Q1 先日、父が他界しました。父には、私(長女)と弟(長男)の2人の子供がおり、私達の母親は10数年前に亡くなっています。父の葬儀後に遺品の整理していたところ、父は、他界する半年前に、時価1億円相当の甲土地を、数年前から交際していたA子に贈与していたことがわかりました。父には、甲土地以外にみるべき資産はなく、債務が2000万円ほどあるので、このままでは、私たちは債務だけ相続することになってしまいます。そこで、相続放棄も考えたのですが、父のA子に対する贈与を無効にして、少しでも父の遺産を回復できないかと思っていたところ、遺留分減殺請求権という手段があることを知ったので、民法の条文を読んでみたのですが、私の遺留分の額がどの程度になるかよくわかりませんでした。そこで、遺留分について、わかりやすく説明していただけないでしょうか。

A1 被相続人は、生前と同様に死後も遺言によって財産を自由に処分することができます。その一方、民法は、残された相続人の生活の保障や潜在的持分の清算などを確保するために、遺言などによる処分の自由を一部制限して、一定範囲の相続人に一定額の財産を取得する権利を保障し、それが侵害される場合に遺贈などの効力を否定(減殺)することができるとしました。これを遺留分制度といいます(民法1028条以下)。

Q2 わかりました。では、私の遺留分額は、どのようにして決まるのでしょうか。

A2 まず、遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人以外に認められており、直系尊属(父母など)のみが相続人の場合以外は、被相続人の財産の2分の1になります(1028条2号、総体的遺留分)。そして、各相続人は、この総体的遺留分に対し、法定相続分に応じた具体的遺留分を取得します。あなたのお父様には2人の子どもがいたことから、あなたの法定相続分は2分の1となり(900条4号本文)、あなたの具体的遺留分は、全体の相続財産の4分の1になります。

Q3 わかりました。では、A子に対する甲土地の贈与を無効にして、遺留分を行使することは可能でしょうか。

A3 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して算定することになっています(1029条1項)。贈与した財産の価格を加える理由は、被相続人が死亡する直前に所有する財産のほとんどを他人に贈与した場合には、相続財産がなくなっているので、遺留分の基礎となる財産を確保する必要があるからです。もっとも、過去に行われた贈与を全て遺留分の基礎となる財産に算入すると、取引の安全を害することから、基礎となる財産に算入される贈与を、一定の範囲に限定しています(1030条)。甲土地の贈与は、相続開始から1年前以内に行われたので、甲土地は遺留分の基礎財産に算入されます。したがって、甲土地の贈与は、遺留分減殺請求権の対象になります。

Q4 わかりました。では、私の遺留分額は具体的にはいくらになりますか。そして、A子への贈与は結局どうなりますか。

A4 甲土地の価格1億円から債務額2000万円を差し引いた額の4分の1に当たる2000万円が、あなたの具体的遺留分額になります。したがって、あなたは、A子さんに遺留分減殺請求権を行使することによって、2000万円の限度で、甲土地の贈与を無効にすることができます(1031条)。


Q1 昨年、父が他界しました。父には、私(長女)と弟(長男)の2人の子供がおり、私達の母親は10数年前に亡くなっています。父の葬儀後に遺品の整理していたところ、父が生前に作成した遺言を発見しました。その内容は、「甲土地と乙土地を長女に相続させる。遺言執行者としてAを指定する。」という趣旨のものでした。Aさんは父が経営していた会社の総務部長です。そこで、この遺言の効力について少しお伺いしたいことがあります。まず、遺言執行者とはどのような役割をする方なのでしょうか。

A1 人が生きているうちは、原則として、意思表示した者がその実現(履行)について責任を負います。これに対し、遺言の場合は、効力発生時には遺言者本人は死亡しているので、執行を要する遺言事項については遺言者以外の誰かが執行する必要があります。しかし、遺言には、子の認知、相続人の廃除(被相続人の意思に基づいて家庭裁判所が相続人の相続権を剥奪すること)など、相続人の利害と実質的に対立する内容を持つものもあり、相続人以外の者に遺言を執行させた方がよい場合もあります。このように、遺言の内容を適正に実行させるために特に選任された者が遺言執行者です。

Q2 わかりました。では、父の遺言について具体的に伺います。まず、甲土地について、所有権の登記を私名義に移転したいのですが、遺言で指定されていた遺言執行者のAさんが手続を行うのでしょうか。

A2 遺言執行者がいる場合は、遺言の執行は遺言執行者に全面的に委ねられ、相続人には、原則として、遺言の執行に際して関して何らの権限も義務もありません(民法1012条、1013条)。

もっとも、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言は、被相続人の死亡時に直ちにその特定の遺産が特定の相続人に相続を原因として承継されると解されています。そして、「相続」を原因とする所有権移転登記は、登記実務上、相続人が申請できることから(不動産登記法63条2項)、特定の遺産についての所有権移転登記は、特定の相続人が単独で申請することができ、遺言執行者は、登記手続をする義務を負いません。最高裁判所も同様の結論です。

したがって、甲土地の所有権移転登記の手続は、遺言執行者のAさんではなく、あなたが行うことになります。

Q3 わかりました。では次に、乙土地についてお伺いします。さきほど申し上げたように、遺言では、乙土地も私に相続させると記載してあったのですが、父の他界後直ぐに弟が勝手に遺産分割協議書を偽造して、自ら単独で相続したとして、乙土地について自己名義の所有権移転登記をしてしまいました。私としては、遺言どおり、乙土地についても、私名義の登記をしたいのですが、やはり、甲土地と同じく、私が行わなければならないのでしょうか。

A3 この場合は、あなたの弟の登記により遺言の実現が妨害されている状態が生じているので、遺言執行者は、弟名義の所有権移転登記の抹消登記手続のほか、真正な登記名義の回復を原因とするあなた名義の所有権移転登記手続を求めることができます。最高裁判所も同様の結論です。

   したがって、あなたが登記手続を行わなければならないわけではく、遺言執行者のAさんに手続を依頼することもできます。

Q4 わかりました。ところで、今年になって、生前父と親しく交際していたというBさんという名前の女性から、私を被告として、その方へ丙土地の所有権移転登記を求める訴えの訴状が届きました。そこで、もう一度父の遺品を念入りに整理したところ、「丙土地をBに譲る。遺言執行者としてAを指定する。」という趣旨の遺言を発見しました。私は、父の生前にその女性の存在に全く気付きませんでした。私は、ショックで気持ちの整理ができていないので、訴えの当事者として出廷したくないのですが、訴状に私の名前が記載されている以上、私が被告になるのでしょうか。

A4 遺言執行者は、遺言の執行に関連する権利を主張したり、自己の名前において訴訟の原告や被告になります。したがって、特定不動産の遺贈を受けた者がその遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記を求める訴えでは、被告としての適格を有する者は遺言執行者に限られ、相続人はその適格を有しません。最高裁判所も同様の結論です。

したがって、遺言執行者のAさんがその訴えの被告になり、あなたは被告にはなりませんので、ご安心下さい。


Q1 私には亡くなった主人との間に子供が一人います。主人の親族は、資産家の父と、弟一人です(主人の母は幼少時に他界しています)。ところが、一昨年に主人が亡くなった後、昨年に義父も相次いで他界してしまいました。義父の葬儀後に遺品を整理していたところ、主人が亡くなる前に義父が作成した遺言を偶然発見しました。その内容は、「長男(主人のこと)に甲土地を相続させる。」という趣旨のものでした。私としては、子供が主人を相続する以上、その遺言は、祖父から孫に甲土地を相続させる趣旨として有効だと思っていたのですが、義弟から、遺言の対象者である主人が遺言者の義父よりも先に他界した以上、民法994条1項により、遺言は無効だと言われました。義弟の言うことは正しいのでしょうか。
3図表

A1 遺言の解釈は、遺言者の最終意思であることを前提に、その真意を探ることになります。そこで、本件のように、遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が、遺言者の死亡以前に死亡した場合の遺言の効力の判断基準について、最高裁判所は、「当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはない。」と判断しました(最判平23..22)。したがって、本件では、ご主人が亡くなったときには孫に遺産を相続させる旨の意思を遺言者であるお義父様が有していた等の特段の事情がないかぎり、遺言の効力は生じません。

Q2  そうですか。どのような事情があれば,甲土地を私の子へ相続させる遺言の効力が認められたのでしょうか。

A2 例えば、本件遺言に「私が亡くなる前に、長男が先に亡くなっていたときは、その子に相続させる。」などの文言が補充されていた場合は、特段の事情が認められ、あなたのお子様への甲土地の相続を認めることができました。また、ご主人の死亡後に、お義父様があなたのお子様に甲土地を相続させる旨の新たな遺言を作成していた場合も、前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされる帰結として、新しい遺言が優先されることから(1023条1項)、お子様への甲土地の相続を認めることができました。

Q3 では、私の子は甲土地を取得することができないのでしょうか。

A3 あなたのお子様は、亡くなったご主人の代わりにお義父様の遺産を相続することができます。これを代襲相続といいます(887条2項)。ご主人の推定相続分は2分の1だったので、お子様もお義父様の遺産の2分の1を相続し、甲土地は義弟と共同相続することになります(898条)。




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