東京法律事務所blog

カテゴリ: 平井康太

 弁護士の平井康太です。

 

 前回の記事では、「働き方改革」一括法案に含まれている高度プロフェッショナル制度が導入されてしまうと、年収要件が次第に下げられてしまい、制度の適用対象が拡大することを書きました(※①)

 

※① アメリカでは年収254万円で適用!? 高度プロフェッショナル制度があなたに襲い掛かる日がやってくる!?

 

 今回は、高度プロフェッショナル制度(以下「高プロ」といいます)の本質的な部分、つまり、高プロが適用されて労働時間規制の保護を失うことによる弊害・危険性を伝えたいと思います。

 

 前回の記事でも指摘しましたが、高度プロは、アメリカのホワイトカラーエグゼンプション(以下「エグゼンプション」といいます)を元にしており、アメリカのエグゼンプションと同様、労働時間規制の保護を失うという労働者にはデメリットしかない制度です。

 

 このような高プロが日本に導入されて、労働者に適用されてしまうと、労働者の働き方はどうなってしまうのでしょうか。既に同様の制度を長年に渡って適用してきたアメリカの状況を見てみましょう。

 

 

エグゼンプションの適用で長時間労働が増加

 アメリカでは、エグゼンプションの適用がある人は、適用のない人に比べて、実際の労働時間が長く、しかも、過労死ライン(月80時間以上の残業)で労働する人が3倍も多いと推定するデータが報告されています(※②)。

 

 そのデータを表に直すと以下のとおりです。

 

1週間の労働時間

エグゼンプション適用なし

エグゼンプション適用あり

比率

①週40時間超え~週50時間未満

(0時間<月の残業<40時間)

14%

29%

約2.07

②週50時間超え~週60時間未満

(40時間<月の残業<80時間)

4%

12%

3倍

③週60時間以上

(80時間<月の残業)

※過労死ライン超え

1%

3%

3倍

④合計

19%

44%

2.31

 

※② United States General Accounting Office(GAO) "FAIR LABORSTANDARDS ACT White-Collar Exemptions in the Modern Work Place" 1999年)12頁。米国上院に提出された報告書。なお、GAO20047月にGovernment Accountability Office(政府説明責任局)に改称された。報告書は次のリンクで入手が可能。 https://www.gao.gov/archive/1999/he99164.pdf

 

            

 アメリカも日本と同じく、週40時間の労働が原則となるため、週40時間を超える時間が残業となります。

 

 そのため、表の③に記載した週60時間以上の労働をする場合、週20時間の残業をしていることになります。週20時間の残業を1月を4週間として月に換算すると、月に80時間以上の残業をすることになり、過労死ライン(月80時間以上)を超えることになります。

 

 そして、表の③をご覧いただくと分かりますが、月に80時間以上の残業をする人は、エグゼンプションの適用がない場合は1%であるのに対して、エグゼンプションの適用がある場合は3%と、3倍になっています。エグゼンプションの適用があると過労死の危険にさらされる割合が3倍に増える訳です。危険すぎる・・・

 

 エグゼンプションの適用のない場合よりも、エグゼンプションの適用がある場合の方が長時間労働をしている割合が高いという傾向は過労死ラインにとどまりません。

 

 表の①は、「月0時間より多く月40時間未満の残業をしている場合」ですが、エグゼンプションの適用のない場合(14)よりも、エグゼンプションの適用のある場合(29)の方が、上記残業をしている割合が約2.07倍も高くなっています。

 

 表の②は、「月40時間より多く月80時間未満の残業をしている場合」ですが、エグゼンプションの適用のない場合(4)よりも、エグゼンプションの適用のある場合(12)の方が、上記残業をしている割合が。3倍も高いことが分かります。

 

 残業全体で見れば、表の④にあるとおり、エグゼンプションの適用がない場合(19)よりも、エグゼンプションの適用がある場合(44)の方が、残業をしている割合が約2.31倍も高くなっています。

 

 

高プロは長時間労働を蔓延させる

 以上のように、エグゼンプションの適用があると全体的に長時間労働する人の割合が高くなっています。

 

 高プロが適用されると、「労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定」が適用されなくなり、使用者は労働者を休憩なしに24時間働かせることができてしまいます。それも最大24日間連続です(※③)

 

※③ 高プロでは4週間(28日間)を通じて4日の休日を与えることが要求されているが、28日間のうち休日をいつ与えるかは定められていないため、24日連続勤務ということが可能になってしまう。

 

 このような高プロが、エグゼンプションと異なり長時間労働を招かないとする理由はありません。高プロが導入されてしまうと、エグゼンプションと同様に、長時間労働が日本でさらに蔓延することになるでしょう。

 

 過労死ライン超えを3倍も増加させかねない高プロは、働く人の健康、命を奪う現実的な危険性を抱えています。

 

 高プロは、「多様な働き方を実現させる」制度ではなく、「多様な働き手を危険にさらす」制度です。

 

 過労死を繰り返してきた日本で、過労死を増加させる高プロを導入してはなりません。

 

 

私たちにできること

 このような危険すぎる高プロを含んだ「働き方改革」一括法案は、5月18日か23日に強行採決されるおそれがあります(※④)

 

※④高度プロフェッショナル制度、連休明け強行採決の危機!!

 

 強行採決を防ぐためには、私たちが高プロに反対の意思を表明することが必要です。

 

 高プロに反対の意思を表明する方法として、2つ紹介します。

 

(1)「働き方改革」一括法案の強行採決に反対するネット署名

 ネット署名は、日本労働弁護団で現在準備しており、週明け(5月14日)には署名が可能になる予定です。準備が整い次第、この記事にもリンクを貼りますので、宜しくお願いします。

 

署名準備できました!こちらです→https://www.change.org/p/過労死を助長する高度プロフェッショナル制度の強行採決を阻止しよう

 

(2) 522日・日本労働弁護団主催の日比谷野音集会

 高プロに反対し、労働法制の強化を求め、働く人が大切にされる社会を実現するための集会を行います。是非とも参加をお願いします。

 

 札幌・名古屋・大阪・福岡の集会とも中継しますので、日本全体で高プロ反対の意思を明確にしましょう。
0522yaon1

 力を合わせて高プロの導入を止め、働く人が本当に大切にされる労働法制を求めていきましょう。

 
 弁護士の平井康太です。

 先ほどLabor Notes Conferenceの参加報告を書きました()が、働き方改革一括法案で問題となっている高度プロフェッショナル制度(以下「高プロ」と言います)のことにも、少しだけ触れておきたいと思います。

 Labor Notes Conferenceでアメリカの労働弁護士(労働者のために活動する弁護士のこと)と日本労働弁護団の弁護士で交流会をして、一瞬だけ高プロの話題が出ました。一瞬でしたが、労働問題を熟知している業界人以外にはインパクトがあると思います。


 その話題に触れる前に、高プロがどのような制度か一度簡単に確認しておきましょう。 

1 高プロは労働者にデメリットしかない危険な制度

現在国会に法案として提出されている労基法41条の2が高プロのことです。高プロは時間ではなく成果で評価することを実現する制度などと言う人がいますが、この条文には、時間ではなく成果で評価されるということは一切記載されていません。この条文が適用された場合の効果として記載されているのは、「労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない。」ということだけです。

 

高プロは、労働者にとって、労働時間規制による保護を失うだけで、法律上何らのメリットも約束されていません。法律上のメリットを受けるのは使用者だけなのです。

 労働基準法は労働者を守るための最低基準を定めた法律です。その労働基準法について、使用者だけにメリットがある(労働者にはデメリットしかない)改正が行われようとしているということです。

 まずは、高プロは労働者にデメリットしかない危険な制度であるということを確認しておきましょう。
 
 それでも、「高プロが適用されるのは1075万円の年収がある人でしょ。多くの人は関係ないじゃん」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
 
 しかし、高プロの元になっているアメリカのホワイトカラーエグゼンプションという制度では、とんでもないことになっています。

2 アメリカでは年収254万円で適用されてしまう

 アメリカの労働弁護士との交流会に話を戻しますが、私たちは、アメリカの労働弁護士に対して、アメリカのホワイトカラーエグゼンプション(労働時間規制が適用除外となる制度)と同様の制度である高プロが日本で導入されるおそれがあり、年収要件が1075万円となる見込みであると伝えました。

 すると、アメリカの労働弁護士は、アメリカのホワイトカラーエグゼンプションは日本円にして年収260万円程度で労働者に適用されていると言っていました。・・・あまりに低額・・・私の聞き間違いでしょと皆さん思いますよね。

 

そこで、日本に帰った後にホワイトカラーエグゼンプションが適用される報酬額を調べてみると、やはり、週当たり455ドル以上・年収2万3660ドル以上で足りることが分かりました(※①)

 

※①「労働政策の展望 ホワイトカラー・エグゼンプションの日本企業への適合可能性」笹島芳雄・独立行政法人 労働政策研究・研修機構

  http://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2016/05/tenbou.html

 

2万3660ドルを、例えば、1ドル=107.65円(平成30年4月22日)で日本円に換算すると、254万6999円となります。

 

なんとアメリカでは年収が254万円程度で労働時間規制の保護がなくなってしまいます。

 

以前、オバマ政権がホワイトカラーエグゼンプションの年収要件の引き上げを図ろうとしていたようですが、トランプ政権になって難航しており、当初予定していた引き上げ額よりも低く、年収3万3660ドル(日本円で362万3499円)以上で適用されてしまう見込みのようです(※②)

 

※②「ホワイトカラー・エグザンプション―年収33660ドルで決着か」山崎 憲・独立行政法人 労働政策研究・研修機構

  http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2018/03/usa_02.html

 

日本においても、日本版ホワイトカラーエグゼンプションである高プロが導入されてしまうと、年収要件が1075万円からどんどん引き下げられて大勢の労働者に適用されるのではないかと危惧されています。
 
 アメリカで実際に年収254万円程度の労働者に適用され続けてきて、やっと適用される年収が引き上げられそうになったと思えば年収362万円にすぎないこと知ると、日本で年収要件が引き下げられるという危惧感は、より一層現実的なものに感じられます。

 

先ほど書いたように、高プロは、労働者にとって、労働時間規制による保護を失うだけで、法律上何らのメリットも約束されていません。法律上のメリットを受けるのは使用者だけです。そんな美味しい制度の適用を年収要件1075万円以上で使用者が満足するとは思えません。使用者が「アメリカではあんなに年収が低くても適用できるのだから、日本でももっと引き下げるべきだ」と言い出すのが目に浮かびます。

 最初の年収要件が1075万円だとしても、高プロがあなたに襲い掛かる日がやってくる可能性が十分にあります。


 Labor Notes Conferenceの記事ではアメリカの労働運動の良いところを書きましたが、何でもアメリカの真似をすれば良いということではありません。日本に適した形でアメリカの「良いところ」を学びましょう。

 

 高プロは導入すべきではありません。


 弁護士の平井康太です。

 シカゴで2年に1度開催されるLabor Notes Conference(4月6日~8日)に参加してきました。

 弊所の菅俊治弁護士、青龍美和子弁護士、岸朋弘弁護士も参加して、日本参加団としては合計28人の労働組合員・学者・弁護士で行ってきました。


 4人で記念撮影
  シカゴで撮影。時差ボケでかえってハイテンション。左から、私、岸(朋)弁護士、青龍弁護士、菅弁護士。


 Labor Notes Conferencenに参加した率直な感想として、すごかったです!



1 Labor Notesとは何か

 「Labor Notes」が何かについては、いろんな説明がされていますが、労働運動に本当の運動を取り戻そうとしてきた活動家たちの本拠地であり、労働運動に取り組む人たちの草の根のネットワークであるという説明が個人的にしっくりきています。

 Labor Notesについて詳しく知りたい方は、全部英語なのが辛いところですが、ホームページ(http://labornotes.org/2018)か、ホームページで入手できるLabor Notes Conferenceの冊子(以下単に「冊子」と言います。)をご覧ください。冊子は以下のリンクです。
https://labornotes.org/sites/default/files/2018LaborNotesConferenceScheduleUpdated.pdf

 特に、冊子は労働運動に関心のある方はご覧になった方が良いと思います。自分で言うのも変ですが、時間のない方は、私のブログの記事を読むよりも、冊子を読んだ方が絶対に良いです(おすすめは、ワークショップの内容が書かれている18~39頁。様々な工夫をして労働運動を効果的に実践しようとしていることが分かります)。
 


2 Labor Notes Conference

(1) 参加者が3000人以上

 労働運動に取り組む組合員や弁護士などが3000人以上集まりました。
 全体が参加するメインセッションでは、演説の中でコールが行われるなど盛り上がりがすごかったです。

 演説している人が「When we fight」と言ったら、会場のみんなで「We win!」と言う。これをリズム良く繰り返していくコールはとても迫力がありました。

 会場で合唱が始まることも何度かありました。

合唱用写真
 ウエストヴァージニア州の教師の方の演説の後、会場で「Take Me Home, Country Road」を合唱。



(2) ワークショップなどが180個以上でテーマも多彩

 ワークショップ(分科会)やミーティングが3日間で9回行われ、合計で184個も開催されました。一番多いときには同時に42個もワークショップが行われるというちょっともったいない時間帯もありました。

 ワークショップのテーマが多彩なことにも驚きました。

 例えば、仲間を増やすこと(組織化)をどのように行うのかというテーマだけでも、無関心に打ち勝つにはどうするのか、組織化のためのデータベースの作り方、人種差別・性差別を乗り越えて行う組織化、組織化のための聞く技術など多くの種類があります。

 交渉や労働協約をテーマにしたものでも、交渉で勝つ方法、非正規労働者と協力する交渉、団体交渉以外の交渉、執行部だけでなく一般の組合員に開かれた団交などあります。

 食品関係、郵便関係、ジャーナリスト関係など、個別の産業に特化したテーマもあります。

 他にも、上司をどのように扱うのか、セクハラをなくすにはどうするのか、ソーシャルメディアをどのように使うのか、最近大規模ストライキを行っていたウエストヴァージニア州の教師たちの話、国際的な連帯など多彩なテーマを扱っています。

 是非、冊子の15~39頁を見てみて下さい!皆さんの関心のあるテーマがきっとあるはずです。15~17がテーマ別に書かれた一覧表で、18~39頁でそれぞれのワークショップなどの内容が説明されています。


(3) ワークショップの多くが参加型
 
 日本の講演や分科会で多いのは、講演者の話をひたすら聴くというパターンが多い気がしますが、Labor Notes Conferenceでは参加型が多かったです。


 例えば、私が参加したLISTENING:OUR SHARPEST TOOL FOR ORGANIZINGというワークショップは、「聴くこと」をテーマに行われていたこともあり、会場の中で実際に会場の全員がペアを作って聞く練習を行いました。


 他のワークショップでも、ポイントとなるところはファシリテーター(司会・進行係)が話をしますが、会場の中にいる個人の経験から学ぶという姿勢が強かったのが印象的です。個々の組合員のこれまでうまくいった経験やうまくいかなかった経験などを話してもらい、経験をみんなで共有しようとしていました。

 

Beating Apathy
 「無関心に打ち勝つ」というワークショップ。参加型で大勢の人が部屋を移動して、互いの経験を語り合う。中央からやや右の緑のシャツを着ている人がファシリテーターの一人



 Labor Notesは労働運動に運動を取り戻すことを理念としているため、このような一参加者同士が交流し、一参加者の経験から学ぶことを重視しているのだと思われます。

 
 参加したワークショップの具体的内容は他で報告を書く予定ですので、今回は省略で・・・


(4) 労働組合同士の活発な交流が伺える

 冊子の18~39頁に記載のある個々のワークショップの欄に、ワークショップの主催者の名前と主催者の所属組合などが書いてあります。それを見ると、多くのワークショップで所属組合が異なる人たちが一緒に主催していることが分かります。
 
 実際、それぞれのワークショップが複数人で進行されていました。

 異なる労働組合同士であっても、互いの経験を持ち寄ってより良い労働運動を実現しようとしていることが感じられます。
 
 会場にあった垂れ幕に、参加者が寄せ書きや組合のバッチなどを付けて行くのも良いなと思いました。

trouble の垂れ幕
 写真中の「TROUBULE」・・・良い意味で使われています。人と協力して何かを行おうとする人は経営者などから「Troublemaker」というレッテルを貼られていますが、優れたオルガナイザーはこれまで同様のレッテルを貼られてきたことから、Labor Notesでは「Troublemaker」と呼ばれることに誇りを持とうと呼びかけています



3 アメリカの労働弁護士との交流
 
米弁護士との交流
  米の労働弁護士と日本労働弁護団の交流会のときの記念撮影。


 Labor Notes Conferenceでアメリカの労働弁護士(労働者のために活動する弁護士のこと)と交流会を行いました。交流会で印象的であったのは、アメリカの労働弁護士は組合の中にいるということです。特定の労働組合の中にいるため、労働組合の執行部の会議にも弁護士が参加して、一緒に作戦を練っていると言っていました。

 日本の弁護士も労働組合の顧問になっている場合がありますが、ここまでやっている人はそれほどいないでしょう。

 日本でも、事件が起きていないときにも弁護士が労働組合と交流をして、労働組合や職場の中で何が起きているのかを知り、意見を交換しておくことが、無益な紛争の予防や労働条件の改善に向けた取り組みに役立つ可能性があります。現在の弁護士と労働組合の関係性を変えた方がよいのか、このままの方が良いのか・・・より良い関係性を築くためにも、弁護士と組合員の方が腹を割って話し合ってみるのが良いかもしれません。



4 日本参加団の報告
 日本参加団でも「ACTION IN THE JAPANESE LABOR MOVEMENT」というタイトルのワークショップを行い、弊所の青龍弁護士も日本参加団の一人として日本の非正規労働者の問題を報告しました。魅力的なワークショップが他にもたくさんある中で参加してくれて、日本の労働問題に関心のある方が一定数いることが分かって良かったです。
 
報告準備中の青龍先生
 報告の準備をする青龍弁護士


 青龍先生 報告
  報告する青龍弁護士。



5 アジアの交流~来年は日本でアジア版Labor Notes!?~

 Labor Notes Conferenceでは、アジアから来ている労働組合の方や、アメリカからアジアの労働者をサポートしている方、アジアの労働問題に興味のある方などと交流するミーティング(ASIA REGIONAL AND ASIAN-AMERICAN INTEREST MEETING)も行われました。


 ある方に、「日本ではどれくらい海外の労働運動が報道されているのか」ということを聞かれました。
 
 最初はどのような意図で聞かれているのかよく分からなかったのが恥ずかしいのですが、質問の意図は、互いの労働運動を支え合うには、まずは互いの労働運動の状況を知れることが必要だというものでした。
 
 この方は、今回をきっかけとして情報交換を今後も行うためにみんなの連絡先を交換しようと話していました。一度会った者同士、今後も交流を続けようという積極的な姿勢が印象的でした。


 私が話していたテーブルだけではなく、他のテーブルで話していた人同士も今後も交流をしようという話になり、結局、このミーティングの最後に、来年、日本でアジアの労働問題に取り組む人たちが交流する企画を行おうということになりました。Labor Notesの主催者にも話が伝わっており、期待されている様子でした。


 果たして実現するのか、どのような形になるのか・・・まだまだ分からないところですが、せっかくアジアの労働問題に取り組む人たちと連帯を築くきっかけを得たので、何とか実現させたいなと思っています。英語勉強しないと・・・。



6 「職場を変える秘密のレシピ47
 
マークブレナーさんとの記念撮影

 この写真は「職場を変える秘密のレシピ47」の原書である「SECRETS OF A SUCCESSFUL ORGANIZER」の著者マークブレナーさんと記念撮影です。

 この本は普通の労働組合員それぞれがどうやったら仲間を増やして職場の問題を解決していけるかという労働運動の方法を体系的にまとめたものです。労働問題に限らず、仲間を増やして問題を解決するということ全般に応用が利くと思います。

 日本では、超人的なオルガナイザーの武勇伝をもとにした労働運動の本は見かけますが、「職場を変える秘密のレシピ47」のように誰にでもできるような方法論を目指している本はなかなか見たことがありません。このような本は世界的にも珍しいのか、日本語以外にも複数の言語で翻訳されています。

 アメリカには他にも役立ちそうな本がいろいろあります。冊子12~13頁に会場で販売していた本の紹介がありますので是非ご覧下さい。

 労働運動の方法についての数々の本の存在は、アメリカでは経験を整理して共有することが活発であることを示していると思います。

 日本でも個々の労働組合に培われた経験・知見には素晴らしいものがあるはずです。その素晴らしい経験・知見が個々の組合や特定の世代の中のみで共有されている状況は非常にもったいないと感じています。日本中の労働組合同士の経験・知見を共有して整理し、日本版の「レシピ」を完成させることができたら、今後の労働運動どうなるのか想像するだけでも心躍りますね。

         ※「職場を変える秘密のレシピ47」は書店では販売しておりません。ご関心のあるかたは、以下のリンクの専用サイトか
           らご購入下さい。
           (
http://roudou-bengodan.org/secrets/
  

7 最後に

 かなり雑多で長い報告になってしまいました・・・。シカゴではLabor Notes Conference以外にも、現地の労働組合の事務所に行ったり、バーニーサンダースの大統領選挙を支えていた人たちの話を聞いたりなどいろいろ面白かったのですが、きっと他の弁護士がブログなどに書いて報告することでしょう…!

 今回Labor Notes Conferenceに参加して一番良かったことは、連帯しながら労働問題に取り組む情熱と能力と希望にあふれている人たちが世の中にこんなにいるのかと感じられたことです。これからもっと労働運動は良くなるという希望を感じることができました。これから日本でもいろんな方と協力して多くの人が希望を感じられるようにしていきたいですね。

 次回のLabor Notes Conference、皆さんも一緒に参加してみませんか!?


弁護士の平井康太です。

 
東京法律事務所の弁護士4人(私以外に水口洋介弁護士、菅俊治弁護士、川口智也弁護士)で弁護団を組んでいる理化学研究所(以下「理研」と言います。)における345名の雇止め問題について大きな進展がありました。

 

なんと、理研は、345名の雇止めを事実上撤回しました。

 

※理研における雇止め問題についての説明は、以前に私が書いた以下をご覧ください。

「理化学研究所における雇止め問題 ―特に雇止めを通告された方に知っていただきたいこと」

 

本日、理研は、説明会を開催し、就業規則において5年の雇用上限が設定されている職のうち平成27年度(平成28年3月31日)以前からの雇用者及びパートタイマーのうち平成28年7月31日以前からの雇用者については、就業規則にある雇用上限の規定を適用除外にして、契約期間の上限を理由として雇止めすることはしないと発表しました。

 

簡単に言うと、5年間の契約期間の上限が導入される前から雇用されていた労働者については、5年間の契約期間の上限を理由に雇止めしないというものです。

 

この雇止め撤回に関して、本日、理研労の組合員、科労協の組合員と水口弁護士、菅弁護士が記者会見を行いました(私や川口弁護士は記者会見を見守っていました)

 


記者会見の写真

 記者会見をする水口弁護士(右から二番目)・菅弁護士(左から一番目)と、理研労・科労協の執行役員の皆さん

 

 
記者会見 説明用文書  日本語
 記者会見で使用された資料(表面)

 
記者会見 説明用文書  英語
 記者会見で使用された資料(裏面)

 

 

この記者会見では、水口弁護士たちから、大きな成果となった雇止めの撤回や、依然として理研に残っている問題について説明が行われました。

 

一方、この記者会見では、理研の当事者の方々も、水口弁護士らと席を代わって、今回の雇止めの撤回についてのお気持ちをお話になりました。

 

ある当事者の方は、雇止めが撤回されたことで理研に残って仕事ができることのうれしさや、理研が合理的な理由のない雇止めを行おうとしたことへの憤りを語られました。

 

ある当事者の方は、理研と粘り強く交渉を行ってきた理研労・科労協や、理研の問題を追及した国会議員への感謝を語られました。

 

ある当事者の方は、今回雇止めの対象となっていた労働者の方々が理研における研究を長年支えてきたことを語られました。

 

ある当事者の方は、「声を上げると案外正しいことが通るんだなと思った」と語られました。私の中で一番に印象に残った言葉でした。

 

まさに、今回の理研における雇止めの撤回は、労働組合や当事者の方々が声を上げなければ絶対に実現しなかったことです。

 

今回の理研における雇止め撤回は、無期転換申込権を取得させないために雇止めされそうな労働者の方々に対して、諦める必要がないことを改めて示してくれたと思います。

 

無期転換申込権を取得させないために雇止めになったと感じている皆さんは、是非、諦めずに一緒に声を上げましょう。

 

今日の記者会見に出てくれた当事者の方々は声を上げることについて恐怖を感じない特殊な人たちではありません。

 

皆さんと同じように声を上げることへの恐怖に直面している中で、勇気をもって一歩前に踏み出して下さった方々です。

 

私たち弁護士も皆さんと一緒に頑張ります。

 

※【速報】という関係で省略しましたが、今回の雇止め撤回について残された問題などのさらなる詳細は、近日中に菅弁護士がブログにアップします!


 弁護士の平井康太です。(※以下の内容は、私個人の意見であり、弊所や弁護団の公式見解ではありません。ご留意下さい。)

 
 現在、5年間懸命に仕事をしてきた多くの方の雇用が理不尽な理由で失われる危機にあります。

 

 労働契約法18条1項で認められる無期労働契約への転換申込権を取得させないために多くの労働者が雇止めされようとしているのです。

※「雇止め」…契約の更新を拒否されることであり、契約が終了して労働者は仕事を失うことになる。

 

 以下では、①法律上の問題点、②理化学研究所における大量雇止め、③院内集会、④理研で雇止めを通告された方に知っていただきたいことについて述べたいと思います。


 

1 法律上の問題点

 

 無期労働契約への転換申込権(以下「無期転換申込権」といいます。)は、労働者からの申込みによって有期労働契約から無期労働契約に転換する権利であり、有期労働契約で働く労働者の雇用の不安定さを改善するために労働契約法18条1項で認められる権利です。 

 

 無期転換申込権は、原則として、同一の使用者と一回以上更新したことがあり、契約を通算した期間が5年間を超える場合に発生し、契約が満了するまでの間に行使することが必要となります(労働契約法18条1項)。

 

 この労働契約法18条は平成25年4月1日から適用がされ始めたので、多くの場合、無期転換申込権が発生するのは平成30年4月1日からということになります。

 

 上記のとおり、通算の契約期間が5年間を超える前に雇用が終了してしまうと無期転換申込権は発生しないことになるため、無期労働契約に転換させたくない使用者は5年間を超える前に雇止めをしようとします。

 

 しかし、このような雇止めは無期転換申込権により有期雇用で働く労働者を守ろうとする労働契約法18条の考えに真っ向から反するものであって、法律上も許されるものではありません。

 

 労働契約法19条では、契約の更新について合理的期待を有する労働者が、契約存続中に更新の申込み又は契約終了後に遅滞なく有期労働契約締結の申込みをした場合には、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」雇止めは許されず、契約が更新されることを定めています。

 

 そして、無期転換申込権を労働者が取得するのを避けるために突然行われる雇止めは、脱法行為であると考えられ、まさに「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」ものとして許されず、契約は更新されることになるでしょう。

 

2 理化学研究所で起きようとする大量雇止め

 

 国民の多額の税金が投入されている日本を代表する研究機関たる理化学研究所(以下「理研」といいます。)において、無期転換申込権の発生を免れるために雇止めをしようとしているとしか考え難い事態が生じています。

 

 理研の雇止めに関する概略を説明しますと、理研では、平成28年3月24日に就業規則を変更して、平成25年4月1日から5年間しか契約をしないことを定めました。つまり、この就業規則からすれば、平成30年3月31日に雇止めされることになり、労働契約法18条が適用され始めた平成25年4月1日から数えて契約期間が5年間を超えないため、無期転換申込権は発生しないことになります。

 

 このように、理研は、労働契約法18条が適用され始めた平成25年4月1日にピンポイントに合わせた就業規則の変更を行って無期転換申込権が発生しないようにしており、この対応は無期転換申込権を発生させないように狙ったとしか考え難いものです。

 

 このような経緯があるため、科学技術産業労働組合協議会(以下「科労協」といいます。)と理化学研究所労働組合(以下「理研労」といいます。)は、上記雇止めの撤回を求めて理研と団体交渉を行っています。

 

 理研との団体交渉において、理研労が、予算上の制約があるのか、雇止めになる従業員の業務がなくなるのかなど雇止めの理由を質問しても、理研からは具体的な回答は返って来ませんでした。

 

 理研が雇止めをする合理的な説明をすることが出来ていないことも脱法目的で雇止めをしようとしていることの裏付けだと思います。

 
 そして、平成30年2月1日の参院予算委員会の補正予算締めくくり総括質疑において、理研では、平成30年3月31日に345人もの職員を雇止めすることが明らかになりました。

 

 現在、私を含めた弊所の4人(水口洋介弁護士、菅俊治弁護士、川口智也弁護士)で弁護団を組み、理研の不当労働行為が問題となっている東京都労働委員会において、科労協と理研労とともに理研に対して雇止めの撤回を求めているところです。

 

 

3 雇止めストップを求める院内集会

 

 無期転換申込権を取得させないために雇止めするという脱法行為を行おうとする事態は、理研にとどまりません。

 他の研究機関や大学においても同様の危機が迫っています。

 

 このような危機に対処すべく、平成30年2月14日に、参議院議員会館において「日本の科学技術研究・高等教育の現場を破壊する無期転換逃れ目的の有期雇用スタッフ[雇い止め]にストップを!」という院内集会が行われ、私も参加してきました。

               

 この院内集会では、理研のほか、筑波研究学園都市の研究機関、大阪大学、日本大学などにおける雇止め問題について報告がありました。

 

 また、東京大学における無期転換逃れの雇止めの撤回を実現させた東京大学教職員組合の佐々木彈さんからの報告もあり、多くの方が元気づけられたと思います。

 

 弊所の水口洋介弁護士からも、理研における大量雇止めの法的な問題点について説明がありました。

 具体的には、①理研の行った労働契約法18条を潜脱する就業規則の不利益変更は合理性がなく、就業規則の変更時に働いていた従業員に対して拘束力が及ばないと考えられること、②契約書に、今までの更新では存在しなかった契約の通算期間を5年までとする更新の上限条項が入っていたとしても、雇止めを迫られたなかで契約書に署名押印したにすぎないため、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することを要求した山梨県民信用組合事件の最高裁判決(最判平成28年2月19日最高裁判所民事判例集70巻2号123頁)からすれば、上限条項に拘束力がない可能性があるというものです。

 

 2月14日院内集会

  理研の大量雇止めの法的問題点を解説する水口弁護士

 

 この院内集会は会場が満席に近く、主催者の想定以上の参加があった上、多くの国会議員も参加し、今後も無期転換申込権の取得を免れるような雇止めは許さないこと、国会で個々のケースを追及していくことの決意を示して下さいました。

 

 この院内集会で感じたことは、無期転換申込権を避けるという脱法行為に苦しんでいる仲間が大勢いるとともに、みんな諦めていないということです。

 

4 理研で雇止めを通告された方に知っていただきたいこと

 

 私は理研の事件に関与している関係で、理研において、契約期間が5年間の上限になるという理由で雇止めを通告された方に知っていただきたいことを述べたいと思います。

 

(1) 皆さんに責任はありません

 一番知っていただきたいことは、今回雇止めになる人には何ら責任がないということです。今回雇止めになる方は、更新を重ねて5年間も契約をしてきた方々であって、これまで更新されてきたこと自体が雇止めになる方の能力や勤務態度に問題がないことを示しています。

 上記院内集会でも、理研の当事者の方が、雇止めになることで同じ職場で働く仲間に迷惑をかけてしまうと涙ながらに語っていました。しかし、その業務上の混乱は、決して雇止めになる方の責任で生じたのではなく、雇止めをする理研にあります。

 まずは、この点を確認しておきましょう。

 

(2) 雇止めを是正する二つの方法

 そして、雇止めを通告されていても諦める必要はありません。科労協や理研労の組合員の方々も私たち弁護士も諦めていません。むしろ、このような理不尽な雇止めを是正できる可能性があると希望を持っています。

 

 雇止めを是正する方法として、二つ考えられます。一つは、理研が自主的に雇止めを撤回するようにプレッシャーをかけることです。二つ目は、裁判で争うことです。

 

ア 雇止めの自主的な撤回を求めること

 一つ目の方法ですが、理研労が、理研に対して、雇止め問題を解決しようと取り組んでいる努力もあり、平成30年2月1日、田村智子議員(日本共産党)が、国会で理研での大量雇止め問題を追及し、安倍首相も「無期転換を意図的に避ける目的の雇止めは望ましくない。無期転換への対応が円滑に行われるように適切に対応してまいりたい」と述べるに至りました。 

 このように、現在、理研に対して政治上のプレッシャーがかかっています。

 

 また、上記のように東京都労働委員会という公の場で争っていることもメディアの報道などがあるため、理研に対してプレッシャーになっているはずです。

 

 さらに、裁判で争う構えを示すことも、仮に労働者が勝訴すれば理研の脱法行為が公の場で明確になることになりますから、裁判を行うことは理研にリスクが大きいため、強いプレッシャーとなるでしょう。

 裁判については後にも述べますが、多くの方が声を上げれば上げるだけ、裁判で有利になる可能性があるため、理研に対するプレッシャーも強まり、自主的な雇止め撤回の可能性が高まります。

 

 東大でも雇止めの撤回が実現されているように、理研の自主的な雇止めの撤回を目指すことは現実的なものだと思っています。皆さんが声を上げることが、雇止めを撤回させる力になります。

 

イ 裁判で争うこと 

 二つ目の裁判で争う方法ですが、裁判で勝つことになれば、雇止めは許されず、5年を超えた契約期間となりますから、無期転換申込権を取得することができます(行使するかは各自が自由に決めることができます)。

 

 裁判では、仮に一人で裁判を争うことになると、勤務態度など難癖をつけるなど個人に問題があったと強調して理研が争ってくる可能性がありますが、多くの人数で争えば、個々人の理由で雇止めをしているのではなく、無期転換申込権を取得させないために雇止めしていることがより鮮明になります。多くの人が声を上げれば、それだけ希望が大きくなるということです。

 

 裁判も考えているという方に一つ気をつけていただきたいことは、労働契約法19条で争うには、理研に対して更新ないし契約の申込みが必要となります。何もしないまま雇止めがされ、ある程度時間が経過してしまったら、裁判で争うことは困難になってしまいます。

 裁判で争う気持ちが少しでもあれば、更新ないし契約の申込みをしておくとよいでしょう。不安な方は理研労に相談をしていただければきっと対応してくれます。

 

(3) 甘い誘惑に気をつけて

 理研に限られませんが、もしも、職場の上司から、6ヶ月のクーリング期間を経過した後に再度採用するから今回は退職届を出すように説得されるような場合、注意が必要です。

 

 ※クーリング期間・・・同一の使用者と有期労働契約を締結していない期間が一定以上経過すると、無期転換申込権が発生するために必要な契約期間のカウントがゼロに戻ってしまう(契約の通算をやり直す)というもの(労働契約法18条2項)。原則として6ヶ月がクーリング期間となる。そのため、6ヶ月以上に渡って同一の使用者と有期労働契約を締結していない場合、新しく有期労働契約を締結・更新をしてさらに5年間が経過しない限りは無期転換申込権は発生しないことになる。

 

 そのような約束は守られるとは限りません。一緒に働いてきた直属の上司を信用することができたとしても、採用権限があるのはその上司とは限りません。脱法行為をしようとしている理研の上層部を信用できるか考えてみて下さい。

 

 もし約束が守られなかった場合、裁判で争ったとしても言った言わないの争いになり、立証ができずに負けてしまう可能性が高く、理研に戻る道がなくなりかねません。

 

 再雇用するから一度退職するように言われたということがもしもあったら、労働組合に相談されるとよいでしょう。きっと力になってくれます。

 

5 おわりに

 理研で345名もの大量雇止めが起きようとしているように、また、上記の院内集会の会場が人で一杯になっているように、この問題に直面している人は職場の内外にたくさんいます。決して一人で悩む必要はありません。

 

 5年間も一生懸命に働いてきた皆さんが理不尽に扱われていいはずがありません。

 

 諦めずに共にがんばりましょう。

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