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弁護士の坂本雅弥です。

 

12月7日、東京地方裁判所で、調剤薬局のフランチャイズ加盟店(フランチャイジー)である依頼会社の有限会社GENKI堂が、本部(フランチャイザー)から競業禁止義務・閉店義務を理由に違約金約3億3000万円と営業差止を請求された裁判の判決がありました。判決は、本部の請求を全て棄却。加盟店にとって画期的な判決です。弁護団は当事務所の滝沢香弁護士、本田伊孝弁護士と私の3名です。

薬局フランチャイズの元加盟店が勝訴、競業避止義務は「無効」 東京地裁 - 弁護士ドットコム (bengo4.com)

 

 GENKI堂は、調剤薬局「メディスンショップ」のブランドのフランチャイズ契約を締結していた2店舗について、10年間の契約期間満了で契約終了した後、薬局営業を継続しました。それに対し、本部メディスンショップジャパンは、GENKI堂に対し、契約終了後の競業禁止義務違反・閉店義務違反を理由に、GENKI堂が運営する2店舗の営業の差止(閉店)と違約金合計約3億3000万円を請求しました。

 契約終了後の競業禁止義務・閉店義務は加盟店の営業の自由を制約する等、加盟店に多大な不利益が生じます。そのため、フランチャイズ契約書に競業禁止義務や閉店義務が記載されているからといって、当然にその義務が認められるべきではなく、本部のノウハウの流出の防止や商圏維持の必要性がある場合に限りその義務は認められるべきです。本件東京地裁の判決は、これらの問題について、こちらの主張も取り入れ、次のとおり判断しました。

まず、フランチャイズ契約における本部と加盟店の情報等の格差について触れ、

「フランチャイズ契約においては、フランチャイズ事業に関する情報の偏在が存在することに加え、契約の内容のうち主要な部分をフランチャイザーにおいて決定するもので、個々の条項についてフランチャイジー側の希望を入れる余地が乏しい(このような交渉上の格差は本件各契約に係る契約書の内容を決定したのは原告(フランチャイザーである本部/筆者注)である)」

とし、当事者間で情報や交渉力の格差があることを認定します。フランチャイズ訴訟においては、本部と加盟店の格差を前提として実質的な解釈をすべきですが、その前提をまず確認しています。

そして、同判決は、フランチャイズ契約後に加盟店に対して競業禁止義務や閉店義務を課す場合には、

「独立の事業者であるフランチャイジーの営業の自由や所有権等に相当程度の制約を生じることになるから、フランチャイザーのノウハウ流出等による利益の防止や、フランチャイザーの商圏を維持する必要性など、フランチャイザー側の利益と、フランチャイジーの営業の自由等の制約の程度など、フランチャイジー側の不利益とを総合考慮した上で、フランチャイジーに対する過度な制約となる場合には、そのような制約を定める契約条項は公序良俗に反し無効になる」

と判断します。つまり、契約書に競業禁止義務や閉店義務の規定があっても当然に有効となるものではなく、実施的に加盟店の不利益も考慮して、加盟店に対する過度な規制になるかどうか判断するべきことを明らかにしています。

そして、判決は、本件におけるノウハウの流出防止と商圏維持の必要性について検討します。

ノウハウの流出防止については、

・調剤薬局においては、調剤する薬剤の種類、品質、数量、価格といった提供する商品の主要な部分は、関係法令による規制の下にあること、

・保険調剤では、顧客を誘引する方法も制限されていること(保険薬局及び保険客在師療養担当規則で保険薬局は患者に対して経済的利益を提供することにより自己の保険薬局を受けるよう誘引してはならないと定めています)、

・本件薬局は門前薬局(診療所や病院当の近隣に開業する形態の薬局)であり、医療機関等との位置関係が重視されるため、本部の顧客獲得等のノウハウの領域は相当程度制限されること、

等の理由を挙げ、本部が提供してきたノウハウは、閉店義務や競業禁止義務を課すことによって契約期間終了後においてもなお一定期間流出を防止する必要性を認めることは困難とします。

また、商圏維持の必要性については、調剤薬局の「主要な業務である保険調剤の部分においてノウハウが影響力を持ち得る範囲が乏しい」、保険薬局では「顧客を誘引する方法制限されているため、顧客の獲得に関するノウハウが成立する領域も制限される」等の理由を挙げ、1つの店舗はGENKI堂がフランチャイズ契約前に開業して経営していた店舗であること、もう1店舗は本部が直営していた薬局ですが、GENKI堂はのれん代等を本部に支払っていること等を考慮し、商圏維持の必要性も無いと判断します。

以上、判決はノウハウ流出防止の必要性も、商圏維持の必要性も無いとして、競業禁止義務や閉店義務を課す必要性や合理性がほとんど認められない一方で、GENKI堂の営業の自由に対する相応の制約が存在すること認められることから、過度な制約であるとして、公序良俗に反し無効としました。   

 現在、フランチャイズ契約の加盟店保護のための法律(フランチャイズ適正化法)は存在しません。しかし、上述の判決でも触れているとおり、本部と加盟店の格差によることで加盟店側が契約上不利な立場に置かれることも多くあります。そのため、以前よりフランチャイズ適正化法の法制化が求められており、本年10月19日には日弁連から、「フランチャイズの適正化に関する法律(フランチャイズ取引適正化法)の制定を求める意見書」の意見書も出されました。本件判決は、このようにフランチャイズ加盟店の保護が要望されている中で、本件判決は加盟店と本部の格差の是正を図り、加盟店に対して過度の制約になるかどうかを実質的に判断した画期的な判決だと考えます。

 

 弁護士の坂本雅弥です。

 当事務所は事業主の皆様からの法律相談等を受ける体制を取っていますが、私は、特にフランチャイズ問題について、加盟店(フランチャイジー)の皆様から相談や代理人活動を多く受けています。
 今、様々な業種でフランチャイズがあり、事業経験の無い個人でもフランチャイズにより事業を始めやすくなっています。ところが、加盟店は、加盟しようとするフランチャイズ事業に関する情報量、交渉力、資金力などの点でフランチャイズ本部(フランチャイザー)に比べ不利な立場にあることが多く、そのために加盟店が適切に加盟の判断をできないことがあります。
 この点、公正取引委員会が「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方」を出し、また小売業については中小小売商業振興法がありますが、フランチャイズ取引全般について実行的に適正化を図る法律は存在しません。そのため、加盟店のための解決に限界を感じることが少なくありません。

そうしたところ、日本弁護士連合会(日弁連)が2021年10月19日に「フランチャイズの適正化に関する法律(フランチャイズ取引適正化法)の制定を求める意見書」を出したことを知りました。

https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2021/211019.html

同意見書は、フランチャイズ取引適正化法の内容として、

  • 本部は加盟店に情報提供義務を負うことを明文化すること、
  • フランチャイズ契約書のひな型や事前に開示すべき書面の経済産業省への届出とインターネットへの一般公開の義務付けること、
  • 初期事業撤退期間を設けその間の解約は無条件で加盟金返金を求められること、
  • フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施する限度を超える不公正な条項を不当条項として無効とすること、
  • フランチャイズ契約当事者の紛争解決制度を設けること
等を定めるべきとします。
 これらは、加盟店側から相談を受ける中で、まさに立法化してもらいたいと思ってきた内容です。
 本部の情報提供義務は加盟店と本部との間で多く問題となりますが、同意見書は、本部が加盟店に対して「類型的に開示すべき重要事項」として、
 「①収益情報」、
 「②加盟者及び従業員の必要労働人時」、
 「③ドミナント出店に関するリスク説明」
を開示することを挙げます。
 これらの情報は加盟店が契約するかどうかを決めるために不可欠で、特に「収益情報」は加盟するかどうかを決める大きな要素であると考えます。
 フランチャイズ契約は加盟金のほか、開業のための初期費用が高額になる場合もあります。加盟店は初期費用等の支払いのために、多額の融資も受ける方もいます。加盟店が、それだけの負担をしてもフランチャイズ契約を結ぶのは、投じた初期費用等を回収した上で、利益を得られると考えるからです。
 本部が契約前に示した売上予測や収益予測について合理的な根拠が無く、その情報を信じて契約した加盟店が契約前の説明どおりの売上を確保できずに事業運営が困難となり、多額の債務が残ってしまうケースもあります。事案によっては、このような損害が、加盟店本人の自己責任で済ますことはできないケースもあると考えます。
 また、相談される方の中には、自分がフランチャイズ加盟を決断したことを責める方も多くいます。しかし、本人から話を聞いてみると、そのフランチャイズについて正確な情報が与えられていなかったために適切な判断ができなかったケースも多いと感じます。
 「加盟店側の適切な判断」は「本部側の適切な情報提供」が前提です。これから加盟をしようと考えているフランチャイズについて情報を有するのは本部です。その情報や提示された情報の正確性を加盟しようとする方が調査するには限界があります。そのため、収益情報の開示の立法化は非常に重要と考えます。

欲を言えば、本部による支援や指導の具体的な内容の明記も規定されることが望ましいと考えます。
 加盟店は、本部に継続的にロイヤリティを支払うことから、基本的には本部は加盟店への支援・援助を行うことが求められています。
 実際の相談の中では、売上や利益が生じない中で、本部からの支援等が不十分であることから売上の改善がなされず、閉店せざるを得なくなるケースもあります。
 加盟店にとって、本部が具体的にどのような支援がなされるのかについては、契約段階で具体的に認識できるようにしておくことがその後のトラブルを減少させることにもつながると考えます。


 加盟店がフランチャイズ契約に基づいて安定した経営ができるならば、本部と加盟店の両者にとって利益となり、そのフランチャイズ店舗のある地域の活性化にもつながると考えます。そのためには、現在の本部と加盟店の不平等を是正するため、まずはフランチャイズ適正化法の成立が必要であり、同法の早期成立を望みます。

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