●平成26年2月14日  最高裁判所第二小法廷判決


裁判要旨: 共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は、遺産確認の訴えの当事者適格を有しない。

ポイントある財産が遺産であるかを確認するための裁判に原告あるいは被告の立場で参加する資格はその遺産について共同で所有していることが必要であるため,自分の共有している分を全部他人に売ったり,贈与したりしてしまうと遺産を確認する裁判に参加する資格は無くなるとされました。


事案の概要: 不動産甲を所有していたAの共同相続人であるXらは、同じくAの共同相続人であるYら、Zらを被告として、甲がAの遺産に属することの確認を求める訴えを提起したところ、Zらが自己の相続分の全部をそれぞれ他の共同相続人に譲渡していたことが明らかになったため、Xらは、Zらに対する訴えを取り下げる手続をした。
 裁判所は、Xらの訴えの取下げによりZらが当事者ではなくなったことを前提に、原告らの請求を棄却する旨の判決をした。


判決文
:「遺産確認の訴えは、その確定判決により特定の財産が遺産分割の対象である財産であるか否かを既判力をもって確定し、これに続く遺産分割審判の手続等において、当該財産の遺産帰属性を争うことを許さないとすることによって共同相続人間の紛争の解決に資することを目的とする訴えであり、そのため、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要する固有必要的共同訴訟と解されているものである。」
    「しかし、共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者、積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する割合的な持分を全て失うことになり、遺産分割審判の手続等において遺産に属する財産につきその分割を求めることはできないのであるから、その者との間で産分割の前提問題である当該財産の遺産帰属性を確定すべき必要性はないというべきである。そうすると、共同相続人のうち自己の相続分の全部を譲渡した者は、遺産確認の訴えの当事者適格を有しない解するのが相当である。」


解説
: 共同相続人による遺産確認の訴えは、ある財産が共同相続人間による共有関係にあることの確認を求めるものです。共同相続人全員が当事者となって訴訟を進めなければ、紛争解決が望めないことから、この訴えは、共同相続人全員が当事者として関与しなければならないと解されています(民事訴訟法40条参照)。
    もっとも、自己の相続分の全部を他の共同相続人に譲渡した相続人は、その後の遺産分割に参加する権利を喪失し、もはや遺産について利害関係を有しません。そこで、本判例は、他の共同相続人は、相続分の全部を譲渡した相続人を当事者に加えなくても、遺産確認の訴えを提起することができることを認めました。

平成26年2月25日  最高裁判所第三小法廷判決


裁判要旨:共同相続された委託者指図型投資信託の受益権、及び共同相続された個人向け国債は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない。


ポイント :  委託型投資信託には,お金をもらう権利の他に投資信託を委託されて運用を行う会社に対する監督を内容とする権利もありますが,後者の権利は,金銭の請求権が相続により自動的に相続人の人数で割った額を各相続人が相続するのと同じように自動的に分けられて各相続人が相続するのではないとされました
 また,個人向け国債も,お金をもらう権利ですが,通常の金銭債権を異なり,一口○万円という形で,一口単位で売り出されているため,相続によっても,その一口分を更に相続人の人数で割って,細かくすることは認められないとされました。


事案の概要:Aから委託型投資信託、個人向け国債(以下「本件国債等」という。)を共同相続したXが、他の共同相続人であるYらに対して、本件国債等の共有物分割等を求めた。

判決文:「株式は、株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し、株主は、株主たる地位に基づいて、剰余金の配当を受ける権利(会社法105条1項1号)、残余財産の分配を受ける権利(同項2号)などのいわゆる自益権と、株主総会における議決権(同項3号)などのいわゆる共益権とを有するのであって……、このような株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば、共同相続された株式は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである」。
     「本件投信受益権のうち、……投資信託受益権は、委託者指図型投資信託(投資信託及び投資法人に関する法律2条1項)に係る信託契約に基づく受益権であるところ、この投資信託受益権は、口数を単位とするものであって、その内容として、法令上、償還金請求権及び収益分配請求権(同法6条3項)という金銭支払請求権のほか、信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権(同法15条2項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており、可分給付を目的とする権利でないものが含まれている。このような上記投資信託受益権に含まれる権利の内容及び性質に照らせば、共同相続された上記投資信託受益権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。」
    「また、本件投信受益権のうち、……投資信託受益権は、外国投資信託に係る信託契約に基づく受益権であるところ、……外国投資信託が同法(投資信託及び投資法人に関する法律)に基づき設定される投資信託に類するものであることからすれば、上記投資信託受益権についても、委託者指図型投資信託に係る信託契約に基づく受益権と同様、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものとする余地が十分にあるというべきである。」
     「本件国債は、個人向け国債の発行等に関する省令2条に規定する個人向け国債であるところ、個人向け国債の額面金額の最低額は1万円とされ、その権利の帰属を定めることとなる社債、株式等の振替に関する法律の規定による振替口座簿の記載又は記録は、上記最低額の整数倍の金額によるものとされており(同令3条)、取扱機関の買取りにより行われる個人向け国債の中途換金(同令6条)も、上記金額を基準として行われるものと解される。そうすると、個人向け国債は、法令上、一定額をもって権利の単位が定められ、1単位未満での権利行使が予定されていないものというべきであり、このような個人向け国債の内容及び性質に照らせば、同相続された個人向け国債は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。」        

解説
:株式会社の株式は、共同相続の対象になります(民法896条本文、898条)。もっとも、株式には、利益配当請求権等の金銭分配請求権(会社法105条1項1号)のみならず、株主総会における議決権(同項3号)などの会社経営に参加する権利(共益権)をも有することから、相続と同時に当然に各相続人に相続分に応じて分割されるものではないと解されています。
     これに対し、本件の委託型投資信託とは、投資信託(投資家から集めたお金をひとつの大きな資金としてまとめ、運用の専門家が株式や債券などに投資・運用する商品で、その運用成果が投資家それぞれの投資額に応じて分配される仕組みの金融商品)の一種で、委託者、受託者、受益者の三者で構成される契約型投資信託のことを言います。投資運用業を行う金融商品取引業者を委託者、信託会社又は信託業務を営む認可金融機関を受託者として、両者の間で投資信託契約を締結し、委託者が投資を行います。委託者に対して資金を提供した者(受益者)は信託財産からの利益を受ける権利(受益権)を持ち、 信託財産の運用によって発生した利益および損失は、すべて受益者に帰属します。




    本判例は、委託者指図型投資信託の受益権も、法令上、信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権(同法15条2項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており、株式の共益権と同様の性質があることから、相続による当然分割を否定したものです。
  また、国債は国の発行する債券(金銭債権が有価証券化されたもの)であり、金銭債権は、相続によって当然に分割されると解されていますが、本件の個人向け国債は、「法令上、一定額をもって権利の単位が定められ、1単位未満での権利行使が予定されていない」という特質を有することから、本判例は、相続による当然分割を否定したものです。


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平成26年3月14日 最高裁判所第二小法廷判決


裁判要旨: 時効期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合において、少なくとも、時効期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは、民法158条1項が類推適用される。


ポイント遺留分の請求には期間制限がありますが、認知症などで法律的な判断ができない人にとっては、その請求が困難です。そこで、民法はそのような人を守るために時間制限が来る前の6か月前に成年後見人が就いた場合には、そのときから6か月内に請求すればいいとされています。しかし、本判決は、さらに進んで、時間制限が来る前の6か月前に成年後見人が選ばれていなくても、それまでに成年後見人を選んで欲しいという申立を家庭裁判所にしていれば成年後見人が選ればれたのが、期間制限を過ぎてしまっていても、そのときから6か月以内に請求をすれば、遺留分が認められるとされ、法律的な判断ができない人の権利を厚く守りました。


事案の概要: Bは、平成19年1月1日、自筆証書によって、その遺産の全てを長男であるY(被上告人)に相続させる旨の遺言(以下「本件遺言」という。)をし、平成20年10月22日、死亡した。
    Bの妻であるX(上告人)は、Bの死亡時において、Bの相続が開始したこと及び本件遺言の内容が減殺することのできるものであることを知っていたが、その後、認知症になり、自己の財産を管理・処分することができなくなった。
    そこで、Xの二男らが平成21年8月5日、Xについて後見開始の審判の申立てをし、 平成22年4月24日、Xの後見を開始し、成年後見人としてA弁護士を選任する旨の審判が確定した。
     A弁護士は、同月29日、Yに対し、Xの成年後見人として、Xの遺留分について遺留分減殺請求権を行使する旨の意思表示をしたが、原審は、Xが相続の開始等を知った時を平成20年10月22日とするXの遺留分減殺請求権の消滅時効について、時効の期間の満了前に後見開始の審判を受けていない者に民法158条1項は類推適用されないとして時効の停止の主張を排斥し、同請求権の時効消滅を認め、Xの請求を棄却すべきものとした。


判決文 :「民法158条1項は、時効の期間の満了前6箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人(以下「成年被後見人等」という。)に法定代理人がないときは、その成年被後見人等が行為能力者となった時又は法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間、時効は完成しない旨を規定しているところ、その趣旨は、成年被後見人等は法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから、法定代理人を有しないにもかかわらず時効の完成を認めるのは成年被後見人等に酷であるとして、これを保護するところにあると解される。また、上記規定において時効の停止が認められる者として成年被後見人等のみが掲げられているところ、成年被後見人等については、その該当性並びに法定代理人の選任の有無及び時期が形式的、画一的に確定し得る事実であることから、これに時効の期間の満了前6箇月以内の間に法定代理人がないときという限度で時効の停止を認めても、必ずしも時効を援用しようとする者の予見可能性を不当に奪うものとはいえないとして、上記成年被後見人等の保護を図っているものといえる。ところで、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるものの、まだ後見開始の審判を受けていない者については、既にその申立てがされていたとしても、もとより民法158条1項にいう成年被後見人に該当するものではない。しかし、上記の者についても、法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないのであるから、成年被後見人と同様に保護する必要性があるといえる。また、上記の者についてその後に後見開始の審判がされた場合において、民法158条1項の類推適用を認めたとしても、時効を援用しようとする者の予見可能性を不当に奪うものとはいえないときもあり得るところであり、申立てがされた時期、状況等によっては、同項の類推適用を認める余地があるというべきである。そうすると、時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者に法定代理人がない場合において、少なくとも、時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときは、民法158条1項の類推適用により、法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、その者に対して、時効は、完成しないと解するのが相当である。」「これを本件についてみると、上告人についての後見開始の審判の申立ては、1年の遺留分減殺請求権の時効の期間の満了前にされているのであるから、上告人が上記時効の期間の満了前6箇月以内の間に精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあったことが認められるのであれば、民法158条1項を類推適用して、A弁護士が成年後見人に就職した平成22年4月24日から6箇月を経過するまでの間は、上告人に対して、遺留分減殺請求権の消滅時効は、完成しないことになる。」


解説:遺留分減殺請求権とは、被相続人等の遺留分(相続法上最低限確保されている取り分と考えてください)を侵害する行為の効力を失わせることを請求する権利です(民法1031条)。
    本件で遺留分減殺請求権が認められれば、Yに全財産を贈与するというBの遺言は、その4分の1の限度で無効になり、Xへの相続が認められることになります(1028条2号)。しかし、遺留分減殺請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないとき等に、時効によって消滅します(1042条前段)。
    本件では、消滅時効の完成日である平成21年10月22日を経過した平成22年4月29日に遺留分減殺請求権を行使したため、上記1042条前段所定の消滅時効が完成し、遺留分を請求できないことになります。
     もっとも、158条では、「時効の期間の満了前6箇月以内の間に未成年者又は成年被後見人に法定代理人がないときは、……法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、その未成年者又は成年被後見人に対して、時効は、完成しない。」と規定しています。同条の趣旨は、成年被後見人等は法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができないにもかかわらず、時効の完成を認めるのは成年被後見人等に酷であるとして、これを保護するところにあります。そうとはいっても、この条文で救われるためには、時効完成前6か月の間に成年後見人に就任してることが必要となりますが、実際、申立をしたからといって、すぐに成年後見人が選ばれるのではなく、数か月もかかることが通常です。そのために、遺留分を請求するために成年後見人選任の申立をしたのに、家庭裁判所が成年後見人を選んでくれるのを待っている間に時効期間が過ぎてしまるという事態もあり得るのです。
    本判決は、時効の期間の満了前6ヶ月以内(平成21年4月23日~10月22日)にXは成年被後見人でなかったことなどから、同条の直接適用を否定しつつも、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるものの、まだ後見開始の審判を受けていない者について……も、法定代理人を有しない場合には時効中断の措置を執ることができない」ことに着目し、消滅時効の期間の満了前の申立てに基づき後見開始の審判がされたときという要件を満たした場合に、民法158条1項の類推適用により、法定代理人が就職した時から6箇月を経過するまでの間は、消滅時効が完成しないことを判示しました。
    そして、本件においては、平成21年8月5日、Xについて後見開始の審判の申立てがなされていたことから、同条の類推適用により、Xの遺留分減殺請求権の消滅時効は完成していなかったとされました。



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