弁護士の平井哲史です。
昨日、ある病院の医師が44個もの「医療安全上の問題」なるものを指摘されて解雇された事件で、解雇を無効として3年近くにおよぶ「バックペイ」(解雇から判決日までの給料の合計)の支払いを命じる勝訴判決をもらいました。この訴訟を通じてやはり解雇の金銭解決制度を入れてはよくないと思いましたので、紹介します。

1 44個もの解雇理由を主張した病院側の態度を厳しく批判
事案は、ある診療科の管理職の立場で採用された原告について、その診療科の別のスタッフが原告にはいくつもの問題行動があったとして、この原告の前任者を通じて病院長に報告をしたのがきっかけです。
病院長らが、この報告をうのみにしてしまい、原告に十分な事実確認もせずに退職勧奨をおこない、退職に応じなかった原告を2014年4月末に解雇したのです。
解雇した当初、解雇理由としてあげられていたのは25個でしたが、それでは解雇するには足りないと思ったのか、病院側は裁判の途中でさらに19個もの解雇理由を付け足してきました。

原告は認定医の資格もお持ちの方で、被告の言い分に対して、当時のカルテを読み解きながら詳細に反論をおこないました。また、知人の医師にも被告の主張に目を通してもらい、それが一般的な知見に照らし、医療安全上の問題を生じさせるものかどうか検討し、意見を述べる陳述書を裁判上の証拠として提出しました。

判決で、裁判所は、医療行為の専門性とともに、医師には広範な裁量が認められることを指摘して、治療行為が解雇理由として考慮に値するものに当たるか否かは、当該医療行為が相当な医学的根拠を欠いたものか、患者の身体の安全等に具体的な危険を及ぼしたか、治療行為に際して認められる裁量を考慮しても合理性を欠いた許容できないものといえるかといった観点からの検討が不可欠としました。そして、被告があげる解雇理由や付け足してきた事例について、軒並み、原告のおこなった医療行為に問題があったとは認められないとして解雇は無効であると断じました。

これにとどまらず、裁判所は、被告があげつらっていた解雇理由について、解雇に至るまでまったく原告に指摘し、改善を求める等をしていなかったことを指摘して、解雇理由がそもそも存在しないか、存在したとしてもその都度とりあげなければならないほど重大なものとは認識されていなかったことを強く推認させる、と厳しく被告側の態度を批判しました。判決文の書き方はややおとなしいですが、平たく言えば「でっちあげじゃないの!?」と言っているといえます。

この判決で、病院側には約3年分のバックペイの支払いが命じられました。
原告は、速やかな復職を希望しています。

2 やっぱり金銭解決制度はダメ
ところで、いっとき下火になっていた解雇の金銭解決制度の導入への動きが再び活発化しそうとの懸念が出されています。解雇の金銭解決制度は、解雇が無効であった場合でも一定の解決金を使用者が支払うことで雇用契約を解消できるようにしようというもの。労働者・労働団体の側から、「金で首切りを許すものだ!」と強い反発が出ているほか、使用者側からも、水準を設けてしまうことで和解による柔軟な解決がしにくくなるという反対意見も出ています。

今回のような乱暴な解雇でも、使用者側が申し立てることで金銭解決をはかることができるという制度ができると、給与1年分程度の解決金で雇用を失わせられるようなことになりかねません。

そもそも解雇事件で、労働者側が退職してもかまわないという考えを持っている場合には、裁判所において金銭解決の和解が成立するのが一般です。このため、あえて当事者の意思に反して雇用契約を打ち切るような制度を設ける必要性は少なくとも労働者側にはないと言えます。

やはり、解雇の金銭解決制度は「ダメ」ですね。

弁護士 平井哲史