を肝として協議に臨んでいただきたいなと思います。

本訴訟の原告は計12名(うち組合員11名)、後続する同種訴訟(第2陣)の原告は約160名(原告団・弁護団は全国7地域で組織され、東京弁護団には、当事務所から私と水口弁護士、そして平井康太弁護士も参加しています。)であり、日本郵便で働く非正規社員約18万人のごく一部です。しかし、この判決に沿って待遇格差の改善がはかられれば、その社会的影響力は著大と言えます。

毎年、時給制契約社員の賃金UP等の交渉は苦労していますが、住居手当は最大月額27000円、扶養手当は配偶者と子一人で15000円ほどですから、両手当の支給対象となる時給制契約社員の方は月額4万円以上の賃上げと同様になります(もっとも、この裁判中に、転居を伴う転勤のない正社員にも住居手当が支給されなくなったため、住居手当は過去分のみの是正となりますが。)。また、私が担当した東日本訴訟原告の宇田川朝史さんがいつも強調していたことですが、有給の病気休暇が認められれば、その分有休をあてることをしなくてすみますし、療養が長期化する場合に、泣く泣く退職したり、それを避けようとして無理して出勤をして体を壊して退職を余儀なくされたりといったことが少なくなるでしょう。

こうした格差是正は、時給制契約社員の手取りを増やし、その生活を安定化させるだけでなく、給料が増えた分、それが消費に回ることで地域の経済に役立つうえ、会社にとっても良質の労働力を確保することにつながります。そうした大きな観点で、今後も取り組みを進めていきたいと思います。また、全国の他の「20条裁判」がさらに広がり、待遇格差の是正がいっそう進むことを願ってやみません。そして、野党において賞与や退職金の不支給を是正する立法措置を検討することが報道されていましたが、政治部門が、不当判決を乗り越えて、格差是正を後押しするような政策措置をとっていただくことを強く期待したいと思います。

以上


 弁護士の平井哲史です。緊急事態宣言が解除されたのも束の間、東京では1週間の新規感染者増が100名を超え、「もう第2波が来るのか?」と気が気でならない方も少なくないかもしれません。

 外出自粛要請が続くなか、なんとか皆さん頑張ってこられましたが、対策も支援策も後手に回った結果、ここへきて倒産件数の増大がニュースになるようになっています。

 

 私たちの事務所にも、「解雇された」、「雇止めをされた」、「シフトを減らされた」といった雇用にかかわる相談や、「正社員は給与保障で自宅待機なのに、バイトやパートは出てくるよう指示される」といった格差処遇に関する相談など、いろいろな相談が寄せられています。

 相談を受けていて、これは広く知ってほしいなと思うことを書いてみたいと思います。

 

1、「助成金の積極活用を」

――助成金等を活用しない解雇には解雇回避努力は認められない

 

●助成金等を活用しない焦った解雇が起きている

 

 まず、休業要請が出されていた業種などではやはり雇用にかかる問題が起きていますが、「これは問題だな」と思うのは、「雇用調整助成金」や「緊急雇用安定助成金」(※)などの使用者の経費負担を軽減して事業の存続をはかろうとする助成金や、「持続化給付金」(※※)の申請をすることなく、焦って解雇等に踏み切っているケースです。都内のあるタクシー会社が話題になりましたが、それ以外にも外資系のファッションブランドのショップやある大手ホテルなどでも起きています。

 ※厚労省のサイトをご参照↓

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html

 

 ※※経産省のサイトをご参照↓

 https://www.meti.go.jp/covid-19/jizokuka-kyufukin.html

 

●合理的理由のない解雇は違法

 

 こうしたケースでは、売上の減少を理由としていますが、こうした経営上の理由による解雇や雇止めの場合、人員削減の必要性や解雇回避努力、人選や解雇等に至る手続が相当であるか、といったことを考慮し、客観的に合理的であると認められなければ、法的には有効となりません(※)。つまり、裁判になると使用者側が敗訴になります。

※ 整理解雇の法理。厚労省のサイトご参照↓

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/keiyakushuryo_rule.html

 

 コロナウイルスの影響で売上が極端に落ちたのだから合理性はあるでしょうという見方もありますが、即断は禁物です。実際には個々の裁判ごとに判断は変わりえますが、政府がわざわざ助成金をいくつも設け、あるいは枠を拡大して支援策を用意しているのに、これを利用せずに解雇等に踏み切れば、解雇回避努力が不十分との評価を受けるでしょう。

 

●雇用調整助成金の活用で解雇は回避できる

 

 少し具体的に見てみますと、仮に100人の労働者をかかえるホテルで、仕事が減ってしまったので、1か月自宅待機(休業)してもらうことにし、給与月額の60%の休業手当を支払うことにしたとします。中小企業ですと。この支払った休業手当の90%までは雇用調整助成金が出ます(今の国会で補正予算が成立すれば1日の上限額が1万5000円まで上がる見込み。)。労働者の給与が一人平均で30万円だとすると、休業手当は概算で18万円/人になります。その90%を雇用調整助成金でまかなえると、1万8000円/人が使用者自身の負担分となります。100人だと180万円になります。そして、中小企業ですと、持続化給付金は200万円出ますので、おおざっぱにいえば、雇用調整助成金と持続化給付金で100人の労働者の休業手当1か月分がまかなえる計算となります。これならば、売上が大きく落ちたとしても解雇までする必要はまずないでしょう。

 

 ですので、使用者の皆様にはぜひ積極的に助成金を活用し、雇用を維持できるよう頑張っていただきたいなと思いますし、労働者の皆様は、「コロナで売上落ちたからしょうがない。」とあきらめないで相談にきていただければと思います。

 

●小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇について

 

 なお余談ですが、保育園から小学校まで(まとめて「小学校等」と言います。)の小さいお子さんのいるご家庭では、小学校等が臨時休校になると、お子さんだけを家においておくわけにいかず、共働き家庭ですと、夫婦のどちらかが仕事を休まざるを得ないのが一般かと思います。

 そうしたときに、「仕事に出てこらないなら辞めてくれ」と無体なことを言う使用者は少ないだろうとは思いますが、小さい子を抱える共働き家庭の労働者に安心して休んでもらえるようにする助成金があります。厚生労働省の事業で、「新型コロナウイルス感染症に係る小学校等の臨時休業等に伴う保護者の休暇取得支援(新たな助成金制度)」(※)がそれですが、臨時休校(休園)に際して仕事を休まざるを得ない労働者に有給の特別休暇を付与する使用者にはその給与分100%を助成するというものです。こういう制度もありますので、使用者は簡単に辞めさせることを考えず、労働者は、あきらめて仕事を辞めてしまうことのないよう頑張っていただければと思います。

※厚労省のサイトをご参照

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07_00002.html

 

2、「よくわからずにサインするのは『ちょっと待った~』」

 ――サインする前に相談を

 

●退職届を出させるケースが頻発

 

 次に、今の情勢下でなくても起きていることですが、解雇や雇止めをするときに、リップサービスで「状況がよくなったらまた雇うからね。」と言われることがあります。ニュースにもなった某タクシー会社もこのケースでした。この場合に、解雇や雇止めであれば、離職票では「事業主都合」での離職となり、失業給付は待期期間なしにもらえるようになるのですが、中には、リップサービスとともに、「退職届」や「退職合意書」を渡して、「これにサインして」と言うケースがあります。

 

●退職届を出してしまうと争うのは困難

 

 しかし、これ簡単に応じてしまうと後で大変なことになりかねません。

 というのも、解雇や雇止めであれば、後で冷静になって考えたときに、「やはり納得できない」と思えば、「解雇(あるいは雇止め)は無効だ!」と言って裁判で争うことはできますが、退職届や退職合意書を出してしまうと、「自分の意思で辞めたんでしょ。解雇じゃないから争えないよ。」とされてしまいます(厳密には、真意に基づくものではなかったと言って争う道もあるのですが、裁判所はその主張は簡単には採用しません。私も辞表を書かされた方の依頼で退職届の効力を争った裁判をやって煮え湯を飲まされたことがあります。)。

しかも「退職届」だと、自己都合退職扱いにされてしまいますから、失業給付をもらうのにも3か月の待期期間を設けられてしまいます。

 

●絶対にその場でサインはしない!

 

 ですから、「辞めてくれ」と言われたときには、たとえ「しょうがないかな。」と内心思ったとしても、その場でサインすることはせずに、サインしちゃっても大丈夫か相談してからにするようにしていただければと思います。まじめに提案をしている使用者であれば、持ち帰って検討したいと言うのを制してその場で書いてなどとは決して言わないはずです。何が何でもその場で書かせようとするのは何か後ろめたいことがあると思ったほうがよいでしょう。

 

3、「シフト削減は使用者の都合になります」

 ――休業手当は払い(もらい)ましょう

 

 よく飲食店勤務の方で、「シフトが減らされた」と言うのを聞きます。マクドナルドのようにデリバリーでやれるところはよいのですが、そうでないところは本当に来客が減ったため大変です。

 こうしたところでは、バイトやパートの方のシフトを減らすことが普通におこなわれていますが、中にはその削減したシフトの時間分給与をまるまる支払わないというところがあったりします。

 ですが、「休業手当」はきちんと払い(もらい)ましょう。

 

 たとえば、通常、週4日、6時間勤務でシフトに入っているところを、週2日にシフトが減らされた場合、その使用者の都合で減らしたシフト時間については、コロナウイルスの影響による顧客の減少が原因ですから、使用者に全責任があるわけではないとしても、休業手当の支払いを定めた労働基準法26条の言う「使用者の責に帰すべき事由」にあたります。このため、その減った時間分の休業手当は支払われなければなりません。(使用者は、売上が減ったために解雇や雇止めの代わりにシフトを減らしたのであれば、雇用調整助成金の申請をできるでしょう。)

 

 「バイトはシフトで決めた時間だけ働くのだから、シフトに入っていない時間については給料を払う必要はない」と考える使用者が少なからずおられますが、そうやって開き直って休業手当の支払いを拒むと労働基準法違反となります。働いている皆様のほうでは、「シフトに入ってないから給料はもらえない。」と誤解して給料をもらい損ねないようご注意を。

 

4、「店に出ていてコロナに感染したら労災になります」

 

 店舗勤務で不特定多数の人と接する機会の多い方は、特に医療や介護従事者の方は、「いつ誰から感染するかわからない」という恐怖とたたかいながら日々勤務されておられると想像します。もし感染してしまった場合、自身が入院や、そこまで至らずとも隔離されて治療を受けることになります。当然、出勤は停止となります。この場合、有給の病気休暇制度が用意されている職場であればともかく、そうでなければ欠勤扱いとなってしまい、治療費は自己負担で、給料もカットされてしまうのか?ということが心配になります。

 

 ですが、医療や介護従事者は業務外で感染したことが明らかでないかぎりは業務上感染したものと扱われ、労災となります。それ以外の労働者でも、勤務中に感染者と濃厚接触したことが判明した場合のほか、感染経路が不明でも不特定多数と接する職場においてコロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染者との濃厚接触があったことがなければ労災として認定を受けやすいでしょう(※)。今のところ、申請例は少ないようですが、申請があったものはすべて労災認定を受けているようです。

 ですので、コロナウイルスに感染してしまい、しばらく休業をせざるを得なくなった方は労災申請の相談をなさってみるとよいかと思います。

 

※厚労省のQ&Aご参照↓

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00018.html#Q5-3

 

☆ここにあげなかったものも含めて日本労働弁護団が想定される様々な疑問に答えるQ&Aを公表していますので、そちらもご参照ください。

http://roudou-bengodan.org/covid_19/

 

1、労働集団訴訟を全国7地裁に提訴

 

  弁護士の平井哲史です。久々の投稿となりました。

  2月14日(金)、郵便局で働く非正規労働者(「時給制契約社員」と言います。)57人が、東京地裁に正社員との待遇格差は違法として損害賠償請求訴訟を提起しました。

  すでに先行報道がされていたのでご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、同種訴訟を北から順に、北海道、東京、大阪、広島、高知、福岡、長崎の7地裁に提起しています。

 (関西テレビがいちはやく報じてくれました。↓)

https://www.fnn.jp/posts/2020021412114106KTV 

  原告は、北海道・岩手・千葉・埼玉・東京・神奈川・静岡・愛知・大阪・京都・兵庫・広島・岡山・高知・福岡・長崎と、全国から154人。弁護団は約50名。労働訴訟としては、これだけの規模のものは、(記憶の限りですが)国鉄の分割民営化の際に国鉄労働組合員らが受けたJRへの採用差別、社会保険庁の解体・民間委託の際に年金機構に採用されなかった方々の分限免職裁判に次いで3例目かと思われます。待遇格差の是正を求めるものとしては全国規模のものは初かと思います。この点、212年に労働契約法が改正され、不合理な待遇格差が禁じられるようになるという法改正が果たされたことが追い風になったと言えるでしょう。

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2、郵政職場における時給制契約社員と正社員との待遇格差

 

  郵政職場に働く時給制契約社員は、社員全体の約半数で、およそ19万人。集配業務においても局内での郵便物の仕分けをする内務の業務でも、正社員と同じくシフト勤務で、労働時間数も正社員同様にフルタイムの人も多く、業務内容も責任も正社員の管理者を除けばほぼ同じと言ってよいでしょう。実際、郵便局員の方にお会いしても、正社員なのか時給制契約社員なのか見分けはつきません。

  それにもかかわらず、待遇面では、月額基本給で差があるだけでなく(時給制契約社員の月額給与のうち基本給は地域最賃の数十円上で固定されています。)、次のような大きな格差があります。

  まず、住居手当扶養手当年末年始勤務手当、祝日に勤務した際の割増手当となる祝日給寒冷地手当など正社員には支給されている各手当がまったくありませんでした。

  また、正社員には整備されている最大で90日ある有給の病気休暇や夏冬各3日ある夏期冬期休暇もありませんでした。

  賞与は、多くの企業において、月額給与の何か月分かという形で計算・支給しているところが多いと思いますが、郵政職場の時給制契約社員は、月額基本給ですでに正社員と差がある上に、賞与計算において、一律に「0.3」という乗率をかけられており、金額で比較すると正社員と数倍から、多いと10倍以上の差が出ています。

  「こんな格差はないだろう」というのが原告らの訴えです。

 

3、待遇格差の是正を求める先行訴訟

 

  このような「待遇差別」と言えるほどの大きな格差をなんとかしようと、郵政産業労働者ユニオンが組合員の中から代表となって裁判をたたかう原告を担ぎ、2016年5月に先行訴訟を提起しました。この訴訟は東京と大阪の2か所でたたかわれ、現在最高裁にかかっています。それぞれの訴訟で判決が認めた不合理な格差は組合作成の下表のとおりです。

表

  この訴訟で、住居手当、扶養手当、年末年始勤務手当、夏期冬期休暇、病気休暇について不合理な格差だと一部勝訴の認定を受けて、組合は、原告および組合員だけでなく、すべての時給制契約社員について早期に待遇格差を改善するよう会社に求めました。

  しかし、会社は、裁判を継続している最中に、①地裁で敗訴していた住居手当について、正社員(新一般職)にも段階的に支給しないようにし、②年末手当を廃止して年始手当について時給制契約社員にも正社員の8割支給するようにする、③無給の病気休暇の日数を増やすなど、敗訴が確定しても「傷が浅くなる」ような労働条件の変更を最大労組と労働協約で定め、郵政産業労働者ユニオンなど最大労組に加入していない労働者にも就業規則を変更して適用するようにしました。

 

4、早期に法の趣旨にのっとった待遇改善を

 

  昨年、「働き方改革関連法」の一環で、正社員との不合理な待遇格差を禁じた労働契約法20条やパート労働法8条などがまとめられてパートタイム・有期雇用労働法」ができました。この8条において、パートや有期など雇用形態の違いにかかわらず、職務内容や配置変更の範囲などを考慮し、個々の待遇ごとに、待遇の性質・目的に照らして、不合理な格差があってはならないとされました。

  そして、何をもって不合理な格差となるのかはケース・バイ・ケースの判断となりますが、厚生労働省が「同一労働同一賃金ガイドライン」というのを発表しています。そこにおいては、地域手当や通勤手当、業務の対価としての性質を持つ各種手当や、福利厚生としての転勤者用社宅の利用や病気休暇はじめ各種休暇が不合理な格差をつけてはならない例としてあげられるほか、賞与についても、企業の業績等への貢献に応じて支払われる場合には、労働者の貢献の違いに応じた支給をしなければならない、と書いています。ですので、ほぼ同様の仕事をしていながら、賞与について、個々人の貢献割合と関係なく、有期雇用というだけで一律に「0.3」という乗率をかけるような、被告会社における賞与計算の仕方は不合理な格差と認定されるべきでしょう。

  被告会社は、本訴訟で問題としてとりあげている寒冷地手当についても、この先、正社員について廃止することを考えていますが、こうした正社員の待遇を引き下げる形での「悪平等」は望ましい対応とは言えないと厚生労働省はしています。

  約19万人もの有期契約労働者を雇用する日本郵便が率先して、有期契約労働者の待遇を引き上げて格差の解消をはかることは、少なからず他の産業にも影響を与えるでしょうし、待遇が改善された労働者の定着率の向上につながるほか、当該労働者が居住する地域にも消費という形でお金が循環することになろうかと思います。

 裁判は、そろそろ先行訴訟の最高裁判決も出ることが予想されるため、速やかに決着をはかりたいと思いますが、大きな変更を迫ることになるものですから、簡単には進まないでしょう。会社が早期に法の趣旨にのっとって時給制契約社員の待遇を抜本的に改善する英断を下すことを望みます。

 組合としては、組合員を増やしながら、裁判を進めていこうとしていますが、郵便局員の方と話をする機会がありましたら、その方が原告かどうかはわかりませんが、「裁判頑張ってね」と声をかけていただければありがたいです。

  なお、当事務所からは、水口洋介弁護士、平井康太弁護士、そして私が東京訴訟弁護団に参加しております。

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